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ヨーロッパ最大級のテックイベント「VivaTech 2025」レポートNo.1

2025年のパリでAIの多様性を考える(前編)

2025/07/08

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こんにちは、Dentsu Lab Tokyoのなかのかなです。ラボのR&D活動の一環として、2025年6月11〜14日にフランス・パリで開催されたヨーロッパ最大級のテックイベント「Viva Technology 2025」を視察してきました。前編では、イベントの雰囲気や基調講演の様子を中心にお届けします。

Viva Technologyってどんなイベント?

Viva Technology(通称:VivaTech)は、毎年初夏にパリのPorte de Versailles(パリ エクスポ ポルト ド ベルサイユ)で開催される、ヨーロッパ最大級のテクノロジーイベントです。2016年に始まった比較的新しいイベントですが、今年の来場者数は18万人以上。年々その規模が拡大しています。

このイベントは、フランス政府が2013年に立ち上げたスタートアップ支援政策「La French Tech」の流れをくんでおり、スタートアップと大企業、投資家がつながる場として位置づけられています。主催はピュブリシスグループとLVMHグループ傘下のメディア企業「レゼコー・ル・パリジャングループ」です。

AIは流行ではなく、ビジネスを変える力

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イベントの幕開けには、ピュブリシスグループのモーリス・レヴィ名誉会長と、レゼコー/ル・パリジャンのピエール・ルエットCEOが登壇。VivaTechが企業にとって年間のリード(商談機会)の25〜30%を生み出す重要な場であることを強調していました。

今年はAI関連の出展が全体で約4割増加しており、「AIはもはや流行ではなく、ビジネスを根本から変える現実的な力だ」とのコメントも印象的でした。さらに、フランスのデジタル・AI担当大臣クララ・シャパーズ氏も登壇し、「世界がラスベガスではなくVivaTechに集まるようになった」と語り、フランスがテクノロジー企業の成長に最適な場所であることをアピールしていました。

「今年の国」カナダの取り組み

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今年の特別招待国はカナダ。人工知能・デジタル革新省のエヴァン・ソロモン大臣が登壇し、「AIはAIのためではなく、良いことのためにある」と語っていたのが印象的でした。カナダ政府はAI分野に24億ドル、さらにAI安全研究所に20億ドルを投資予定とのこと。安全で主権を守るデジタル環境の構築が、今後の大きなテーマになりそうです。

カナダはAI国家戦略を世界に先駆けて打ち出した国であり、ノーベル賞受賞者ジェフリー・ヒントン教授をはじめ、AI研究の成果でも世界トップクラス。今回のVivaTechには600人以上のテックリーダーと100社以上のAI関連企業を派遣していました。

NVIDIAのジェンスン・ファンCEOが語る「AIの未来」

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基調講演では、NVIDIAのジェンセン・ファンCEOが登壇。「AIは新しい産業革命の基盤技術」と位置づけ、社会や産業に大きな変化をもたらすと語りました。
今後はデータセンターが単なるデータの保存場所ではなく、知能の最小単位「トークン」を量産する「AIファクトリー」として機能するとのことで、昨年発表された次世代AIプラットフォーム「GB 200 NVL72」は、すでに週1000台のペースで生産が進んでいるそうです。

また、量子コンピューティング分野では「CUDA-Q」が「GB 200 NVL72」にも対応。GPU(描画プロセッサ)とQPU(量子プロセッサ)のハイブリッド型コンピューティングが、今後の研究開発の基盤になるとのことでした。

さらにファン氏は、NVIDIAが物理法則に基づいた「シミュレーション」カンパニーとして進化してきたことにも触れました。シミュレーション技術を活用することで、あらゆるものをデジタルツイン化し、仮想空間上で設計・最適化・運用を行うことが可能になり、ロボットの学習環境、倉庫内の物流シミュレーション、自動運転車向けの合成データ生成などの分野での稼働が始まっています。

欧州が目指す「自立したAIエコシステム」

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ファンCEOは、フランス発のLLM(大規模言語モデル)スタートアップ「Mistral AI」のCEOアーサー・メンシュ氏と特別セッションにも登壇。「インテリジェンスは、自国のデータから生まれる文化であり、土地と同じように自国に属するもので、アウトソースできない」と語り、メンシュ氏も「防衛、エネルギー、政府サービスなど、重要なインフラに関するシステムの鍵を、外国の企業が握ることは絶対に許されない」と、ヨーロッパ独自のAIを構築することの重要性を強調していました。

NVIDIAとMistral AIは、フランスにデータセンターを建設中。欧州のAI開発の拠点になる予定です。マクロン大統領も登壇し、「これは私たちの主権、戦略的自立のための戦いであり、クラウド、データセンター、計算能力、そして知性を維持するためのサービスとインフラが必要なのです」と、フランス政府がこの取り組みを全面的に支援する姿勢を示していました。

不安定さを増す世界情勢や、米国を中心とした大手テック企業によるデータとAI技術の集中が進む中、AIが企業や国家の中枢に組み込まれていくことへの各国の危機感と、ビジネス・チャンスにもなり得るという意気込みを感じる初日となりました。

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