クリエーティブの研究・企画・開発が一体となったR&D組織「Dentsu Lab Tokyo」は、日本の伝統技法である金継ぎと、テクノロジーを掛け合わせてアップサイクル・プロダクトを生み出すプロジェクト「UP-CYCLING POSSIBILITY」を展開中。
その成果を公開した企画展を終えたばかりのプロジェクトリーダー・なかのかな氏と、クリエーティブに携わったメンバーにインタビュー。後編では、コミュニケーションプランナーの廣畑功志氏と、クリエーティブ・テクノロジストの中山桃歌氏に話を聞きました。
Dentsu Lab Tokyo 廣畑 功志氏(左)、中山 桃歌氏(中央)、なかのかな氏(右)テクノロジーそれ自体は、人の心を動かす手段に過ぎない
Q.まずは、廣畑さんと中山さんが普段、どのような仕事をしているかを教えていただけますでしょうか。プロジェクト参画のきっかけもお話しください。
廣畑:僕は普段、大きく2つの軸で仕事をしています。1つはデジタルメディアやテクノロジーを使って、ユーザーの体験をデザインすること。もう1つは漫画やアニメといったコンテンツ領域のファンコミュニケーションの仕事。今回のプロジェクトは前者に近いですね。
中山:私は、インタラクティブミュージアムのコンセプトメーキングやデジタルプランニング、UI・UXデザイン、空間デザインなどの仕事をしています。普段からテクノロジーを活用した業務に向き合ってはいますが、新しい体験や心が思わず動いてしまうようなモノを作ろう、となったときに、テクノロジーの力を借りるというスタンスです。テクノロジーをやりたいというよりは、人の心を動かすためにテクノロジーを使うということですね。
なかの:全体の世界観も含めて、私と一緒に考えてくれる副操縦士のような役割を担う人にいてほしくて、廣畑さんには参画してもらいました。中山さんにジョインしてもらったのは、単純に私が彼女の作品のファンだから(笑)。「継ぐ」というお題で、彼女が何を作るのかが見たかったんです。
Q.廣畑さんは、コピーライティングも含めて、トータルでプロジェクトや企画展のコンセプトを設計していったんですよね?
廣畑:はい。プロジェクト名を「UP-CYCLING POSSIBILITY」に決めるところから着手しました。金継ぎを軸としたアップサイクルがテーマだったので、金継ぎにフォーカスしたネーミングも候補に挙がりましたが、金継ぎは今回僕らが提唱する方法の1つでしかないと思い、もう少し幅を持たせることにしました。
プロダクトが形になっていくにつれ、それに合わせてWebサイトや映像などを制作していく必要があったので、それにまつわるコピーライティングについても進めていきました。企画展は、横浜みなとみらいという場所柄、親子連れのお客さまも多いだろうと聞いていたので、かわいらしさや愛らしさがあって、子どもが興味を抱く言葉ってどんな感じだろう……?とイメージしながら、展示パネルなどのコピーを1つひとつ書いていって。
回遊しながら、自然と何かしらの発見が生まれるような展示空間になるように、動線上の言葉やパネルの置き方にも心を配りました。

いらないモノを蘇らせる、アイデアを醸成
Q.中山さんは、壊れた傘をアップサイクルした「光る傘」を作って、イベントでも展示しています。これはどこから発想が生まれたのでしょうか?
中山:なかのさんから、器以外にも金継ぎの考え方を広げられないかと相談があって、2人でいろんなアイデアを出し合いました。壊れたぬいぐるみや着なくなった服など、いくつか挙がった中で、年間何億本と廃棄されていて、壊れたら捨ててもいいモノと思われている傘に着目したんです。
光る傘「TSU→GI UMBRELLA“GLOW”」なかの:ちょうど、そんな話をしているときに、うちの息子が「傘が壊れたー!」と言って帰ってきて。これはさっそく使えるな、と。
中山:傘の骨を継ぐキットは既に販売されていますが、今回は折れてしまった骨の部分をLEDライトの棒に継ぎ替えることに。こうすることで、ただ直すのではなく、夜道を明るく照らしてくれるという付加価値が生まれました。

Q.企画展の際には、体験型の「アップサイクル発明ゲーム」を会場に用意したそうですね。これはどのような経緯で企画されたのでしょうか?
なかの:これは、来場する方々が壊れたモノを「捨てる」のではなく、「どうしようか」と考えられるマインドセットを持つきっかけになるといいなと思って準備したものです。
「こわれたモノカード」と、「パワーアップカード」のカードの2種類があり、それらをランダムで引いて、組み合わせたらどんなものを発明できるか、アイデアを考えるコンテンツです。「パワーアップカード」は、「動く」「匂いが出る」「風が出る」といった技術を表現していて、これらの技術を使って、こわれたモノに新しい価値を与えていきます。
「アップサイクル発明ゲーム」で使用するカード廣畑:プロダクトを展示するだけでも場としては成立しますが、アップサイクルという言葉の認知度が低い中で、なんとなく高尚な展示会として認識されてしまうのではと懸念していました。そこで、来場者が想像を膨らませてアイデアを発散する「遊び・余白」のようなものを持たせたいと思ったのが、ゲームを作ったきっかけです。
実際に来場者の皆さまに、このカードを使ってさまざまなアイデアを出してもらいました。すると、例えば、「折れた鉛筆×風が出る技術」で「消しカスを飛ばせる便利な鉛筆」、「ぬいぐるみ×振動する技術」で「背負えばどこでも肩たたきができるぬいぐるみ」など、ユニークなアイデアがたくさん寄せられました。「壊れたモノ×テクノロジー」の組み合わせは、無限にあるとあらためて思いました。
このような方法論は、「アップサイクル」を超えて、これまでにないモノを生み出すアイデアを醸成するために、企業の研修などでも使っていただけるといいのではないかとも思います。
実際に、来場者から集まった発明のアイデアアップサイクルへの共感と可能性を育てたい
Q.企画展の手応えや、プロジェクトに参画してどんな思いを抱いているのか、また今後の展望などについてお話しください。
廣畑:このプロジェクトをきっかけにアップサイクルという言葉を知ったり、共感して実践してもらったりという流れになるとうれしいですね。また、「アップサイクル発明ゲーム」で多くのアイデアが集まったので、それらを持ち寄って、発明展のようなものができたら面白そうです。
中山:作ったものを実際に展示して多くの人に見ていただく機会はあまりないので、企画展ができたことそのものが大きなことでした。また、これまでのイベントや展示会は、そのときのためだけに展示物を作って、そのまま捨てられてしまうことも多かったと思いますが、備品も含めてなるべくゴミを出さないとか、買わないで何かを再利用するとか、そういう意識で今後も展開していけたらいいなと思います。
なかの:アップサイクルという概念に可能性を感じる団体や人と、コラボレーションができたらうれしいですね。「手元にあるこれをどうにか使えないだろうか?」など、ご相談いただけたら、またみんなでワイワイものづくりをしたいですね。
![]()
壊れたモノや一見価値がないように見えるモノも、別の何かと組み合わせれば、新しい価値を持ったモノに生まれ変わる。アップサイクルには、ビジネスのアイデアを生む過程と似た点があるのではないでしょうか。