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未来を創るイノベーターたちNo.5

大企業とベンチャーの“正しい”関係

2016/07/22

日本発のイノベーティブな事業を展開するベンチャー企業を訪ね、事業にかける思いや、未来の社会について考える連続インタビュー企画。最終回は、ベンチャー企業に投資するベンチャーキャピタルにスポットを当てます。マネックスグループのコーポレートベンチャーキャピタル(以下、CVC)であるマネックスベンチャーズ・高岡美緒氏と電通・奥谷智也による対談の後編では、ベンチャー企業がスケールするための条件やオープンイノベーションの確立について話し合いました。
※前編「ベンチャーに必要な『AQと鬼十則』


投資するなら優等生軍団? 危なっかしいけどパッションが突出したチーム?

奥谷:前半はマネックスベンチャーズが支援先に提供しているリソースや、投資判断で重視している三つのポイント(「良い距離感を保てるか」「補完関係になれるか」「パッションがあるか」、前編参照)などを伺ってきました。

ここまでお話しいただいたような観点がありつつも、やはりベンチャーを選定する際には迷われるのではないですか?

高岡:それは正直ありますね。あらゆる条件を兼ね備えているということはないので、特に事業性や客観的な能力と、パッションとでは、どちらを重視するかを考えさせられたりします。

5年ほど前、偶然にも同じような事業で起業したばかりの2社と知り合いました。A社はどう見ても優秀な人たちが集まっていて、どんな受け答えも腑に落ちるようなチームでした。一方、B社のチームはかなり危なっかしくて(笑)。でも、とにかくパッションがすごかった。世の中をこう変えていきたいというビジョンがはっきりあって、僕らは絶対にやり遂げますと言うんです。

両社とも今でも残ってはいますが、知名度も売り上げも差が出ています。実は、圧倒的にB社が席巻していて、当時を思い出せないくらい大企業と呼べる域に成長しました。

奥谷:そうなんですね。やはり組織として強くなるには、創業メンバーの人間力が試されるんでしょうね。投資家や周囲の人を「彼らのために頑張ろう」という気にさせる。

高岡:仮に創業者一人だけが優秀でも、仲間を増やしていかないことには勝てません。そこを理解して行動できるかどうかは大きいですね。

ベンチャーがスケールするための三つの条件

奥谷:同感です。今の2社の例にも通じると思いますが、パッションは前提として、 ベンチャー企業がスケールするために必要な条件とは何だと思われますか?

高岡:それは、三つあると思っています。一つは、スマートさ。偏差値的な賢さではなくて、英語だと“Street Smart”と言うんですが、「現場で臨機応変に判断できる賢さ」というか。ない市場を作っていくのは決して教科書通りにはいかないので、ストリートスマートであることは必要だと思います。

二つ目は、マーケット感覚です。顧客と向き合い、空気を読むといいますか、寄り添えているか。いくら自社のサービスに自信があっても、評価するのが自分たちだけでは仕方ないですよね。かといって、アンケートをとって顕在化した市場のニーズをサービスにするだけでは、ベンチャーとしては成り立ちません。本質的な顧客のニーズを見据えられているかどうかは、後のスケールを左右します。

三つ目は、柔軟性です。事業ピボットの話も出ましたが、道の途中でも「うまくいかないものはいかない」と、きちんと受け止めて転換することが大事です。経営判断だけでなく、それまでサービスを開発してきたエンジニアはじめとしたスタッフをちゃんと納得させられるかという点も含めてですね。

奥谷:なるほど。二つ目のマーケット感覚のバランスは、すごく分かります。アンケートで生活者を掘り下げても、新しいビジネスモデルやイノベーションは起きない。

高岡:そう、起きないんです。特に私たちがわくわくするのは、世の中を「あっ!」と言わせる非連続のイノベーションなので、ニーズ起点では生まれません。かといって、完全に明後日の方向性のアイデアでは、市場がついてこない。潜在的なニーズをいかに引き出せるか…、それにはやはり、顧客ニーズの本質をつかむセンスがあるか、そこにフォーカスして考え抜けるかが問われていると思います。

奥谷:僕らも事業プランが若干粗かったとしても、本質をつかんで既存のルールを一気にぶちこわすような可能性を感じたものに対しては、サポートすることが多いですね。彼らが見つけたアイデアをマーケットに受け入れてもらえるようにデザインすることこそ、僕たちが加わる意義だと思っています。

高岡:そうですよね。自分たちでは磨き切れない原石を、協力者に磨いてもらう。私も支援する側として、先の展開が見えるものより、どう転ぶか未知数だけど本質を突いていると感じる事業に懸けたいのは分かります。

