株式会社電通プロモーションプラス内で組織されたユニット「若者消費ラボ」。「SNS」や「食」「コンテンツ」などカテゴリごとに、Z世代を中心としたメンバーが若者の消費動向を調査・分析し、当事者ならではの視点で購買体験のプランニングから実践までを行っています。本記事では、同ユニットのメンバーである五十嵐響介氏、高橋ひなの氏、齋藤晃平氏にインタビュー。
前編では、若者消費ラボ立ち上げの経緯やメンバーが取り組んでいる活動内容についてご紹介しました。後編では、最重要テーマと位置付ける「エモ販促」についてひもときつつ、今後の展望についても話を聞きました。
感情の動きに価値が生まれる時代。「エモ×販促」でZ世代の心をつかむ
Q.若者消費ラボが収集した事例の中で、特に注目しているトピックがあれば教えてください。
高橋:前編で齋藤がお話しした「SNS購買自己分析」の中でも触れましたが、Z世代はSNSでの出会いが1つのタッチポイントとなり、購買に直結することも珍しくありません。いかに直感的に興味を持ってもらえるかが大事なので、Z世代を攻略するには、商品やサービスとの「出会わせ方」が非常に重要になってきます。そこをプランニングしていくための最重要キーワードとして、われわれが提唱しているのが「エモ販促」です。
「エモい」という言葉は、少し前なら「ノスタルジー」や「懐かしい」という意味で使われることが多かったのですが、最近はどんどん多義化しています。特定の感情ではなく「なんか良い」といった、言語化できない気持ちの高まりや心の動きを「エモい」という言葉で形容している、とわれわれは認識しています。
マーケティング視点で見てみると、これまで「モノ消費」「コト消費」「トキ消費」という流れがあって、今は感情の動きに価値を見いだす、つまり「エモを買う」時代ではないかと思っています。Z世代が商品やブランドに好意を抱くきっかけに「エモ」が大きく影響している、ということです。そうした流れを踏まえて、商品のコンセプトやパッケージにいわゆる「エモい」と受け取られるような要素を落とし込んだ「エモ×製品」や、グラフィックやコピーを対象とした「エモ×広告」が広がりつつある中で、次なる段階として、われわれは「エモ×販促」を最重要テーマに位置付けています。プロモーションやキャンペーンにエモい要素を落とし込むことで、例え商品そのものが「エモ」から距離があったとしても、Z世代に刺さる購買訴求を可能にすることが狙いです。
株式会社電通プロモーションプラス 高橋 ひなの氏Q.なるほど。「エモい」をフックに、Z世代の感情に働きかけるのが有効なのですね。具体的にはどのようなマーケティング手法なのでしょうか?
高橋:エモ販促を成功させるためには、
①Z世代ならではの価値観や背景(コンテクスト)
②「エモい」と感じられる世界観やトーン&マナー(クリエーティブ)
③「エモさ」に結び付きやすいモーメントやイベント(トピックス)
④「エモさ」を引き起こすきっかけとなる動作や体験(アクション)
以上4つのポイントを押さえていくことが重要だと考えています。
五十嵐:「コンテクスト」の例で言えば、コロナ禍で友人との会話を楽しむことも、外に出ることさえもままならない、卒業旅行にも行けないなど、前後の世代と比べて「青春」というものをあまり楽しめなかったZ世代は多かったかもしれません。「青春」と「エモさ」は密接に関わっているので、青春を商品やサービスの力で取り戻す、という考えは重要でしょう。また「アクション」については商材次第ではあるものの、Z世代に刺さるアーティストを招いてライブイベントをするといった施策も考えられますね。
Q.「エモ販促」を提唱して、クライアント企業からの反応はいかがですか?
株式会社電通プロモーションプラス 五十嵐 響介氏五十嵐:そもそもエモ販促を提唱したきっかけは、ある企業の広告担当者の方から、「エモい商品・広告」といった言葉はいろいろと聞くけれど、実際、どのように商品開発やマーケティングに生かせば良いのかと質問を受けたことなんです。企業としても、やはり興味のあるテーマなのだなと感じました。
「エモ×製品」「エモ×広告」と比べて、「エモ×販促」はまだまだ黎明期。われわれがその領域を開拓していくことには大きな意義があると思っています。若者に商品やサービスに興味を持ってもらい、実際に購買につなげるところまでをトータルでプランニングすることで、企業が抱える販促課題の解決に貢献できるのではないかと考えています。
CX領域にこだわり、「生活者とメーカー、リテールをつなぐ存在」になりたい
Q.「エモ販促」を1つのテーマとして、より活動の幅を広げていこうという段階かと思いますが、Z世代のお2人は、若者消費ラボの活動をする中で、気付いたことや感じたことはありますか?
高橋:会社という組織の中だと、やはり年次が浅いうちは「自らが良いと思い、取り組んでいくべきだと感じること」を推進していくのは、なかなかハードルが高いことのように思います。しかし、若者消費ラボという組織の中では「若者の当事者」として自分たちを主語に活動することができるため、挑戦できる貴重な場であり機会だと感じています。
齋藤:メンバーの多くはZ世代の当事者ではあるのですが、同じユニットのメンバー内でも感じ方や考え方が違ったりして、やはりZ世代は捉えどころがないというか、簡単には一括りにできない、という性質があると思います。私自身の行動でさえも言語化が難しく、Z世代攻略に苦戦する気持ちはよく理解できます。だからこそ、若者のインサイトを解き明かし、ラボとして体系化した考え方を構築していく活動には価値があるし、これからさらに深化させていきたいと考えています。
株式会社電通プロモーションプラス 齋藤 晃平氏Q.それこそ「エモい」という言葉に代表されるような、言語化しにくい概念を可視化することが、今後のZ世代マーケティングにおけるポイントということですね。最後に五十嵐さんにお聞きしたいのですが、若者消費ラボとして、新たにチャレンジしていきたい領域や今後の展望についてお聞かせいただけますか。
五十嵐:あらためて若者消費ラボの強みを整理すると、2つあると考えています。1つ目は、Z世代のメンバーが多く在籍しているので、当事者としてZ世代のインサイトを踏まえた施策設計ができる点。2つ目は、メンバー1人ひとりが、若者消費ラボの活動とは別で、それぞれ自分の所属部署の案件を持っているという点です。つまり、飲料や自動車など、業種や業態を問わず経験値がある、ということです。この2つの強みを組み合わせることで、若者心をつかむ施策ができると考えています。
そうした中で、若者消費ラボが目指しているところとしては、「生活者とメーカー企業、リテールをつなぐ」存在になることです。電通グループが強みとしているAX(Advertising Transformation)領域はもちろんですが、Z世代というものを1つのテーマとしつつ、CX(Customer Experience)の領域にも強いこだわりを持って、購買に直結する体験設計やソリューションを提供していきたい。そして、CXを起点として、広告や販促などのAXの施策をどのように作り替え、拡張していくかということにも今後、チャレンジしていきたいですね。

「エモ製品」「エモ広告」をさらに拡張した領域として、若者消費ラボが注目している「エモ販促」。「エモい」という言葉の多義化に象徴されるように、その時の心の動きや気分の移ろいによって購買行動が変化しやすいのがZ世代の1つの特徴と言えるかもしれません。そんな若者の心をつかむ商品・サービスとの出会いを演出し、購買、ファン化までをトータルで設計することが、これからの施策のカギと言えるかもしれません。
※本記事の記載内容は2023年3月取材当時のものになります。