規格外野菜は個性派野菜!価値転換でフードロス解消に挑む「キャラベジ」
2023/06/19
“売り方”に クリエイティブを掛け合わせることで、これまでよりも幅広い生活者に、これまでとは異なる商品との接点を創出し、より好きになってもらう/より売れるようにしていく電通CXCC(カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター)のプロジェクトチーム「ウリクリ」。
本チームがフードロス問題の一因ともなっている「規格外野菜」をフィーチャーして発案したのが、顔シールを野菜に貼り付けることで「個性」を演出して価値を上げて売る「キャラベジ」企画です。
本記事では、「キャラベジ」企画者の1人であるCXCCの藤田卓也が、企画発案の背景や奈良県生駒市の幼稚園で実施したワークショップの事例とともに、規格外野菜の可能性や今後のビジネスについてお伝えします。
<目次>
▼「売れない規格外野菜」は年間180万トン!売り方に新しいアプローチを
▼“キャラ×シール”のスモールスタート・アイデアから、農業の価値転換にもつながる設計を
▼野菜の売り上げが開発途上国の農業支援に!ローカルな規格外野菜がグローバルに貢献
▼参加者の80%が 「キャラベジキットを買いたい!」。 好評を博した生駒市の幼稚園でのワークショップ
▼キャラベジの力を、より広く社会へ還元していくために
「売れない規格外野菜」は年間180万トン!売り方に新しいアプローチを
日本の農家が直面する問題の一つに、規格外野菜の廃棄があります。これは販売時の規格に合わない形やサイズ、色合いの野菜は、たとえ味に問題がないとしてもスーパーや青果店といった市場には出荷できず、廃棄されてしまうこと。国内においては年間180万トンものフードロスを生んでいると言われています。
近年では、オンラインショップなどを介して生産者が消費者へダイレクトに規格外野菜を販売するアプローチも生まれてきてはいますが、“規格外”であるというネガティブな設定のもとからは逃れられていません。
CXCCのプロジェクトチーム「ウリクリ」は、規格外として野菜の価値を下げてしまうのではなく、逆に規格外野菜であることにポジティブな価値づけを行うことで、購入に直結するような新しいモチベーションづくりができないかと考えました。
“キャラ×シール”のスモールスタート・アイデアから、農業の価値転換にもつながる設計を
そこで生まれたのが「キャラベジ」という企画です。これは、お茶目な顔のパーツがデザインされたシールを野菜に貼り付けて“個性”を加えることで、消費者に規格外野菜そのものの“らしさ”を楽しんでもらいながら購入してもらえる、そして食ベてもらえるアイデアです。
この企画のポイントは、3つあります。
1つ目のポイントは、“キャラクター×シール”という親しみのあるアイテムにデザインしたことです。モノに顔をつけるだけで、人は自然と愛着を抱きます。特に日本人は漫画・アニメが文化として根付いた社会で生活しており、“キャラクター性”に親近感が湧きやすいという特徴を持っています。キャラベジはファミリー層を中心に興味をひき、親しみを持って、規格外野菜との距離を縮めてもらうことができます。
2つ目に、キャラベジは“スモールにスタートできる”ということがあります。というのも、シールを貼るだけの簡単なアクションで完結するので、実験的な導入にも向いています。道の駅やスーパー、オンラインショップなど、どんな場所でも取り入れやすいため、さまざまなプレーヤーがそれぞれに合った方法で取り扱えるのも利点です。
最後のポイントとしては、“規格外野菜の価値転換”につながるということです。世間からは「規格外野菜を捨てるのはもったいないので、販売すれば良いのでは?」という意見もあがったりします。ただ、規格外野菜に対するリアルな農家さんの考え方やアプローチをリサーチしたところ、一般的な認識と隔たりがあることに気づきました。
例えば、次のような意見があがりました。
- 規格外野菜にもさまざまな種類があり、本当に食べられないような規格外野菜もある
- 畑に捨てている野菜も畑の肥やしになるという大事な役割があり、単に捨てているわけではない
- 粗悪品を売ることによって正規品の値段が下がってしまう懸念があり、長い目で見ると利益にならない
こうした背景を踏まえても、キャラベジの目的を、単に捨てられる規格外野菜が「もったいないから活用しよう」という文脈で設定するのでは、世間と農家さんとの認識の乖離(かいり)が埋まらないままです。そこで、キャラベジでは “規格外な野菜”というネガティブな捉え方ではなく、形や大きさや色がユニークな“個性的な野菜”として、ポジティブな捉え方をすることで新たな価値を付与できないかと考えました。
併せて、農業や規格外野菜の現状について知ってもらえる食育キットとして展開することで、一次産業に対する理解を深め、規格外野菜に触れる機会をつくり、従来の価値観の転換につなげていくこと も可能であると考えています。
