サステナブル時代に求められる、企業のコミュニケーションとは?
2022/04/27
SDGsの達成期限まであと8年。多くの企業が、SDGsの達成やサステナブルな社会の実現に向けて取り組んでいます。生活者のSDGsの認知度も上昇し、多くの人の意識が変わる中で、企業と生活者のコミュニケーションのポイントが変化してきています。
よりよいコミュニケーションを実現するために、どのような点に目を向ければよいのか?「サステナビリティ・コミュニケーションガイド」を手掛けた、電通Team SDGsの大屋洋子が解説します。
<目次>
▼SDGsは、トレンドから次のフェーズに
▼グローバル社会ではSDGsへの取り組みについての発信が必須!3つの工程で見逃せないポイントを紹介
▼コミュニケーションの“事故”を起こさないよう、今一度、留意点の確認を
SDGsは、トレンドから次のフェーズに
SDGsに対する人々の意識が変化している原因としては、コロナ禍の影響も大きいようです。電通の調査では、「地球環境や社会問題は、決して他人事(ひとごと)ではない」と感じている人が83.0%。「地球や社会の“持続可能性”について、真剣に考える必要がある」と答えた人は79.7%という結果が出ました。両質問とも、コロナ禍を経て、初めて感じるようになった人が半数以上に上ります(調査に関する記事はこちら)。
電通 Team SDGsが2022年1月に実施した「第5回SDGsに関する生活者調査」の結果では「SDGs」の認知率が86.0%と、2021年1月の第4回調査から30ポイント以上増加。2018年2月に実施した第1回調査からは、約6倍となりました。「内容まで理解している」という回答も、前回調査の約1.5倍で34.2%に。10代では過半数を超えました。
これらの調査結果から、世界中が「コロナ」という同じ課題に直面したことで、自分のことだけを、さらには日本のことだけを考えていればいいわけではない、と多くの人が意識する状況になったことがうかがえます。SDGsはいわゆるトレンドではなく、生活者はSDGsを踏まえて、今まで以上に企業の活動を見ています。そして、企業側はSDGsの本質をきちんと理解して情報発信することが求められています。
コロナ禍による人々の意識の変化だけでなく、SDGsを取り巻く環境はここ数年で大きく変化しています。現在、世界の120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」を宣言。脱炭素の動きが加速しています。2020年には、BLM(Black Lives Matter)運動が起こるなど、人権の問題もクローズアップされるようになりました。
さらに、環境と人権を別々の問題として捉えるのではなく、両者は関係しており、環境が悪くなるということはその地に住む人々の人権を脅かすことだと考えられるようにもなりました。
例えば、2021年には、オランダの裁判所が同国のあるトップ企業に大幅なCO2の削減命令を出しました。この判決のポイントは、ただ単にCO2の削減が求められるというだけではなく、CO2の増加によってもたらされる気候変動が、地域の住民に対しての「人権侵害」にあたるとしたことにあります。海抜が低いオランダにおいて、気候変動によって海面が上昇すると、それは財産権の侵害(人権侵害)にもつながりかねない。だからいま気候変動は人権問題となっている、ということです。自国のトップ企業に対してこういった判決を下すのは勇気のいることであり、環境と人権にまつわる認識が世界的に変わってきたことを表す顕著な例と言えます。
SDGsにおける企業と生活者のコミュニケーションも変化しています。同じく2021年に、アメリカの飲料メーカーがサステナブルな企業であることをアピールする広告を展開したところ、環境団体から同企業由来のプラスチックごみによる汚染が世界で3年連続トップだという事実をもとに提訴されました。世の中は、企業の実態にも目を向けているのです。
SDGsやサステナビリティに関わるコミュニケーションが活発になり、生活者の関心度とリテラシーが高まっているということは、間違った認識やいいかげんなことを発信していると「ウォッシュ」(実態以上にSDGsに取り組んでいるよう見せかけること)だと受け取られる可能性も高くなる、ということです。
グローバル社会ではSDGsへの取り組みについての発信が必須!3つの工程で見逃せないポイントを紹介
2030年に向けたSDGs達成への取り組みはすでに折り返し地点にきています。今や「やっておくといい」ではなく、「やっていて当たり前」「やっていないとマイナス」とされる段階にあると言えるでしょう。
日本では、SDGsに取り組んでいても「大々的にアピールはしない」といった奥ゆかしい企業も見られますが、グローバル社会においてさまざまな方向から企業が見られる現在では、発信をしなければ「SDGsに取り組んでいない」と思われる懸念があります。また、発信することで、理解者や共創パートナー、ファンを増やすことにもつながります。
では、SDGsに関する発信をする際に、どのような点に目を向ければよいのか?電通Team SDGsは、2018年6月に発行した「SDGs コミュニケーションガイド」を改訂・刷新し、2021年12月に「サステナビリティ・コミュニケーションガイド」を発行しました。
本ガイドでは、SDGsを含むサステナビリティに関して生活者とコミュニケーションをとるときのポイントや、広告表現などで留意すべきことなどがまとめられています。その中から、いくつかポイントを紹介します。
・コミュニケーション開始前
