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TikTokの活用法最前線~Z世代の利用実態からマーケティングソリューションまで~No.3

「TikTok売れ」のメカニズムと、現代的な「HYPE」とは?

2024/02/16

本連載の第1回では、TikTokおよびショート動画がこれからどう展開していくのか、現状を踏まえながら論じました。

第3回となる今回は、特にソーシャルメディアマーケティングの領域で注目される「TikTok売れ」(TikTokでの話題化が発端となって商品・サービスが売れるようになること)に注目して、この現象が何であるのか、なぜいま注目しておくべきなのか、多角的に考察します。

前半は、TikTokのコンテンツをめぐるトレンドや、他のショート動画サービスとの比較に触れ、後半では、「TikTok売れ」について概説します。そのうえで、筆者がいま注目している現代的な流行のかたち=「HYPE(ハイプ)」とソーシャルメディアの関係についても紹介します。

〈目次〉
コンテンツの変遷は、エンターテインメントからインフォメーションへ
ショート動画の代表的なサービス比較
「TikTok売れ」のメカニズム
HYPE消費の時代へ

 

コンテンツの変遷は、エンターテインメントからインフォメーションへ

連載第1回で触れたように、TikTokは日本でのローンチから約6年を経て、ユーザーの数を大きく増やしている(2024年2月時点で約2800万MAU〈※〉)。その結果、TikTokのコンテンツの幅が広がっていった。その変遷のあり方をまとめたのが下図だ。

※MAU(Monthly Active Users):月間のアクティブユーザー数。データはAppAnnie調べ
 
TikTok

日本でTikTokが使われ始めた2018年は10代の若者がユーザーの中心で、自撮りやリップシンク、ダンスといったジャンルが主だった。これを第一群とすると、第二群は歌や視覚効果をふんだんに使ったクリエイティブ系や、オチのあるお笑い系など手の込んだエンターテインメント動画が中心となる。

そして2020年以降の第三群は、ショートドラマといったエンターテインメントものに加えて、流行っている飲食店や洋服・コスメの情報、日々のニュース、さらには生活に役立つ情報や学びになる知識といったものが増えていく。Googleでググったり、Instagramでタグったりしていた検索行動が、TikTokに移り変わりつつある。

こうした変遷を端的にまとめると、TikTokのコンテンツは「見ていて楽しいエンターテインメントから、見ていて役立つインフォメーションへ」ということになる。前者はどちらかといえば属人的なスキル・才能によるところが多いが、後者は作るよりも役立つ情報を選ぶ能力が重要で、いわば編集者的な目利き力があれば多くの人が作成できるため間口が広い。

こうしてユーザーのすそ野が広がるにつれて、エンターテインメントからインフォメーションへシフトするのは自然なことであるし、TikTokに限らず、さまざまなソーシャルメディアがそのようなシフトを経てきた。

最近では動画を使わずに、画像を何枚も組み合わせたうえで流行りの音源を使って動画の視聴数を稼ぐパターンも増えてきている。これは厳密には「ショート動画」ではないわけだが、作る手間が少なく、なおかつ「わかりやすいインフォメーション」になっていることで、作る側・見る側双方にとってメリットがある。

裏返してみると、人々が役立つ情報を求めるようになるにつれて、「マーケティングの場」としての重要性が高まっていくとも言える。商品の知識を伝えたり、広告として活用したりすることが自然になるからだ。インフォメーション寄りのショート動画クリエイターは、プロモーション案件と相性が良く、ユーザーも抵抗感が少ない状態で視聴するので効力を発揮しやすい。

なお、2022年以降TikTokで重要になっているジャンルは、「ライブ配信」と「切り抜き」である。TikTokはいまやショート動画にとどまらず、中尺動画やライブ配信にも領域を広げつつある。多様な機能を提供することでクリエイターをサポートしているともいえるし、YouTubeやInstagramといった競合サービスの領域に侵攻しているとも捉えられる。

「切り抜き」は、面白い長尺動画のハイライトだけを届けてアテンションを獲得する手法だ。最近は、「切り抜き」のアカウントも増えてきており、タイパを重視する現代の視聴者には広く受け入れられているが、著作権的にグレーなものも散見されるので注意したい。

ショート動画の代表的なサービス比較

TikTokが切り開いたショート動画の領域に、現在は「YouTube Shorts」や「Instagram Reels」「LINE VOOM」などの競合が参入し、可処分時間の奪い合いは激化している。それぞれの特徴を下表にまとめてみた。

