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公開日: 2023/04/11

「タイパ」はコンテンツをどう変える?Z世代の実態から考える、これからのクリエーティブ(後編)

費やした時間に対してそれ相応の満足や成果を得たい、という「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視する価値観は、Z世代の大きな特徴の1つだと言われています。株式会社 電通 サステナビリティコンサルティング室/Future Creative Centerの用丸雅也氏へのインタビュー後編では、タイパ時代に求められるクリエーティビティや、フォーカスすべきZ世代の性質について聞きました。

ネタバレを前提に「それでも見たい」コンテンツを作る

Q.前編では、タイパの概念と、Z世代の消費行動についてお聞きしました。昨今、コンテンツは供給過多で「一生懸命制作しても、なかなか見てもらえない」といった文脈で語られることも多いですが、用丸さんはどのようにお考えですか?

用丸:タイパという概念が一般的になったことで、2倍速で視聴されることを前提としたテレビCMや、短尺のコンテンツが増えてきたように感じています。このようなコンテンツが有効なケースもあるかもしれませんが、「ただ短いものを作る」というだけになってしまうと、対症療法的というか‥‥‥コンテンツとしてサステナブルではないのではないか、と感じています。一時的にバズッたとしても、ブランド資産としての耐久性が低いものになってしまうともったいない。つまり、ただブームを生むだけでは、ブランドは築かれません。時間効率の競争に勝つためには、やはり質の良いコンテンツを作っていかなければいけないと思います。

タイパの意識が高まっているといっても、皆、好きなことには時間を割くじゃないですか。つまり、タイパの時代だからといって、時間効率の良いコンテンツばかり作って届ければいいわけではないのではない。むしろ、タイパの時代だからこそ、クリエーターやマーケターは「時間をかけてもいいから見たい」と思われるコンテンツを作る意識を持たなければいけないのではないか、と私は思います。

Q.最近では、マーケティング界隈でも「早送りされるのが前提」「冒頭3秒が勝負」みたいなこともよく言われますが、用丸さんがおっしゃる通り、長くても見たいと思えるものを作ろうという考え方は健全だと思いますし、その方が持続性がある気がします。

用丸:とはいえ、タイパ的なコンテンツを否定しているわけではなく、むしろポジティブに捉えていいと思っているんですよ。

例えば、「話題のあの作品を10分で説明します」みたいな短い動画を投稿する人がいて、「ファスト映画」と呼ばれ、問題になっていますよね。著作権上問題があるのはもちろん、ネタバレが広まることは興行収入にも影響を与えかねません。しかし、SNS全盛の時代にネタバレを完全に防ぐのは難しいというのも現実です。そうなると、ネタバレが起きることを前提にして、結末が分かっていても観に行きたくなる作品を作ることが、今、コンテンツ供給側に課されていることではないでしょうか。タイパの時代だからこそ、本腰を据えて、コンテンツを作り込むことが大切だと思います。

株式会社 電通 用丸 雅也氏

どんな時代も人の心を動かすのは「グッとくるかどうか」

Q.ここ数年、タイパを含め、これまでの世代にはなかった新しい概念が次々と登場しています。用丸さんも「Z世代向けのアイデアが欲しい」といった依頼を受けることが増えているのではないでしょうか?

用丸:そうですね。例えば「Z世代を振り向かせる採用戦略を練りたい」「Z世代向けの新しい商品開発でTOC(Theory Of Constraints:短時間で成果を上げること)を狙いたい」といったご相談をいただくことがあります。

ただ、どんな時代も人を動かすのは感情で、商品やサービスが心にグッとくるものでなければ、生活者やユーザーから選んでもらえません。いくら世代や価値観が変化しても、そこは変わらない。だから、クライアントさまにも「最後に大事なのは、クリエーティビティ」とお伝えしています。

Q.さまざまな相談や依頼を受ける中で「Z世代について勘違いされている」と感じることはありますか?