野菜の売り上げが開発途上国の農業支援に!ローカルな規格外野菜がグローバルに貢献
キャラベジは日本の地域の一次産業へ貢献するだけでなく、グローバルな視点での食育にもつながるように設計しました。仕組みとしては、キャラベジを通じた規格外野菜の売り上げの一部を「TABLE FOR TWO」を介して、開発途上国の菜園支援として提供していくというものです。
「TABLE FOR TWO」は、開発途上国の飢餓と先進国の肥満や生活習慣病の解消に同時に取り組む特定非営利活動法人です。先進国で1食とるごとに開発途上国に1食を贈る「TABLE FOR TWO」プログラムなど、日本発の社会貢献運動を実施しています。
日本 で規格外野菜を食べることで、開発途上国の農家さんやこどもたちの農業・食糧支援につながるという仕組みを通し、日本の農業だけでなく世界視点での食への理解を高めつつ、実践的な貢献へとつなげることができるのです。
参加者の80%が 「キャラベジキットを買いたい!」。 好評を博した生駒市の幼稚園でのワークショップ
実際に「キャラベジ」が生活者の方々にどのように受け入れられるのか知りたい、と展開場所を探していた際に、興味を持ってくださったのが、奈良県生駒市SDGs推進課の方々でした。彼らの協力のもと、2023年2月に生駒市立俵口幼稚園でキャラベジのワークショップを開催、 多くの幼稚園児とその保護者の方々にキャラベジに触れてもらうことができました。
ワークショップでは、「フードロスからやさいをすくおう!」をテーマに、フードロスについて楽しく学べるクイズ大会も実施。規格外野菜の課題やキャラベジの取り組みについて学びつつ、生駒市農業振興協議会よりご提供の大根・かぶ・ねぎ・にんじん・みかん・レモンといった多様な規格外野菜を使って、キャラベジに触れてもらいました。
普段スーパーで見かける野菜とは、大きさも形も異なる野菜たちに園児たちは興味津々。野菜の形に合わせて顔シールの貼り方を変えていろんな表情(笑顔・怒り顔・泣き顔・困り顔・ニヤリ顔・驚き顔・おちゃらけ顔など)をつくり分けたり、欠けたり割れたりしている部分にばんそうこう型のシールを貼ったり、友だち同士で見せ合いっこをして笑い合ったり。まるでお気に入りのおもちゃをデザインするように創造力豊かなキャラベジをつくって楽しんでくれていました。そして完成したキャラベジは持ち帰って、各家庭でおいしく食べてもらいました。
またワークショップと併せて、規格外野菜を提供してくださった生駒市農業振興協議会に寄付金付きで野菜を販売してもらい、その寄付金をもとにTABLE FOR TWOを介して開発途上国の子どもたちへの支援も実現。100食分の給食が開発途上国に寄付されることになりました。
ワークショップ後のアンケートでは「スーパーなどでキャラベジのキット(規格外野菜とシール)があったら購入してみたいですか?」という質問に対して、参加者の80%が「購入したい」と回答。多くの子どもたちと保護者の方々に「キャラベジ」という楽しい体験を通して、規格外野菜やフードロスの課題を学んでもらうことができました。
キャラベジの力を、より広く社会へ還元していくために
キャラベジは、農協、地方自治体、小売業、メーカーなど、さまざまなプレーヤーにご活用いただけると考えています。その活用の幅も広く、スーパーマーケットなど食品売り場での展開といったストレートなものにとどまりません。
例えば、知育キットとしてパッケージすることで、本やおもちゃといった売り場での展開も見込めます。その知育キットという考え方を飲食店に持ち込むと、子ども用の食育メニューのような展開にも発展可能です。おいしく、楽しく、学べて、しかも子どもがお店での時間を飽きさせないようにする保護者を助ける商品にもなるのではないかと考えています。
さらには、IP(※)との親和性も高いと考えています。
※ = IP
Intellectual Property(知的財産)の略で、個人や企業が生み出したアイデアやクリエイティビティ、コンテンツなどの、価値を持つ知的財産のこと。
アニメイベントやスポーツイベント、ライブ公演などの物販として、キャラクターや選手、アーティストの顔シールを制作し、そのIPとゆかりのある地域の規格外野菜とキャラベジをセットで販売する。そうすることで、IPとファンが一緒になって地域の生産者支援、フードロス解消、加えて開発途上国の食糧支援に貢献するソーシャルアクションに昇華する ことができます。なによりファンにとっては、これまでにないグッズの購入体験として楽しんでもらえる利点もあります。
まだキャラベジの取り組みはスタートしたばかりです。さまざまなプレーヤーの方々と積極的に協業し、思いもよらなかった使い方でリリースするなど、さまざまなアプローチでキャラベジのポテンシャルを生かし、楽しく持続可能な社会貢献を実現していきたいと考えています。