食品の機能性表示制度で広がるビジネスチャンス③
~新制度で広がる機能性表示食品市場の展望と課題~後編

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    西沢 邦浩
    日経BP ヒット総合研究所上席研究員 日経BP社 ビズライフ局プロデューサー、『日経ヘルス』元編集長
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    瀧澤 菜穂
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 2020プロジェクト・デザイン室 ビジネス開発・推進グループ

4月1日に食品の機能性表示制度が施行された。44年ぶりの大改定といわれている今回の新制度。その施行によって日本市場はどうなっていくのか。ビジネスチャンスはどのように広がっていくのか。電通ヘルスケアチームのメンバーが有識者に話を聞いた。


新しい食品の機能性表示制度に対し、食品・飲料・流通などの関連業界はどう向き合っていくべきか。また、消費者の健康意識がますます高まっている中で、コミュニケーション施策やビジネスの方向性はどうあるべきなのか。『日経ヘルス』元編集長で、機能性表示食品市場に精通している日経BP社の西沢邦浩氏に今後の展望と課題を聞いた。

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広報マンや営業マンなどの人材育成が急務

瀧澤:消費者にとって、機能性の表示内容を十分に理解するのはまだハードルが高いようにも思います。メーカーや売り手側の情報提供はどうあるべきでしょうか。

西沢:消費者庁は、今回の新制度では、申請する事業者に、消費者にできるだけ分かりやすく伝えることを求めています。それゆえに、メーカーや販売業者の広報セクションの役割は非常に重要になってきます。例えば、昨年、英国の医学誌(BMJ)に載った論文があります。英国の20の大学が2011年に発行したプレスリリースと、それが根拠にした論文、さらにはそのリリースを基に書かれた記事を精査した結果を報告したものです。それによると、プレスリリースに不適切な誇張表現があった場合、多くのメディアが強調した表現をそのまま使っていました。中でも、ヒト試験をしていないのに、ヒトへの効果があるかのような誇張表現をしていたプレスリリースは、そうでないリリースに比べ、誇張が記事に含まれる確率が56倍も高くなりました。
この論文で指摘されたことは決して、対岸の火事ではありません。企業側が、自社製品の機能性を基に、あるストーリーを情報としてメディアに提供して、結果的にミスリードを引き起こす報道がなされたり、消費者側に不測の事態が起きたりしたときには、企業は重大な責任を負うことになります。このような問題を引き起こさないように、厳正・厳密な情報管理とリスク管理をしつつも、一方で機能性表示食品の効果・効能を想起させるコミュニケーション施策を図っていかなければなりません。そういう意味で、非常に高度な広報マターになってくるはずです。エビデンスに関して一定の理解ができて、それを間違いなく、かつ分かりやすく伝えられる広報マンの養成が喫緊の課題になるでしょう。広報マンだけでなく、セールストークの中で機能性表示について説明する機会が予想される営業マンなども含め、全社的な社員教育の必要性も高まると思います。

できるだけ早く効果・効能が実感できる点を優先して訴求すべき

瀧澤:エビデンスに関する厳密性を担保するとともに、機能性表示食品としてのマーケティング施策も大きな課題になりそうです。メディアの立場から、何かアドバイスはありますか。

西沢:雑誌の場合、食材や健康法を記事にする場合、1カ月ぐらいで実感できる効果を訴えないと、読者の心をなかなかつかめません。消費者の心を動かすには、やはり“目先の利益”への配慮も必要です。生活習慣病リスクを低減し、骨を強くする効果があるにしても、その一方で美肌効果もあるなら、一番に訴えるのが美肌、その次に生活習慣病や骨対策という順番でしょう。機能性表示のエビデンスを得る中で、実感が早く得られるような効果効能に関するエビデンスも同時に取り、マーケティング上でそれをうまく使える準備をしておくことが重要ではないかと思います。
また、今まであまり注目されていなかったもので、新しい市場を開けそうな機能や素材は何なのかを見極める視点も必要でしょう。『日経ヘルス』では、食経験が豊富だが、現代人の関心が低くなり、消費も低下傾向にあった食材、例えば大麦とか昆布などをしばしば取り上げていますが、最新研究で思いもよらなかった機能性が発見され、息を吹き返すということもよくあります。未知の素材だけでなく、伝統素材の中にも“新しい市場”を開く種はあるのです。いずれにしても、機能性表示商品を売り場に並べられるようになったことは、あくまで事業戦略におけるスタートラインです。ここから先が企業にとって一番重要なところで、マーケティングが伴わないと、ただエビデンスにお金を投資して終わりました、ということになりかねません。

