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公開日: 2023/10/24

時代は「モノ提案」から「コト提案」へ。味の素「GOOOD GOOOD TABLE」の事例から学ぶ、D2Cサイト運営のポイント(後編)

製造者が消費者とデジタル上で直接コミュニケーションを取りながら販売できるD2C。情報発信だけでなく、消費者からの感想やアイデアを募集・シェアすることで、双方向にコミュニケーションできるビジネスモデルとして注目されています。

味の素株式会社が2023年1月に立ち上げたD2Cサイト「GOOOD GOOOD TABLE」(グーグーテーブル)の企画・運営に携わる、株式会社電通デジタルの堀田顕人氏と佐々木大介氏へのインタビュー後編。今回は、企業がD2Cを立ち上げる際に注意したいポイントやD2Cの意義を中心に、話を聞きました。

フロー型からLTV型へ。自社ECサイトのあるべき姿

Q.自社ECサイトを作る際、クライアント企業さまとは具体的にどういったコミュニケーションを取っているのでしょうか?

堀田:やはり最初は「そもそも何をしたいのか」をお互いに明確にすることがスタートラインとなります。売り上げを増やしたいのか、商品の置き場を増やしたいのか、あるいはお客さまともっとコミュニケーションを深めたいのか。何を目指すかによってやり方は変わります。「自社ECを立ち上げたい」「リニューアルしたい」「ECモールに出したい」といった話ではなく、別の言葉で、何を目指したいのかを明確にしていく。単純に売り上げを伸ばしたいだけならば、ECモールに出店する方が早い場合も当然あると思います。

Q.では、なぜ多くのメーカーが自社でECを実施しようとするのでしょうか?もちろん売り場を増やすことにはつながるかもしれませんが、既に流通はありますよね。その上でなお、D2Cに挑む理由はどのようなものが多いと考えますか? 

堀田:最初にご相談いただく際は、「小売店に依存しきっている状況を変えたい」「デジタルが伸びているから」などとお話をされるケースが多いのですが、さらに深堀りをしていくと、その先には「商品を購入してくれるお客さまと、メッセージアプリやメールなどのデジタルツールを活用しながら、ダイレクトにコミュニケーションできるようにしたい」といった思いが見えてくることがよくあります。やはり今の時代、「お客さまとどうコミュニケーションをとるか」はますます重要になってきています。ただサイトを作って会員登録をしてもらうだけでは、あまり意味がありません。お客さまに対しての振る舞いや向き合い方から設計する必要がありますから、ただ連絡先を収集するというだけでは不十分であるとも言えます。とはいえ、連絡先を登録していただいたことで始まるコミュニケーションもあるのは事実ですので、そのあたりは量と質とをうまく見ながら、考えていくべきポイントですね。

佐々木:やはり、ビジネスを単発的なフロー型からLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)型に変えていくべきだと思います。会員IDを通じてお客さまとつながって、その人の特性を理解し、個別対応することによって、再購入してもらったりファンになってもらったりする。その流れで、結果としてLTVが上がる状態を作ることが自社ECで果たすべきことではないでしょうか。

株式会社電通デジタル 佐々木 大介氏

マガジンに力を入れ、顧客の利用シーンに寄り添う

Q.「GOOOD GOOOD TABLE」は、ECサイトでありながらマガジンの部分に非常に力が入っているように感じます。

佐々木:はい。大前提として、「モノ提案からコト提案へ」という考えに基づいています。商品提案だけであれば、こうしたマガジンはあまり必要なく、開発秘話などだけ掲載すればいいと思います。しかし私たちはライフスタイルに寄り添った提案をしたいと考えています。

そこで「GOOOD GOOOD TABLE」では、例えば「平日の朝でもおいしい味噌汁をつくるためのレシピ」「青空の下でおいしいコーヒーを飲むためには」といった、シーンやスタイルに寄り添ったコンテンツを掲載しています。こうした提案は、商品ページでやるより利用シーンに入り込んだマガジンで展開した方が、お客さまにとっても読みやすいし、イメージしやすいと考えています。

