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公開日: 2023/07/04

環境問題対策への別の一手「アップサイクル」を、テクノロジー×伝統で拡張。Dentsu Lab Tokyo「UP-CYCLING POSSIBILITY」プロジェクト(後編)

クリエーティブの研究・企画・開発が一体となったR&D組織「Dentsu Lab Tokyo」は、日本の伝統技法である金継ぎと、テクノロジーを掛け合わせてアップサイクル・プロダクトを生み出すプロジェクト「UP-CYCLING POSSIBILITY」を展開中。

その成果を公開した企画展を終えたばかりのプロジェクトリーダー・なかのかな氏と、クリエーティブに携わったメンバーにインタビュー。後編では、コミュニケーションプランナーの廣畑功志氏と、クリエーティブ・テクノロジストの中山桃歌氏に話を聞きました。

Dentsu Lab Tokyo 廣畑 功志氏(左)、中山 桃歌氏(中央)、なかのかな氏(右)

テクノロジーそれ自体は、人の心を動かす手段に過ぎない

Q.まずは、廣畑さんと中山さんが普段、どのような仕事をしているかを教えていただけますでしょうか。プロジェクト参画のきっかけもお話しください。

廣畑:僕は普段、大きく2つの軸で仕事をしています。1つはデジタルメディアやテクノロジーを使って、ユーザーの体験をデザインすること。もう1つは漫画やアニメといったコンテンツ領域のファンコミュニケーションの仕事。今回のプロジェクトは前者に近いですね。

中山:私は、インタラクティブミュージアムのコンセプトメーキングやデジタルプランニング、UI・UXデザイン、空間デザインなどの仕事をしています。普段からテクノロジーを活用した業務に向き合ってはいますが、新しい体験や心が思わず動いてしまうようなモノを作ろう、となったときに、テクノロジーの力を借りるというスタンスです。テクノロジーをやりたいというよりは、人の心を動かすためにテクノロジーを使うということですね。

なかの:全体の世界観も含めて、私と一緒に考えてくれる副操縦士のような役割を担う人にいてほしくて、廣畑さんには参画してもらいました。中山さんにジョインしてもらったのは、単純に私が彼女の作品のファンだから(笑)。「継ぐ」というお題で、彼女が何を作るのかが見たかったんです。

Q.廣畑さんは、コピーライティングも含めて、トータルでプロジェクトや企画展のコンセプトを設計していったんですよね?

廣畑:はい。プロジェクト名を「UP-CYCLING POSSIBILITY」に決めるところから着手しました。金継ぎを軸としたアップサイクルがテーマだったので、金継ぎにフォーカスしたネーミングも候補に挙がりましたが、金継ぎは今回僕らが提唱する方法の1つでしかないと思い、もう少し幅を持たせることにしました。

プロダクトが形になっていくにつれ、それに合わせてWebサイトや映像などを制作していく必要があったので、それにまつわるコピーライティングについても進めていきました。企画展は、横浜みなとみらいという場所柄、親子連れのお客さまも多いだろうと聞いていたので、かわいらしさや愛らしさがあって、子どもが興味を抱く言葉ってどんな感じだろう……?とイメージしながら、展示パネルなどのコピーを1つひとつ書いていって。

回遊しながら、自然と何かしらの発見が生まれるような展示空間になるように、動線上の言葉やパネルの置き方にも心を配りました。

いらないモノを蘇らせる、アイデアを醸成

Q.中山さんは、壊れた傘をアップサイクルした「光る傘」を作って、イベントでも展示しています。これはどこから発想が生まれたのでしょうか?

中山:なかのさんから、器以外にも金継ぎの考え方を広げられないかと相談があって、2人でいろんなアイデアを出し合いました。壊れたぬいぐるみや着なくなった服など、いくつか挙がった中で、年間何億本と廃棄されていて、壊れたら捨ててもいいモノと思われている傘に着目したんです。

光る傘「TSU→GI UMBRELLA“GLOW”」

なかの:ちょうど、そんな話をしているときに、うちの息子が「傘が壊れたー!」と言って帰ってきて。これはさっそく使えるな、と。

中山:傘の骨を継ぐキットは既に販売されていますが、今回は折れてしまった骨の部分をLEDライトの棒に継ぎ替えることに。こうすることで、ただ直すのではなく、夜道を明るく照らしてくれるという付加価値が生まれました。

Q.企画展の際には、体験型の「アップサイクル発明ゲーム」を会場に用意したそうですね。これはどのような経緯で企画されたのでしょうか?

