Dentsu Design TalkNo.58
Decoded Fashion!~ファッションとテクノロジーの新しい関係~(後編)
2015/10/03
ファッション業界とIT業界のトップが集まり、ファッションの未来を共に考えるイベント「Decoded Fashion Tokyo Summit 2015」(デコーデッドファッション)が今年7月、東京で初開催された。
デジタルテクノロジーの進展はファッション業界にビジネスの変革、ビジネスプロセスの効率化から、新規顧客開拓、新しい素材開発や表現まであらゆるフェーズで抜本的な変化をもたらすと考えられている。今回は、コンデナスト・ジャパンの雑誌『WIRED』編集長の若林恵氏、三越伊勢丹ホールディングスで新たな事業開発に取り組む北川竜也氏、ファッション・ビューティー分野に特化したブランディングエージェンシー「SIMONE」を率いるムラカミカイエ氏を招き、電通の京井良彦氏が「ファッション×テクノロジー」が向かう未来について聞いた。その後編をお届けする。
デジタル化が入り込めない
ファッションの「聖域」がある?
京井:この話の流れの中ではすごく表面的にも思えてしまいますが、デコーデッドファッションでは、ハイテク素材や3Dプリンターを使った服づくりなど、テクノロジーが商品開発に及ぼす影響についても語られていましたね。日本はこの領域でも遅れているのでしょうか?
ムラカミ:遅れてはいませんが、問題はプレゼンテーションです。
日本は化学繊維などの開発については世界トップと言っていいと思います。けれど、その媒介となるテクノロジーを扱う人と、ファッション的な感覚が、余りにも乖離し過ぎている。人がファッションに求めるものは、服そのものだけではない。
つまり、皆が望むファッション的感覚というのはボタンひとつで柄が簡単に変えられるといったことではありません。着る人の心理にもっと目を向けた方がいいと思う。そこは、ファッションを深く知ることでいかようにも変わると思います。
そのために、テクノロジーとファッションの人たちが一緒に取り組むことが有効じゃないでしょうか。
北川:そういうコラボレーションの接点になるのが、我々百貨店かもしれませんね。気をつけなければいけないのは、テクノロジーありきで、机上の空論で自分たちさえ使わないものをつくってしまうこと。ファッションに人が何を求めているのかに立ち返らないと、本当に必要なテクノロジーを選ぶことはできませんよね。
若林:未来というのは、おそらく僕らが想定していないやり方でやってくる。そこに面白さがあるんじゃないでしょうか。デコーデッドファッションのプレゼンを聞いて感じたのは、ソーシャル周りのデジタル化の話ばかりで、肝心のデザインのデジタル化は誰もしないんだな、ということ。
今年5月にあるブランドのデジタル戦略をインタビューした時も、「デザインはデジタル化しないのか?」と聞いたんですが、「それはね、できないんだよ」とあっさり言われてしまった。その時思いました。ははーん、そこは聖域だから手をつけないんだな、と。今回も同じでしたね。デジタルで音楽は記述形式が変わり、出版も印刷を巡る記述形式が変わった。
じゃあファッションでそれは何なのか? 型紙か? それはデジタルでできるんじゃないか、という話です。20年の歴史を持つアパレルメーカーなら、20年分の型紙を全部データ化してみればいいんです。お客さんのフィジカルデータは取っているのに、それとマッチングさせるものがデジタルになっていなければ意味がない。実はそこじゃないんですか?
ムラカミ:その話はそれ以上踏み込むと…(笑)。いや、実際、そこが次のファッションの一周目なんですよ。
北川:そうですね。僕もあまり深入りしない範囲で言うと、例えばナイキがアスリートに対してカスタマイズでシューズを提供していますよね。いかに足を測定し、その形状にぴったり合う素材を開発していくか。それは完全に技術の話で、スポーツメーカーは、カスタマイズのプロダクト開発を通じて、そういったデータをひたすらため込んでいる。未来の服は半分はファッションですが、半分はウエアラブルになるはずです。その時データを持っているところがいかに優位かは明らかですよね。
ムラカミ:ウエアラブル方向に行きますよね。東レがウエアラブルテキスタイルをつくっていることからも、その線はもう見えています。一般的にはぶっ飛んで聞こえる話が、確実に現実になっていきます。
北川:未踏の地こそすさまじい可能性がある。そういうビジョンを仮説でも持っている企業と持っていない企業とでは、中長期計画が絶対に変わるはずです。どんなにぶっ飛んだ話であっても、関係ない話だと置いておかずに、全て1回咀嚼してみることができかどうか。
その体質を持たないと、中長期計画なんて立てられないんじゃないでしょうか。
店頭体験はテクノロジーで
どう更新されるのか
京井:会場ではデジタルの試着ミラーも紹介されていました。自動録画された自分の後ろ姿を見られたり、着替えずに服の色のバリエーションをミラー上でシミュレーションできるというものです。
北川:店頭ですぐにお客さまに体験してもらえて、未来を感じてもらえる。展示ブースには、他にもiPhoneで自分が欲しいアイテムのある場所まで店内で誘導してくれるシステムや、ロボットによる接客デモなどがありました。
デジタルによって、一番分かりやすく更新されるのは店頭体験でしょうね。
ムラカミ:店頭は重要かつ難しい分野ですよね。三越伊勢丹のすごさは、世界ナンバーワンを誇る坪効率でしょう。その売り上げを支えている接客のスキルをテクノロジーで代替できるのか。挑戦しがいもあり、非常に難しいところです。
北川:おっしゃる通りです。大事なのは、やってみて失敗することだと思っています。アナログの価値をデジタルに代替させるのは現時点では不可能です。ただ、補完はできると思う。
けれど、何をどう補完できるのかがまだ分からない。机上で考えても絶対に答えは出ないから、経験を積み重ねて答えを出した人が勝つと思います。目の前にある売り上げを上げている店舗も維持しながら新しいことにも取り組む、二律背反で戦っていかなければいけません。
京井:今日皆さんのお話を聞いて、広告会社はこれまで全然ファッションに投資してこなかったなと思いました。ファッションはコミュニケーションのツールなのだから、その本質的なインサイトに我々が無関心ではいけないですね。
若林:広告代理店の未来は「広告」が消えて「代理店」だけが残るかもしれない、と言っていた方がいました。今まで培われた何かは生きていくけど、広告というアウトプットにはならないかもしれないと。出版もファッションも同じです。本質的に自分たちが何の価値を体現しているのか? そういう発想は今後あらゆるところで必要になるでしょう。
北川:「百貨店」と聞くと古い業種、業態であるため、斜陽産業のようなイメージがついて回ってしまいますが、例えば「リアルコンテンツ提供企業です」と言うと急に別の見え方になったりする。 言葉の置き方ってすごく大事だと感じています。
電通はまさに、そういうところにかけてきた会社でしょう。最近「小売り」や「流通」に加えて、これからの価値を表現するいい言葉はないかと真剣に考えています。絶賛募集していますので、よろしくお願いします。
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企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