スポーツ業界は、デジタル技術の進化、リアル体験価値の向上やファンエンゲージメントの多様化などを背景に、これまでにない成長局面を迎えています。
そんな中、2025年7月にセプテーニ・ホールディングス(以下、セプテーニHD)と電通は業務提携し、スポーツ領域に特化したデジタルソリューションの提供を開始。競技団体やクラブ・チーム、スポンサーなどのデジタル領域を統合的に支援し、スポーツ業界の成長を支援しています(リリースはこちら)。
本記事では、セプテーニスポーツ&エンターテインメント社の末藤大祐氏(代表取締役社長)と住友亮介氏(取締役)、電通の田邊雄大氏(スポーツビジネスソリューション局長)が、スポーツビジネスの現在地から、両社の取り組み、今後の展望まで語り合いました。
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スポーツ産業の成長のカギを握るのは、「デジタル」
──まずは、セプテーニスポーツ&エンターテインメントと電通、それぞれのスポーツ領域への関わりについて教えてください。
末藤:セプテーニスポーツ&エンターテインメント社は、デジタルマーケティングを事業の中核とするセプテーニHDが2025年1月に設立した、スポーツ・エンタメ領域に特化したマーケティング企業です。
住友:私たちは、今後ますます成長が見込まれるスポーツ・エンタメ市場に注力し、デジタルマーケティングの知見をベースに、さまざまなサービスやソリューションを提供しています。
田邊:電通は長年、スポーツビジネスに携わってきました。中でも協賛スポンサーの獲得や地上波テレビを中心とした放送権のビジネスで貢献してきた部分が大きいと思っています。
私は現在、電通のスポーツビジネスソリューション局(以下、SBS局)に所属しています。SBS局は、各競技団体やクラブ・チームのマーケティング活動支援や企業への協賛の提案を行うほか、協賛を通じて企業の課題を解決することを考えています。選手やファンを含め、スポーツ領域のステークホルダーを幅広く捉えて多彩なソリューションを提供しています。
──スポーツ領域と向き合う中で、日本のスポーツビジネスの現状や課題をどのように捉えていますか?
田邊:スポーツ市場は今後10年の予測を見ても飛躍的に成長すると言われています。一方で、東京2020オリンピック・パラリンピック以降、スポーツに協賛する価値や意義が改めて問い直されており、「曲がり角の時期」に差し掛かったと感じます。そんな中で、協賛によって支えられている競技団体やチーム、アスリートは今後、協賛に頼り過ぎない収益の上げ方を見つけていく必要があります。
電通 田邊氏住友:普段からよくスポーツを観戦しますが、スポーツの魅力に触れるたびに、日本ではそのビジネス価値が十分に評価されていないと感じます。観戦チケットの値段をみても、例えばサッカーのトップリーグにおいて、海外と比較すると、日本は圧倒的に安い。また、アメリカンフットボールの「スーパーボウル」などは、30秒のCM枠に約10億円規模の価値が付いていると言われています。世界における日本の経済規模と照らし合わせても、スポーツの市場価値は見合っているとは言えません。
また、メジャーなスポーツでもクラブ・チーム単位で見ると、資金や人材などのリソースがかなり苦しい。そのような課題に対してもっと目を向ける必要があります。
末藤:そうですね。実際にクラブ・チームの仕事に携わっていると、スポーツ業界の働き方や労働条件に変革の必要性を感じます。私は、セプテーニグループでグローバルビジネスに携わってきましたが、エンタメ業界はコンテンツIPを武器に海外への進出などがめざましいのに対して、スポーツ業界はビジネス面では課題が大きいと感じています。
──ファンとの関係性はいかがでしょうか?