奥谷:電通は広告会社として、既成概念や固定観念を変え、新しいプロダクトやサービスを受け入れてもらうことに取り組んできたので、ベンチャー企業のアイデアを磨いて世に送り出していくのとは共通点があります。その意味でこれまでの事業とベンチャー支援は重なっているんです。

経営者とエンジニアがどれだけ近付けるか

高岡:大企業がベンチャーに出資するのは、一方的な支援のイメージもありますが、当社の場合は支援しながら同時に自社の足りないところを補ってくれるか、刺激を得られるかもということ考えています。先ほど、補完関係になれるかを重視していると話しましたが、一緒に高め合いたいと思っています。

奥谷:そもそも人間は、新しい事象や環境に触れて成長していくことに喜びを感じるものだと思うので、僕はベンチャー企業との取り組みからすごく刺激をもらっています。向こうも熱いので、こちらも熱く向き合っています。

高岡:私も、つい四六時中考えてしまったりしています。仕事なのか、趣味なのか分からないくらい(笑)。

奥谷:三つ目に挙げられた柔軟性も、共感しますね。社内を新しい方向に向かせることができるかが極めて大事だと思います。日頃から社内コミュニケーションを密にして、いざという時には創業者や経営陣の人間力で引っ張れるか。

高岡さんから見て、社内をうまくまとめられているベンチャーの傾向などはありますか?

高岡:絶対ではないんですが、CTOが最高決裁者の近いところにいるベンチャーは、うまくいくことが多いと感じています。経営とエンジニアのチームとをつなぐ役割をうまく担っている。そこは、今言われたコミュニケーションの総量がすごく大事だなと思います。

奥谷:なるほど。確かにCEOがどれだけの推進力を持っていても、特にテクノロジーベンチャーの場合、競争力の源泉はエンジニアチームにあるので、CTOがいかに会社のミッションやビジョンを彼らに共有できているかが肝になるんですね。

実際に僕たちの支援の中でも、エンジニアを軸にして社内活性化させるファシリテーションプログラムはよくやります。

高岡:それは有効だと思いますね。日本は、そのあたりの支援は遅れているなと思っているんです。米シリコンバレーなどではベンチャーキャピタルがファシリテーションをしたり、コンサルティング会社が入ったりしてサポートする例は当たり前です。特にエンジニアの方々は、コミュニケーションを積極的に取るタイプの人ばかりではないので、そのサポートは大きいと思います。

CVCはどのように社会に貢献できるか

奥谷:今、海外との違いの話も出ましたが、最後に日本のベンチャーエコシステムについてお聞きしたいと思います。マネックスグループのCVCならではのこととして、松本さんがメンターになってくれることが重宝がられているというお話がありましたが、意外とメンターやエンジェルという存在を日本で聞くことは少ないですね。そもそも、メンターになれるような成功体験を持つ人が少ないということもあるでしょうし。

高岡:そうですね。直近では、シンガポールの金融当局がイギリスの金融当局と連携し、ベンチャー企業や投資家の相互進出を促進すると発表しました。メンターやエンジェルも含め、シンガポールのエコシステムで足りない要素はロンドンのネットワークを使うといったことも可能になるそうです。

奥谷:日本でも、そういった取り組みが必要ですね。もちろん、まずは国内でエコシステムに必要な要素を集約することからですが。

高岡:そうですね。当社もグループにシナジーを生むための戦略的事業としてベンチャー支援をしていますが、松本の思いもあって、ベンチャー企業のエコシステム確立の上では今後さらに貢献できればと思っています。

ただ、やりにくいところがある一方で、発展途上だからこそ日本のベンチャーには大きな機会がある気もしています。まず、米国や中国に比べてライバルが少ない。それに、技術革新がこれだけ早いと、先のニーズを予見するのがとても難しいので、大企業もベンチャーと協業したオープンイノベーションに前向きです。

奥谷:そうですね。僕らも大企業とベンチャー企業の協業を支援することも増えています。ただ、両社にはマインドに大きな差があったりしますので、先ほど話に上がったコミュニケーションがとても大事になりますね。そして大企業はベンチャーを導くことと受け入れること、いわば父性と母性の両方を持って向き合い、オープンイノベーションの実績をどんどん作っていくことが重要だと思います。

オープンイノベーションが当たり前の時代になれば、ベンチャー企業や新しい産業を持続的に生み出し、日本の成長に貢献できると思っています。

高岡:立場を超えて、同じ目標に向かって高め合っていく。それは当社と投資先のベンチャー企業との関係とも重なります。金銭的リターンや事業性も大事ですが、強く共感できるビジョンを持ったベンチャー企業と一緒に、わくわくするような事業を今後もつくっていきたいと思います。