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テレビ2021~今、テレビの現場からNo.2

2021/02/10

今求められる、「テレビ報道のD2C」とは?

テレビのコンテンツ制作で、面白い取り組みをしている人がいる。

地上波だから、ネットだから、という固定観念にとらわれない。

今の時代に合ったコンテンツの在り方を真摯に考える。

そこから、新しい時代のテレビの在り方が見えてくる。

今回登場いただくのは、ABEMA NEWSチャンネルの報道リアリティーショー「ABEMA Prime」のチーフプロデューサー・郭 晃彰(かく てるあき)氏と、テレビ朝日「報道ステーション」のデジタル戦略デスク・渡邉 星(わたなべ ひかる)氏。

郭氏が考える「ネット放送の強みや魅力」、渡邉氏が考える「テレビ報道のD2C」(Direct to Consumer)、そして「報道ステーション」の新たなる取り組みとは?

気鋭の若手テレビ制作者2人が、「地上波とネットの融合を軸にしたテレビの可能性」をテーマに意見を交わしました。

テレビ 

ネット放送には「時間」という概念がない

─まずは、お二人の関係を教えてください。

郭:テレビ朝日の先輩・後輩という関係です。僕が2010年に、渡邉君が2012年に入社しました。一緒に朝の情報番組「やじうまテレビ!」(現・グッド!モーニング)を担当し、その後、二人そろってABEMAに出向することに。約3年間、共に「ABEMA NEWSチャンネル」のボードメンバーとして活動しました。僕は現在もABEMAで報道番組を担当しており、渡邉君は2020年に地上波放送に戻って「報道ステーション」を担当しています。

─お二人とも、地上波とネット放送の報道番組で経験を積まれているのですね。両メディアを経験されて、違いはどんなところにあると思いますか?

渡邉:最も大きな違いは放送尺ですね。当然のことですが、地上波は1日のタイムラインが決まっています。一方、ネット放送は、そもそも時間で縛るという概念がありません。ABEMAは放送時間を延長したり、災害時や緊急時はCMをカットすることもあります。視聴者の反応を見ながらリアルタイムで編成を行っています。時には1日中、いろいろな記者会見の生放送を行うこともあります。尺の縛りがない、あまりにも自由なスタイルに、最初は衝撃を受けました。

郭:少人数で制作しているので、数人で話し合い、ババッとコンテンツを決めて、一気に取材、編集、配信をしてしまうことが多いんです。地上波を担当しているときはコンテンツの制作だけをしていればよかったのですが、ネット放送の場合は、編成から宣伝、デジタル施策、制作まで、迅速に、何もかもやらなければいけません。そこが大変なところで、同時にとても勉強になり、面白く、やりがいのあるところだと感じています。

大きな流れの中で取り残された人たちを忘れないようにする

─ご自身が手掛けたABEMAのコンテンツで、特に印象に残っているものはありますか?ネット放送ならではの事例があったら教えてください。

渡邉:僕は「今日の鋸南町(きょなんまち)」という企画が印象に残っています。2019年の房総半島台風が起きたとき、自分が担当していた番組では1カ月間、被災地のひとつである千葉県・鋸南町に取材班を出し続けました。

鋸南町に注目したきっかけは、Twitterで、川が猛烈にはんらんしている画像とともに「助けてください」という投稿を見つけたことです。画像に映る山の稜線などから「恐らく鋸南町のここらへんだろう」と推定し、どのメディアより早く現地に入りました。投稿者に取材を進めていくと、この町が甚大な被害を受けていること、支援物資が足りないこと、支援を求める声が外部に届いていないことが分かりました。全国的に被害が大き過ぎ、まだ全容をつかみ切れていなかった段階です。Twitterがきっかけで被害に気づけた被災地だったのです。放送したところ、大きな反響があり、地上波をはじめ、さまざまなメディアから「素材を貸してほしい」という問い合わせも入りました。

ABEMA
2019年9月、千葉県・鋸南町の台風被害の状況を他のメディアに先駆けて取材。この報道がきっかけとなり、被災地支援の輪が広がった。

これを契機に、鋸南町にこだわって毎日取材を続けました。鋸南町の被害状況と、町の皆さんの頑張りにより少しずつ復興していく様子がネットを中心に認知され、最終的に多くの支援物資が集まったと現地の人に言っていただいて、うれしかったです。目立った被災地の陰に隠れて報道されなかった鋸南町、その現状を知ってもらうことができて「大それたことはできないけれど、ミクロにフォーカスする」「大きな流れの中で取り残された人たちを忘れないようにする」という、ネットメディアならではの動きができたと実感しました。

郭:「ネットならでは」という意味では、記者会見の伝え方は工夫しています。会見の中には「ネットでの動画使用不可」というルールが設けられるケースもあります。映像も音声も使えないけど、人々の関心が高いコンテンツをどう伝えればよいか。以前、僕らは“会見の内容をリアルタイムで実況する”という方法を考え、実行しました。 

このときは、放送と同時進行でテキスト記事もつくって、ネットにアップしたんです。地上波テレビはどこも放送していない時間だったので、視聴者にすごく感謝されました。 

かゆいとろに手が届くようなミクロな動きができるところ、ルールや形に縛られず自由なところ、そしてスピード感をもって番組づくりができるところが、ネット放送の強みだと思います。

地上波テレビのデジタル展開は、「D2C」がカギになる

─ネット放送の効果はどのように測っているのでしょうか?やはり視聴率が重視されているのですか?