田邊:こちらも大きな伸びしろがあると感じます。約30年前にJリーグができて、地域密着の理念が浸透して、ファンとクラブや選手の関係性が進歩してきましたし、プロ野球もどんどん大きなビジネスになっている。ですが、ファンやサポーターとの関係性の築き方、あるいはその熱量をビジネス的に受け止めることについてはまだ出来ることがあると感じています。
こういった、スポーツ業界のさまざまな課題解決に強みを発揮するのが、デジタル領域の施策だと考えます。データを使って協賛の価値を可視化して説明能力を高めたり、デジタルマーケティングやDXで競技団体が一つの事業体としてビジネスの拡張にトライしたり。デジタル要素をいかに取り込めるかが、スポーツ業界発展の分水嶺になると考えます。
2社の強みを掛け合わせた「オンオフ統合マーケティング」とは?
セプテーニスポーツ&エンターテインメント 末藤氏──スポーツ業界の課題に対し、電通とセプテーニはどのようなことを行っていきますか?
末藤:大きく2つあります。一つは、セプテーニが持つデジタル領域のケイパビリティと、電通のマーケティングとスポーツ領域における知見を掛け合わせて、スポーツビジネスを進化させていくことです。
もう一つは、電通は長年、協賛のビジネスや、リーグ・競技団体のサポートに携わっています。リーグ・競技団体の先には、クラブがあり、ファンがいるので、スポーツに関わるステークホルダーを全方位的にサポートできる体制に取り組んでいきたいと考えています。
住友:もう少し具体的に言うと、スポーツ市場に対して、「オンラインとオフラインの統合マーケティング」をやっていきたいということです。競技団体においてはマーケティングや集客のオンオフ統合もその一つです。例えば、地方局では、スポーツ番組を放送していますが、同様にインターネットユーザー層に合うウェブ番組を制作し配信したり、データを活用して地上波を見ているユーザーに配信したりすることなどです。また、協賛している企業にとっても、スタジアムの看板などオフラインの施策に加え、オンラインの施策を通じて新たなメリットを感じていただけると考えます。今後は、こういったデジタル領域における協賛のあり方や価値を電通とデザインすることに挑戦していきたいです。
──もう少し「オンオフ統合マーケティング」のメリットを教えてください。
住友:これはスポーツ領域に限らないのですが、これまでのマーケティング施策では、同じ企業・ブランドでもオフライン広告とオンライン広告で、世界観やメッセージがチグハグなものが少なくありませんでした。その理由の一つとして、オンラインとオフラインそれぞれの施策を請け負う企業が違っていたことが挙げられます。セプテーニグループと電通がタッグを組んでオンオフ統合に取り組むことで、広告の一貫性を高めることができるので、相乗効果が期待できます。
田邊:スポーツ領域においては、例えば地方のチームの多くは、地元テレビ局でのCMなどのプロモーションに力を入れています。そこで私たちは、テレビ実視聴データを軸とした電通のデータ基盤「STADIA360」(※)を活用し、これまでスポーツ領域で実施例が少なかったオンオフ統合に取り組んでいます。
具体的には、テレビCMを「視聴した層」と「視聴していない層」それぞれの層に合った広告配信などがあります。さらに、全国放送された日本代表の試合を視聴した人に対して、代表選手が所属するチームのデジタル広告を打ち、チームのプロモーションに役立てることも。視聴データを活用し、リーグ・クラブと日本代表の相互送客の可能性を広げるという、スポーツ領域ならではの課題に挑んでいます。
※STADIA360(スタジア サンロクマル)=電通が提供する、ユーザーの同意許諾を得たテレビ実視聴データを基盤とした国内最大規模のマーケティングプラットフォーム。テレビ実視聴データとデジタル行動データを連携することで、オンオフ統合での分析が可能。
──「オンオフ統合マーケティング」の事例はありますか?
