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公開日: 2023/10/05

今後持続的に成長できる企業とは? 「デジタルトランスフォーメーション調査」で見えてきた、これからのDXの進め方(後編)

新型コロナウイルス感染症の影響を強く受け、企業のDX推進は喫緊の課題に。コスト低減や業務効率化に加えて、従来のビジネスの在り方そのものが見直されるようになってきています。

株式会社電通デジタルでは、国内最大規模の総合デジタルファームとして、2017年から継続的に「日本における企業のデジタルトランスフォーメーション調査」(略称:DX調査)を業界に先駆けて実施、2023年4月には最新版を発表しています。BX部門マーケティングイノベーションデザイン事業部グループマネジャーの小橋一隆氏へのインタビュー前編では、今回の調査の意図や、調査の結果として見えてきたDX推進の新しい潮流について聞きました。後編では、調査データを基に、「DXの成果が出ている企業」に共通する特徴について探っていきます。

DXのフェーズは「組織・人材・文化を本質的に変革できるか」に移っている

Q.DX調査の2022年度版では、今回の調査で実施した企業インタビューと、過去6年にわたる調査結果から「DX成果創出と持続的成長に向けた8つのKSF(Key Success Factor:重要成功要因)」を導出しています。各企業のDX推進状況を「8つのKSF」に照らし合わせたとき、どのようなことが見えてくるのでしょうか?

株式会社電通デジタル 小橋 一隆氏

小橋:まず、あらためて「8つのKSF」についてご覧ください。

① ミッションやパーパスなどの経営ビジョンに基づき社員が行動
② 組織・人事の変革が行われDX専門組織を起点に社内の部門間連携が円滑
③ DXによるビジネスインパクトは中長期視点で管理
④ 顧客と従業員の満足度は同等に重要視
⑤ 社会課題解決は自社の重要課題と位置付け事業として取り組む
⑥ 顧客資産を重要視し、顧客体験価値を高め続ける取り組みを実施
⑦ データの利活用サイクルが確立され、データ活用人材の育成強化に積極的
社内・社外問わず人材交流や協働、共創が活発

これらの実践度について、「DX成果あり企業」と「DX成果なし企業」の両方にアンケートを取ったところ、全ての項目で約3~4倍の差が開いていることが明らかになったのですが、その中でも差が大きい項目として、「②組織・人事の変革が行われ、DX専門組織を起点に社内の部門間連携が円滑」「⑧社内・社外問わず人材交流や恊働、共創が活発」」「①ミッションやパーパスなどの経営ビジョンに基づき、社員が行動している」「⑦データの利活用サイクルが確立され、データ活用人材の育成強化も積極的に行っている」が上位に挙がってきました。

小橋:この結果から言えるのは、DXで成果を出している企業は「組織・人事の変革と部門間連携」「社内外のコラボレーション・協創」「ミッション・パーパスの社員アクション化」「データ利活用/データ人材育成」により注力して実践しているということです。やはり「組織・人材・文化」の在り方に、どれくらい踏み込んだ変革を生み出していけるかという点が、今後のDX推進のカギになってくると確信しています。

Q.DXが「デジタルを活用した業務プロセス・システムの効率化」から新しいフェーズへ移りつつあるということは、DX推進のために求められるソリューションも変わってくる気がします。

小橋:そうですね。電通デジタルとしては、例えばCDP(Customer Data Platform)など、マーケティングシステムの導入・運用といったプロジェクトに従事する時も、「組織・人材・文化」といった視点から全社変革につながるような、さらに踏み込んだ支援ができないかを常に考え、提供していくことがますます重要になっていくと思います。そのような意識を持って、新しいソリューションの提供にチャレンジしているところです。

DXの実践度は「8つのKSF」がリトマス試験紙に

Q.DX先進企業のインタビューや「8つのKSF」の分析を通じて、さまざまな発見があったと思いますが、今後、「DXを進めているけど、うまくいかない」と企業から相談された場合、小橋さんならどのような提案をしますか?

小橋:やはり「8つのKSF」が、1つのリトマス試験紙になると思っています。これをどのくらい達成できているかによって、DXの実践度が浮き彫りになる。つまり、8つの項目を診断的に使ってみて、どれだけ当てはまるか、不足している部分はどこかを、一度チェックしてみるといいのではないか、と考えています。

例えば、「顧客と従業員の満足度は同等に重視している」という項目。顧客満足度を重視しない企業はいないと思いますが、DXを推進する際に、顧客満足度そのものを生み出す従業員の満足度まで視野に入れることができているかどうか。実際にインタビューを行ったDX先進企業の中には「DXの目的はCX(顧客体験)とEX(従業員体験)だ」と明確に両方を設定している企業がいました。「8つのKSF」は多角的な視点を網羅しています。現在の状況と比較して、ギャップを見つけることで、DX推進の大きなヒントにつなげることができると思います。

DXの本質は「変化に強い企業体質」に変わること

Q.今回の調査を踏まえて、電通デジタルとして「今後はこのような領域を重視したい」「この部分を強化していきたい」といった展望がありましたら教えてください。

小橋:今回DX調査の内容を検討し始めた時に、「DXで本質的な成果を創出できた企業は、今後どんな経営課題に直面しても、企業が自ら変革を起こし、持続的な成長をし続けるのでは?」と、チームメンバーと議論していました。

DXをきちんとやり切った企業は、あらゆるトランスフォーメーションに強くなり、本質的に強い企業になれる。逆に考えると、DXがうまくいかない企業は、DXに限らず、さまざまな変化に直面した時に、中途半端な対応に終始してしまうのではないか。つまり、企業が長く生き延び続けるために「変革体質」になることが、DXの本質なのではないでしょうか。DXの先にある「持続的な成長を生み出す変革体質」を見据えて、どのような支援をパートナーとして提供していくかが、私たちの課題であると考えています。

Q.「変革体質に向けて、DXをやり切るためにはどうすればいいか」といった悩みを抱える企業も多いと思いますが、どのようにアドバイスしますか?

小橋:まずはDXを、既存事業の改善や新規事業のPoCといったプロジェクトの個別推進で終わらせないこと。次は、既存事業の延長で新規市場を開拓するサービスモデル変革やカスタマージャーニー上での新しい顧客接点としての新規サービス開発を横断的に推進することが重要です。そして最終的には、既存/新規事業を一体化させ、全社的な「なりわい/事業モデル変革」を推進する。その為に不可欠な「組織/企業文化/人材の変革」に取り組んでいくことが、将来的に変革体質になるためには必要不可欠なんだということが、今回の調査で明らかになった一番重要な示唆だと考えています。

 


 

小橋氏の話で特に興味深いのは、「DXをきちんとやり切った企業は、本質的にどんな変化にも強い企業体質になれる」という考え方。従来のビジネスモデルから脱却し、持続的な成長につなげるためにも、DXは、企業にとって乗り越えなくてはならないハードルであると言えるかもしれません。

※掲載されている情報は公開時のものです

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著者

小橋 一隆

小橋 一隆

株式会社電通デジタル

株式会社 電通入社後、営業部門に配属され、メディア業務を担当。2008年よりストラテジック・プランナーとして、幅広い業種のクライアントに対して、広告/ブランディング/デジタルマーケティング領域の戦略立案などの業務を推進。2022年株式会社電通デジタルへの出向以降、現在はBX/CX/DX領域のコンサルティング業務に取り組む。2020年より長野県塩尻市広報アドバイザー。

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