郭:以前は「生放送を見てくれた人数や視聴時間の長さ」だけをKPIにしていたんですが、最近では少し変えています。なぜなら、ABEMAビデオでの見逃し配信やYouTubeのアーカイブ動画が、信じられないような再生回数をたたき出してしまったから。

他に、テキストベースのオウンドメディア「ABEMA TIMES」で情報を得ている方も多数いらっしゃいます。その事実を認識してからは「生放送がすべてではない」と思うようになりました。

現在は、アーカイブ動画や記事のデータまで幅広く確認し、何度視聴されたか、何分視聴されたか、Twitterのコメント回数やどのようにコミュニケーションされたかなどをトータルで見るようにしています。

また、生放送を「素材撮り、収録」だと考えるようになりました。視聴者は、さまざまな手段で情報に接触していて、生放送だけが接点ではない。ですから、生放送した映像コンテンツは素材だと捉えて、YouTubeやFacebook、TikTokなど、それぞれのプラットフォームに適した形にどんどん加工して出していくべきだと思うのです。尺もいろいろでいいし、いろんなバージョンがあってよいと思います。

渡邉:同感です。「報道ステーション」の映像コンテンツも、Twitterに出すときは、結論を先に持ってくるなど、少し編集して出すようにしています。地上波のコンテンツをそのままネットにダダ流しにして、見てもらえるとは思えません。郭さんの言う通り、ネットの文脈に合わせて再編集することがものすごく大事だと思います。

僕は「テレビをつける習慣がない人に、テレビをつけさせること」は、ものすごく難しいことだと思っているんですよね。普段、NewsPicksや新聞の電子版を読んでいる人、YouTubeを見ている人たちが、ネット上にある地上波用につくった映像を見て「よし、これを生放送で見るため放送時間にテレビの電源をつけよう」とはならないと思うのです。

だったら、視聴者がいる場所、いる時間に合った形でコンテンツを流すことを考えないといけないのでは。また、特に報道はコンテンツを小出しにせず、そのプラットフォームで“読み切って”もらえる形にすることも大事です。変に小出しにすると、視聴者が離れてしまう。「続きはアプリで」とか「続きはテレビで」とかは、やめた方がいいと思います。

まずは「視聴者がいるメディア・場所」に向けたコンテンツをきちんと届けて、知ってもらうこと、いい番組だと認知してもらうことが大事ではないでしょうか。前回の記事でもお話しした通り、視聴者にダイレクトにコンテンツが届けられるように「テレビ報道のD2C」が求められていると考えます。

メディアは、もっともっと「媒介」にならなければいけない

─「報道ステーション」では、具体的にどのようなデジタル施策を行っているのでしょうか?

渡邉:2019年4月から「報道ステーション」の映像コンテンツを、KAIZEN PLATFORMやテレビ朝日メディアプレックスなどと協力して、1日8本、TwitterFacebook にアップしています。

報道ステーション

それと並行して番組専任のライターチームが記事を書き、報道ステーションのHPにアップする仕組みも整えました。毎日の放送でも、新聞やテレビ以外で話題になっているトピックスを拾って番組で深掘りするという、現役世代に向けた取り組みもやっています。例えばネットで話題になっている疑問や情報に注目し、報道ステーションが持つ取材力でしっかりと掘り下げることによって、「それそれ!前から気になってたんだよね」という事柄を明らかにするような「かゆいところに手が届く」コンテンツができるのではないかと思っています。

こうした取り組みにより、Twitterでの反応が、以前に比べて10倍以上に上がりました。番組公式サイトのテキスト記事のPVも大幅にアップしています。

郭:これまでは、報道・情報番組は基本的に残さないという文化がありました。せっかくコストと人と手間暇をかけてつくったコンテンツなのに、生放送が終わった途端に見られなくなってしまう。渡邉君は、それを「アーカイブする」「さまざまな形でデジタル展開する」ということをしているんですよね。ABEMAで学んだこと、感じたことを地上波の世界に持ち込んで、しっかり生かしているなと感じます。

地上波には、深夜のドキュメンタリー番組をはじめ、良質なものがいっぱいある。そういうものを“ググッた”ときに、最良の形でコンテンツと触れる環境をつくることで、「テレビ局って、こんなにいい番組つくっているんだ」「役に立つじゃん」と感じてもらえるのではないでしょうか。視聴率も大事ですが、その日の放送で数字を取る・取らないではなく、「役に立つかどうか」というベクトルで考えた方がよいと思います。

渡邉:メディアって「媒介」って意味ですから。私たちはもっともっと、広く、柔軟に、いろんなところにいる人との媒介になっていかなければならないと思っています。その方法のひとつに、地上波のデジタル展開があるのだと思います。

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