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公開日: 2025/05/20

ふるさと納税日本一、移住者数急増。都城市に学ぶシティプロモーション戦略

エリア特性を生かした独自のビジネスモデルの構築や、エリア経済の活性化に資する活動事例を紹介する連載「エリア経済の未来図」。第4回で取り上げるのは、宮崎県都城市のシティプロモーション戦略です。産出額・生産額が日本一である「肉と焼酎」にフォーカスしたふるさと納税、俳優・温水洋一氏やゆるキャラ・ふなっしーを起用したPR活動など、思い切った施策で注目を集めています。宮崎県都城市 市長の池田宜永(いけだたかひさ)氏と、広報活動をサポートする株式会社 電通 第4CRプランニング局の山本友和氏へのインタビューから、地域の魅力を最大化するためのヒントを探ります。

思い切ったシティプロモーション成功の秘訣

Q.都城市がシティプロモーションに力を入れることになった経緯を教えてください。その背景にはどのような課題があったのでしょうか。

池田:私が市長に就任し、国の役所を訪問した際、窓口の方から宮崎県ではなく宮城県と間違われた上に、「とじょう市」と読まれてしまったことがあったんです。都城市は宮崎県民には知られていますが、県外に出ると知名度はまだまだ。全国の皆さんに、都城市を知っていただく必要があると痛感しました。

そこで最初に取り組んだのが、対外的なPRです。都城市は肉(肉用牛、豚、鶏などの合計)の産出額と焼酎の生産額が日本一。そのため、都城市の強みを最大限生かして「ふるさと納税」に取り組もうと考えました。2014年度下半期からは“日本一”をキーワードに、肉と焼酎のみを返礼品とすることにしました。

すると、以前は年間数百万円ほどしか集まらなかった寄附が5億円に急増。2015年度は寄附受入額が全国1位になり、他の特産品を返礼品に加えた2016年度以降も何度も日本一になったんです。この取り組みを皮切りに、シティプロモーション戦略を幅広く行うことになりました。

宮崎県都城市長 池田 宜永氏

Q.電通は、どのような形で都城市シティプロモーション戦略に参画したのでしょうか。

山本:都城市が初めてふるさと納税受入額1位になった際、新聞広告を実施したいとお声がけいただき、電通が広告制作を手掛けることになりました。私自身、都城市出身ということで思い入れもあり、それ以降シティプロモーションをサポートしています。

ふなっしーや温水洋一氏を起用し、インパクトのあるプロモーションを実施

Q.市の魅力をPRするために、都城市出身の俳優・温水洋一さんを起用したプロモーションも実施しています。こちらについてご紹介をお願いします。

池田:温水さん主演のPR動画シリーズを、都城市公式YouTubeチャンネルで公開しています。温水さんと世界的なブレイクダンサーを合成したり、「VTuberぬくみん」としてVTuberデビューしていただいたりしながら、都城市の肉と焼酎の“本物”のおいしさをアピールしています。

山本:“日本一”というフレーズは、とてもキャッチーです。ただ、ふるさと納税ポータルサイトでは「この部門に限定すると日本一」という返礼品であふれており、都城市の魅力がなかなか伝わりません。そこで、温水さんを通して都城市が“本物”の日本一であることを伝えるPR活動を行うことにしました。温水さんに出演いただくさまざまな企画は、新作を公開するたびに全国のTVやWebに取り上げられ話題になっています。

Q.2023年度には千葉県船橋市の非公認ゆるキャラ・ふなっしーを起用した移住キャンペーンも実施しました。その経緯を教えてください。

池田:都城市の人口は、現在約16万人です。この人口を10年後、20年後にも維持するため、2023年度から子育て支援、移住支援など、さまざまな政策を実施してきました。

そのうちの1つが、移住応援給付金制度。中山間地域に移住すると、1世帯当たり最大300万円、子ども(18歳未満)1人当たり100万円を加算して給付する制度です。この移住支援政策について、ふなっしーを起用してPRしたところ、予想をはるかに上回る反響がありました。2023年度の移住者数は、想定の2倍以上に当たる3,710人。10年後に人口減少を止めるつもりが、1年で人口減少が止まり人口増に転じました。予算の都合上、2024年度は給付に制限を設けましたが、引き続き日本トップレベルの移住支援を行っています。

山本:市長から「届くべき人に届くコミュニケーションを」というお話をいただき、あえて最も移住しなさそうな方という観点で、ご当地キャラクター・ふなっしーに依頼しました。2023年度の場合、都城市の移住応援給付金は人数制限がなく、子ども1人当たり100万円加算されます。ふなっしーは274人兄弟なので、家族全員で移住すると給付金は2億7,700万円に。インパクトのある数字ですし、この政策を伝えるにはベストなキャスティングだと考えました。