西沢氏

分かりやすい形でのコミュニケーションが成長の鍵を握る

瀧澤:機能性表示制度のスタートを機に、これから10年後、20年後、日本人の健康意識や、「食」にまつわるビジネスはどう変わっていくでしょうか。

西沢:あらためてこれまでを振り返ると、消費者の健康に対するリテラシーは確実に高まっていると思います。日経ヘルスが創刊されたのは1998年ですが、当時は、誰々さんはこれを飲んで関節痛が治った、といった事例を多く載せた健康雑誌が隆盛の時代でした。その中で、日経ヘルスは、機能性評価の問題を扱ったり、グラフなども載せたりして、カチッとした誌面づくりをしてきました。当初は硬くて、難しそうという声もあったのですが、その硬そうで難しそうな記事にも関心を持ってくれる女性読者が多くいました。

瀧澤氏

瀧澤:女性の高い支持がこれまでを支えてきたということですね。

西沢:はい。日経ヘルスは当初は男性読者を想定していたのですが、途中から完全に読者層を女性にシフトしました。2008年には、糖尿病だけでなく、肥満や肌の老化原因にもなる食後高血糖を防ぐのに少しでも簡単で取り組みやすい方法を探る中で、レディー・ファーストに想を得て、「ベジタブル・ファースト」という言葉をつくりました。つまり、同じ食事をするのでも、最初に血糖値が上がりやすい白米やパンに手を付けるのではなく、急激な血糖上昇を防いでくれる食物繊維を多く含む野菜から食べる考え方です。これなら今日からできますよね?
この方法を誌面などで紹介したところ、女性たちはすぐに反応してくれました。ただ「食後高血糖は危険です」と言うだけだったら反応もいまひとつだったと思いますが、リスクに関する裏付け情報と共に、簡単な食べ方で高血糖のリスクが下がることを分かりやすい表現で伝えると、必ず反応してくれる。そのような経験から言っても、機能性表示食品市場も、しっかりしたエビデンスを基に、食品の取り方や食事の仕方、あるいは相乗効果がある健康法との組み合わせなど分かりやいストーリーに落とし込んでいけば、今後も必ず安定的に成長していくと思います。例えば、1種類の食品の取り方だけではなく、こういう食事をこんなバランスで食べると体の健康維持や機能改善に有効であるといった研究もどんどん進んでいくでしょう。一つの事業者が自社製品を単体で推奨するのではなく、複数の事業者が食品の組み合わせや食事のあり方を提案する時代がくるかもしません。

「先制医療」とも密接に関わってくる食品の機能性

西沢:あと、これから10年、20年、関心が高まっていきそうなのは食物繊維類だと思います。腸内菌叢を扱った最近のテレビ番組に大きな反響があって、私のところにも、「腸で何か製品開発ができませんか」といった問い合わせが多く来ています。腸内菌叢の在り方が、生活習慣病からダイエット、心の健康状態や、妊婦さんの場合には生まれてくる子どもの将来の健康まで深く関わっていることが分かってきました。食物繊維はその腸内細菌の中でも乳酸菌やビフィズス菌といったいわゆる善玉菌の餌です。ということは、食物繊維を含むどんな炭水化物を取ったときに腸内菌叢がいい状態になるかという知見は、健康のベース戦略になるはずです。既に権威ある専門誌に、腸内細菌に関する研究論文が多く掲載されています。この腸内菌叢の研究は、将来かかる可能性の高い病気を見つけ発病を予防する「先制医療」にも大きな成果をもたらすでしょう。先制医療は、4月に開かれた第29回日本医学会総会でもキーワードとして挙げられた、予防医療よりさらに一歩進んだ考え方です。
この先制医療領域は、年間40兆円に上る医療費を削減し、世界最長寿なのに平均寿命と健康寿命の間に12.4年も差がある(日本人女性)現状を変えるために、発達させなければならない医療分野です。そして、これには食品が非常に深く関わってきます。機能性表示食品市場の進化は、これから10年、20年の食にまつわるビジネスをドラスチックに変えていくのではないかと思います。