用丸:例えばファッションを例に挙げると、SDGsが浸透しZ世代の間でもエシカルファッションが注目されていますが、単純に「Z世代はサステナブルな商品を選ぶはず」と決めつけてしまうとうまくいかないのではないでしょうか。彼らは、いくら環境保護に寄与すると言われても、デザインが良くなければ選ばないというケースも多い。あくまで、おしゃれな服を選んだ結果として「廃棄される資源の削減になる」「性的マイノリティーを支援できる」といった理念がついてくるという形が理想的。まずは感性や欲求を刺激することを入口にして、出口では結果としてサステナブルなアクションにもなっている、というような設計をすべきではないかと思います。

また、「タイパ」も含め、Z世代を象徴するキーワードはたくさんあります。ただし、これらはあくまで「キーワード」であって、「インサイト」ではない。どうしても「Z世代は‥‥‥」というふうに大きく括って、マジョリティーをターゲットに話を進めがちですが、マイノリティー、もっと言うなら1人ひとりと向き合わなければ、良いものは生まれないと思っています。

Z世代のアイデアを生かす、ビジネスの新しい生態系

Q.これからのZ世代はどのようになっていくでしょうか?注目しているトレンドや、Z世代の特性が生かされそうな取り組みなどがあれば教えてください。

用丸:「Z世代」という言葉が生まれて良かったと思うのは、若き将来世代が「前例を破ってもいい存在」として見られるようになったことです。タイパをはじめとする新しい概念が次々出てきたことによって、「近頃の若者は‥‥‥」といった批判的なトーンではなく、「Z世代はこんな面白い感性やアイデアを持っている」というふうに、ポジティブな受け取り方をされるようになったと思います。今後、ただ「ターゲット」として若者を見るのではなく、一緒に社会を変える「パートナー」として、上の世代が将来世代をきちんとサポートする流れができていくことを期待しています。

今、日本でベンチャーキャピタルやエンジェル投資家が増えていますが、これも行動力ある若者の情熱に投資しようと考える人が増えた結果だと思います。「イノベーションは、“若者”と“バカ者”と“よそ者”から始まる」とも言われていますが、そういった存在を阻害しない社会になっていけばいいですね。

Q.「若者の意見を聞こう」ではなく、Z世代が活躍できる環境をつくることを考え始めると、企業や組織の在り方そのものが変わっていく気がしますね。

用丸:将来世代が若者らしい価値観を軸に、旧態依然とした現状をブレークスルーするビジョンを持ち、チームをつくる。そしてそれを上の世代が応援する。スタートアップ投資の世界では、若き将来世代がつくった会社を、エンジェル投資家をはじめとする上の世代が投資という形で応援する構造ができ上がっています。そのようなスタートアップが成功して、また次の将来世代のスタートアップに投資する……といった生態系を築けると、社会全体としてサステナブルかつ右肩上がりの成長曲線を描けますよね。このように、意思やビジョンを持つ将来世代を、上の世代が搾取するのではなく支援し応援する構造を、1つひとつの企業内でも実現されていくといいなと思います。

 


 

選択肢が多いタイパ重視の時代だからこそ、クリエーティブにこだわり「時間をかけてでも見たい」と思われる良質なコンテンツを作ることが重要。このことは、コンテンツ産業に限らず、さまざまな商品・サービスの開発やマーケティング施策においても求められていくのではないでしょうか。さらに、Z世代の価値観や特性を知り、それを生かせる組織をつくることは、新しい時代を切り開くためのファクターとなるでしょう。

※掲載されている情報は公開時のものです

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著者

用丸 雅也

用丸 雅也

電通PR局配属後、転局試験に合格し、クリエーティブ局に異動。その後、ブランディングディレクターとして、国民的アーティストのブランディングや、企業のパーパスの言語化とそれに伴うコミュニケーション開発を多数手掛けてきた。「若者から諦めるをなくす」という思いを形にすべく、入社時から一貫して電通若者研究部でも活動。メディアへの出演・寄稿は100を超える。受賞歴にD&AD ブランディング部門最高賞、ADFEST BRAND EXPERIENCE部門/PR部門ゴールド、
PR AWARDS ASIAゴールドなど。趣味はひとり旅を通してご当地サウナとスナックを巡ること。2023年8月末に電通を退社。

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