川村元気と山崎隆明のインプットとアウトプット。(後編)

Dentsu Design Talk №65

  • 川村 元気
  • 山崎 隆明

2015/11/07

川村元気と山崎隆明のインプットとアウトプット。(後編)

映画プロデューサーとして、『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『寄生獣』『バクマン。』など、大ヒット映画を次々と手掛けてきた川村元気氏。
小説も『世界から猫が消えたなら』『億男』共に本屋大賞にノミネートされベストセラー、絵本『ティニー ふうせんいぬのものがたり』はNHK でアニメ化。さらに対話集『仕事。』も上梓するなど、常に新しいチャレンジをしながら結果を生み出し続けている。

一方、リクルート ホットペッパー、大日本除虫菊 キンチョールなどユニークなCMを作り続けてきた山崎隆明氏は、そんな川村氏のものの捉え方、作品に昇華するプロセスに興味を持ってきたという。ジャンルは違えど、日頃から表現と格闘している2人が互いの「インプットとアウトプット」に迫ったトークの後編。
 

 

キンチョール「つまらん!」は小津映画から生まれた?

川村:僕は山崎さんの作るCMが大好きなんです。ホットペッパーの吹き替えの企画も、キンチョールのCMも。「つまらん!」はどうやって生まれたのですか?

山崎:金鳥さんはユーモアでブランディングしてきた会社です。
でも、空気を汚さないキンチョールは、「ギャグなしで誠実にやってほしい」というオリエンだったんです。絶対にバカなことをやるな、と。でも、どうしてもバカなことばかり考えてしまって企画が通らない。苦しまぎれに、笠智衆さんが小津安二郎さんのお墓の前に座っている写真を見せて、この世界観でやりたいと言ったのが始まりです。すごく好きで、ずっと切り抜きを取ってあった写真なんです。

川村:え!?小津なんですか、あれ。

山崎:正確には、小津さんのお墓の前にいる笠さんですけど(笑)。最初は大滝秀治さんが岸辺一徳さんと一緒に亡くなった奥さんのお墓参りをして、「母さんが生きていたころは空気を汚さない殺虫剤なんてなかった」と言って泣くという内容でした。撮影当日、アドリブで「つまらないことを言うなあ」とセリフを書いたら、それが「つまらん!」という大滝さんのセリフになりました。僕は、企画は世界観が大事だと思っているので、あまりストーリーは考えないんです。広告クリエーターはストーリー欠乏恐怖症の人が多くて、皆15秒にストーリーを詰めたがりますが、僕はそれがないですね。

川村:僕、金鳥とホットペッパーのVコンを見せてもらって、さっき気づいたんですけど…山崎さんってたぶん、映画をバカにしているんですよ(笑)。 小津映画を見る時も、たぶん「笠智衆がしゃべる間がおかしいな」という観点で見ているし、アメリカ映画も、日本の声優が吹き替えしていると何だか笑えるな、という観点で見ているんじゃないですか?

山崎:えっ!?…いやいや、バカにしていませんよ全然。

川村:いや、きっとそうだと思います(笑)。

山崎:そんなことありませんって。じゃなければ、川村さんをお呼びしないじゃないですか! 僕が驚いたのは、プロデューサーとして名前が通った川村さんが本を出したことですよ。しかも小説を。

川村:企画術みたいな新書の話はそれまでもたくさん頂いたんですけど、全部断りました。
小説の話も最初は断っていたけど、編集者と話しているうちに話ができあがってしまい…結局書きたくなってしまったんです。「違和感ボックス」に入っていたのは、ケータイを落とした時に公衆電話から職場に電話をかけようとしたら、誰の番号も覚えていなくてショックだった、という体験です。ケータイが普及して十数年で人間の電話番号の記憶がごっそり奪われたんだなと。

その日、落ち込みながら電車に乗ったら窓からすごくきれいな虹が見えていた。
でもふと電車の中に目を向けたら、全員スマホをいじっていて虹に気づいていないんです。ケータイがないから僕は虹を見ることができた。何かを得るためには何かを失わなくてはならないんだな、と気づきました。そんな話を編集者にしたら、電話だけでなくいろんなものが消えた方が面白いと。そこから生まれたのが『世界から猫が消えたなら』です。アイデアって、何を思いつくかよりも、何に気づくかの方が大事だと思うんです。

 

架空の「最悪な反省会」を想像しながら製作する

川村:映画を作る時は、いつも公開日のことを想像しながら作ります。映画というのは、公開初日の12時くらいには、その映画がヒットするかどうか大体分かるんです。だからコケた映画の初日の打ち上げは凄惨ですよ。スタッフが集まって、「いやあ、いい映画なんですけどね…」とプチ反省会みたいな話をしながら全員沈むという。

山崎:その反省会を想像するんですか。

川村:その反省会で言い訳しなくて済むように、「今なら直せる!」と製作を頑張るんですよね。僕の場合、そういう恐怖の力が最大のモチベーションになっています。小説の場合はまた違って、映画にできないことをやってやろうと思って書いています。

山崎:テレビではできないことを映画で、映画でできないことを小説で、と。常にそこですね。

川村:わざわざ混んでいるところに行って戦わない。あまのじゃくとは、また違うんです。弱者の戦い方というか。

山崎:『電車男』のときから、そういう戦略なんですよね。「違和感ボックス」の中身は、生活の中でため込んでいくんですか?

川村:そうです。僕らの仕事は超能力でこの世にないものを生み出すことではなくて、みんな違和感を持っているのに特に気に留めずに通過してしまっているものに気づくことだと思うんです。そこを抽出し、表現して、見た人たちに「実は私もそれが気になっていたんだ」と思ってもらうことだと思うんです。

山崎:皆が気づいているけれど、言語化されていないことに気づくと共感が得られる。それは広告にも通じることですね。今日は年下の人からたくさん学ばせてもらいました。ありがとうございました。

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企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