なかの:これは、来場する方々が壊れたモノを「捨てる」のではなく、「どうしようか」と考えられるマインドセットを持つきっかけになるといいなと思って準備したものです。

「こわれたモノカード」と、「パワーアップカード」のカードの2種類があり、それらをランダムで引いて、組み合わせたらどんなものを発明できるか、アイデアを考えるコンテンツです。「パワーアップカード」は、「動く」「匂いが出る」「風が出る」といった技術を表現していて、これらの技術を使って、こわれたモノに新しい価値を与えていきます。

「アップサイクル発明ゲーム」で使用するカード

廣畑:プロダクトを展示するだけでも場としては成立しますが、アップサイクルという言葉の認知度が低い中で、なんとなく高尚な展示会として認識されてしまうのではと懸念していました。そこで、来場者が想像を膨らませてアイデアを発散する「遊び・余白」のようなものを持たせたいと思ったのが、ゲームを作ったきっかけです。

実際に来場者の皆さまに、このカードを使ってさまざまなアイデアを出してもらいました。すると、例えば、「折れた鉛筆×風が出る技術」で「消しカスを飛ばせる便利な鉛筆」、「ぬいぐるみ×振動する技術」で「背負えばどこでも肩たたきができるぬいぐるみ」など、ユニークなアイデアがたくさん寄せられました。「壊れたモノ×テクノロジー」の組み合わせは、無限にあるとあらためて思いました。

このような方法論は、「アップサイクル」を超えて、これまでにないモノを生み出すアイデアを醸成するために、企業の研修などでも使っていただけるといいのではないかとも思います。

実際に、来場者から集まった発明のアイデア

アップサイクルへの共感と可能性を育てたい

Q.企画展の手応えや、プロジェクトに参画してどんな思いを抱いているのか、また今後の展望などについてお話しください。

廣畑:このプロジェクトをきっかけにアップサイクルという言葉を知ったり、共感して実践してもらったりという流れになるとうれしいですね。また、「アップサイクル発明ゲーム」で多くのアイデアが集まったので、それらを持ち寄って、発明展のようなものができたら面白そうです。

中山:作ったものを実際に展示して多くの人に見ていただく機会はあまりないので、企画展ができたことそのものが大きなことでした。また、これまでのイベントや展示会は、そのときのためだけに展示物を作って、そのまま捨てられてしまうことも多かったと思いますが、備品も含めてなるべくゴミを出さないとか、買わないで何かを再利用するとか、そういう意識で今後も展開していけたらいいなと思います。

なかの:アップサイクルという概念に可能性を感じる団体や人と、コラボレーションができたらうれしいですね。「手元にあるこれをどうにか使えないだろうか?」など、ご相談いただけたら、またみんなでワイワイものづくりをしたいですね。

 


壊れたモノや一見価値がないように見えるモノも、別の何かと組み合わせれば、新しい価値を持ったモノに生まれ変わる。アップサイクルには、ビジネスのアイデアを生む過程と似た点があるのではないでしょうか。

※掲載されている情報は公開時のものです

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著者

なかの かな

なかの かな

株式会社電通

国内外の技術をリサーチして培った知見を生かし、未来の生活におけるテクノロジーの活用やコミュニケーションの変容を、具体的な体験として形にすることが得意領域。クーポンつきAR蝶をスマホでつかまえる「iButterfly」(2010)、脳波を用いた猫耳型コミュニケーションツール「necomimi」(2011)、モノのキモチを見える化するIoT「mononome」(2014)、マインドフルネス瞑想トレーニングデバイス「Onigilin」(2016)、壊れたモノに機能を組み込む未来の金継ぎ「UP-CYCLING POSSIBILITY」プロジェクト(2023)など。趣味は生きものや食べものの本を読むこと、街を歩きまわること。

友田 菜月

友田 菜月

株式会社 電通 / Dentsu Lab Tokyo

武蔵野美術大学修了。主な仕事 にcresc.(FujiFilm) / 第9回星新一賞(日経新聞) / ヱビスビール(年間広告) /まるごと青森(青森県庁) 。趣味はガラス工芸とサボテンの接木。コクヨデザインアワード2020グランプリ。朝日広告賞優秀賞。D&AD、Adfest、SpikesAsia デザイン部門各賞受賞。

三國 孝

三國 孝

Dentsu Lab Tokyo

機械工学専攻博士後期課程退学。LEXUS Design Award 2022ファイナリスト。企画から設計、3Dモデリングやコーディングまで、人の感情と自然への好奇心を大切にしたものづくりを行う。VTuberが大好き。

廣畑 功志

廣畑 功志

株式会社 電通

1992年神奈川県生まれ、幼少期をアメリカで過ごす。大学と大学院で機械工学・感性デザインを学び、プロダクトや技術と人とのコミュニケーションに関心を持つ。ものづくりの傍ら、ファブスペースやシェアハウスなどのものづくりコミュニティ作りに携わる。学生時代を含め、SXSWへ3年連続で出展。趣味は街なかの矢印集め、愛読書は『SLAM DUNK』。

中山 桃歌

中山 桃歌

株式会社 電通

学生時代から人が生き物と感じる動きは何かを研究。ロボティクスを制作し発表していた。 SXSW/CESでの出展経験を生かし、インタラクティブミュージアムのコンセプトメーキングからデジタルプランニング、UIUXデザイン、空間デザインなどを行う。 日常に潜むわくわくする体験をすくいあげ、精緻化し、新しい体験へと昇華させていきたい。主な展示:SXSW2017、CES2018、六本木アートナイト2019、MIDTOWN DESIGN AWARD2019 、くどやま芸術祭2021 etc.

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