また、移住・定住支援サイトにも力を入れました。「住めば住むほど都城」というタグラインを掲げ、トップページではアニメーションを使用して給付金制度を分かりやすく伝えつつ、都城市の美しい自然や豊かな暮らしも一体化して見えるように設計しています。情報の伝わりやすさに関しては、どの自治体にも引けを取らないと自負しています。一度見てもらいたいです。

目的を明確にし、最短距離で結果を出す方法を考える

Q.こうした取り組みがテレビなどのメディアでも取り上げられ、都城市の認知度はさらに高まっています。シティプロモーションの成功要因は、どこにあると思いますか?

池田:私は、何をするにも最短距離で結果を出そうと考えます。われわれの目的は、都城市を全国の皆さんに知っていただくこと。さまざまな取り組みのうち、ふるさと納税が最短距離ではないかと考え、市の特色を出しつつ、その魅力をいかに最大化するかを検討しました。そこで、特産品を思い切って肉と焼酎に絞り、即断即決で施策を打ち出したことがプラスに働きました。

山本:私は、市長の打ち出す政策がキャッチーだからこそ成功に結び付いたと思います。魅力的な「What to Say(何を伝えるか)」があれば、「How to Say(いかに伝えるか)」を考えるのは簡単です。過去の事例を振り返っても、成果を上げている企業はトップがキャッチーな「What to Say」を掲げているケースがほとんどです。

株式会社 電通 山本 友和氏

池田:電通さんのプロモーション戦略も功を奏しました。われわれだけでは思いつかないアイデアを次々とご提案いただき、大変ありがたかったです。しかも、ふるさと納税受入額で1位になったり、ユニークなPRを行ったりすると、メディアに取り上げられる機会も増えます。こちらが新たな政策を発信すると、メディアがまた取材に来て、皆さんに都城市を知ってもらう機会が増える……という好循環が生まれています。

山本:税収が増えたことで、街ににぎわいも生まれています。市立図書館がリニューアルしたり、複合施設「TERRASTA(テラスタ)」(※)ができたり、都城市に帰るたびににぎやかさが増していて、シティプロモーションの成果が市民に還元されているのを感じます。

大事なのは、トップが腹をくくり、成果を見極めること

Q.市の職員や、住民の皆さんの反応を教えてください。

池田:シティプロモーション戦略の結果は、ふるさと納税受入額や移住者数など数字で表れます。官公庁の仕事は数字で表せないものが多いため、職員のモチベーション向上につながっています。

一方、住民の皆さんの反応はさまざまです。ふるさと納税でいただいた寄附金は幅広い施策に使っていますが、住民の皆さんから多くの支持をいただくことはそう簡単なことではないと感じています。

とはいえ、市外の方から「最近、都城は元気だね」と言われることは都城市にとってありがたいことだと思っています。市外の方の声が市民の皆さんにも伝わり、気運を醸成されることも重要だと考えています。

Q.共通の課題を持つ自治体に向けて、アドバイスをお願いします。

池田:シティプロモーションは、フラットであるより尖った戦略の方が、結果が出やすいと思います。大事なのは、トップが腹をくくり、成果を見極めること。本気で取り組むなら、電通さんのようなプロのアイデアを取り入れつつ推進していくのも有効ではないでしょうか。

 


 

ふるさと納税の返礼品を絞ったことで、「日本一の肉と焼酎のふるさと」という強い印象を残した都城市。他の自治体に埋もれず、唯一無二の魅力をアピールするには、思い切った施策を打ち出す決断力と、尖ったアイデアも受け入れる柔軟性がカギとなりそうです。

※隣接する市立図書館などの施設とともに都城市中心市街地の活性化に寄与することを目指した、ホテル、レストラン、フードマーケットなどからなる複合施設

※掲載されている情報は公開時のものです

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著者

池田 宜永

池田 宜永

宮崎県都城市

1971年4月7日生。宮崎県都城市出身。宮崎県立都城泉ヶ丘高等学校卒業。1994年3月、九州大学経済学部経済学科卒業。同年4月、大蔵省に入省(大臣官房調査企画課)。1999年3月、東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。2012年6月、財務省を退職。同年11月の都城市長選に出馬、初当選。現在4期目。

山本 友和

山本 友和

株式会社 電通

宮崎県都城市出身。大学院で爆薬を研究後、なぜか株式会社 電通に入社。7年間の営業局勤務後、クリエイティブ局へ。

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