食品の機能性表示制度とは

4月から食品の機能性表示制度が始まりました。安全性と機能性の根拠となる科学的データがあれば、消費者庁に届け出ることで“事業者の責任において”、食品の機能性に関して表示ができるようになるこの制度。機能性表示食品は、早いもので6月ごろから店頭に並ぶことになります。

<新制度のポイント>
1.トクホとは異なり、国が安全性と機能性の審査を行いません。科学的根拠の内容・説明、科学的根拠と表示内容に乖離(かいり)がないことなどは、事業者の責任となります。
2.消費者庁に販売日の60日前までに届け出なければなりません。届け出た資料は、一部を除き消費者庁のサイトで全て開示され、他の事業者や消費者が内容を確認できます。
3.生鮮食品を含め、全ての食品が対象※となります。従って、食品・飲料メーカーだけでなく、機能性素材メーカー、商社、農家などさまざまな業種の参入が予想されます。

※アルコールを含む飲料、脂質やナトリウムの過剰摂取につながる食品などは対象外になります。
 

<機能性表示のポイント>
健康の維持・増進にどのような効果があるかを表示できます。
例えば、「目の健康を維持する」「良質な睡眠をサポートする」など、体の特定の部位の表示も可能。「糖尿病の人に」「高血圧の人向けに」といった、疾病の治療・予防効果を暗示する表現や、「増毛」「美白」といった、健康の維持・増進の範囲を超えた表現はできません。


電通ヘルスケアチーム

生活者視点とクリエーティビティーを強みに、「健康先進国日本」の実現とそれに向けた企業サポート業務を行っています。重要テーマの一つ「食品の機能性表示制度」については、さらに専門チームを立ち上げ、関連企業のコンサルティングやコミュニケーション業務などのサービスを提供しています。


バックナンバー
 

【食品の機能性表示制度で広がるビジネスチャンス①】
~新制度成立の背景と今後の見通し~前編
~新制度成立の背景と今後の見通し~後編

【食品の機能性表示制度で広がるビジネスチャンス②】
~“20年先行く”米国ヘルスケア市場の変遷とビジネス事例~前編
~“20年先行く”米国ヘルスケア市場の変遷とビジネス事例~中編
~“20年先行く”米国ヘルスケア市場の変遷とビジネス事例~後編

【食品の機能性表示制度で広がるビジネスチャンス③】
~新制度で広がる機能性表示食品市場の展望と課題~前編
~新制度で広がる機能性表示食品市場の展望と課題~後編

プロフィール

  • Nizhizawa profile
    西沢 邦浩
    日経BP ヒット総合研究所上席研究員 日経BP社 ビズライフ局プロデューサー、『日経ヘルス』元編集長

    1961生まれ。大卒後、日経マグロウヒル社を経て小学館入社。同社退職後、91年日経BP社に入社。98年『日経ヘルス』創刊と同時に副編集長に着任。2005年から同誌編集長。08年に『日経ヘルス プルミエ』を創刊し、同誌編集長をつとめる。13年から現職。

  • Takizawa nao profile 2
    瀧澤 菜穂
    株式会社電通 ビジネス・クリエーション・センター 2020プロジェクト・デザイン室 ビジネス開発・推進グループ

    ヘルスケア・メディカル領域のプランナー。

    医療用医薬品に関する戦略プランニングおよび食品の機能性表示制度専門チームの一員として、食品・化粧品・素材メーカー等に対するソリューション開発や新規ビジネス開発を担当。

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