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髙崎卓馬氏の考える「感情の振り子」とは? BRANDED SHORTSセミナーレポート

2017/10/27

    国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」(以下SSFF & ASIA)を運営するパシフィックボイスは10月18日、電通のエグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター髙崎卓馬氏を招きトークイベント「BRANDED SHORTSセミナー」を、虎ノ門のアンダーズ東京で開催した。髙崎氏は、広告とはどんなものか、デバイスの変化、BRANDED SHORTSにできることについて語った。

    BRANDED SHORTSとはSSFF & ASIAの公式部門名で、「生活者にとっての価値」と「企業やブランドからのメッセージ」を両立するブランディングのためのショートフィルムのこと。今年、髙崎氏はBRANDED SHORTSの審査員を務めている。

    高崎卓馬氏

    企業というクライアントと、広告というクライアントがいる。

     

    登壇した髙崎氏は、まず「広告とは何か」について例をあげながら考察していった。

    「NHKの『課外授業 ようこそ先輩』という、出演者が自分の仕事を子どもたちに説明する番組があって、そこにコピーライターの仲畑貴志さんが出ていました。仲畑さんはまず、子どもたちに腐ったトマトを見せて“これを褒めなさい”と言うんです。すると子どもたちは “肥料になる”とか“罰ゲームに使える”と答えはじめます。そこにたしかに広告の視点があります。

     次に仲畑さんは、子どもたちに自分の欠点を聞きます。するとたとえば“人見知り”とか“声が小さい”などが出てくる。その欠点を、腐ったトマトのときのように視点を変えて褒める言葉にさせるんです。広告の説明として素晴らしいだけでなく、その言葉は彼らにとってとても大切なものになっていくはずです。表現ってそうありたいなと強く思いました」

    次に広告のあり方として、「つまらない広告を作っていると、広告そのものがつまらないと思われてしまう。“どうせつまらないんでしょ”と思って見ると、たいていのものはつまらなく見えてしまいます。そうならないようにする責任もある。広告制作は、企業というクライアントと、広告というクライアントの二つを常に背負っているのだと思います」とした上で、

    「BRANDED SHORTSは新しいツールでもあるから、みんなでつまらないモノを作ってしまったら“BRANDED SHORTSってつまんないよね”となってしまう。面白くて、商品が売れるツールとして認識されなければなりません」と、BRANDED SHORTSというツールを育てていく必要があると語った。

    強烈なメディアの変化のなかで、どうあるべきか。

     

    次にメディアの変化について考えを述べた。

    「今僕たちは強烈なメディアの変化のなかにいます。効果的な映像をつくるには、その映像がどういう環境でどう見られているのかを敏感に感じている必要があります。そしてそれをできるだけ自分の言葉で言語化しておくほうがいいと思っています。僕には高3と中3の子どもがいますが、晩ご飯後にみんなでテレビを見ていても15分もしないうちにテレビを見ているのは僕だけになってしまう。部屋でスマホを見はじめるんです。

    見ているものを教えてもらったら、さっきテレビを見て笑っていた芸人さんたちの過去の動画だったりする。テレビを見なくなったわけじゃなくて、映像との関係が変わってきているんですね。CMでいえば、世の中はそのCMがウェブCMかテレビCMかどうかは気にしていないんですね。どこで流れたものかはもう関係なくなっている。発信した人と発信された映像が意味があって、枠はもう関係がなくなった。作る側もそうでなくてはいけないのかもしれません」

    髙崎氏は、枠は関係なくなったが、デバイスごとに最適な作り方があると言う。

    「でもまだ過渡期で、テレビCMとウェブCMは、映画とドラマのように明確な違いまでは生まれていないと思います。最近の動画を見ているとアップの絵が増えて、とても説明的になっている気がします。自分の仕事も含めて。これは、僕ら作り手が小さなモニターで確認する機会が増えたことも影響しているかもしれません。できるだけ早く何が面白いのかを伝えようとしてしまうのも動画文化の影響かもしれません。

    以前、幸運なことにロバート・デ・ニーロ氏を撮影する機会がありました。映画館の客席の前後で会話するシーンがありました。僕は当然デ・ニーロが振り返って会話すると思ったのですが、振り返らないんです。会話しながら、目玉だけ動かす。デ・ニーロはスクリーンで仕事をしてきた人だから、小さなお芝居のほうが大きなことを観客に伝える、と知っているんですね。これは見ていて鳥肌が立ちました」

    またテレビCMとBRANDED SHORTSを含むウェブ動画の違いについて「ウェブ動画って、実際に数字上では多くの人が見ているのに、自分しか見ていない感覚がどこかにある。対して、テレビは同時性が強いものだから、自分以外の人も見ているという感覚がどこかにある。その違いは映像の届き方にも違いを与えている気がします」と語った。

    ストーリーが、クライアントと人の関係を豊かにする。

     

    髙崎氏はBRANDED SHORTSというカテゴリーについて、自分のやろうとしてきたことに名称が付いた気がするとし、その可能性について解説した。

    「以前40分弱のウェブ動画を制作したとき、社内で “ウェブで30分の動画は絶対に見られません”と反対されたことがあります。そう言われるとカチーンときて(笑)、絶対に見られる状況を作るぞと。そこで予告編も作って、2時間の映画だと思わせるコミュニケーションを設計しました。第一印象ってとても大切なんですね。一度映画だと思ってしまった人は“え?30分?短くていいね” “え?タダなの?”という感覚になっていく。面白いものをつくる努力と同じように、面白く見せる努力は必要だと考えています」

    次に、映像を見た人の感情の動きについて「感情って振り子のようなもので、いつも動いています。振り子が振れてあるラインを越えたとき、人は笑ったり泣いたりする。そのラインを越えるために必要なのは“驚き”なんです。笑う前も泣く前も驚きがあるんです。つまり予定調和が最大の敵です」と語った。

    感情って振り子のようなもので、いつも動いています。振り子が振れてあるラインを越えたとき、人は笑ったり泣いたりする。そのラインを越えるために必要なのは“驚き”なんです。

     

    最後に、ショートショート実行委員会チーフ・プロデューサーの諏訪慶氏が「BRANDED SHORTSの魅力」について質問すると、髙崎氏は「豊かな関係を築くもの」と回答した。

    「企業のCMはどんどん分かりやすいものになっています。例えば6秒のバンパー広告の映像には言いたいことを詰め込む。でも、6秒で伝えられる情報はあっても、6秒で感情は動きません。僕は、すべての企業や商品にこのBRANDED SHORTSというものが必要とも思っていませんが、人を豊かにする意思をもった企業や商品に向いているのではないでしょうか。ストーリー性のある映像は、企業と人を結びつけて豊かな関係を生み出すことができるはずです。これからは、そういうことを少し強く意識しながら映像を作っていきたいなと思っています」