ネコラボ通信No.1
ネコラボはじめました。
─猫×テクノロジー×アイデアの研究所
2025/08/08
近年、猫と人間の関係は大きくアップデートされ、新たな時代が到来しています。
本連載「ネコラボ通信」は、電通のクリエイティブR&D組織「Dentsu Lab Tokyo」内に発足した猫専門イノベーションチーム「Neko Lab Tokyo」(以下、ネコラボ)のメンバーが持ち回りで登場。テクノロジーとアイデアを掛け合わせた、猫にまつわる最新プロジェクトやユニークな研究開発をお届けしていきます。
<目次>
▼ようこそ猫沼へ
▼「ニャー・ノーマル」がやってきた?
▼好奇心は、猫を救う
▼猫は、1匹ずつちがう。猫好きもね
▼次回、「猫とお花の関係」を考える
ようこそ猫沼へ
「猫と仲良くなるコツは、やさしく見つめて、ゆっくりまばたきをすること」
ある本にそう書いてあったのを思い出して、繁殖猫としてのつとめを終えてやってきたばかりの猫に、半信半疑で試してみます。警戒モード全開だったその子が、ほんの少し目を細めてまばたきを返してくれた瞬間、私はたぶん、完全にやられてしまったのです。

以降いっしょに暮らしているのが、妖怪「毛羽毛現(けうけげん)」にそっくりな、ペルシャ猫のマジョさんです。申し遅れました。マジョさんの同居人で、ネコラボのリーダーを務めているアートディレクター/クリエイティブ・ディレクターの宮下良介と申します。
広告の世界で長らく「人の気持ち」について考えてきた私ですが、猫に関しては素人同然です。おやつの気配を察知する驚異的な能力を持ちながら、ソファから鈍くさく落っこちる。毎朝6時に飼い主の目覚めを強要する一方で、まるで哲学者のように窓辺で物思いにふける。めずらしく甘えてきたと思えば、すぐに飽きてぷいっとどこかへ行ってしまう。なんとも愉快だけど、つくづく、よくわからない存在。
……この「猫という謎」にちゃんと向き合ってみたい。そんな思いで、なかば勢いだけで所属する「Dentsu Lab Tokyo」の猫好きに声をかけ立ち上げたのがネコラボです。ラボとは言ってもアカデミックな機関ではなく、「テクノロジー」や「アイデア」を武器に、ちょっとユニークな視点で猫を見つめ、研究やものづくりを行うチームです。
「ニャー・ノーマル」がやってきた?
およそ1万年前、人間と猫のつき合いが始まります。日本人と猫との出会いは弥生時代にさかのぼり、平安時代に貴族のペットとして飼われた猫は、江戸時代には庶民の暮らしに溶け込みました。そして平成の終わりごろ、日本では3度目と言われる「猫ブーム」が訪れます。
2014年、猫の飼育数が犬をはじめて上回り(※)、2016年には「猫」の検索数が犬の約3倍に達します。メディアには猫コンテンツがあふれ、その経済効果から「ネコノミクス」なんて言葉も生まれました。
※一般社団法人ペットフード協会調べ
さらに2020年代に入って、猫を取り巻く環境にこれまでになかった変化が次々と現れはじめます。
- 改正動物愛護法により虐待厳罰化・繁殖制限・マイクロチップ義務化が進む
- 「保護猫を迎える」という選択肢が広く認知されるように
- スマート首輪やAIトイレなど、猫のウエルネステックが進化
- 「フレッシュ&ヒューマングレード」など、高品質なキャットフードの登場
- トリミングやインテリア雑貨など「猫だけ」に特化したサービスや商品の拡大
- 「猫は小さな犬ではない」国際認識の広がりとともに、猫専門医療が普及
- 高齢猫の腎疾患研究が進み、日本発の新薬が臨床試験フェーズに移行…などなど
2010年代後半が、SNSを中心に猫の「かわいさ」や「コンテンツ力」に注目が集まった時代だったとすれば、2020年代は、より科学的な視点で猫の個性や健康に寄り添うケアが重視されるようになった時代と言えるでしょう。いわば「猫版・新しい日常」の到来です。
こうした変化の先には、まだ見ぬ可能性があふれているはず。私たちネコラボにとっても、猫と人間の「当たり前」を見つめ直す絶好のタイミングなのです。
好奇心は、猫を救う
