リモートワークの普及で、オフィス以外の自宅や外出先から仕事の荷物を発送する機会が増えています。そこで電通はヤマト運輸と連携し、ビジネスパーソンがオフィス以外の場所からMicrosoft Teams(※1)を使って簡単に宅急便(※2)を発送できるソリューションを提供。現在、本格的なソリューション提供に向けた実証実験を行っています。
電通グループでは現在、このようなパートナー企業さまとの協業による事業開発を積極的に行っています。そこで後編では、ヤマト運輸さまとのプロジェクトから学んだ事業開発における重要なポイントについて、株式会社 電通の清水福主氏、佐藤憲政氏に聞きました。
製品やサービスからではなく、社会からの期待値をもとに考え、発想する
株式会社 電通 清水 福主氏Q.今回ヤマト運輸さまとのプロジェクトにあたり、事業を検討する上で特に議論したことはどのようなことでしょうか。
清水:ヤマト運輸さまは、配送サービスを中心に長年蓄積されたノウハウやシステム基盤をお持ちです。ただ社会や時代、ライフスタイルの変化を読み解き、企業や個人、市場が本当に必要としているものを事業として提供することは、決して簡単なことではありません。
ここで、私どもが日々向き合っている企業の変革課題や、電通がマーケティング分野で長年培ってきた経験がお役に立てるのではないかと考えました。その視点から、今回のヤマト運輸さまとのプロジェクトでは、いかに働き方の多様化や生産性向上など、コロナ後におけるニーズの変化に沿ったソリューションにできるか、といった議論を徹底的に行いました。
このような議論は、電通グループがこれまでマーケティングや戦略を構築する上で常に行ってきたことだと思います。今回は、幸いなことにヤマト運輸さまと共にサービスリリースをさせていただきましたが、事業開発そのものは、「将来の社会において、企業や個人、市場が本当に必要としているものは何か?」といった、われわれが今までやってきたことの延長線上にある仕事だと考えています。
Q.事業開発の領域ではさまざまなプレイヤーが存在します。その中で電通グループの事業開発における強みはどこにあると考えますか。
清水:何事も企業や製品、サービスからではなく、社会や人々の期待値を起点に考える。これに挑戦し、成功も失敗もたくさん経験していることが、電通グループのユニークネスだと思います。今回のケースでいえば、仮に「宅急便の課題は何か?」といった事業者側のスタンスのみで考えていたとすると、働き方や生産性といったテーマを大切にし、深掘りするまでには至らなかったかもしれません。私どもは常に「今、社会や人々はこのような状況だから、これから生み出す事業はこうあるべき」「今、人々はこのようなことで困っているから、私たちはこの問題を解決したい」といった、世の中からの期待値をベースに議論を進めております。
今回も初期の議論で、「リモートワークでもオフィスと同じような労働環境(体験)を再現するには?」といった話をさせていただきました。ヤマト運輸さまは宅急便の他にもさまざまなソリューションを提供しており、私どもはあらゆる事業変革・DX課題に向き合っているので、今回のソリューションはあくまで入口に過ぎません。ヤマト運輸さまとの取り組みを「これからの時代の多様な働き方を支える事業」と価値定義すれば、私たちにできること、やらなければいけないことはもっとたくさんあるのではないかと思います。
株式会社 電通 佐藤 憲政氏佐藤:また、電通グループには大勢の社員がおり、日頃から多くのクライアントのさまざまな案件に関わり、現場の最前線から学ばせていただいています。あらゆる業界の企業と伴走し続けてきたことで、培われてきた実行力や推進力も1つの強みと言えるのではないでしょうか。
最初のお客さまを見つけ、チームの中でイメージを共有することが大事
Q.今回のヤマト運輸さまとのプロジェクトから、事業開発において大事なポイントなど、学んだことはありますか。
清水:2つ感じていることがあります。1つは「最初のお客さまは誰か?」という点です。今回のケースでいえば、前編で紹介したように、「在宅勤務中、商品サンプルを送るのに手間がかかる」という意見をくださった方がいました。この「最初のお客さま」のイメージを、開発段階からプロジェクトチームの中で解像度高く共有できたことが重要であり、さらに今後という意味では、そうしたお客さまを広げていけるかどうか?が重要になると感じています。
もう1つは、社会や企業のコンテクストをきちんと押さえることの重要性です。私どもは日頃からあらゆる業界の経営企画・事業部の方々と接しているため、企業が5年先、10年先を視野に入れたときに何に悩んでいるのかを肌身で感じています。例えば現在では、ほぼ全ての業界で、環境変化に適した人材の獲得に困っている、という実感があります。ですから、今回のソリューションが多様な働き方を支え、人材獲得につなげるための一手、といった観点も持って構想しています。
佐藤:また、今回のような新しい取り組みを成功させるには、クライアントの担当者さまもチャレンジングな気質を持っている方であり、それに救われた面も非常に大きいと感じました。フラットになんでも相談していただき、こちらも誠意をもって対応し、対話を重ねていく。そのような関係性の中で信頼関係が生まれ、良いアウトプットが出てくるのだと思います。
Q.最後に、今後の事業開発に対する抱負を聞かせてください。
清水:電通では、これまでも顧客企業と共に、事業開発やDX推進のプロジェクトをご一緒させていただいており、今回ヤマト運輸さまと共に、ビジネスパーソン向けに宅急便発送時のCX向上をDXで支えるソリューションをリリースしました。今後、このような形の協業を増やしていって、より社会に価値のある事業を共創していきたいと思っています。
また、私個人の思いとしては、仕事を通じて世の中に大きな良い影響を与えることを目指しています。これからもさまざまな企業さまと、それぞれの強みを生かした協業を通じて、まだ世にない事業を生み出していければと考えています。
新規事業開発において大事なことは、最初のお客さまを見つけ、その悩みを背景となる文脈とともに深く理解すること。それはマーケティングやコミュニケーション戦略においても同じです。自社の新規事業開発においても、ぜひ参考にしていただければと思います。
※1 Microsoft、Microsoft Teams、Teamsは、米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国における商標または登録商標です。
※2 「宅急便」はヤマトホールディングス株式会社の登録商標です。