TikTok

ユーザー数については、TikTokを除き、3つとも母体となるサービスの一機能にあたるため、MAUを厳密に比較することは難しい。しかし各種の統計によると、サービス全体のMAUのうち3~4割がショート動画機能を使っていると推測できる。

場の特性としては、TikTokは先述したようにさまざまなジャンルの動画が網羅的に発信されていることに加えて、ミーム(面白い画像や動画が拡散されていく文化のこと)が生まれやすく、TikTok独自の動画トレンドが日々生まれている。TikTokで作った動画が他のサービスに展開されることはあっても、その逆はあまりない。

YouTube Shortsは男性ユーザーがやや多いこともあって、アニメ・エンタメ系のコンテンツが多く見られる。そして、自分がフォローするチャンネルやジャンルのショート動画が現れやすい。Instagram Reelsは美容やアパレルなどのライフスタイル系コンテンツが多く、LINE VOOMはフードや飲食、教育、エンタメなどコンテンツの幅が広い。

ショート動画は、コメントがつきやすいかどうかも重要で、視聴者とのエンゲージメントが高い動画はアルゴリズム的に優遇され、「おすすめ」に載りやすい。そこでその商品・サービスについてのやりとりが発生すると、ユーザーはより興味関心を持ちやすくなる。TikTokは他のサービスよりもコメントが活発で、これが「TikTok売れ」のポイントになっている。

「TikTok売れ」のメカニズム

エンターテインメントビジネスにおいては、いまやショート動画がマーケティング活動の中心を占める。

特に日本の若年層に大人気のK-POPは、ショート動画の使い方が際立っていた。2010年代は、少女時代やKARAなどのアーティストが難易度の高い歌とダンスをYouTubeで披露する戦略が一般的だった。しかし、K-POP第三世代以降のTWICEやSEVENTEENなどは、ファンたちにSNSで切り取ってもらったり、まねしてもらったりして広げてもらうことを前提とした戦略に完全にシフトしている。ダンスも硬軟取り混ぜる工夫を見せていて、多くの人がまねできるキャッチーなポイントを振り付けに盛り込むことで、そのポイントをまねた動画がシミュラークル的に広がっていったり、切り取り動画として拡散されたりするようになる。

ちなみにシミュラークルとは、SNSにおいて、誰が始めたのかわからないが、みんながまねをしてしまうようなビジュアルのイメージ(写真や動画、あるいはその他の記号)と、筆者は定義している。

シミュラークルについて述べた記事はこちら
SNSがもたらした情報の広がり方をモデル化する
 


企業やブランドがTikTok起点でヒット商品を生む「TikTok売れ」も定着してきた。「TikTok売れ」は、日経トレンディが選ぶ「2021年ヒット商品ベスト30」で第1位を獲得して広く知られるようになった。アプリ・ゲームや飲料・食用品、メイク・スキンケア用品などを中心に、現在では不動産や金融商品など堅めのカテゴリでも、TikTokをきっかけに購買が発生している。

「TikTok売れ」を起こしたさまざまな事例を分析すると、共通する売れ方のパターンを見いだすことができる。

TikTok

1:生活者にポジティブな驚きをもたらす要因やターゲットインサイトが内在

そもそも論ではあるが、商品・サービス、ブランドなどに人々をひきつける魅力があるかどうかが重要である。その魅力に気づいたときに、人々は興味を持ち、それを誰かに伝えたりシェアしたくなる。

2:使用感や体験を伝えるUGCや動画コメントが拡散・共有

魅力のある商品やサービスなどを、クリエイターなどがショート動画で紹介したりレビューしたりすることで、話題化の火がつく。先述のシミュラークルな拡散と言えるだろう。これは自然発生的に起こることもあれば、入念なコミュニケーション設計のもとで進行していくこともある。

ここでのUGC(ユーザー生成コンテンツ)の拡散とは、その動画にどれだけコメントが集まるかということも意味している。先述の通り、TikTokは動画にコメントがつきやすいというプラットフォーム特性を持つ。そうしたUGCの動画に商品やサービスに関するコメントがたくさん含まれるほど、「詳細を知りたくなる」「買いたくなる」といった態度変容が起きやすいというのが最近の定説になっている。