コミュニケーションを始める前に、まず、自社のサステナビリティのための取り組みがそもそも企業として適正か、企業規模・特性に合致しているかを改めて確認することをお勧めします。また、コミュニケーションに向けた準備をするうえで大事なポイントとして、多様性のあるメンバーで進められていること、継続性があり“自社ならでは”(自社だからこそ行う意義のある)の社会変革を見据えた活動かどうか、などが挙げられます。
その企業に関連する社会課題、その企業だからこそ解決できる社会課題に取り組むほうが生活者にとっても納得度が高く、伝わりやすいのは言うまでもないでしょう。「この会社だからこそ、こういったサステナビリティへの取り組みを行っているんだな」と思われる、その企業“らしさ”のあるコミュニケーションは伝わりやすく、理解・共感されやすいと思います。一方で、掲げるサステナビリティメッセージの企業名を他の企業の名にかえても違和感がないものは、その企業じゃなくても言える主張が薄いメッセージである、とも言えます。 “自社ならでは”を追求していくことが大事です。
・コミュニケーションツールの制作時
コミュニケーションの表現を企画する時は、まず、企業として活動に対する「志」を明確にすることが大切です。企業の思いが見えるメッセージがあると「この会社はいいな」と思ってもらえ、支援者の増加にもつながっていくはず。これは前述した企業の“らしさ”や“自社ならでは”にもつながります。
そして、このコミュニケーションによって嫌な思いをする人はいないか?アクセシビリティ(誰もがそこにある情報や価値にアクセスできること)など、取り残される人はいないか?を複数の視点でチェックして考えるようにしましょう。
また、大げさだったり、あいまいな表現を使ったり、実際の事例と無関係なイメージビジュアルを組み合わせたり、実際に行われているにもかかわらず表現上で情報が不足していたり……といったことは、すべて「ウォッシュ」とみなされてしまう可能性があります。
以下は、「ウォッシュ」と受け止められる可能性のある例です。
このポスターの問題点としては、まず、50年前にSDGsという概念はなかったことが挙げられます。また、50年前から多くの人が取り組んでいたら、今の状況を招いていないといった点からも「不遜」「不適切」と言われてしまう可能性があります。SDGsは、これまでの取り組みでは解決できていない問題を解決するために世界中で取り組んでいるもの。SDGs前文にも明記されている通り、「世界を変革する」ための取り組みこそが求められています。
下部に掲載されたロゴに関しても、こちらが最新版のものではないため、SDGs推進を標ぼうしながら、正しい認識ができていない会社だと思われるリスクが。さらに、貢献するゴールのアイコンを表示する場合、各ゴールに対して具体的にどう貢献し、どんなKPIを設定しているかまで問われかねません。SDGsのロゴを掲載する際は、必ず国連のガイドラインを確認した上で、ロゴが最新のものか、17のゴールだけでなく169のターゲットにも合致しているかなどをチェックし、制作中の表現と齟齬(そご)がないかを確認することをお勧めします。
・制作後
表現案ができ上がったら一度、制作に関わっていない人のフラットな目や、専門家の目でみてもらうことが大切です。電通 Team SDGsの表現監修チームにも、多数そういったご依頼をいただいていますが、そういった第三者機関をうまく使っていただくのも有効な手段の一つ。コミュニケーションにおいては、不本意ながら、意図とは異なる受け取り方をされてしまうこともありえることです。問い合わせ内容の想定やそれに対する返答の仕方、明示できる数値など、何かあったとき迅速に対応できるような準備をしておくことも大事です。
コミュニケーションの“事故”を起こさないよう、今一度、留意点の確認を
サステナビリティにおける企業側からのコミュニケーションは、今後さらに加速されていくことが望まれます。ただし、“アクセル”を踏み込むには、“ブレーキ”の踏み方を知っていることが重要。ある意味で本ガイドは、想定外の“事故”を起こさないためのブレーキを踏むタイミングや効果的な踏み方などについての指南書、といった側面もあるかもしれません。
今後ますます求められる「サステナビリティ・コミュニケーション」をより一層推進していただくために、ぜひ本ガイドをご活用いただきたいと思います。
世の中の状況の変化に伴い、「やった方がいいこと」の基準は変わっていきます。本ガイドも決して今のものが完成版というわけではなく、時代に合わせ、さまざまな方の声を取り入れてリアルに使える良いものにしていきたいと考えています。
「サステナビリティ・コミュニケーション」は広告に限ったことではありません。セミナーやシンポジウムなどでの代表者の発言や、店舗設計や製品パッケージ、自社のウェブサイトへの掲載記事やSNSなどでの発信など、対生活者はもちろんのこと、広く世の中に示していくすべての情報が含まれます。広告宣伝や広報ご担当の方に限らず、研究開発やマーケティングの担当者、営業現場の方など幅広い分野の方々にご覧いただき、理解を深めていただければ幸いです。
「サステナビリティ・コミュニケーションガイド」のダウンロードはこちらから!
・日本語版
・英語版
ビジネス視点でSDGsを推進するプロジェクトチーム。コンサルティングや製品・サービスの開発などを通して、サステナブルな社会を実現するための企業活動をサポート。さらに、SDGsやサステナブルに関する各種調査、「サステナビリティ・コミュニケーションガイド」や「SDGsヒントマップ」などのツールも制作。オウンドメディア「TeamSDGs」では、さまざまな知見も紹介している。