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公開日: 2022/04/26

ビッグデータを宝の持ち腐れにしないために。「DWH(Data Ware House)」活用の成功の秘訣とは?(後編)

近年、多くの企業がビジネスのデジタル化を推し進め、「DX」や「ビッグデータ」をキーワードにした事業計画を立てているのをよく目にします。しかし、枠組みや体裁だけを整えても、具体的に「どう業務に生かしていけばいいのか分からない」と困っている企業も多いようです。

前編に引き続き、株式会社電通デジタルの有益伸一氏に、データ活用にまつわる企業の課題や、DWH(Data Ware House)のようなシステムを導入するメリットについて聞きました。

課題設定に応じて、蓄積データを分析することが基本

Q.業務の中で日々蓄積される大量のデータをまとめて、時系列で保管していくデータベースであるDWHを導入して、ビッグデータを収集・分析するとどんな効果が得られるのでしょうか?

有益:それは、マーケティングの課題を解決するのか、それとも営業の課題を解決するのかなど、目的によって異なりますね。私が携わっている製薬業界を例にお話ししますと、製薬会社にとっては、営業担当者が医師に会いに行って、どういった営業活動を行ったら自社の薬剤の処方を検討してくれる確率が高まるかが課題として挙げられます。

この場合、データをうまく活用すれば「こういう資料を持って行ったら成約につながりやすい」というのが分かるようになるんです。そのデータとは、例えば過去の営業担当者たちがどんな資料をクライアントに持参した結果、受注につながったかという蓄積データ。それを適切に分析することで営業課題の解決につながります。

Q.有益さんがこれまで手掛けてきたお仕事には、そういった事例がいくつもあるということですね。

有益:そうですね。多くの案件に取り組む中で、ある程度「この業界ならば、こういうデータを集めるのが有効」「こういう課題があるのであれば、このようなデータを用意してください」と明確にお伝えできるようになってきました。

とはいえ、データを活用するには課題設定が不可欠です。それを解決するためのデータ収集であり、分析であるということを忘れてはいけません。目指すゴールと現状を照らし合わせて、適切な解決方法を提案することが何よりも重要だと思っています。

Q.課題を設定し、環境も整えて導入したとしても、うまくデータを使いこなす企業とそうでない企業は出てくるものですか?

有益:それは出てきてしまいますね。デジタルマーケティングの専門部署などを構えてしっかりとプロジェクトを動かしていく企業であれば活用が進みますが、誰が責任やボールを持つのかが明確でないまま始めてしまうと、なかなか軌道に乗りにくい。あとは、頻繁にジョブローテーションをしている企業などは、せっかくシステムを導入しても1年後には担当者がいなくなってうまく活用されなくなっていくといったケースもあるので注意が必要ですね。

AIが顧客の詳細な情報を分析し、営業の精度を上げる

Q.有益さんはAI関連の案件にも多く携わられていますが、収集したデータとAIをひも付ける案件も増えてきているんでしょうか?

有益:はい。最近はAI関連のプロジェクトがかなり増えてきていますね。某自動車メーカーさんの例ですが、その企業では既にDWHの導入は済んでいて、データの活用もそれなりに行っていました。ただ、ディーラーが手作業でアタックリストを作っていて、それを元にアプローチしても、精度があまり良くないという状況でした。

そこで「AIを活用して何とかならないか?」とご相談をいただいたのですが、一般的なAI活用だと、見込み顧客に対する成約率の予測を行うだけなんです。でもそれでは、この問題の解決にはつながりません。

そこでわれわれが行ったのは、「XAI(説明可能なAI)」を用いたアプローチ。顧客の過去の自動車の買い替え間隔や、嗜好性、次回の車検までの期間、現在の走行距離など、顧客にアタックをするための根拠を提供できるものです。これによって、クライアントはアタックリストをより効果的に使えるようになるわけです。

異なるデータを持つ企業同士が協働し、新たな価値を生み出す

Q.企業が保有しているデータには、個人情報などを含むものもあると思います。その中身を開示することはできないけれども、マーケティングに活用できるようにコンサルティングをしてくれないかと依頼されるケースもありますよね。そういう場合はどうしているんですか?

有益:そういうケースであれば、開示可能なデータをうまく統計処理して、クライアント側で持っている開示不可のデータとくっ付けられる形で渡すという方法を取ることが多いですね。データそのものの活用というよりは、データの改良や有益化という進め方です。あるいは、開示可能なレベルのデータを持っている企業と提携してプロジェクトを行うパターンもあります。

例えば、保険会社は見込み客に将来的な疾病のリスクとそれに対応する保険商品を適切なターゲットに訴求する事がビジネス上重要です。しかしながら自社の保有するデータだけではどういった属性の人物がどういった疾病リスクが高いかはわかりません。ですので人々が「病院に行って診察を受けた」というデータを持っている企業と協働するのです。

「誰がこういう病気になりました」という情報は当然明かせませんが、居住地域、年齢、性別などいくつかの属性で「こういう属性を持っている人はある病気になりやすい」という分析はできます。その情報を生命保険会社に提供すれば、生命保険会社が持っている顧客データと組み合わせて、使うことができるんです。特定のお客さまに対して「こういう属性の人は、こういう病気になりやすいですよ」というお話をすることが可能になる。それが顧客獲得の説得材料になるわけです。

Q.分析などに使用できるデータにある程度の制限があっても、別のデータと統合させることでうまく活用できるということですね。

有益:DWHの活用においても、これまでは自社で直接顧客からたくさんのデータを収集して、それを元に分析しましょうという風潮が非常に強かったんです。でも今は、他社が保有するデータを購入したり連携させたりして、自社が持つデータとうまく組み合わせて活用しようという取り組みも増えていると思いますね。

Q.最後に、今後のデータ活用の在り方について、他にはどんな可能性があるとお考えですか?

有益:そうですね、例えば人とひも付けて活用していくことも可能かなと。営業においても、マーケティングにおいても、やはり人の存在は大きい。あるプロジェクトで、社内の誰と誰が連携するとうまくいきそうかということを、データに基づいて提示するような仕組みができたらどうでしょう。「過去にこの人が、この分野でこういう提案をした結果、成果を上げました」といった情報を社内に蓄積することで、「それならこの新しい案件には、この人とこの人をアサインしよう」というのが導き出されると、プロジェクト成功の確度が高まるのではないかと思います。

 


 

DWHなどを用いたデータ活用の領域は、まだまだたくさんの可能性を秘めています。「はやっているから」「役員からの要望だから」。そんな理由で、建前だけのDXをうたうのは非常にもったいないことではないでしょうか。しかるべきステップを踏み、課題を明確にしてゴールを決めれば、おのずと〝本当に役に立つ″自社ならではのDXの形が見えてくるでしょう。DX推進をきっかけに、あらためてこれからの事業の方向性を問い直してみてはいかがでしょうか。

※掲載されている情報は公開時のものです

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著者

有益 伸一

有益 伸一

株式会社 電通デジタル

M&A事業のデューデリジェンス業務や、データマーケティングを軸とした経営企画、事業推進、マーケティングコンサルティング業務を経て現職。 AI(機械学習)、MA、CRM、DMP、BI等の最新マーケティングテクノロジーを統合的に活用し、経営課題・事業課題を解決に導くことを強みとする。 また、国内外の最新デジタルツールの発掘・アライアンスも得意とし、デジタルマーケティング関連の講演・寄稿多数。

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