AIによる自律的業務支援と人の創造力を組み合わせ、社会と未来に新たな価値を。「Gemini Day」開催
9月8日、Google Cloud Japanとdentsu Japanの共催イベント「Gemini Day」が電通ホールで開催された。Googleの生成AIサービス「Gemini Enterprise」が事業やマーケティングにもたらすインパクトや最新事例について、各分野のプロフェッショナルが解説。「構想」から「実装」フェーズへと移行するAIによるビジネス変革の現在地が示された。
電通グループからは、以下の9人が登壇した。
【電通グループからの登壇者】
■dentsu Japan
並河進(チーフ・AI・オフィサー エグゼクティブクリエイティブディレクター 主席AIマスター)
■電通
鵜篭靖央(第20ビジネスプロデュース局 アカウントリード)
小橋元樹(フューチャークリエイティブセンター 第6CRプランニング局 コミュニケーションクリエイター コピーライター)
鷲尾恒平(フューチャークリエイティブセンター プロジェクトデザイン部)
■電通デジタル
江田祐哉(AI&データマネジメント事業部 グループマネージャー)
佐藤晃(データストラテジー事業部 グループマネージャー)
末永稔(AI&データマネジメント事業部 事業部長)
■イグニションポイント
羽間裕貴(執行役員 AI Innovation Hub代表)
■GNUS
荒金駿(ソリューショングループ ディレクター)
業務用AIは「チャットボット」から「自律型エージェント」へ
イベント冒頭のイントロダクションでは、Google Cloud Japan 執行役員 カスタマー エンジニアリング統括の渕野大輔氏が登壇。AIテクノロジーは、要約や調査を行う「AIチャットボット」から、自律的に業務を遂行する「AIエージェント」へと進化していると語った。そして、メールやチャットに情報が点在する中で的確な判断を下すには、AIの「業務の背景(コンテキスト)を正しく理解する能力」が不可欠だと指摘した。
「Gemini Enterprise」は、組織全体のデータソースを活用し、業務のコンテキストを理解したうえで自律的な業務支援を行う生成AI基盤だ。投影されたデモ映像では、Gemini Enterpriseが1つのアイデアを起点に新たなキャンペーンを生み出し、キャンペーンメールを配信するところまでを自律的に実行する様子が映し出された。また、これまで150時間ほどかかっていた作業を、Gemini Enterprise で約4時間にまで短縮した事例も紹介された。
渕野氏は最後に、「AIに業務を落とし込み、どの部分をAIエージェントに任せていくかを考えながら活用することが非常に重要」と語り、イントロダクションを締めくくった。
AIによるビジネス変革の本質は「業務プロセスの再設計」にある
キーノートセッション「生成AIがもたらすビジネス変革の未来像」では、Google Cloud Japan代表の三上智子氏とdentsu Japanの並河氏が登壇。
三上氏は始めに、AIによる変革を「電気の発明」になぞらえ、「電気という革命が爆発的な生産性向上につながったのは、個々の機械にモーターを組み込み、工場全体のレイアウト、つまりビジネスプロセス自体を変えたとき」と説明。このアナロジーは現代のAI活用にも通じ、AIに合わせて業務を再設計する視点が不可欠だと語った。
また、Google Cloud JapanではAI需要の増加に伴うサプライチェーンリスクという経営課題に対し、人を介したAI活用で学びを蓄積することで効率的に業務改革を進め、数百億円規模の財務効果を上げていると述べた。
続いて並河氏は、dentsu JapanのAI戦略「AI For Growth」を紹介し、その中核には次の2つのAIエンジンがあると解説。
・People Model :15万人の生活者調査データを基にした1億人規模のAIペルソナで、市場反応を予測するシミュレーションエンジン
・AI For Growth Marketing Agents:専門家の知見を実装した10種類の専門AIエージェントが企業のマーケティングを支援するプランニングエンジン
最後に並河氏はAI活用の今後について、「AIによる業務効率化だけでなく、顧客への提供価値向上という領域にも挑戦していくべきではないか」と語り、セッションは幕を閉じた。
思考の土台を作るパートナーとしてのAI
セッション「AIで変える、マーケティング戦略を考える組織への挑戦」では、日本郵便 広報宣伝部部付部長/郵便・物流事業統括部 マーケティング室部付部長の藤田元氏と、電通の鵜篭氏、電通デジタルの江田氏が登壇。日本郵便が行った「ゆうパック」のAIマーケティング施策が紹介された。
日本郵便はかねてより、「人事ローテーションや縦割り組織により、マーケティング知見を蓄積・活用しにくい」という組織構造そのものへの課題意識を持っていたという。
この課題に対し、鵜篭氏、江田氏の伴走のもと「“ゆうパック×引っ越し”市場の創造」というテーマで、Gemini Enterpriseと電通独自のマーケティングエージェントを活用した組織変革に挑戦。部門横断のワークショップを行い、戦略立案からクリエイティブ制作までを実践した。
成果は業務効率化にとどまらず、プランニングプロセスに各部門が関与することで合意形成が飛躍的に高速化。AIが生成した広告クリエイティブが、人が制作したものと同等以上のパフォーマンスを発揮するケースも見られたという。
藤田氏は「AIは成果を出す道具というより、組織の思考の土台を作り、並走してくれるパートナーなのだと思う」と述べ、AIが組織の思考様式を変革する可能性を示唆した。