3:企業・ブランドが、クリエイターコラボの動画や広告を配信

2の状態から、企業・ブランドが話題量をキープするためには、クリエイターとコラボした動画を発信したり、追加で広告配信などを行うことが重要だ。

4:TikTok以外にも話題が飛び火し、「世の中ごと」になる

1~3を通じて、話題が飛び火し「世の中ごと」になる。実際、ウェブメディアやテレビ・新聞の報道などを通じて、いまTikTokで話題になっている商品・サービスのことを知る人も多い。

UGCによってソーシャルメディア上で話題化することを通じて、他のメディアへも波及しマス層へ拡散する「環メディア」の効果が現代は顕著であるといくつもの研究結果が結論付けている。

もちろん、生活者の購買プロセスは複雑化しているので、商品・サービスを知った後にすぐ買うわけではなく、検索して詳細や口コミを調べたり、値段やスペックを比較したりしてから決断するようになっている。しかし、どういった形で初めに情報に触れたかということがその後のプロセスにも影響することを踏まえれば、ポジティブなUGCやコメントを増やしていくことは重要だ。

HYPE消費の時代へ

最後にHYPEという筆者が注目するキーワードを紹介したい。辞書的には「誇大宣伝」「過剰広告」と訳されるもので、これまではネガティブに使われることが多かった。

しかし、最近のラグジュアリーファッションの領域では、この言葉を異なった角度から使うようになっている。特に海外メディアを中心に、「流行っている」「旬で勢いがある」「皆が夢中になるイケてるもの」といった用法が定着してきているのだ。

実際に記事のヘッドラインを拾ってみると、ラグジュアリーブランドがHYPEを作り出し、それによって売り上げを伸ばしているといった論調のものがいくつも見つかる。例えば「converts hype to sales」(Vogue Business March 9, 2023)といった言い回しがあるが、これを「誇大宣伝」と訳しては意味が通らないだろう。

もちろん、HYPEが肯定的な意味合いに変化したとまでは言えず、肯定的なニュアンスが付加された程度にとどまる。そこには「刹那的な流行である」という否定的なニュアンスも含まれているが、それは裏返せば、どこから流行が生まれるか予測できない時代になっているということである。計画された中長期的な流行がありえないならば、どんな流行も多かれ少なかれHYPEでしかありえないということになる。そして、そのどんどん移り変わる「いまこれがイケてる」感覚(=HYPE)を創発するにあたって、TikTokがいま非常に重要な役割を担うようになっている。

2023年に最もHYPEを生んだ商品の一つが、ユニクロの「ラウンドショルダーバッグ」である。これはイギリスのユーザーがその使い勝手を称賛するTikTok動画から火が付いた「TikTok売れ」の最新事例だ。ファッションEC「Lyst」が発表する四半期ごとの「Hottest Products」部門で、2023年第一四半期の首位にこの商品が輝いたことも大きなニュースとなった。数多くのブランドのヒット商品を押しのけるほどの勢いで、ファッショニスタの間では「ミレニアル・バーキン」と言われるまでのポジションを獲得したのだった。

HYPEに注目すべきなのは、いまや流行をつくりだす最大のファクターが、生活者の評判形成の側へとシフトしているためである。いわば、「(ブランド・パブリッシャーの)発信力<(生活者の)拡散力」が成立するのだ。

ブランドやパブリッシャーが世の中に仕掛け広げるPR戦略や広告を通じたイメージ訴求も大切だが、SNSでポジティブなUGCを生み出せる「Hype Creative」の重要性がこれまで以上に高まっている。

本連載の第2回では、私たちの根源的なつながりの欲求や「見せびらかし(誇示的消費)」のモチベーションこそが、SNSを駆動していることを論じた。その意味で、HYPEは私たちの社会に必然的に付いて回るものだと考える方がよいだろう。

本稿では詳述できないが、世界トップのラグジュアリーブランドの数々が、コラボレーションやドロップ(数量限定で発売することで稀少性や緊急性を訴求する手法)といったストリートブランドのマーケティング戦略を模倣するのも、それがボトムアップで話題・評判を形成しHYPEを生むための最適な打ち手であるからに他ならない。

人々が何をクールだと思うのか、流行っているという感覚はどう作られるのか。

マーケティング・クリエイティブ産業はそのテーマに深く関わるビジネスだが、それは情報環境の進化や私たちのコミュニケーションのあり方の変化と密接に結びつき、流行そのもののように常にかたちを変え続けているのだ。

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