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ヨーロッパ最大級のテックイベント「VivaTech 2025」レポートNo.2

2025年のパリでAIの多様性を考える(中編)

2025/07/10

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こんにちは、Dentsu Lab Tokyoのなかのかなです。ラボのR&D活動の一環として、2025年6月11日〜14日にフランス・パリで開催されたヨーロッパ最大級のテックイベント「Viva Technology 2025」を視察してきました。中編は、VivaTech本会場のスタートアップ展示を中心にお届けします。

※前編はこちら

 

暮らしの中に溶けこむAI

会場の目玉のひとつが「AI AVENUE」と呼ばれるエリア。一般入場口から奥まで会場を斜めに横切るように配置された小径です。主催者が選んだAIに関連する注目企業6社が並びました。

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最も人が集まっていたのが二足歩行ロボットのUnitree G1を展示していたUnitree Robotics(宇樹科技)社です。2016年の設立で、最近では人を交えての集団演舞の動画でも話題になっていました。価格は1万6000ドルからで、エンターテインメント、製造、高齢者介護などに応用できるとしています。日本では2000年に発表された本田技研工業(以下Honda)のASIMOが二足歩行ロボットとしては先駆的な役割を果たしていましたが数年前に開発が終了し、日本科学未来館での業務も2022年に引退しています。

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そのHonda発のスタートアップAshiraseの姿も「AI AVENUE」にありました。自動運転技術などを応用した視覚障害者向けのナビゲーションシステムで、スマートフォンで事前にセットした目的地まで歩きやすいルートを提案、靴の内側にセットしたデバイスが振動することで曲がる方向やタイミングをナビしてくれます。アプリは看板やメニューなどを読み上げるAI画像認識にも対応しているそうです。

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にっこり笑顔を振りまいていたのは、フランスのスタートアップBodyoが提供する家庭向け健康管理ロボット。小型のテレビのような見た目をしていますが、画面の奥には血圧計がついており、腕を差し込むと血圧を測ることができます。側面ポケットに収納された体温計や心電図計などと併せたバイタルデータから、未病に役立つアドバイスや運動、健康的な食事のレシピ動画などを視聴したり、医療機関と連携してオンライン診療を受けることができるとのこと。

その他にも商品タグの画像から偽物を見分けるアプリ、需要と共有の最適化によってCO2排出量や交通量を削減するモジュール式EV車、気分障害を早期に発見する診断AIなどが展示されており、買い物、移動、健康などさまざまな分野で、これからの生活の中にAIが活用されていく様子がわかる展示となっていました。

社会を支えるAIの力

今年からスタートした「Tech for Change」アワードは、テクノロジーが生活、仕事、民主主義に与える影響が拡大する現代社会で、テクノロジーで「何ができるか」だけでなく「何をするべきか」を問いかけることが必要だとの考えから創設されました。出展しているスタートアップを対象とするもので、環境や社会にポジティブな影響を与えているか、イノベーションがあるか、スケーラビリティがあるかの3つの軸で評価されます。500以上の応募の中から、325社以上が「Tech for Change」として公式に認定され、会場内で認証マークを掲出していました。

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グランプリに選ばれたGenesisは、世界の国内総生産(GNP)の50%以上が依存する「土壌」の健全性に特化したソリューションを提供しているパリ発のスタートアップです。サンプリングなどを通じた現場データと衛星画像を統合し、土壌の健康状態を評価するAIプラットフォームを開発。企業が持続可能なサプライチェーンを構築し、再生型農業プログラムを管理するのを支援します。現在すでに、繊維、化粧品、食品、ソーラーパネルなど多様な企業と提携し、世界20カ国以上で活動しているそうです。また、LVMHのテックパートナーズ15社にも選ばれており、モエ・ヘネシーのブドウ栽培を支援しています。

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増え続ける森林火災の早期発見にAIを用いた例もありました。ニューカレドニアのFire Trackingによるこのソリューションは、通信用の鉄塔や給水等など、高所に設置した40倍光学ズームカメラからの映像を解析、最長20km離れた場所から、3分以内に火災を検知することができ、誤作動率も10%未満に抑えられるそうです。火災発生時には延焼シミュレーションと給水所や道路情報を提供し、消火活動を支援します。消防署や地方自治体向けに販売されており、農業や住居など人の生活だけではなく、貴重な生態系の保護に貢献できるとしています。

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大手通信会社Orangeは、OpenAIおよびMetaと提携し、アフリカの地域言語に対応するAIモデルを開発しています。セネガルやギニア、モーリタニアなど西アフリカで使用されているウォロフ語とプラール語からスタートし、将来的にはサービスを展開している18カ国全てをカバーするとしています。主にカスタマーサポートなどでの利用を想定していますが、教育や公衆衛生などの非営利目的の場合にはオープンソースとして無償提供されるとのこと。西欧を中心とした書き言葉をベースに開発されてきたLLM(大規模言語モデル)の偏りやデジタルディバイドの解消策として良い取り組みだと感じました。

工場のオートメーションや自動運転といった分野だけでなく、農業や生態系保全、さらにはコミュニケーションなどのテクノロジーとは縁遠いと思われている領域でも、AIが社会を支え始めていることを実感しました。

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