有人離島3島を抱える過疎自治体・長崎県松浦市は、「買い物難民」などの課題解決策として、2024年に株式会社電通九州、株式会社エアロネクストなど4社と、ドローンを含む次世代高度技術の活用による地方創生に向けた連携協定を締結。ドローンを活用した「新スマート物流」の導入に取り組んでいます。
この取り組みに携わる松浦市政策企画課の山口武氏、エアロネクストの子会社である株式会社NEXT DELIVERYの古橋章吾氏、電通九州 地域価値共創局の藤賢太郎氏へのインタビュー後編では、連携協定に先駆けて2023年に行われた実証実験の様子や、配送だけにとどまらない今後の展開について語ってもらいました。
実証実験で離島間のドローン配送に成功
Q.連携協定に先駆けて2023年に行われた実証実験についてお聞かせください。
古橋:2023年11月29日に行った実証実験では、2つのルートでドローン飛行を行いました。佐賀県唐津市から松浦市の鷹島に架かる鷹島肥前大橋を渡ってすぐのところにある「道の駅鷹ら島」から同じ鷹島の南側に位置する船唐津港までのルートと、同じく「道の駅鷹ら島」から黒島までのルートです。この2本のルートでドローンを飛ばし、海の上や島の中でドローンの有用性があるのかなどを検証しました。11月後半という海が荒れることもあるタイミングでしたが、実証実験の日は穏やかな好天に恵まれ、問題なく飛行させることができ、買い物支援の文脈ではしっかりとドローンの有用性を確認できました。
ドローン飛行検証時の様子山口:松浦市としては今回のドローン飛行の実証実験に、できる限り地域住民の方に参加していただくことを目指しました。実際に見たことがないものについては、なかなか受け入れや理解が進まないということがありますからね。実際に参加していただいた住民の方には、実験がうまくいったということを実感いただけたので、地域での理解は深まったと思います。
Q.実証実験を経て、見えてきた課題があればお聞かせください。
古橋:天候も良かったので、課題が大きく表れた実証実験ではなかったのですが、ドローンに載せることができる荷物の重さ(ペイロード)が現在は5kgまでと決まっているため、住民の方からは、もう少し重いものも運べるとうれしいといったお声をいただきました。その解決策として現時点では、重いものは中身を分けて運ぶなどの対応を考えています。
株式会社NEXT DELIVERY 古橋 章吾氏山口:今回、実証実験をした鷹島町の黒島だけでなく、その他の離島である飛島と青島の方にも実証実験のニュースを市から広報しましたが、どの地域の方からもぜひ進めてほしいという声を多くいただいています。ドローンによる配送料はいくらになるのかなど詳細も聞かれることが多々ありますので、その設定をどうしていくのかが今の課題です。
地域雇用や新ビジネスの創出など、物流以外の展開にも期待
Q.今後の展望や計画についてお聞かせください。
古橋:現状の航空法では、最大離陸重量(ドローン機体に加えて、バッテリーや運搬物などを全て含めた重量)が25kg以上かそれ以下かで、求められる機体要件が大きく変わります。そのため現状は、ドローン機体が10kg未満、バッテリーが10kg未満、積載量は5kgまでで、最大離陸重量が24.9kg以下になるように取り組んでいますが、実はこの25kgという基準値には明確な理由が設けられていません。そのためNEXT DELIVERYでは、本実証実験や他エリアでの取り組み結果をもって、国交省へこうした制限や30kgないし35kgに引き上げた時の条件の明確化などの提言も現在進めています。
山口:本プロジェクトでは、ドローンの発着場所となる拠点の整備も並行して進めているところです。
松浦市政策企画課 山口 武氏古橋:鷹島島内で、陸送の整備とともに、島内にあるスーパーの跡地を物流のハブやドローンの離陸場所となる拠点にしようと整備を進めています。また、黒島、飛島、青島の小規模離島に対してのドローン配送の定常化を目指したいと思っています。そのためにも、ドローン配送の時刻表作成や、雨天や荒天でドローンを飛ばせない場合の代替手段となるフェリー配送の組み込み方やオペレーションの運用検討を、現在進めているところです。
山口:またこの拠点で働くアルバイトの方を地域で募集していただいており、今回の連携内容の1つである地域雇用の創出につながるよう進めてくださっています。島内では雇用の場がそう多くありませんので、ドローン拠点での買い物支援業務など、ドローンの活用が雇用の増加につながればと期待しています。
藤:電通九州の今後の役割としては、地域の事業者との連携が非常に重要だと考えています。例えば、今回のような新スマート物流というとドローン配送に注目が集まりがちですが、ベースとなるのはいわゆる軽バンによる陸送です。離島の事業者の中には、“地域のため”という理由だけで個宅への宅配までもほぼ無償で担われている小さな商店もありますが、ご高齢の方も多く、「正直に言うと体力的にも収益的にも非常に厳しい」という声を上げられています。ですから、地域住民のニーズはもちろんですが、地域にある事業者のニーズを丁寧に拾い、新たなサービス化につなげていきたいと思っています。
例えば、地方新聞社は各地域内に販売店を張り巡らせている関係上、新しいビジネスモデルを模索しているところがあります。そんな新聞社と協働できれば、新聞以外にもいろいろな荷物をお届けすることで販売収入を増やすことができ、この取り組みが持続可能なものになっていくはずです。
今後は新聞社や物流会社など地域の事業者と連携し、新スマート物流を推進することなどを模索していきたいです。
一方で、ドローンには、エンターテインメント的な要素もあるので、例えば観光やイベントに活用することも考えられます。あるいは見守りサービスなど、物流以外の事業領域を考えることも可能だと思います。新スマート物流という住民のいわば“インフラ”を支える本事業を軸に、他にもあるさまざまな地域課題を域内外のプレイヤーと連携し、地域住民のwell-being向上に資する施策を電通九州が今後ご支援できればと思っています。
株式会社電通九州 藤 賢太郎氏山口:また新しい活用方法という意味では、松浦市長が公約として掲げる「親孝行プロジェクト」という、松浦市を離れているお子さんが市内にあるサービスや商品を発注して地元に暮らす親御さんに届けるという取り組みがあります。そのプロジェクトに新スマート物流を活用し、例えば東京に住むお子さんが離島に住む親御さんにアプリを使って発注し、ドローンで配送するという取り組みが実現できないかと考えています。これは地域の消費活性化にもつながりますので、ぜひ具現化できればと期待しています。
離島間ドローン配送の実証実験が成功し、拠点整備や配送に関する詳細を決めるなど、実用化が目前に迫る今回のプロジェクト。今後、予期される課題を解決しつつ、配送以外の新たな価値創造にも期待が集まっています。