民放5局社長に聞く BS16年目の展望
第2回〜BS朝日・菊地誠一社長~
2015/12/01
2000年12月1日に始まったBSデジタル放送が16年目を迎えました。メディアの特性を生かした番組で着実にファンを拡大し、成長を続けてきたBS民放5局。15周年の節目を機に、各社トップにコンテンツの魅力や強み、今後の取り組みについてインタビュー、さらにBSの将来を表す漢字一文字と、込めた思いを語っていただきました。
スポーツを通して地域を元気に、日本を元気にしていく
──長野朝日放送から昨年BS朝日に参画され、この6月から社長を務められています。BS朝日の魅力と課題をどう感じていますか?
まず、BSは当社に限らず、全国津々浦々へ届けられることが強みです。良質なコンテンツをきっちりと全国へ送り出すことで、広告主の皆さまによりリーズナブルに番組提供いただけるチャンスがあります。
特にBS朝日としては、テレビ朝日ホールディングス傘下の一員として、グループの中で何ができるかを常に自問しています。最も大きい要素は、テレビ朝日との連携です。例えばスポーツなら、BSでは全試合生中継、地上波では決勝戦を取り上げるといった対応をしています。
一方で「地上波ではできないことにチャレンジする」という気概も欠かせません。強力な連携を築くこととは相反する部分もありますが、社員一同、このテーマに向き合うことが大事です。
長野朝日放送では、小規模ながら自社制作番組による地域の活性化を意識してきました。どの企画も、テレビ朝日や系列局、外部プロダクションと連携した共同制作でした。一方、BS朝日には自社制作機能はありません。そのため、プロデューサーは高い志を持ち、目指すところをしっかりと示す必要があると思っています。
──スポーツといえば、BS朝日では15年間にわたり、高校野球を放送しています。
夏の甲子園の期間中、128時間を完全生中継しています。特に今年は、注目の選手がたくさん登場し、例年以上の反響がありました。また「U18野球ワールドカップ」では、最後は米国に惜敗してしまいましたが、こちらも大きな盛り上がりを見せてくれました。他にも錦織圭選手が活躍中の「ATPワールドツアー500」、ゴルフやフィギュアスケートなどにも力を入れています。いずれもテレビ朝日と連携し、ゴルフならアマチュアや下位の選手に密着するなど、BSならではの放送を心掛けています。
今年はあらためて、スポーツコンテンツの力を実感しました。高校野球で仙台育英高校が躍進すれば、「つらい思いをされた東北に日本一になってもらいたい」という気持ちで皆さん見ていただいている。錦織選手が世界を相手に勝ち進めば、日本の存在感が増すようにも感じられます。スポーツ中継を通して、私たちは選手に自分を重ねて勇気づけられます。生中継の魅力にもこだわって、来年以降もスポーツをキラーコンテンツにしていくつもりです。
原点に立ち返り、ものづくりへの思いを見つめなおす
── 一方で、音楽や文化系のコンテンツも充実しています。16年目に向けた方針や、注力するカテゴリーなどお聞かせください。
4月から機械式接触率調査が始まりましたが、やはり昭和歌謡や紀行番組が圧倒的に支持されています。視聴者ニーズを踏まえると、どうしても各社で似通った切り口の番組が増えてきますが、それにおもねるばかりでいいのかと。
今はテレビファーストではなく“スマホファースト”ともいわれるようになり、視聴者の環境は大きく変化しています。データマーケティングが発展し、われわれが得られる情報も増えました。これらを捉え、活用するのは当然としても、コンテンツがわれわれと視聴者の接点であることは変わりません。そこでどんな思いを伝えたいのか、今あらためて原点に立ち返る必要があると思っています。
もう一度、テレビ草創期時代の送り手としての夢と倫理観を持って、視聴者に向き合っていく。そんな意識で、例えばこの春には「BS朝日 ザ・ドキュメンタリー」や、開局15周年記念特別企画「黒柳徹子のコドモノクニ~夢を描いた芸術家たち」などの新番組をスタートさせました。
冒頭でお話しした連携という点では、系列局と連携して制作する「新・にほん風景遺産〜故郷を見つめなおそう」に引き続き力を入れていきます。長野朝日放送で携わっていた地域活性化のテーマに、今度は全国放送の利点を生かして臨んでいます。優れた作品の表彰なども通して、系列局との協力関係を強めていきたいと考えています。
──BSの未来を、漢字一文字で表していただけますか。
「翔」の字を挙げました。BS業界全体、そしてBS朝日は、高い志を持ってさらに飛翔していきます。視聴者に支持される、「翔んでるね」といわれるようなコンテンツを発信して、広告主の皆さまからも今までにない内容だと評価されるようにしていきたいと思います。われわれメディア、視聴者、それから広告主企業も含めて皆が羽ばたいていけるような未来を目指して、「翔」を選びました。
直近では、2020年の東京オリンピック・パラリンピックが一つの節目です。前回の1964年開催時、私は中学3年生で、学校のカラーテレビで見たいくつもの競技をよく覚えています。今度の大会は、次の世代の人たちにとって日本の将来をポジティブに捉えるきっかけになってほしい。そのためにも、2020年に向けてBS全体でメディアとしてのステータスを上げていきます。さらにその中で、BS朝日は真摯な姿勢でものづくりを追求して、抜きん出ていきたいと思います。
開局15周年「BS見本市15祭」
BS民放5局は開局15周年を記念し、12月1日から「BS見本市15祭」を実施する(2016年1月31日まで)。期間中は、紀行、ドキュメンタリー、映画など、5局厳選のアーカイブ作品60番組以上を計130時間にわたって放送。さらに年末年始(12月28日~1月3日)は、5局共同特別番組「バック・トゥ・ザ・21世紀」を各局日替わり2時間で届ける。俳優の吉田鋼太郎氏が「吉田未来研究所 所長」に扮し、21世紀の五つのテーマ「怪物」「仕事」「東京」「女性」「時間」の研究成果を発表していく。