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2025年7月、国内電通グループの5社(株式会社 電通株式会社電通デジタル株式会社セプテーニ・ホールディングス株式会社電通総研イグニション・ポイント株式会社)は、AI活用・開発の中核を担う横断組織「dentsu Japan AIセンター」(以下、AIセンター)を発足しました。AIをビジネスの中核に据えた経営革新、「AIネイティブカンパニー」への変革が進む中、同センターは企業活動にどのような影響を与えるのでしょうか。

AIセンターのキーパーソンにインタビューする本記事の前編では、AIセンターのユニット1~3の役割や、AIネイティブ時代に目指すべき企業の在り方について話を進めてきました。後編では、ユニット4~6のミッションや、AIセンターの強みや今後の展望について、電通総研の水野和大氏、電通の伊勢裕子氏、電通の藤本眞一郎氏に話を聞いていきます。

マーケティング・非マーケティング両面から、顧客のAIトランスフォーメーションを支援

Q.「dentsu Japan AIセンター」には、1~6のユニットがあります。前編ではユニット1~3を紹介しましたが、ユニット4~6はどんな役割を果たしているのでしょうか。

dentsu Japan データ&テクノロジー委員会

伊勢: ユニット4「AI・データインフラ強化ユニット」では、電通が2017年から推進してきた『People Driven Marketing®』の流れを受け、人起点のデータ活用をさらに進化させる取り組みとして、AI活用の基盤となる「AIデータインフラ」の強化・拡充に取り組んでいます。具体的には、電通が保有する大規模生活者データをもとに構築されたAIペルソナ「People Model」の開発・運用や、AIエージェントの開発などを推進し、AIモデルの構築から実装・運用までを支える基盤整備を進めています。dentsu JapanのAI活用の強みは、こうした取り組みを支える多様かつ高品質な生活者データにあります。

株式会社 電通 藤本 眞一郎氏
株式会社 電通 藤本 眞一郎氏

藤本:ユニット5「AIマーケティングトランスフォーメーションユニット」では、顧客のAIネイティブ化に向けて、大きく分けて2つの支援をしています。1つは、マーケティング業務のBPR(業務プロセス改革)。顧客のマーケティング業務にどのようなAIを導入すべきかを診断し、どうリエンジニアリングしていくかというコンサルティングを行います。もう1つは、AIソリューションやAIエージェントの導入支援です。

水野:簡単に言えば、ユニット1はAIを使ったdentsu Japan社内の業務効率化、ユニット2~4はAIソリューションやエージェントの開発、ユニット5はdentsu Japan外の顧客に向けてAIマーケティングソリューションを提供する役割を果たしています。

そして、ユニット6「AIトランスフォーメーションユニット」は、顧客に対し、経営、事業開発、人事、営業など、マーケティング以外の領域でのAIトランスフォーメーションを担うチームです。「AI掛け算」と称していますが、dentsu  Japan各社の強みを掛け合わせ、顧客にビジネス変革を起こす役割を担っています。

藤本:マーケティング領域の課題を解き始めると、営業や顧客対応だけでなく、組織文化や人事・HR領域の課題に行き着くこともあります。ホリゾンタルな変革が求められるため、こうした課題に対してAIを活用してどのようにアプローチできるか、今まさに準備しているところです。

日本人口と同規模の1億人のAIペルソナで、市場調査を仮想的に実行

Q.先ほど伊勢さんのお話に上がったAIペルソナ「People Model」の活用法や、期待できる成果についてお聞かせください。

伊勢:現在開発中の「People Model」は、1億人規模、つまり日本の人口規模のAIペルソナです。

これまで、何らかの情報を得るには「調査」という手法が一般的でした。ただし、調査には労力、時間、費用などのコストが掛かります。そのため、「そこまで本格的な調査ではなく、なんとなく動向を知りたい」「しっかり調査する必要があるのか確認するために、まずは軽く調査したい」というニーズには応えきれていませんでした。

株式会社 電通 伊勢 裕子氏
株式会社 電通 伊勢 裕子氏

伊勢:このような場合に、AIペルソナで仮想的に調査を行うことで、実際の調査に近い答えを出せるようになりました。例えば商品キャンペーンの実施にあたり、「まずは感触を確かめてみたい」という企業の場合、「People Model」を使えば一瞬で確度の高い答えを出せます。その結果をもとに、プランナーが企画を立てていくことも可能です。

「People Model」は注目度が高く、すでに60件以上の引き合いをいただいています。電通の汎用的な大規模調査データにプラスして、顧客が同時に収集しているデータも併せて使い、インサイトを出せないかというご要望をいただくこともあります。

「AI For Growth」戦略におけるAIセンターの役割

Q.藤本さんは、dentsu JapanのAIマーケティングトランスフォーメーション支援の強みはどこにあるとお考えでしょうか。

藤本:大きく3つ挙げられます。1つ目は、膨大なデータです。「People Model」で活用しているような大規模生活者データの他にも、膨大なインサイトデータ、ソーシャルメディアやマスメディアなどのメディア連携による行動データ、約7,000社の企業とつながりのあるdentsu Japanならではの企業間データなどに強みがあります。

2つ目は、マーケティングノウハウです。マーケター、クリエイター、リサーチャー、メディアプランナー、データアナリストなど、dentsu Japanの属人的ノウハウをわれわれがご提供するAIプロダクトやクライアントさまの中に構築するAIに組み込んでいきます。

