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公開日: 2023/10/26

コンサルティング✕クリエーティブ最前線。いま求められる「価値のつくり方」とは?(後編)

社会状況の変化に伴い、企業が抱える課題も多種多様になっています。企業経営や新規事業を考える上で、自社の課題をどのように見つけ、未来に向けて価値あるものに転化させていけば良いのか。模索中の企業も多いかもしれません。

企業の経営課題や事業戦略をサポートする、株式会社電通コンサルティングのパートナーを務める田中寛氏と、広告領域を超えて新しいアウトプットを生み出し続けている株式会社 電通のクリエーティブ横断組織「Future Creative Center」のセンター長を務める小布施典孝氏が、これからの企業経営や新規事業に求められる思考法を始め、今の時代の価値のつくり方について語り合います。

後編では、コミュニケーションを通して課題をみつける方法や新たな価値創出につながるクライアント企業さまとの向き合い方などについて、掘り下げていきます。

新しいものは、頭からではなく、内蔵感覚から生まれる

田中:前編では聞く力の話も出ましたが、クライアントさまや社内メンバーを含め、自分の中にある興味や疑問を吐露できると、そこから新しいアイデアや課題の発見につながることってありますよね。小布施さんは、そうした点で何か工夫していることはありますか?

株式会社電通コンサルティング 田中 寛氏

小布施:なるべくゆる〜い雰囲気をつくることを心掛けています。人よりも賢いことを言わないといけない雰囲気が漂っている会議だと、みんな分かったふりをしてしまったり、身構えてしまったり、なんなら論破されないために本音は隠してしまったりと、表層的なことでしか議論されなくなってしまう。けれど、本質的なことって、頭からは出てこないことが多いですよね。もっともっと、その人の奥深く、内臓感覚から生まれてくるものだったりします。頭と頭で向き合わないこと、内蔵と内臓で向き合うこと。そのためになるべく、理屈抜きで本音でしゃべって大丈夫なんだ、という空気をつくること。これを重視しています。

田中:なるほど。「正解を言わないといけない」といった気負いをいかに減らせるか、はポイントですね。あとは、コンサルティングの基本的な考え方に「クリティカルシンキング」があります。一般的には、「経験や直感だけに頼らず、多様な角度から客観的視点で考えること」です。私は、このクリティカルシンキングを 「相手が言ったことを否定するのではなく、相手が言った言葉の裏側に何があるのかをできるだけゼロベースで想像したり、解明しようとしたりする姿勢」と解釈して心掛けていますが、これも大事ですね。

小布施:そうですね。会議でみんなが似たような意見を言う場合、それは何かしらにとらわれている、という状況になっていることも多いので、その根底にある共通バイアスを特定して、それを疑いにかかるという発想方法はよくやっています。友人で研究者の石川善樹先生とも話をしていると「新しいふつうを生み出すためには、まず疑うべきふつうをみつける。」というのが概念シフトを生み出すセオリーとのことなので、みんなの共通バイアスを探ることはとても大切だと思っています。これは1人ではなかなかできないので、みんなでやるからこそできるアプローチとも言えます。

田中:少し話が変わりますが、企業の経営課題や問題点を整理するという点では 、「3C分析」「SWOT分析」などのフレームワークが有効だと言われることもあります。ただ、フレームワークに沿って考え、項目を埋めるだけでも大変な作業なので、それをするだけで時間が掛かったり満足したりしてしまうことも少なくありません。私は、フレームワークはあくまでスタート地点に過ぎず、そこで整理した仮説からいかにジャンプできるかで、コンサルティングの質が左右されると思っています。

今後目指すべきアプローチ。「ティーチング」ではなく「トーチング」へのシフト

小布施:どこかにある「正解」情報を、横展開して伝えるという提案スタイルは、本当の意味での課題解決にはなっていないのではないか、と感じることが多々あります。

先日、コペンハーゲンにあるビジネススクールを視察してきたのですが、そこで行われているのが「人の主体性を引き出すアプローチ」でした。結局人は、誰かから与えられた正解に対して本気になることは稀で、自分の内側から湧き上がったものでなければ本気にはなれない。その人の内側にある意思を引き出し、そこにアイデアを重ねていって、まだ世の中になかった新しい価値へと昇華させていく。そうした技法をクリエーティブリードと呼んでいて、非常に共感しました。

