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公開日: 2026/11/06

「働く女性のベビーロスに、職場でどう寄り添うか」 Twinkle Wave講演会レポート

ベビーロスをテーマにした講演会「働く女性のベビーロスに、職場でどう寄り添うか」が10月8日(木)、電通本社ビルで開催された。主催は、電通社内のベビーロス啓発プロジェクト「Twinkle Wave」。電通DEI Month 2026のプログラムの一環として企画されたもので、リアルとオンラインのハイブリッド形式で実施された。

登壇したのは、Twinkle Wave代表である電通の杉本翔子氏、特別ゲストとして聖路加国際大学学長および天使の保護者ルカの会(※1)の堀内成子氏、そしてBaby Loss Family Support 'Angie' (※2)およびANGEL's HEART(※3)代表の菅美紀氏。それぞれの立場から、ベビーロスが職場にもたらす課題と、当事者への寄り添い方を語った。

※1 流産・死産・新生児期にお子さまを亡くされたご両親やご家族のグリーフケアを支援する活動(お話会、グリーフ・カウンセリング)

※2 流産・死産や新生児死などで赤ちゃんを亡くした家族の精神的・身体的な事柄について、社会的認知度を高めることを目的に活動している非営利任意団体。

※3 ベビーロス当事者の心のサポートを目的とした自助サポートグループ。


働く女性の5人に1人が流産を経験

講演会の冒頭では、Twinkle Wave代表の杉本氏がベビーロスの定義を明らかにした。

「ベビーロスとは、流産や死産、新生児死亡などによって赤ちゃんを亡くす喪失のことを言います」(杉本氏)

Twinkle Wave代表 電通の杉本翔子氏

杉本氏によると、「妊娠経験のある働く女性のうち5人に1人が流産を経験している」といわれているという。これは決してまれな出来事ではなく、多くの組織に当事者がいる可能性を示唆した。しかし、妊娠初期など、周囲に妊娠を伝える前に流産することも多く、職場ではその喪失が見えにくいという根深い課題が存在すると続けた。

流産による年間離職者数は約1万人、経済損失は466億円にのぼるというデータも紹介し、「ベビーロスは個人の問題ではなく、職場や社会全体で理解していく必要があると考えております」と杉本氏は語った。

また、ベビーロスの特徴として、「赤ちゃんとの別れだけでなく母親・父親になる自分のイメージや家族の未来像がかなわなくなるといった、複数の喪失が重なること」「妊娠を周囲に伝える前に起こることも多く、悲しみを分かち合える相手が見つかりにくいこと」「戸籍などの社会制度の中に記録されない場合があっても、当事者にとって赤ちゃんは確かに存在しており、人生の中に残り続けること」の3つを挙げた。

「私自身もベビーロスを経験しました。職場や周りの人の理解が進むことで、当事者が社会復帰しやすくなったり、元の生活に少しでも戻りやすくなったりするのではないかと思います」と杉本氏は強調した。

相手の沈黙を尊重し、ゆっくりと話を聞く

続いて、当事者の体験やその後の生活、職場での配慮の仕方について、聖路加国際大学学長の堀内氏が、ベビーロス後の心身の変化を踏まえて解説した。

聖路加国際大学学長および天使の保護者ルカの会の堀内成子氏。約20年前に「天使の保護者ルカの会」を立ち上げ、流産や死産、新生児死亡などで子どもを亡くしたご両親やご家族を対象にお話し会、個別グリーフ・カウンセリングを行っている

堀内氏はまず、流産・死産体験の多様性を述べた。

「妊婦検診で赤ちゃんの死が分かることもあれば、少し前から予測されることもある。妊娠についても、希望通り妊娠することもあれば、長い不妊治療の後の妊娠ということもある。それぞれに個別の妊娠の物語があって、流産や死産に至っています」(堀内氏)

ベビーロスの悲嘆反応は、「感情」「認知」「行動」「身体」の4つの側面で表れると言う。

「悲嘆反応は人にもよりますが、最低でも半年から1年は続き、自分ではどうしようもない感情の波が起こります。反応に少しずつ変化が起こるため継続してケアをしていくことが必要です」と堀内氏。

当事者に対する職場での言葉かけについては、ゆっくりと話を聞き、相手の沈黙を尊重して待つ姿勢が重要だと言い、「『話したくないことは話さなくて良い』ということを伝えてほしい」と呼びかけた。

講演会は、電通本社内 オープンスペースで開催された

また、亡くなった赤ちゃんへの哀悼の意を示しつつ、詮索するのではなく、「今、生活や仕事で何か困っていることはないか」と具体的な支援の可能性を尋ねること。その上で、指導ではなく選択肢を示し、本人が「どうしたいか」を考えられるように促すことが大切だと語った。