それから、サイトのデータを分析して分かったことですが、味の素は豊富な商品数を取り揃えているので、例えばAというスープを飲んだら次はBというスープが気になって購入していただく、といったお客さまが一定数いらっしゃいます。このような場合、クーポンを発行して「こちらの商品が安く買えますよ」とだけアプローチするようなサイトも多いと思うのですが、クーポンに頼るだけではないやり方もあります。その商品の開発背景に関するマガジンやアレンジレシピなどがあれば、もっとおいしく味わえる方法があると知らせることができる。その流れで、他の関連商品をお勧めすることも可能です。単にクーポンや割引企画で印象付ける、という方法論ではなく、お客さまの興味の流れの中で、自然に「この商品も気になるな」という状態を作ることができます。

堀田:このサイトでは、普通のスーパーに置いてあるような商品ラインよりも少し高級なラインに力を入れています。ですから、商品ページ以外でも、ユーザーにしっかり価値を伝えることが重要だと考えています。したがって、マガジンの意義はとても高いと思います。

株式会社電通デジタル 堀田 顕人氏

D2Cサイトが生き残るために重要なポイント

Q.なるほど。一方でECは、「何人来ました」「どれだけ売れました」とダイレクトに結果が出てしまうものなので、これによって「価値の伝達」といった目的と乖離が生まれてしまう可能性もあり、そうするとプロジェクトは困難になるといったケースもありますよね。

堀田:そうですね。予算配分でも、すぐに効果を出す部分と少しずつ成果を上げていく部分の配分は、片方だけに寄らないようにしています。

佐々木:そういう苦しみは実際にありますね。本サイトの場合は、そもそも「味の素のお客さま」は既にたくさんいらっしゃるので、「味の素ダイレクト」を含めたさまざまなチャンネルに働きかけ、オウンドメディアの力を使いながら、サイトとしての「勝ちパターン」を見極めようとしています。

また、時期によっても変わるので、特別な商品を出せるタイミングまでは集客の投資を抑えながら来るべきキャンペーンに向けた波を作ったり、あるいは商品企画からお手伝いしたりすることで多様な側面からコンサルティングしています。

商品開発からクリエーティブチームが関われたり、ユーザーに入り込んでいるからこその会話ができたりする。わたしたちコマースチームには事業会社出身者が多いので、クライアント企業さまのリアルな悩みもよく分かります。その上で、短期的な施策に走りすぎず、「中期的な計画として、数字はこう伸ばしていきましょう」とご提案できることが強みだと思っています。クライアント企業さまにとっても、ご担当者の社内での説明力が強くなければサイトは生き残れませんから、実はこれがD2Cサイト成功のもっとも重要なポイントかもしれません。

 


 

D2Cサイトは、製造者が消費者へ直接商品を販売するだけの仕組みではなく、消費者との継続的な相互コミュニケーションの場でもあります。共感される価値観を分かりやすく提示し、時にはユーザーを商品開発にまで巻き込むことで、より良い商品や最高の顧客体験を提供することも可能です。その実現のためには、ユーザーの利用シーンに寄り添ったコンテンツを充実させることが重要なポイントになりそうです。

※掲載されている情報は公開時のものです

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著者

堀田 顕人

堀田 顕人

株式会社電通デジタル

マーケティングやコミュニケーション領域でのプロジェクトマネジメント専門会社にて不動産やスポーツマーケティングなど幅広い業界の大規模プロジェクトを経験したのち、デザインプロダクトの事業会社で広報やEC運営、SNSなど集客から購入後のコミュニケーションまで全般の業務に従事。現在はD2C事業の立ち上げ・事業計画策定からサイト構築、グロース支援など幅広く担当。

佐々木 大介

佐々木 大介

株式会社電通デジタル

EC事業会社にて自社や楽天ECなどの構築、運用、管理を経験したのち、スキンケア業界にて老舗ブランドのマーケティング、CRM業務に従事。深い顧客理解と効果に直結する施策運用経験を軸にしたECコンサルティングを得意とする。

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