ネコラボ通信No.2
「猫と花とAIと」
2025/08/08
近年、猫と人間の関係は大きくアップデートされ、新たな時代が到来しています。
本連載「ネコラボ通信」は、電通のクリエイティブR&D組織「Dentsu Lab Tokyo」内に発足した猫専門イノベーションチーム「Neko Lab Tokyo」(以下、ネコラボ)のメンバーが持ち回りで登場。テクノロジーとアイデアを掛け合わせた、猫にまつわる最新プロジェクトやユニークな研究開発をお届けしていきます。
2回目は、猫と生活する上での「とある困りごと」を、テクノロジーで解決する方法はないか、リサーチャーのなかのかなと、クリエイティブテクノロジストの若園祐作が試行錯誤している事例をご紹介します。
<目次>
▼猫を飼いはじめてチューリップを飾れなくなった
▼「この花はどう?」と気軽に聞けるAIがいたら
▼猫も花も好きな人のためのアプリを試作してみた
▼提案型AIが猫との暮らしをアップデートする未来
猫を飼いはじめてチューリップを飾れなくなった
なかの:8月8日の世界猫の日にスタートしたネコラボですが、その前日の8月7日ってなんの日か知ってますか?
若園:8と7……花の日ですか?
なかの:正解です!花の日と猫の日、記念日としてはおとなり同士なんですが、わたしは猫が家に来てからお花や植物を飾れなくなってしまったんです。
若園:もともと花や植物を飾らないのでよくわからないのですが、猫がイタズラするからですか?
なかの:それもありますが、中毒になる植物が結構あるらしいんです。猫を飼うのは初めてだったので、家に来ることが決まってから、飼育や生態についての入門書を買ってきて何冊か読みました。
necomimi(※1)を企画していたときにも猫について調べてはいたのですが、一緒に暮らすぞ!ということになってみると、資料の読み方も変わりますね。以前は気にしていなかった「命に関わるNG項目」に、「ユリ科の植物」が書かれているのが目に飛び込んできて、すごくショックを受けました。
※1 necomimi=頭に装着することで、脳波を測定し、「猫耳」の動きで装着者の集中・リラックス状態を表現するデバイス。Bio Search(旧ニューロスカイ)から2世代目が発売中です。https://dentsulab.tokyo/works/necomimi
若園:ああ、確かに植物のNGは多いですよね。ユリ科は花瓶の水も危険と書いてあるウェブサイトも見たことがあります。
なかの:そうなんです。来てみると、おてんばで好奇心の強いタイプの猫だったので、倒しでもしたらと心配になってお花を買うことをいったんやめました。ユリ科ということはヒヤシンスもチューリップも……。花を飾るのは毎年の春先の楽しみだったので、家の中で過ごすことが多かったパンデミック中は特に寂しい気持ちになりました。その穴を猫が埋めてくれたとも言えますけども。若園さんの家の猫さんはやんちゃなタイプですか?
若園:はい、とても。今一緒に住んでいる猫は2歳なのですが、成長するごとにどんどんやんちゃになっています。人間の気を引くために物を落としたり、歯がかゆいからなのか、さまざまなものをかんでみたり。
わが家では花を飾る習慣はなかったのですが、猫を飼いはじめてからよりいっそう、花や植物はうちとは関係ないものだと思ってしまっていました。猫のいる生活と花を飾る生活を両立するためには、気持ちの面でも情報面でもハードルが高かったんですよね。
「この花はどう?」と気軽に聞けるAIがいたら
なかの:生花店で猫がいる家に飾っても大丈夫かどうか聞こうと思っても、その店員さんが猫を飼っていないとわからない場合もありますしね。家に植物がないことに、がまんができなくなって探した結果、ECサイトで「犬猫がいても安心」カテゴリを設けている翠堂明(みどりどうめい)さんというお店を見つけて、勇気を出して実店舗の方に観葉植物を買いに行きました。
店主の吉川靖さんにご相談したところ「すべての猫に絶対ではないですが、コレとコレは大丈夫だと言われていますね」とおすすめしていただいた中から鉢植えを購入して、家が少し明るくなりました。最近ではサブスクリプションサービスで猫に安全なブーケを届けてくれるECサイトも出てきています。
若園:それはとてもラッキーでしたね!そのような情報やおすすめを実際のお店で得られて、納得して購入できる体験は本当に貴重だと思います。多くの方は、信頼できる情報にたどり着けなかったり、信頼できる情報なのか判断できなかったりしそうです。
例えば、アメリカ動物虐待防止協会(ASPCA)のウェブサイトでは猫にとって有毒・無毒な植物のリストが掲載されていることを先日なかのさんに教わりましたが、それをパッと活用できる方は限られそうですよね(※2)。