3つ目は、コンサルティングおよびシステム開発能力です。DXからチェンジマネジメント、経営事業戦略まで幅広く支援できるコンサルティング能力、そしてAIプロダクトやAIエージェントの開発・実装を行うシステム開発能力は、電通総研、電通デジタル、イグニション・ポイントの得意とするところです。

Q.こうした強みを生かし、dentsu Japanが掲げる「AI For Growth」戦略において、AIセンターはどのような役割を果たしていくのでしょうか。

水野:AIセンターには5つの役割があると考えています。1つ目は、最も重要なグループ横断でのAI戦略の実行と推進。2つ目は、dentsu Japanが「AIネイティブカンパニー」へと変革を推進する旗振り役。3つ目は、独自のAIモデルを開発・活用したり、AIアプリケーションを作ったりという開発。4つ目は、人財育成とAIバランスの強化。AIガバナンスコミッティの運営やAIサービス利用ガイドラインの策定など、AIリテラシーを高めてガバナンスを強化する役割です。5つ目がパートナーシップと研究開発の推進。外部機関やスタートアップ、プラットフォーマーとの連携を強化し、いち早く最新技術を取り入れ、浸透させていくことも、AIセンターのミッションだと考えています。AIセンターの6つのユニットは前述したそれぞれの専門性を生かしつつ、これら5つの役割を横断的に担っています。

株式会社電通総研  水野 和大氏
株式会社電通総研  水野 和大氏

バリューチェーン全域でAIトランスフォーメーションを推進

Q.AIセンターでは、どのような技術革新や社会貢献を目指していますか?

水野:AIを未導入・未活用の企業を支援し、生産性向上や日本経済の活性化につなげることが、AIセンターの社会貢献だと考えています。そのため、さまざまな顧客企業のAI利活用の推進や事業成長をサポートしていきたいですね。

さらに、マーケティング領域にとどまらず、業種を問わずバリューチェーン全域でAIトランスフォーメーションを推進したいと思っています。例えば、職人の暗黙知化した技術を伝承するために、AIエージェントを開発し、技術継承を行うのも、AIトランスフォーメーションであり、高齢化問題に対する1つの答え。AIによって、あらゆる領域で社会進化を実装する。それが私の考える社会貢献です。

Q.最後に、今後の展望をお聞かせください。

水野:dentsu Japanは、「IGP(Integrated Growth Partner)」をビジョンに掲げ、顧客企業と社会の持続的成長にコミットするパートナーになることを目指しています。

IGPを実現するための4つの事業領域(AX、BX、CX、DX)全てにおいてAIが活用されており、顧客企業の成長を支援していますが、AIセンターの設立によって、グループ内に分散していたAI人財やリソースを結集し、グループ横断でAI開発・導入が可能になりました。今後は、人間の知とAIの知を掛け合わせ、顧客企業や日本社会、さらには世界の成長に貢献していきたいと考えています。AIは業務効率化だけでなく、企業経営や組織そのものに変革をもたらす力を持っています。人もAIから学びを得ながら、人とAIで共に高め合い、イノベーションを起こすことがわれわれの展望です。

藤本:目指すは、効率化から価値創出へ。顧客ニーズに対して価値を創造し、創出した価値を起点にバリューチェーン全体を活性化させ、IGPの実現へとつなげていきます。長年の歴史の中で、クライアントさまの業務理解やマーケティング領域周辺の知見があるからこそ、クライアントさまと一緒にAIを活用し、顧客企業の成長を実現していくための真のパートナーとなることを目指しています。

集合写真

 


 

AIの活用はマーケティング領域にとどまらず、経営戦略、R&D領域、非財務領域にも影響をもたらします。AI未導入の企業も、まずはAIセンターと共に業務の棚卸から始め、業務プロセスの見直しや効率化、さらには組織風土の見直しにつなげてはいかがでしょうか。

※掲載されている情報は公開時のものです

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著者

水野 和大

水野 和大

株式会社電通総研

株式会社電通総研 (旧 ISID) 入社以降、専らアプリケーションアーキテクトを担当し、ミッションクリティカルなプロジェクトやサービス系の新規プロダクトのアーキテクティング、開発を担当。近年はAIソリューション開発やAIプラットフォーム構築、各種SI×AI案件を数多く担当。日本企業全てのAIネイティブカンパニー化を目指す。

伊勢 裕子

伊勢 裕子

株式会社 電通

大手都市銀行でのシステムエンジニアを経て、株式会社 電通に入社。ダイレクトビジネス系クライアントを中心に、マーケティングROI向上のための「マス×デジタル×CRMプランニング」のシステム開発と、さまざまな業界におけるPDCAマネジメントを実践。2024年にデータプライバシー専門チームの立ち上げ、2025年よりdentsu Japan AIセンター AI・データインフラ強化ユニットを兼任し、AIデータ基盤開発を推進。

藤本 眞一郎

藤本 眞一郎

株式会社 電通

メディア部門9年、営業経験6年を経た上で、現在、企業のビジネストランスフォーメーションのプロデュースおよびコンサル業務に従事。大規模クライアントの新規事業開発およびDX支援、ブランディング支援、組織文化変革支援、人財開発支援を主に従事。現在、dentsu JapanにおけるAIマーケティング変革支援のビジネス開発をリード。

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