ネコラボはイギリスのことわざ「Curiosity Killed the Cat. 好奇心は、猫を殺す。」から着想した「Curiosity Saves the Cat. 好奇心は、猫を救う。」というスローガンを掲げています。本来は「好奇心もほどほどに」という戒めの言葉ですが、私たちはむしろ、好奇心こそが猫との距離を縮める原動力だと考えています。
日常でふと浮かぶ「これって猫的にどうなんだろう?」という疑問や発見を、私たちなりのアイデアやテクノロジーで形にしてみたいのです。まだ実績はないけれど、始まったばかりのラボだからこそ自由に発想できるはず……。そこで今回は(あくまで私の超個人的な)妄想たっぷりの“R&D”をご紹介することにします。

《妄想R&Dその1》世界の「猫犬境界線」を探ってみる
日本では猫が犬の飼育数を上回りましたが、世界はどうでしょう。フランスでは長年猫優勢、中国は2021年に猫が犬を逆転、アメリカは2010年代に再び犬がリードしています。そこで、各国の猫犬比をランキング化して猫派・犬派で色分けした世界地図を作ってみる。さらにはGDPや幸せ指数を重ね合わせてみたら――もしかして、猫が多い国に、意外な共通点が見えてくるかもしれません。
《妄想R&Dその2》令和の「猫の目時計」
古くから中国に伝わる、猫の目で時刻を推定する「猫時計」という概念を、現代のテクノロジーで発展させる試みです。球体の透明デバイスに、磁力で自在に形を変える「磁性流体」を封じ込め、猫の瞳孔に見立てます。この瞳孔は、GPSで取得したその土地の太陽の動きと連動。さらに環境音センサーを組み合わせることで、光や音に反応しながら刻々と表情を変える、まるで生き物のようなアート時計の誕生です。
《妄想R&Dその3》史上初?!「まぐろ臭」ディフューザー
じつは猫は「におい」に超敏感。精油などの「いい香り」が命とりになることも。そこで逆転の発想です。人間には魚臭いけど、猫はゴロゴロ喉をならして喜ぶ香りをディフューザーにしてサンプリング。受け取った人間が思わず顔をしかめたらしめたもの。「人間に心地よい香りは猫にとって危険かもしれない。だから気をつけよう」という「猫を救う」メッセージになってくれたら最高です。
猫は、1匹ずつちがう。猫好きもね
最後に、そんな妄想に本気で取り組んでいるネコラボメンバーたちから、一言ずつコメントをもらいました。一見バラバラに見えるチームですが、その好奇心の多様性こそが最大のクリエイティビティです。
- 「“かわいい”だけじゃない、命と向き合うということ。看病からペットロスまでの経験を生かしたい」秋澤瑞穂(コピーライター/CMプランナー)
- 「2週に1度は動物園・水族館に行かないと落ち着かないんです。※上野・葛西・多摩の年間パス持ってます」上杉剛弘(獣医師/コンサルタント)
- 「猫のおかげで兄弟なかよくできた。奮闘中の育児に、猫が与える影響に関心があります」大瀧篤(クリエイティブ・ディレクター/クリエイティブ・テクノロジスト)
- 「保護猫を迎えてから、“ゆかいな生物多様性”をモットーに活動しています」澤井有香(コンサルタント)
- 「猫大好きだけど猫の毛アレルギー。そのもどかしい愛を原動力に」関陽子(コピーライター/クリエイティブ・ディレクター)
- 「うちの猫が時折見せる、人間っぽい行動の謎に迫りたい!」高瀬未央(アートディレクター)
- 「necomimiという製品企画に関わったことがあり、猫に恩返しがしたいです」なかのかな(クリエイティブ・テクノロジスト/リサーチャー)
- 「猫が遊ぶだけで、健康状態を測定できるおもちゃを作りたい」中村恵(コミュニケ―ション・プランナー)
- 「感動的ですらある猫の身体感覚を、自分自身に宿らせたい!」中山桃歌(クリエイティブ・テクノロジスト)
- 「最大6匹のヒマラヤンに埋もれて育った、根っからの猫派です」根岸桃子(アートディレクター)
- 「猫の幸せのためには、まず猫の気持ちを知るところから」若園祐作(クリエイティブ・テクノロジスト)
- 「ふみふみで発電する照明をつくりたい」宮下良介
次回、「猫とお花の関係」を考える
ネコラボ通信は、本日8月8日「世界猫の日」からスタート。第2回は、妄想ではなく実際に行われた実験です。「猫NGのお花判定アプリ開発」をテーマに、なかのさんと若園さんの奮闘をご紹介します。どうぞ引き続きおつき合いください!