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公開日: 2023/10/25

コンサルティング✕クリエーティブ最前線。いま求められる「価値のつくり方」とは?(前編)

ビジネスを取り巻く環境が複雑化し、経営の舵取りや新規事業の立ち上げは一筋縄ではいかなくなっています。会社が進むべき方向性が定まらない、経営層の思いが現場に浸透しない……など、さまざまな課題に頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、企業の経営課題や事業戦略をサポートする、株式会社電通コンサルティングのパートナーを務める田中寛氏と、広告領域を超えて新しいアウトプットを生み出し続けている株式会社 電通のクリエーティブ横断組織「Future Creative Center」のセンター長を務める小布施典孝氏が、これからの企業経営や新規事業に求められる思考法をはじめ、今の時代の価値のつくり方について語り合います。

コンサルティングというより、エクスプローイングに近いのかもしれない

田中:まずは自己紹介から。私は外資系の大手総合コンサルティング会社2社を経て、米系化学素材大手事業会社のデュポン社にて経営企画のほか、食品素材の事業部で営業やマーケティングも経験しました。その後は、アメリカの大手EC企業アマゾン社で事業企画をしておりましたが、人と人との交わりの中で「情緒的な仕事がしたい」という思いからブランディングの世界へ。2022年から電通コンサルティングで、主にB2B領域のブランディングを中心としたコンサルティングを行っています。

株式会社電通コンサルティング 田中 寛氏

小布施:僕は電通に入社して、もともとはストラテジックプランナー(戦略企画)として業務にあたっていました。そこからクリエーティブの局に移り、今は「Future Creative Center」(以下、FCC)で、経営・事業のグランドデザイン支援やブランディング設計、アクティベーション企画などを手掛けています。

最近は、田中さんはじめ電通コンサルティングの皆さんとも協動しながら、企業の未来価値をつくっていくさまざまなプロジェクトを行っています。でも、僕らがやっていることは、いわゆるコンサルティングとはちょっと違うかもしれませんね。

田中:FCCに寄せられる相談としてはどんなものが多いですか?

小布施:そうですね、例えば「新しい街づくりをしたい」とか「これからの時代の移動の価値を考えたい」とか「コングロマリット企業の新しい未来競争力を考えたい」などの、何か新しいことを考え、仕掛けたい方々からのご相談が多いです。まだ見ぬ答えを一緒に探しに行く冒険をご一緒している感覚に近いので、やっていることは、コンサルティングというよりは、エクスプローイングと言ったほうが近いかもしれません。実際、クライアントさんと旅に出掛けることもしています。

田中:私たち電通コンサルティングの視点で言うと、電通グループ内から「市場価値算定してほしい」など、専門的な知識が必要な領域について相談を受けることもありますね。企業の経営者や事業リーダーの方も、「将来の顧客がどのように変化していくか見通せない」など、市場環境の変化に伴う未来の戦い方に悩んでいる方も多い印象です。

会議には、「仕分ける会議」と「生み出す会議」がある

田中:企業が抱えるさまざまな悩みがある中で、それに対するコンサルティングのアプローチというものもたくさんありますよね。

私は、パーパスを策定するため、その企業の役員にインタビューをする際に、小布施さんが行っている手法がとても印象的でした。

役員インタビューそのものももちろんですが、インタビューが終わった直後に「あれはこうだったんじゃないか」と振り返りながら、ビルの外で5〜10分会話をすることがありました。実はこういうときこそ、最も芯を食った意見が出やすいのかなという気がするんです。

 小布施:アイデアって、外部刺激を変えた時に生まれやすいと言われているので、打ち合わせの直後というのは、結構アイデアが出やすかったりしますよね。

ちなみに僕は、会議には「生み出す会議」と「仕分ける会議」の2つがあると思っていて、企業の中で通常行われているのは「仕分ける会議」なのかな、と思っています。事前にアジェンダを用意して、それに沿って議論し、選択肢のメリットデメリットを把握して、効率的にジャッジをしていく。これはこれで必要な会議です。でも「まだない答え」を見つけたいときには、その会議の仕方だと難しいのではないか、と思っています。