個別の希望に寄り添い、一緒に考えていく

続いて登壇したのは、Baby Loss Family Support 'Angie'共同代表 兼 ANGEL's HEART代表の菅氏。

菅氏はベビーロス当事者として支援活動を続けてきた立場から、職場の課題について語った

初めに、職場で当事者が直面する壁として、「話せない・相談しづらい」「休みにくい」「理解されにくい」の3つを挙げた菅氏。「流産においては約70%以上の人が数日から1週間以内に仕事に復帰しているというデータもある」と、多くの人が心身の十分な回復ができていない現実を明らかにした。

さらに、「流産、死産を『子を亡くした』と捉えてもらえないこともある」と言い、こういった周囲の理解不足が孤立感や働きづらさ、離職につながっていくと説明した。

次に菅氏は、「職場で実際に起きていること」として、ANGEL's HEARTの参加者の声を紹介。

「妊娠初期で誰にも報告していない中での流産宣告。職場に相談しにくく、私用で半休を取って手術をした。翌日には何事もなかったかのように働いたが、本当はしんどかった」「『流産したぐらいで仕事を休まれると困る』と言われた」「死産した赤ちゃんの火葬のための忌引申請を会社に却下された」「復職初日に更衣室で涙が止まらなくなり帰宅した」など、さまざまな声が寄せられたという。

一方、救われたこととして挙げられたのは、「急な休みだったのに、『命を優先して』と言ってくれて救われた」「流産がきっかけで離職しようか悩んでいたが、『一緒に頑張ろう。フォローするから安心して』という一言で、続けようと思った」といった言葉だった。

こうした職場で起こる問題の根本は、「見えているものと見えていないもののギャップ」にあると菅氏は続けた。

「周囲の人には『復帰している』『元気そう』『仕事ができている』と映っていても、本人は必死に平常心を保ちながら、悲しみの中にいるかもしれない。話したい/話したくない、休みたい/休みたくないという希望は、人によって違ってきます。長期的な視点で当事者とコミュニケーションを取り、個別の希望に寄り添う姿勢、いっしょに考えていく姿勢を持ち、安心していられる職場の環境を整えることが、まず職場でできることではないでしょうか」(菅氏)

当日は10人がリアルで、35人がオンラインで参加した

菅氏は最後に、毎年10月9~15日に行っている国際啓発週間「Baby Loss Awareness Week~亡くなった赤ちゃんとご家族に想いを寄せる1週間~」の国際シンボル「ピンク&ブルーリボン」を紹介。「ベビーロスは悲しいだけではない。赤ちゃんをいとおしいと思う気持ちがある、だからこそ悲しい」とした上で、「一人一人の理解が、安心して働ける職場につながっていきます」と締めくくった。
 

当事者の“見えない声”を想像する

3人の講演後には、当事者の「見えない困難」を体感的に知るためのカード型ツール「Silent Voice Card」を使ったワークショップが行われた。会場では参加者一人一人にカードが手渡され、オンライン参加者も画面を通じて体験を共有した。

「Silent Voice Card」には、当事者の一言が書かれ、その下にシールが貼られている

カードには、「流産をしたので、少し休暇をいただけませんか。初期の流産でした」の一言。自分が上司としてこれを受け取ったとき、どう感じるか——参加者が考えたあとシールを剥がすと、そこには当事者の“見えない声”が書かれていた。

シールを剥がすと当事者の“見えない声”が現れる。「急に休む理由を、どこまで説明したらいいんだろう」と書かれていた
流産を繰り返す不育症のエピソードでは、「前回の『また?』という空気がきつかった。同僚には知られないよう、すぐ復帰しようか。いっそ仕事を辞めてしまおうか」「死産では産休を取らなければならないが、手続きや制度を調べる気力もなく、何をすればいいか導いてほしい」といった声が書かれていた

カードの裏面には、推奨される声かけの例と共に、参加者自身が言葉を書き込む空欄が設けられている。ここで杉本氏が講演全体の総括として示した言葉が、「いっしょに考えていきましょう」だ。

実際に参加者が書き込んだカード。杉本氏は「今後職場でベビーロスを打ち明けられることがあったら、いっしょに考えていきましょうと伝えてみてください」と呼びかけた

最後に杉本氏はこう語り、講演を締めくくった。

「そっとしてほしい人、話を聞いてほしい人、休みたい人、働きたい人。職場で配慮してほしいことは人それぞれで、正解はありません。当事者の背景や葛藤はほんの一部しか見えませんし、私たちは伝えられる言葉も限られていますが、『寄り添いたいと思っている』──その意思表示があるだけで、きっと当事者の心の支えになります。今日の講演が、職場でできる小さな寄り添いにつながるきっかけとなれば幸いです」

【開催概要】
名称:
DEI Month 2026 共催プログラム「働く女性のベビーロスに、職場でどう寄り添うか」
主催:Twinkle Wave
開催日:10月8日(木)13:00〜14:00
会場:電通本社ビル

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