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公開日: 2025/04/18

生活行動データを活用し、より良い暮らしを実現。スマートホームプロジェクト「HAUS UPDATA」の現在地(前編)

日鉄興和不動産株式会社と株式会社 電通は、家電メーカー、消費財メーカー、センシングサービス事業者などと協力し、多様な生活行動データを統合して生活者の暮らしのアップデートを支援するスマートホームプロジェクト「HAUS UPDATA(ハウス・アップデータ)」の第一弾となる実証事業を2024年5月より半年間実施しました。

本実証事業では、モニター10世帯の自宅にIoTセンサーやIoT家電を設置。また消費財メーカーの商品を配布し、その利用実態とともに居住者の生活行動や環境状態を把握。独自のデータ基盤により生活行動データを一元管理し、そのデータを基にライフスタイルに合わせた情報やサービスを提供しました。

「Transformation SHOWCASE」では前後編にわたりプロジェクト関係者を取材。前編では、パートナー企業である日鉄興和不動産 フューチャースタイル総研室の畑中信二氏、シャープ株式会社 Smart Appliances & Solutions事業本部 プラズマクラスター・ヘルスケア事業部の谷村基樹氏、ライオン株式会社 研究開発本部の橋本恵美子氏、電通 データ・テクノロジーセンターの田中慧理奈氏が、第一弾実証事業の結果とファインディングスを基に、それぞれの視点からデータ活用の現在地と今後の展開を語ります。

生活者の体験価値を高め、ブランドへの共感を生む仕組みづくり

田中:日常生活でもスマート家電をはじめIoT化が進んでおり、それらのデータを活用することで、家の中の暮らしもこれまでにない解像度で捉えられる可能性を秘めています。より生活に密着したデータのため、これまで以上に生活者自身が納得できることが重要です。

こうした中、電通と日鉄興和不動産が推進するのが、スマートホームプロジェクト「HAUS UPDATA」です。さまざまなパートナー企業さまにご協力いただき、共に生活者の暮らしのアップデートを目指しつつ、生活行動データをマーケティング基盤としてご利用いただいています。皆さまが、今回の実証事業に参画した背景を教えてください。

畑中:日鉄興和不動産では、かねてよりスマートホームに力を入れています。とはいえ、IoT家電を実際にどう利用するかは、お客さまそれぞれに委ねられています。今回の実証事業で取得する生活行動データを活用すれば、スマートホームの意義を高め、お客さまに新たな価値を提示できるのではないかと思いました。

また、お客さまの生活実態を解像度高く理解できるのではないかという期待もありました。日鉄興和不動産ではマンション購入者に毎年100件近いヒアリングを実施していますが、それでも生活実態はなかなか見えません。生活行動のデータ化により生活実態や潜在ニーズを把握できれば、今後のマンションづくりにも役立つのではないかと考えました。

日鉄興和不動産株式会社 畑中 信二氏

谷村:今回の実証事業に当たり、シャープはIoT家電の他に計量デバイスも提供しました。こちらはヘルスケア領域の新事業として開発した調味料の使用量を計測するIoTキッチンスケールですが、今回「家庭内の消費財の使用タイミングや消費量に関するデータ収集に役立つのではないか」とご提案いただき、計量デバイスの活用可能性を感じました。また、IoTデバイスから取得したデータの活用法にも期待感がありました。

橋本:今回のプロジェクトについて提案を受けた際、「生活行動データを把握・分析することでお客さまの体験価値を高めると同時に、ブランドのファンをつくる場にもなる」というお話がありました。われわれもライオン製品のファンづくりをしたいと思っていたので、深く共感しました。

それに、台所用洗剤などはビデオカメラで使用状況を観測し続ける調査が可能ですが、トイレや浴室のようなプライベート空間ではこうした調査はできません。今回の実証事業では、トイレや浴室における洗剤の使用状況もセンシングいただけるため、新たな生活行動データが見えるのではないかという期待もありました。

生活行動の可視化により、潜在ニーズを把握

田中:今回の実証事業で得られたファインディングスを教えてください。

畑中:実証事業に当たり、モニター世帯を募集したところ500世帯中、約100世帯から申し込みがありました。誰が何のためにデータを取得し、どのような目的で活用するのか丁寧に説明すれば、生活者もデータ提供に必ずしも抵抗を感じないという点が最初の気付きでした。

また、生活者が意識していない潜在的な生活行動を可視化できたことも大きかったですね。データ上だとキッチンの滞在時間がとても長いご家庭があったのですが、皆さまそういった意識はないのか、アンケートでは特に料理時間が長いと回答していたわけではありませんでした。他にも、アンケート結果とセンシングデータの差異を感じるケースがあり、興味深かったです。

谷村:今回、家庭内にさまざまな消費財を設置し、IoTセンサーで使用タイミングや消費量をセンシングしたところ、マルチタスクで家事をこなしていることも分かりました。トイレ掃除をしながら、掃除を終える前に浴室でかけ置き洗いを始め、洗濯機の準備も進める。複数のタスクを同時並行し、それらがとても複雑に絡み合っている実態が見えてきました。

シャープ株式会社 谷村 基樹氏

田中:今回の実証事業では、生活行動データからその方のライフスタイルに合わせた商品の使い方や暮らしのアドバイスを行うようなレコメンド配信も行いましたが、こちらの反響はいかがでしたか?