「Nice to haveではない」──AIエージェントを軸とした組織・業務改革
「Google自身はAIでどう変わったのか:カスタマーゼロに学ぶAI-BPR変革の実践」と題したセッションでは、Google Cloud Japan 執行役員 データクラウド事業本部の濱田真氏と、イグニション・ポイントの羽間氏が登壇。
始めに羽間氏が、AI導入時に行うべき「人と組織」に焦点を当てた業務設計を紹介した。設計のポイントは、「現場の暗黙知を引き出す」「人とAIの役割を再定義する」「小さく並行的に動く、いわゆるメッシュ型の体制を作る」などにあるという。
続けて、話題はAI導入時にGoogle Cloud Japanが行った組織変革について。濱田氏はまず、「AIエージェントへの取り組みはNice to have(あれば望ましい)ではなく、これがないと成り立たないもの」と断言し、AIエージェントをベースとした業務改革への本気度を示した。
変革施策の具体例として挙げたのは、「サプライチェーン改革」。
「グローバルなサプライチェーンでは、天候問題や国際情勢といった不確実性により、計画や予測は思い通りにならないことも多々あります。そこで、リアルタイムデータをAIエージェントが監視し、いかに状況に応じて業務プロセスを機動的に動かせるかが改革の中心となっています」(濱田氏)
さらに、担当者がGoogle Cloud Japan独自のAIエージェントと自然言語で対話し、これまで複数部門にまたがっていたプロセスを一人で完結させる事例も紹介した。
データとAIの相互作用で、「B to Me」/「Me to B」な顧客体験を創造する
セッション「未来の顧客体験を作るデータインテグレーション」では、データとAIが完全に統合された未来の顧客体験がテーマに。
電通デジタルからは末永氏と佐藤氏が登壇し、データとAIが循環する「エコシステム」の重要性について語った。
「エコシステム」の中核は、AIエージェント活用で得られたデータをナレッジ化する「循環の最適化」と、自社データ、AI、施策実行プラットフォーム基盤の連携を円滑化する「連携の自動化」だ。末永氏は、「この2つのサイクルを回すことで、データとAIが相互作用し、AIの回答精度と顧客体験を継続的に進化させる仕組みが生まれる」と解説した。
続いて登壇した電通の鷲尾氏とGNUSの荒金氏は、GeminiとGoogleの持つデータをかけ合わせて作ることができる、「顧客体験の未来風景」の2つのプロトタイプを示した。
一つはAIが顧客のライフコンテクストを深く理解し、その人だけのクリエイティブを自動生成する「B to Me(Business to Me)」。自動車販売のウェブサイトと接客を例にとり、顧客のニーズに基づき、その場で動画付きの提案プランが制作される様子を紹介。荒金氏は、「トップセールスの提案力をAIで民主化することができるのでは」と期待を語った。
もう一つは「Me to B(Me to Business)」。ユーザーが膨大な個人データをAIに読み込ませることで、AIが潜在的なニーズを可視化。それを基に最適な企業を自律的に選択し、対話する。モデルケースとして、注文住宅の購入シーンで、パーソナルデータから読み取れる潜在ニーズを住宅のイメージ画像に落とし込み、さらにエージェント同士の対話で工務店の選定まで完結できるデモンストレーションを実施した。鷲尾氏は「企業が顧客を追うのではなく、顧客が描いた未来に企業が集まる世界が実現できる」と語り、顧客中心の新たなマーケティングの可能性を提示した。
「効率化」の先の「幸福化」を、人×Geminiの力で実現
セッション「AIは人を思う時間を作れるか:『ケアのまなざし』プロジェクト」では、電通の小橋氏が介護現場の課題解決に挑んだプロジェクトを紹介した。
介護現場には、介護士の経験と感覚に頼る「いい介護」という“暗黙知”が存在するが、その属人性ゆえに周囲への共有が難しく、組織的な看護の質向上につながりにくい状況だったそう。全国小規模多機能型居宅介護事業者連絡会とともに行った「ケアのまなざし」プロジェクトでは、熟練介護士がスマートグラスを装着することで視界・音声・目線の動きを記録。その膨大なデータをGeminiが分析し、これまで言葉にできなかった「いい介護」のあり方を可視化した。
さらにGeminiは介護記録のテキスト化だけでなく、介護を客観的に評価し、「なぜその行動を?」と介護職員本人が自身の介護を振り返るきっかけとなるインタビュー項目を生成。これにより介護職員は自らの仕事の意味づけを客観的に言語化でき、自信やモチベーションアップ、組織としての認知症高齢者の理解やチームアプローチの振り返りなどの動きにもつながったという。
「スマートグラスによる記録とGeminiの分析から得られた“いい介護”につながる14の心得と30の所作を、ポスターやカードという形でビジュアル化し、介護事業所にご活用いただいています」(小橋氏)
最後に小橋氏はAIについて「“効率的”からもう一歩進むと、それは“幸福化”につながると思っている。Geminiの力と人の力を合わせて、まだ解かれていない社会課題への変革を起こすべき」と力強く語った。
ビジネス領域だけにとらわれず、社会における人とAIの未来の姿を描いていく
クロージングでは並河氏が再び登壇。各セッションを振り返り、データ統合、マーケティング戦略、顧客体験の軸がビジネス成果から社会課題の解決まで一気通貫でつながる可能性を強調。「業務や顧客体験、データ、ビジネス成果だけでなく、“社会にどんな価値を届けるか”“人とAIをどのように組み合わせて未来の姿を描いていくか”というところまで、エンドツーエンドで伴走させていただきたい」と、人とAIが共につくる未来を展望し、本イベントを締めくくった。