僕たちのアプローチもこれに近いものがあります。クライアントの皆さんが内面に持っているけれど、まだ気付いてないものを、対話を通して引き出す。そこに僕らのアイデアや切り口を重ねて、唯一無二の価値へとつくり上げていく。そのために仕分ける会議ではなく、生み出す会議を行っていく。これは、コンサルタントが正解を持っていて、それを教える、というアプローチとは違い、まだ見ぬ価値を見つけに、一緒に冒険にいくアプローチなんじゃないかな、と思っています。どこかにある正解を提供したり整理するのではなく、まだどこにもない正解を、意思というコンパスを頼りに発掘にいく冒険。一緒に仕事をしているクライアントの経営層の皆さんが、いつも「楽しい」と言ってくれるのは、僕らにとって最高の褒め言葉だと思っています。

株式会社 電通 小布施 典孝氏

田中:その中でいろいろな課題を抽出できるのがいいですよね。事業成長というものを前提としたとき、クライアントさまが抱えている課題って1つだけじゃないと思うので、「こういう取り組みも必要かもしれない」というさまざまな気付きに持っていけるということも大事です。

そういう戦略系でもデザイン系でもない、これまでとは違うコンサルの形を、電通コンサルティングとFCCの協働によって実現させていけるのではないかと思っています。

大局視点を持つこと。美学を壊すこと

田中:これから本格的にコンサルに取り組む若い人たちに一言お伝えするとしたら……自分を客観視することの大切さでしょうか。鷹の目で見る、大局的に見るなど、いろいろな言い方がありますが、プロジェクトワークをするときに、どうしても狭い中でぐるぐるしてしまうことが多いので、今の自分を客観的に見て、全体の状況の中で今この辺にいるとか、じゃあどっちに進むべきかといったことを、視座を引き上げて考えていくことが大事だと思います。

小布施:いろいろな仕事をしていくと、自分なりの美学ができると思いますが、その一生懸命磨いて築きあげた自分なりの美学を、あるタイミングで壊すことが重要だと思っています。それはそんなに簡単なことではありません。自己否定にもなります。でも自分なりの美学を守ろうとすればするほど、新しい自分になるのがどんどん難しくなっていってしまいます。

自分が見ている世界って意外と狭いものです。そこに気付けるかどうか。美学をつくっては崩して、次の美学を探しに行く。そういうスタンスを持ち続けることが重要なんじゃないかなと思います。

 


 

市場環境が目まぐるしく変化し、未来が見通しにくい時代。企業が抱える経営課題も多様化する中で、成功例や経験値を当てはめていく従来のコンサルティングではない、新しい在り方が模索されています。

これからの時代に求められるのは、相手の主体性を引き出し、それをより良いものへと昇華していくアプローチ。企業が抱える課題にさまざまな気付きを与え、事業成長へと結び付けていくコンサルティングの重要性は、ますます高まっていくと考えられます。

※掲載されている情報は公開時のものです

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著者

小布施 典孝

小布施 典孝

dentsu Japan /株式会社 電通

さまざまな企業とのマーケティング/プロモーション/クリエイティブ領域でのプロジェクトに関わり、2020年、未来価値創造を支援するFuture Creative Centerのセンター長に就任。経営の打ち手のグランドデザイン、ビジョン策定、シンボリックアクション開発や、企業や事業の価値向上につながるブランディングやコミュニケーションを手掛ける。カンヌライオンズ2023金賞銀賞銅賞、ACC2024金賞銀賞銅賞、日本マーケティング大賞2024グランプリ受賞。その他、国内外の受賞多数。

田中 寛

田中 寛

株式会社 電通コンサルティング

大学卒業後、外資系大手会計系コンサル2社で企業再生の事業評価や事業戦略策定、業務改善コンサルを経験し、事業会社に転職。米系大手化学企業や米系大手EC企業にて、社長室・経営企画・事業企画や事業部での営業・マーケティングの経験を通じて、事業成長に向けた取り組みを実践。その後、ブランディング専門コンサルを経て、2022年より現職。

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