「生活者の気持ちに寄り添う、価値のあるデータ活用の在り方」の検証を目的に、株式会社 電通が企画・構想した「HAUS UPDATA(ハウス・アップデータ)」プロジェクトの実証事業第一弾が、2024年5月から10月末まで実施されました。このプロジェクトでは、住宅メーカーや家電メーカー、センシングサービス事業者と協力し、生活者の自宅に取り付けた各種センサーやIoTを通じてスマートホーム化を促進することで、生活行動データの利活用や、より良い暮らしの支援を促進しています。
前編では実証事業第一弾の成果について取り上げましたが、後編では、電通 データ・テクノロジーセンターの田中慧理奈氏と田村勇人氏、株式会社電通デジタルの高井茉佑子氏に、2025年夏から実施予定の第二弾の概要と進化ポイントについて聞きました。
「ライフバランスをサポートする家」をテーマに、生活者にデータを還元
田中:前編では「HAUS UPDATA」第一弾実証事業のファインディングスについて、パートナー企業さまの声をお届けしました。取得した生活行動データを連携し、より良い暮らしを支援するレコメンド情報をお伝えしたところ、モニター世帯、パートナー企業さまともに高い満足度を得られました。
そこで2025年夏から半年にわたり、「ライフバランスをサポートする家」をテーマにした第二弾実証事業を実施する運びとなりました。第一弾は10世帯だったモニターを百世帯程度に拡大し、より多くのパートナー企業さまにもご協力いただいています。 また、モニター世帯に専用タブレットを支給し、生活行動データを基に、その方のライフスタイルに合わせた商品の使い方や暮らしのアドバイスを行うようなレコメンドを配信することで、生活者とコミュニケーションを取りながら価値あるサービス提供を行っていきたいと考えています。データ分析を担う田村さんは、生活行動データをどのように分析し、生活者の皆さまに価値ある情報を届けたいと考えていますか?
株式会社 電通 田村 勇人氏田村:生活行動データの分析結果を、モニターの皆さまやパートナー企業さまに分かりやすく伝えるようダッシュボードやレポートで可視化したいと思っています。人感センサーなどにより収集した生活行動データは、複雑でノイズが多く分析・処理が難しいとされています。加えて、今回はモニター世帯もパートナー企業さまも増えるため、データログが膨大になり、さらに処理が大変です。その分、パートナー企業さまそれぞれのニーズに合わせて理解しやすい形に整えることで、より高い価値が生まれると思います。
また、第一弾のモニターは10世帯でしたが、今回は100世帯に増えるため、世帯同士の比較もできるのではないかと期待しています。今後さらにモニター世帯が増えれば、調査対象内で日本の世帯傾向を示すような統計データも取得できるのではないかと思います。
アシスタントとコーチングの両面で生活をサポートするAIチャットボットを開発
田中:第二弾に向けて、生活行動データから生活者のライフスタイルや潜在ニーズをどう読み解くか、そして生活者にデータを提供するメリットを感じられるような情報・サービス提供をどのようにして行うか、私たちも現在議論を進めているところです。より生活に密着したデータのため、1つの活用可能性として、日常で意識していないような生活リズムの変化を捉えて、生活リズムを整えるサポートができるのではないかと考えています。現在、電通デジタルではそのためのAIチャットボットを開発していますが、どのような特徴があるのでしょうか。
高井:このAIチャットボットには、アシスタントとコーチング、2つの大きな役割があります。アシスタントは、生活者と雑談をしたり、質問に答えたりするチャットボットです。
一方、コーチングは、生活者が決めた小さな目標に対し、1人ひとりのデータに基づく具体的なアドバイスを行うチャットボットです。例えば、生活者が「今週は早寝早起きする」という目標を設定したら「今日は帰宅時間が早いので、早く寝られますね」「早起きできて素晴らしいですね」と、目標に関わる行動を評価します。さらに、「先週はこういう目標だったので、今週はこれにチャレンジしては?」といった新たな提案をするコーチングを行えるように設計を考えています。
株式会社電通デジタル 高井 茉佑子氏田中:最初に高井さんとAIチャットボットについて話し合った際、「家族の一員になるようなAIチャットボットを創れれば」と話していたのが印象的でした。このAIチャットボットは、家庭内でどのような位置付けを目指しているのでしょうか。
高井:ひと口に家族と言っても、全員バラバラに食事をしていたり、コミュニケーションの少ない家庭もあると思います。そこで、チャットボットからあいさつをしたり話し掛けたりすることで、家庭内の会話が弾むようになればと思っています。現時点では「お子さんがいる世帯にはこういう話し方」など簡単な指示を出そうと考えていますが、いずれは家族1人ひとりに応じて提示する情報や話し方を区別できるようになればと考えています。
介護やペットのサービスとも連携し、より良い暮らしを支援したい
田中:実証事業第一弾では、さまざまなパートナー企業さまと連携し、生活行動データを基に新たな価値を提供する土台を構築できました。第二弾では、前回作った土台に載せるサービスをより価値あるものにしたいと考えています。
また、ライフバランスや生活リズムのサポートというと食や睡眠にフォーカスしがちですが、今後はさらに広い課題にも挑戦したいと考えています。例えば、介護やペットに関するサービスとも連携できれば、より多くの人の暮らしをより良くできるのではないかと思います。田村さんはデータ活用、高井さんはAIチャットボット開発の観点から展望はありますか?
田村:このプロジェクトを通して、東京都をはじめ各地域での生活傾向をつかめるようになれればうれしいですね。モニター数を増やしつつ、生活ログのデータ分析の精度を高めていければと思います。
株式会社 電通 田中 慧理奈氏高井:電通デジタルでは、これまでにもAIチャットボットの案件を手掛けてきました。今回のように、さまざまなマルチエージェントシステム(※1)を駆使して幅広い役割を持たせた形でのAIチャットボットの開発を行うチャレンジングな案件に取り組むことで、他社のAIサービスと差別化できればと思います。

モニター世帯を大幅に増やし、生活者データの還元により暮らしのアップデートを目指す実証実験第二弾。複数の生活行動データを組み合わせた詳細な分析、データに基づくコーチングなど、第二弾から進歩したプロジェクトに期待が高まります。
※1 複数のAIエージェントが相互に連携し、協調しながら特定のタスクや問題を解決するためのシステムのこと