※2 アメリカ動物虐待防止協会(ASPCA)による猫にとって有毒・無毒な植物のリスト https://www.aspca.org/pet-care/animal-poison-control/cats-plant-list
なかの:そうですね。ASPCAのリストは信頼できる参照先としてさまざまなメディアでも取り上げられていますが、英語なのと、リストの数が膨大なのとで、その場で調べるのは難しいなと感じました。お店に詳しい方がいなくても、猫と花に詳しいAIチャットボットがあって「これどう?」って聞けたらいいのに!と思ったので、AIに詳しい若園さんに相談したわけです。
猫も花も好きな人のためのアプリを試作してみた
若園:相談を受けた当初は、世の中の生成AIチャットボットをそのまま使えばいいのでは?とも思ったのですが、「信頼できる情報」という観点で、やはりなんらかの試作をしてみようということになりました。
生成AIは誤った助言をすることもあるので、信頼できるソースを絞り込んで間違える確率をできるだけ下げたり、それでも誤りをゼロにはできないので、利用者の方に「最後は自分で判断する」ことをうながしたり、仕組みや体験でAIの弱みを補完するようにしました。それと、誤りをゼロにできない生成AIをそもそも使わないタイプのアプリも試作しましたね。
なかの:植物名の札の文字をスキャンしてASPCAのリストに照らし合わせて判定するタイプと、AIチャットボットに写真を送って植物名を推定してASPCAのリストに照らし合わせるタイプの2種類ですね(※3)。これは試さないと!ということで、再び翠堂明さんに伺って、両タイプの試作アプリを使ってみたんです。
若園:おお、実地検証ですね!どうでしたか?
なかの:宝探しみたいで楽しかったです。店主の吉川さんも「こういうアプリがあったら便利そう」と言ってくださって、AIチャットボットに写真を送る際の弱点である「見た目が似ている植物の誤認」については「プロが見れば見分けられるので、植物名検索と組み合わせて使うと良いのでは」とアドバイスもいただきました。プロの目からの情報もAIにフィードバックして見分け方などを学習させていけるといいですね。
※3 本プロダクトは試作品であり、ASPCAとの提携を行って開発しているものではありません。

若園:たとえ植物のプロが猫のプロでなかったとしても、AIを活用することで大きな苦労なくそこを補完できるなら、お店にとっても猫飼いにとってもハッピーですよね。猫を飼うご家庭が増加傾向であることを考えると、この層を顧客として取りこぼさないことは今後大切になるのではないでしょうか。全国の悩める猫&花好きのために、いっしょに開発してくれるお花屋さんお待ちしています!
なかの:そうですね、ECサイトに「犬猫がいても安心」カテゴリを設けたのは、問い合わせが多かったからだそうです。特に猫を飼っている方からの相談が多かったそうで。
若園:やっぱり猫は植物にじゃれたり、高いところに飛び乗ったりしますもんね。
なかの:犬を連れてお買い物に来る方もいらっしゃるそうなんですが、犬は植物に関心を示さないことが多いみたいです。細かい葉っぱが特徴のエバーフレッシュなんかは空調で揺れるから特にじゃれやすいらしくて。でも、猫も学習するのか大きくなると飽きることもあるとか(笑)。
提案型AIが猫との暮らしをアップデートする未来
なかの:NGな植物についても解決策がないかなと考えていて、春になったらチューリップを飾りたい!と思ったときに、似たような花を提案してくれる仕組みがあったらいいなと思うんです。季節感も考慮して、これがいいかもっていう提案があるとうれしいですね。
若園:そうですね。お店と連携して、売れ筋の花をもとにしたレコメンドもできるといいですよね。データさえあれば実際にできそうです。お店の方の研修やECサイトでも使えそうですね。
なかの:猫用の食品でも同じようなおすすめが欲しいです。例えば、猫に有害なレーズンの代わりに大丈夫とされているブルーベリーを提案してくれる仕組みがあったら安心です。将来的には、店に入ると自動的に飼っている猫の存在を感知して、危険な食品を避けるようにおすすめしてくれる仕組みが実現するかもしれませんね。
若園:それは面白いですね。例えば服についた猫の毛はカメラ画像でも検出できそうです。「家に猫がいるんだから、ミントの精油はやめといたら?」と提案してくるおせっかいな買い物カートとか。
なかの:インテリアショップだったら、猫の遊んでいる動画を解析して、倒されにくいスタンドライトを提案するなんてこともできそうですね。
若園:いろんな業界で使えそうですね。今回はまだまだ「試してみた」の段階ですが、テクノロジーを上手に使って、猫と暮らしやすい未来を作っていけるといいですね。
イラストレーション:根岸桃子(Neko Lab Tokyo)
お問い合わせ:neko-lab-tokyo@dentsu.co.jp
取材協力