住友:これまでいくつかのスポーツチームのマーケティングのお手伝いをさせていただきましたが、その中から、福岡市を拠点とするサッカーJ1クラブ「アビスパ福岡」の事例を紹介します。アビスパではデジタルマーケティング施策をほとんど行ったことがなく、これまで「JリーグID」もほぼ活用していませんでした。商圏は大きいものの、入場者数はJ1チームの中では少ない状況でした。
田邊:ちなみに「JリーグID」とは、リーグに参画しているすべてのチームにJリーグが提供している共通会員IDです。観戦チケットやグッズ購入など、ファンのあらゆる行動が一つのIDにひもづく仕組みになっています。電通は、JリーグIDが使用されている「Jリーグ公式アプリ」の運営をサポートしています。
住友:私たちは、まずJリーグIDをベースに来場者の動向を捉えるところからアビスパへのマーケティング支援をスタートしました。デジタル経由で、新規の来場者数はどれくらいで、どれくらいの人がリピートしてくれるのか。また、広告予算に対するROI(投資利益率)も算出しました。その結果、広告費用は何と1試合で回収できることが分かったのです。さらに、適切なターゲティングを行えば新規来場者をより効率的に集客できることも分かり、今後の施策設計に有用な結果を得ることができました。
加えて、これまで同チームのマーケティング活動は、駅前看板などのオフライン施策が基本でしたが、デジタル広告を強化したところ、2025年には9年ぶりに1シーズンの平均入場者数が1万人を突破し、新規来場者も増加し続けています。
田邊:デジタル領域を強化して、オンオフ統合を進めることにはさまざまな効果があります。データを収集・分析し、チームにどのようなファンがついているか、解像度を上げることで、スポンサーに対して協賛への説得力を高められます。
また、Jリーグに限らず、クラブ・チームの経営が安定すれば、スポーツ好きでなおかつデジタルスキルや経営スキルを持った人が入社を希望するようになる。すると、企業体としてのクラブ・チームもより成長する良いスパイラルに入っていく。例えば、北海道日本ハムファイターズは、北海道を代表する人気企業になっていて、優秀な人材がたくさん集まっている感じがします。
協賛企業に対して、協賛価値をデータで示す
──お話を伺っていて、「オンオフ統合マーケティング」では、特にデジタル領域の強化の必要性を感じます。スポーツ協賛企業がデジタルを取り入れると、どのようなメリットがありますか?
田邊:今多くの企業が広告の費用対効果を厳しく問うようになってきています。「大会が盛り上がって、そこに看板が出ていた」といったことでは、もはや説明が不十分なのです。大会の観客数に加えて、どのような客層の人が多かったのかなど、協賛価値の裏付けとなるデータとのひもづけが非常に説得力を持ってきます。
住友:現在、企業が得られる協賛価値は、看板やロゴ掲出といったオフラインのものがほとんどです。その中で私たちは、長らく協賛ビジネスに携わってきた電通の知見を借りながら、デジタル領域での新たな協賛価値の創出に取り組みます。これにより、協賛企業に対してもオンオフ統合マーケティングを実践していくための下地を作っていきたいと考えています。
セプテーニスポーツ&エンターテインメント 住友氏──最後に、今後の展望をお聞かせください。
田邊:従来のマスメディアを利用したプロモーションでは、ダブルスポンサー問題が厳しく、競技団体・チームと協賛企業が自らの広告をそれぞれで出すのが普通でした。しかし、オンラインでは複数の団体や企業が連携し、多彩な表現のプロモーションが実現可能になってきています。
例えば、競技団体とチーム、複数の協賛企業によるタイアップ広告や、「チームの広告を見た人に協賛企業の広告を流す」といった施策です。ステークホルダーのそれぞれの強みを生かした無限の掛け算は、生活者との接点づくりやアプローチの幅を広げてくれるはずです。
住友:電通と連携しながら、スポーツ領域のあらゆるステークホルダーに対してオンオフ統合マーケティングによる支援を行い、スポーツが生み出す人々の熱狂や楽しさを価値に変えていきたいです。そして、スポーツビジネス全体の発展に貢献していきたいと考えています。
末藤:オンオフ統合マーケティングを活用した取り組みによって、より多くの競技団体やチームが協賛に頼り過ぎないマネタイズ方法を確立できるように支援していく考えです。スポーツ業界全体の構造にポジティブな変化を生み出していきたいと思います。
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