人の処理能力を超え、爆発的に増え続ける情報量の中で育ってきたZ世代。彼らはどのような価値観に基づいて情報を取捨選択しているのでしょうか。Z世代を象徴するキーワード「タイパ(タイムパフォーマンス)」を軸に、Z世代の価値観や消費行動について、電通若者研究部としても活動する、株式会社 電通 サステナビリティコンサルティング室/Future Creative Centerの用丸雅也氏に話を聞きました。前編と後編の2回に分けてお届けします。
五感をフルに使う「タイパ」時代のコンテンツ受容 Q.まずは、用丸さんの仕事内容や専門領域について教えてください。 
用丸: クリエーティビティを武器に、クライアントさまの企業価値を高めるために、あらゆる支援をしています。特に今、個人的にも所属部署としても掲げているミッションは、「Sustainability for New Growth.」。財務諸表のみならず非財務諸表が問われるようになり、ステークホルダーが多様化する今だからこそ、それぞれの企業における新しい成長可能性を発見し、価値として可視化・蓄積するご支援ができればと考えています。例えば昨年は、J-クレジット(※)を活用することで、テレビCMの放送に伴って発生するCO2排出量をオフセットし、カーボンニュートラルを実現するCM枠「グリーンCM 」を、TBSさんと一緒に開発しました。これをきっかけにして、他のメディアにおいても、いかにカーボンニュートラルな広告を作れるかといった検証を進めています。電通若者研究部 」としても活動しています。電通若者研究部は、10〜20代の若者の実態を調査し、若者と社会がより良い関係性を築くためのヒントを探るプランニング&クリエーティブユニットです。
株式会社 電通 用丸 雅也氏 Q.電通若者研究部の活動などを通じて、Z世代と接することも多いそうですね。Z世代の間では、映画を倍速視聴したり、作業をしながら動画を見たりすることが当たり前になりつつあり、「タイパ(タイムパフォーマンス:時間対効果)」といったトレンドワードも生まれていますよね。「タイパ」がここまで注目されるようになった背景について、どのように分析されていますか。 
用丸: 10年ほど前まで、情報との接し方は、「欲しい情報を検索して、自ら取りにいく」といったスタイルが基本だったように思います。しかし最近は、情報は「選んで捨てるもの」に変わってきています。スマートフォンの登場によって、世の中にある情報量は爆発的に増えました。今のZ世代はその状態の中で生まれ育ってきたので、目の前にある膨大なコンテンツをいかにさばいて、効率良く情報を得られるかを重視するようになってきたんです。そこで生まれたのが「タイパ」という概念。電通若者研究部でも、6年ほど前からこの概念に注目してきました。
Q.Z世代は、YouTubeの20〜30分の動画すら長いと感じるようですね。 
用丸: そうですね。極端な例ではありますが、ある大学生の話を聞いていて面白いと思ったのは「時間表示のバーがなくて不便だから、映画館で映画は観ません」という話。確かに、スマートフォンなどで動画コンテンツを観る場合は、時間経過を示すバーが下の方に表示されますが、映画館はそれがありません。映画好きの人が聞いたら怒るかもしれませんが、自分が見たいポイントにスイッチできないというのは、彼にとってはストレスなんですよね。映画も数多ある情報の1つと考えると、こういう意見が出てくることも分かります。
直感型のコンテンツがヒットする理由とは? Q.映画や動画以外のコンテンツでは、どのような価値観の変動が起きていると感じますか? 
用丸: 音楽の構成も時代に合わせて変化していて、数年前から、イントロのない、サビから入る楽曲が増えました。これも、ながら聴きする人が増えたことが原因だと推測されています。ながら聴きするときは、直感的に耳に滑り込んでくる音楽の方が心地良いのではないでしょうか。
Q.情報の選び方などに変化はありますか? 
用丸: 以前は、自分で検索して情報を取りにいく行為を「ググる」と言っていましたが、数年ほど前からは「タグる」という言葉に変わってきました。これは、SNS上でハッシュタグ検索を使って情報収集する行為を指します。例えば、渋谷のおいしいお店を探すときは、ビジュアル系のアプリなどで「#渋谷グルメ」を調べるんです。
 
 
情報過多の時代になり、限られた時間の中でなるべく効率的に情報を処理したい、そんな考えから生まれた「タイパ」。こうした若い世代の価値観の変化は、映画や音楽などのコンテンツをはじめ、生活やビジネスのさまざまなシーンに影響を与えていることが分かりました。後編では、タイパ時代に求められるクリエーティビティやビジネスの在り方についても深掘りしていきます。
 
※ J-クレジット: CO2の排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度。企業などが省エネ設備の導入や再生エネルギーの利用などによってCO2を削減した際に、その削減価値を「クレジット」として売却することができる。