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ネコラボ通信No.3

どうすればねこのかわいさを拡張できるのか?-ねことの暮らしの小さな実験-

2025/09/29

招き猫

近年、猫と人間の関係は大きくアップデートされ、新たな時代が到来しています。

本連載「ネコラボ通信」は、電通のクリエイティブR&D組織「Dentsu Lab Tokyo」内に発足した猫専門イノベーションチーム「Neko Lab Tokyo」(以下、ネコラボ)のメンバーが持ち回りで登場。テクノロジーとアイデアを掛け合わせた、猫にまつわる最新プロジェクトやユニークな研究開発をお届けしていきます。

今回は「来(9)る福(29)」の語呂合わせにちなみ、9月29日の「招き猫の日」にあわせて公開する第3回です。

クリエイティブ・テクノロジストの中山桃歌が、愛猫 ASHBABY との日々から得たささやかな気づきをもとに行った実験から生まれた、いくつかの小さなプロトタイプをご紹介します。

<目次>

「招き猫」の手招きポーズは何が由来?

プロトタイプ1:ねこのさわりごこちの良さをどうやったら伝えられる?

プロトタイプ2:ねこ専用のフィルターでもっとねこのかわいさを広げてみたい

プロトタイプ3:ねこの動きのかわいさを他のものにも乗り移らせられる?

 

「招き猫」の手招きポーズは何が由来?

招き猫が生まれた理由には諸説ありますが、その手を挙げたポーズは、ねこの「毛づくろい」に由来するという説があります。もしそうだとすれば、本来は自分を整える日常的なしぐさが、人間の目には「手招き=福を呼ぶ」仕草として読み替えられた、ということになります。

つまり、ねこの自然なしぐさが人間社会で「縁起」や「可愛さ」の象徴に拡張されたわけです。これはまさに 「ねこのかわいさの拡張」 と言えるでしょう。

そこで今回のテーマは──「どうすればねこのかわいさをさらに拡張できるのか」

このテーマに沿って、3つのプロトタイプをつくってみました。

プロトタイプ1:ねこのさわりごこちの良さをどうやったら伝えられる?

1つめは、「ねこのさわりごこち」の再現です。

ねこって本当にさわりごこちがいいですよね。ふわふわとも違う、サラサラとも違う。でもその感覚は、とても主観的なものです。どうやったら伝わるだろう?と考えました。

そこで着目したのが、電子工作でよく使われる「ピエゾ素子」。衝撃や振動を検知できるこの部品に、直接素材を当てて振動を拾えば、さわりごこちの音を収集できるのではないかと考えました。

ピエゾ素子を、さわりごこちの音を拾える聴診器のような形にデザインし、実際にこのデバイスでねこを撫でてみると、環境音を避けながら毛並みがこすれる「ふぁさふぁさ」という音だけをきれいに録音することができました。


たまに、耳で弾く音も可愛いのですが、とにかくふぁさふぁさしていることが伝わると嬉しいです。

最近ではiPhoneのアクセシビリティ機能に「ミュージックの触覚」というものもあり、音楽に触覚を組み合わせる試みも始まっています。将来的には、ASHBABYのさわりごこちを、スマートフォンの触覚フィードバックを通じてそのまま皆さんに届けられるかもしれません。

Dentsu Lab Tokyoで行っているR&Dプロジェクト「FANTOUCHIE」では、入力された言葉に応じて触感を生成し、振動スピーカーを通じてフィードバックするプロトタイプを開発しています。

この取得したASHBABYのさわりごこちの音を活用すれば、将来的には「ねこのさわりごこち」だけでなく、たとえば絶滅したサーベルタイガーのさわりごこちを想像して再現する、といった試みもできるかもしれません。

プロトタイプ2:ねこ専用のフィルターでもっとねこのかわいさを広げてみたい

TikTokのエフェクトハウスでは、ねこの顔を認識して、ねこ専用のフィルターを作ることができます。プロトタイピングでねこのかわいさをもっと広げることができないか、さまざまなフィルターを作ってみました。

自身で制作したGIFアニメーションを、ねこの顔認識から固有の位置に出現するようにすることで、


お目めを漫画にしてみたり


頭に花を生やしてみたり


耳を伸ばしてみたり


練習でつくった3Dモデルのうんちをのせてみたり……

フィルターがつくだけで、たくさん記録に残したり、みんなに共有したくなるものだなと感じたりしました。

プロトタイプ3:ねこの動きのかわいさを他のものにも乗り移らせられる?


ねこって、毎日見てても飽きないくらい動きがしなやか。そして結構日々同じ動きをしている気もするのに、いつもかわいい。もっとこの動きを日々の暮らしの中の身近なものに入れられないかと思い、実験してみました。例えば、我が家のねこ ASHBABYは、私が帰宅すると必ず迎えに来てくれます。

ではその「迎えに来る」という行動を、家にある別のものに乗り移らせるとしたら何がいいだろう?

考えた結果、ねことサイズ感の近いティッシュボックスに決定。中にラジコンを仕込み、遠隔操作で動かしてみました。

 
 

動きはまだ人間が操作しているためねこの動きには遠く及ばないのですが、それでもなんとなく……迎えにくるティッシュボックスはかわいい。

さらに調べると、ハンガリーの3Dアニメーションスタジオ DIGIC Pictures が、ねこの動きをモーションキャプチャしてアニメーション制作を行った事例が紹介されています(DIGIC Cat Reel)。こうした技術を取り入れれば、もっとリアルな「ねこらしい動き」をティッシュボックスに乗り移らせることもできそうです。

他にも、一緒に遊んでくれたりするのだろうかということで、動くティッシュボックスとねこを遭遇させてもみました。

 
こちらはねこの動き?をローディングできたとは言えないですが、それでもねこの力なのか、いつものティッシュよりも愛着は持って接することができそうです。

もともとこの実験は「ねこのかわいさの拡張」がテーマでしたが、やってみるうちに別の可能性も見えてきました。

室内飼いのねこはどうしても刺激が少なく、運動不足になりがちです。もう一匹迎え入れるという選択肢もありますが、ねこは単独行動を好む動物ですし、相性の問題もあって簡単ではありません。もし日用品がねこの遊び相手になる未来があると、ねこの幸福度もアップするかもしれませんね。

たとえばCat Royaleというアートプロジェクトがあります。これは、ロボットアームがねこに遊びを提供し、その幸福度をモニタリングしながら最適なインタラクションを模索したというものです。結果として、少なくとも過度なストレスは与えない可能性があると示唆されています。

今回紹介した実験は、どれも暮らしの中で生まれたちいさな遊びの延長にすぎません。

けれどもねことテクノロジーが結びつくことで、今までになかったねこの能力のすごさを改めて感じるとともに、新しい体験を生み出すことができるのではないかなと感じています。これからもASHBABYと一緒にちいさな実験を続けていきたいと思います。

イラストレーション:根岸桃子(Neko Lab Tokyo)
お問い合わせ:neko-lab-tokyo@dentsu.co.jp


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