電通×NPO広報力向上委員会
「伝えるコツ」20周年記念フォーラム開催
2025/03/28
NPOの広報力向上を支援する「伝えるコツ」プロジェクトの20周年記念フォーラム(主催:電通、NPO広報力向上委員会、日本NPOセンター)が2月19日、東京・汐留の電通本社ビルで開催された。

2004年に立ち上げられた同プロジェクトは、日本NPOセンターが事務局を務めるNPO広報力向上委員会と電通が共同開発したプログラムで、翌05年から電通のクリエイターを中心とした講師によるオンラインと全国各地でのセミナーを開催、実施回数は20年目にして150回を超え、のべ5800人以上が参加している。
今回のフォーラムでは、「サステナビリティ時代のコミュニケーション」をテーマに、元電通執行役員の白土謙二氏による基調講演とそれに続く二つのディスカッションが行われた。
◼️基調講演
「サステナビリティ時代のコミュニケーション ~20年、社会と企業の変化と発展~」
白土謙二氏(思考家/元電通 執行役員、特命顧問)
白土氏はまず、NPO/NGOのコミュニケーション活動の質的変化について概観した。白土氏はこの20年の間にNPO/NGOと企業の関係は、人材の交流や企業活動の社会化を背景に、「対立」→「接触」→「協力」へと変化してきていると指摘した。さらに、今後は課題解決型起業の広まりなど、新しいステージへの模索が進むと予測した。NPO/NGOのコミュニケーション活動については、この20年間でレベルが上がっている一方で、コミュニケーションの類似化が進んでいると指摘。生成AIによる今後のコミュニケーション活動の合理化・自動化も見据えて、もう一度活動の原点に立ち返って「差異化」を図る必要性を唱えた。

続いて、この20年間の企業活動の質的変容について概観した。寄付や社会貢献を通じて環境や社会に配慮するこれまでの企業活動では、もはや深刻化する社会課題に対応できないとの認識から、いま企業に求められているのはビジネス=本業を通じて課題を解決することだと述べた。
最後に、白土氏はNPO/NGOと企業の関係性の未来像について論じた。企業にとっての喫緊の課題は「サステナビリティの重要度をどう自分ごと化できるか」であるとし、その動機となるのは課題に対する真の理解だとした。一方で、NPO/NGOに求められる資質として、白土氏は「想像力」を挙げた。想像力こそが、真の課題のありかとその本質に導いてくれるとし、企業が課題に気づかないのであれば、NPO/NGOから提言するような関係性をつくっていくことを期待すると述べた。
◼️ディスカッション①
「社会課題に向き合う企業/NPOのコミュニケーションと多様な連携に向けて」
安藤勉氏(電通コーポレートワン コンプライアンスオフィス 人権啓発部長)
木内真理子氏(ワールド・ビジョン・ジャパン 理事・事務局長)
実吉威氏(ひょうごコミュニティ財団 代表理事)
白土謙二氏(思考家/元電通 執行役員、特命顧問)
基調講演を受けて、企業/NPOのコミュニケーションをテーマに、4人のパネラーがディスカッションを行った。

木内氏は大学生に向けて社会課題の講義をした経験をもとに、普段SNSから情報を得ている若い人たちの中には偏った意見にのみ接触したり、情報が多すぎて何を信じればよいのかわからなくなっている人もいるとし、「SNS時代、パッと関心を引けるが、そこから長い時間をかけて課題の本質を知ってもらうためのジャーニーを提供していくことに難しさを感じる」と述べた。
安藤氏は、企業内で人権に関するコンサルティングやリスクチェックの業務を担う中で、「いま目にしている情報だけで本当に十分なのかという不安」を常に持ちながら仕事と向き合っているとし、「まだ言語化されていない社会課題の声」をケアするためにも、「現場を知っているNPOのみなさんに力を貸してもらいたい」と語った。

実吉氏はNPOの広報のあり方を考えるうえでの一つの視点として「コミュニケーションだけでそれ(課題)を解決できるのだろうか」と問いかけ、課題の解決のためには「コミュニケーションにプラスしてコミュニティが必要ではないか」と訴えた。SNSが大きな力を持つ社会だからこそ、「参加して、実体験して、議論して」いくコミュニティの存在と蓄積が重要であるとし、NPOに取り組みを促した。
白土氏は、あるNPOの活動事例を紹介しながら、試行錯誤しながら真の課題に近づいていくそのプロセスに人々は関心を寄せたとして、「課題を愚直に掘っていく」ことの大切さを訴えた。また、さまざまな人や団体の力を借りながら課題を解く「マルチセクターアプローチ」や、真面目に解きがちな課題を時には楽しく解いてみるといった「課題に対する多様で柔軟なアプローチ」を提唱した。
◼️ディスカッション②
「NPOの広報・コミュニケーションのこれから」
鈴木契氏(電通 クリエイティブディレクター・コピーライター)
長澤恵美子氏(わくわく共創オフィス 代表/元 日本経済団体連合会)
吉田建治氏(日本NPOセンター 事務局長)
最後に、「伝えるコツ」に長く関わりNPOの現場もよく知る3人がディスカッションを行った。

鈴木氏はコピーライターの視点からコミュニケーションにおいて「わかりやすさ」を追求しすぎると「上滑りするツルツルの言葉になってしまう」とし、逆に「これを言いたい、これをぶつけてみたいというところまで、がんばって言葉を探す」ことで「手触り感」のある伝わる言葉が生まれてくると述べた。
長澤氏は社会課題を巡って「企業とNPOの目指すものや組織の距離が近づいていると感じる」として、両者の違いを考えることが重要と指摘。NPOに期待するものとして「社会課題の可視化」や「企業とは違うアプローチ」を挙げた。また、NPOが企業と「対等な立場で協働することでイノベーションやスピードが生まれる」としつつ、時には企業にとって耳の痛い話もするような「緊張感のある信頼関係」を築く必要があるとした。

吉田氏は企業とNPOの違いについて、企業と生活者の関係は「サービスを提供する/提供される」を基本とする一方、「当事者と一緒に考える場をつくる、一緒に取り組むという関係性をつくれるのはNPOの強み」とし、そのことにより社会を少しずつ変えていくことができるし、そこでコミュニケーションは重要な意味を持つと述べた。
今回のフォーラムは、サステナビリティ時代におけるコミュニケーションのあり方について理解を深めるとともに、企業とNPOが連携して社会課題に向き合うための広報やコミュニケーションの新たな可能性について模索する貴重な機会となった。
■日本NPOセンターによる20周年フォーラムの報告記事はこちら
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