橋本:モニター世帯のトイレの菌を採取し、SNSを通して「やや多めの菌量です」「もう少し掃除をしてみませんか?」といったレコメンドをしました。また、世帯によってお風呂掃除用洗剤の使用量が大きく異なっているというデータを得た際には、各モニターさんの価値観に合った浴室掃除の情報を届け、その後に「洗剤をバスタブ全体に満遍なくかけてこすり洗いをせずに掃除をすると良い」というメッセージを届けたところ、使用量が少し増える結果に。各世帯の生活実態、価値観に応じて、適切なレコメンドをすることで、生活者もその声に応えてくださることが分かりました。より快適に生活するための情報を届けることで、暮らしのアップデートにつながっているという実感を持っていただくことができたのではないかと思います。

ライオン株式会社 橋本 恵美子氏

畑中:「浴槽のこすらず洗いをしてもいいのかなと思っていたタイミングでレコメンドが届き、自分の行動は間違っていないと肯定されたように感じた」とコメントされた方もいましたよね。1人ひとりの生活に則したレコメンドを送ることの意義を感じました。曖昧で遠慮がちなメッセージより、「『汚れています』と言い切ってほしい」という意外な声も多かったです。

谷村:家事や家庭内での過ごし方には正解がないので、その家の習慣やご本人の嗜好性、価値観に左右されます。生活行動データを分析して改善点を指摘してくれると「あ、そういうやり方もあるんだ」と気付き、より良い暮らしにつながりそうですね。

データに基づくレコメンドで、生活者の行動変容を促す

田中:今回の実証事業を踏まえて、今後各社ではどのような展望をお持ちですか?

株式会社 電通 田中 慧理奈氏

橋本:今回の実証事業で、IoTセンサーにより生活者の1日の行動を分析できましたが、まだ十分とは言えません。より解像度の高いデータを分析することで、暮らしのアップデートにつなげられたらと思います。

畑中:生活行動データをより詳しく分析できれば、キッチンにいる人が一から調理したのか、電子レンジで食事を温めたのかまで分かりそうです。料理時間が長い人に対しては「頑張りすぎていませんか?」と家事代行サービスを提案するなど、1人ひとりの生活実態に即したレコメンドもできるはず。「パートナーがこれほど家事に時間を費やしているとは思わなかった」と家庭内コミュニケーション促進にもつながりそうです。今後もパートナー企業さまとの連携を深め、データ活用によって、より良い暮らしに結び付けたいですね。

谷村:私は、スマートホームとヘルスケアの親和性の高さに注目しています。健康状態には、日々の食事や睡眠時間といった生活習慣が密接に結び付いています。生活行動データをうまく活用すれば、未病の検知にも役立ちますし、服薬を忘れたり、就寝時間が遅くなったりしがちな方に、行動変容を促すアプローチもできるのではないかと思います。例えば就寝時間に自動的に照明が暗くなれば、自然と生活リズムも整うはず。生活行動データを基に、日々の暮らしや行動の変化につなげられたらうれしいです。

 


 

IoT家電やIoTサービスは、生活者がメリットを実感できなければ導入が進みません。生活行動データを収集・分析するだけでなく、データに基づくコミュニケーションにより暮らしや行動に良い変化をもたらすことが、生活者の満足度向上につながるのではないでしょうか。後編では、今回の結果を踏まえた実証事業第二弾の展望を紹介します。

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著者

畑中 信二

畑中 信二

日鉄興和不動産株式会社

日鉄興和不動産株式会社入社後、日本製鉄株式会社の遊休地活用や物流施設賃貸事業の立ち上げ、大規模マンションの開発に携わる。フューチャースタイル総研では、スマートホームの推進や他業界との共創を中心に、「暮らし」をテーマにさまざまな取り組みを実施。

谷村 基樹

谷村 基樹

シャープ株式会社

シャープ株式会社入社3年目に社内コンテストで「咀嚼計バイトスキャン」を提案し、採用・事業化に至る。以降、ヘルスケアに関する新規事業の創出に取り組み、計量IoTデバイスや生理用ナプキンIoTディスペンサーの企画・開発に従事。

橋本 恵美子

橋本 恵美子

ライオン株式会社

ライオン株式会社に入社以来、衣料用洗剤、柔軟仕上げ剤などファブリックケア製品や住居用洗剤の開発に従事。加えて、近年、未来の暮らしをテーマに伸長するスマートホーム・スマート家電を活用した家事生活について研究中。

田中 慧理奈

田中 慧理奈

株式会社 電通

2021年株式会社 電通入社以来、プラットフォームデータを活用した、広告の効果検証やソリューション開発を担当。同時にIoT業界を中心に、パートナー企業のデータ利活用支援を行うなど、データテクノロジー関連の業務に従事。

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