というのも、「生み出す会議」に必要なのは、論理的なジャッジをするための緊張感で張り詰めた空気ではなく、ブレークスルーする瞬間を捉えるために、みんなでアイデアを重ねて育んでいくポジティブな空気だからです。

株式会社 電通 小布施 典孝氏

田中:なるほど。小布施さんが会議でファシリテーションをしている様子を見ると、とにかく人の話を聞きながら、その空間に漂うものを「どうつかみに行くか」を意識しながら、場を動かしているような気がするんですよね。

小布施:つかむ、という表現は近いかもしれないですね。その会議の場で皆さんが発言されている言語化されたものから正しいものを選択する行為ではなく、言語化されているものをジャンプ台にしながら、さらにその上に漂う、まだ目に見えない価値を探し当てようとしている方法論だと思っています。

田中:生み出す会議では、聞き取る力も重要ですよね。私にとっては、「聞く」という行為は受け身ではなくて、かなり能動的なアクションです。それによって場の力が増幅されると思っています。

新しい正解をみつけるために必要なことは、「別界」を持つこと

小布施:田中さんは聞き取るのがとても上手なコンサルタントという印象があります。どうして、そういう柔軟な受け止め方が出来るんですか?

田中:それはこれまでの経歴の中で、私とはバックグラウンドが異なる方と、お仕事を共にしてきた経験が大きいかもしれません。

例えば、前職でブランディングをやっていた頃は、芸大・美大出身のクリエーターの方と仕事をすることも多かったのですが、私とはアプローチの方法が全く違うんですよね。同じクライアントさまと話をしていても、打ち合わせが終わった後に所感を聞いてみると「私はこう思いました」というアウトプットが、私とは全然違うことがあります。それはそれですごく面白いのですが、一方で、自分の意見とどう折り合いをつけるか、というところに難しさも感じていました。

そうなると、やっぱりお互いが歩み寄ることが必要になります。自分の世界に閉じこもり、自分のロジックを相手に押し付けてしまうと、どうしても自分の領域外との接点を持ちづらくなる。どうやったら接点を持ち続けられるのかということは意識しています。

小布施:新しい価値を生み出すためには、自分の住んでいる世界とは違う世界を知り、その世界のことを理解することが大切なんだと思っています。コンサルタントの世界にいる田中さんが、美大出身のクリエーターの世界にも入り込んで、共感の接点を探るのは、まさにそういう行為ですよね。僕はそれを「別界を持つ」と呼んでいます。経営層の世界と現場社員の世界。大人の世界と子どもの世界。都心の世界と地域の世界。自分がいる世界を飛び出て、別界を持つことで、新しい違和感に気付けるようになる。新しい価値は、常に2つの世界の境界線から生まれるんだと思います。

 


 

企業の社会的価値を軸としたパーパス経営など、持続可能な企業の在り方が注目される中、まだ世の中に存在しない価値を生み出すアプローチは今後、ますます重要になると考えられます。

後編では、企業が抱える課題をみつけるアプローチ、企業の未来をつくるこれからのコンサルティングの在り方について、さらに掘り下げていきます。

※掲載されている情報は公開時のものです

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著者

田中 寛

田中 寛

株式会社 電通コンサルティング

大学卒業後、外資系大手会計系コンサル2社で企業再生の事業評価や事業戦略策定、業務改善コンサルを経験し、事業会社に転職。米系大手化学企業や米系大手EC企業にて、社長室・経営企画・事業企画や事業部での営業・マーケティングの経験を通じて、事業成長に向けた取り組みを実践。その後、ブランディング専門コンサルを経て、2022年より現職。

小布施 典孝

小布施 典孝

dentsu Japan /株式会社 電通

さまざまな企業とのマーケティング/プロモーション/クリエイティブ領域でのプロジェクトに関わり、2020年、未来価値創造を支援するFuture Creative Centerのセンター長に就任。経営の打ち手のグランドデザイン、ビジョン策定、シンボリックアクション開発や、企業や事業の価値向上につながるブランディングやコミュニケーションを手掛ける。カンヌライオンズ2023金賞銀賞銅賞、ACC2024金賞銀賞銅賞、日本マーケティング大賞2024グランプリ受賞。その他、国内外の受賞多数。

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