カテゴリ
テーマ

生活者が企業のどのような活動や事実(ファクト)に魅力を感じ、どのように伝わっているのかを解析することを目的に実施している「魅力度ブランド調査」。本調査は、企業広報戦略研究所(電通PRコンサルティング内)が開発した「魅力度ブランディングモデル」に基づき設計され2016年から実施されてきました。

2025年に行われた「第10回魅力度ブランド調査」では、「魅力度ブランディングモデルVer.3」として7年ぶりに改訂されたことが大きなトピックに。従来モデルの考え方を踏まえつつ、時代の変化に合わせて指標を再構成し、新たな枠組みへと進化しました。

本連載では、この新モデルについて、調査から得られたファインディングスを紹介します。

企業のファクトにこだわるPR思考のブランディングモデル

企業ブランドの評価指標にはいくつかのモデルが存在します。しかし、その多くは「企業がどのようなイメージを持たれているか」を測るものです。これらは、イメージの高低や競合との比較を通じて、「どの方向性で強化すべきか」を見極めるには有効です。

たとえば「このイメージを補強するためにCMを制作する」など、“イメージ想起”から逆算したコミュニケーション設計に役立ちます。また、目的とするイメージが明確であれば、広告やパブリシティといった手段の選択や、企業の未来像を描くなど、そこに“表現の方法に工夫を加える余地がある”ことも一つの理由となっています。

一方で、パブリックリレーションズ(PR)領域では少し異なるアプローチが求められます。PRでは、「(イメージを裏付ける)エビデンスである実際の企業の活動(ファクト)」が何よりも重視されます。そのため、よりファクトに基づく魅力指標が必要なのです。

この考え方のもと、企業広報戦略研究所は2016年に「魅力度ブランディングモデル」を開発。2025年に「魅力度ブランディングモデルVer.3」として改訂を行いました。改訂は2018年以来2度目となります。前回の改訂から7年、コロナ禍を経て世界情勢も大きく変動したことから、あらためて、社会課題の解決、グローバル対応、マルチステークホルダー対応など、企業を取り巻く社会・経済の環境変化を踏まえ、従来の魅力度を測る指標の改訂に着手しました。

また、生活者(顧客や個人投資家、就活生をはじめとしたステークホルダー)が魅力に感じる企業の活動(ファクト)が、年々変化していることは認識していました。そのため、ダイバーシティやグローバル、技術革新などの項目の追加が必要であると考え、魅力領域・魅力項目を追加し、再構成することとしました。モデルの改訂にあたっては「ステークホルダー思考」を意識しています。

企業の魅力を構造的に整理し、“伝わる力”を見える化

新モデルは、企業が目指す「ありたい姿」に向けて情報発信を行う際、その根拠となる企業の活動(ファクト)に対して、“魅力”として感じられる要素を整理・構造化しています。

「生活者をはじめとしたステークホルダーが、どの魅力をどの程度感じ取っているのか。
その魅力が意識変化や行動変容といったアウトカムにどう影響するのか。
さらに、その結果が企業ブランド全体にどのように波及するのか――」

それらを体系的に可視化するのが、本モデルの目的です。

new-a-branding01_01.jpg
図1 魅力の伝わり方を構造化した魅力度ブランディングモデルVer.3

3つの要素・24の領域で“企業の魅力”を分解

本モデルでは、“魅力”的に感じられるであろう企業の活動(ファクト)を、次の3つの要素に分類しています。

・人的魅力
(パーパス・ビジョン、インテグリティなど、法人として醸し出す「人格」や、経営者や技術者など「人」から伝わる魅力)

・社会的魅力
(ダイバーシティ、イシュー対応など、企業を取り巻く社会やステークホルダーとの「つながり」から伝わる魅力)

・商品的魅力
(感動・共感、独創・革新性など、商品・サービスを通じて、企業が「提供する価値」から伝わる)

それぞれの魅力要素を8領域ずつ、合計24の領域に細分化しています。

new-a-branding01_02.jpg
図2 魅力3要素の定義と24の魅力領域

このモデルの考え方を基に、全国の生活者1万人を対象に、20業種・200社の魅力についての調査「魅力度ブランド調査」を行いました。その結果、企業の“魅力”の3要素である「人的魅力」「社会的魅力」「商品的魅力」のうち、「人的魅力」が37.1%と、感じられる魅力として最も多いということがわかりました。

次いで、「商品的魅力」が33.4%、「社会的魅力」が29.5%となりました。(実査では、魅力領域1つに対して2つの調査項目を設定しており、全48の調査項目の総量を100とした際の割合)

new-a-branding01_03.jpg
図3 魅力の3要素の割合

生活者が企業に求める魅力とは?

各企業について「あなたが企業に魅力を感じる要素は何ですか?」と尋ねた結果、企業の“魅力”は以下の3点で強く感じられていることがわかりました。
1.「イシュー対応」(生活に欠かせない課題への取り組み)
2.「安定・透明性」(安心感・経営の信頼性)
3.「技術」(高い技術力やノウハウ)

new-a-branding01_04.jpg
図4 魅力領域の選択率ランキングTop5

また、選択率トップ5の領域のうち3つは「人的魅力」に関わる要素が占めています。
これらの結果は、生活者が“人”や“組織”に基づく信頼感を構築したり、共感形成したりするうえで重要な要素と考えられます。

魅力領域をさらに細分化した魅力項目で見てみると、以下のことがわかりました。

new-a-branding01_05.jpg
図5 調査項目の選択率ランキングTop5

魅力項目の選択率トップ5では、1位が「安定・透明性」領域(人的魅力)の「経営が安定している」、2位が「イシュー対応」領域(社会的魅力)の「生活に欠かせない商品・サービスを提供している」、3位が「安全・安心」領域(商品的魅力)の「品質に信頼がおける商品・サービスを提供している」、4位が「技術」領域(人的魅力)の「高い技術力・ノウハウに基づく商品・サービスを提供している」、5位が「フロンティアスピリット」領域(人的魅力)の「グローバルにビジネスを展開している」という結果に。

これらはいずれも企業としての“基盤的信頼性”や“社会での存在意義”を示す要素が中心になっています。つまり、生活者が求める魅力は、企業の派手な話題性よりも「信頼・安心・生活貢献」が最も重要な基盤となっており、「挑戦」や「個性」は、まず信頼と安心を確立したうえで評価される“発展的な魅力要素”であることが示唆されます。

“魅力”の情報経路は「リアル」「広告」「番組・記事」が中心

生活者が魅力を感じるきっかけとなった情報経路では、以下の順となりました。
1.リアル体験(購入・利用、お試しなど)
2.広告(特にテレビCMなどの映像訴求)
3.番組・記事(ニュースや特集を通じた接触)

魅力の情報経路では、購入して感じたり、情報を通じて感じたりなど大きく分かれますが、全体的には、購入したり試したりする「リアル」、テレビCMなどの「メディアの広告」、テレビ番組やニュース記事などの「メディアの番組・記事」が高くなっています。

もちろんこれらの情報経路は、BtoC企業、BtoB企業などで変わることもわかっています。

new-a-branding01_06.jpg
図6 魅力の情報経路(カテゴリと内訳)

企業広報戦略研究所では、これらの魅力の傾向を“人的魅力の優位性”と捉えています。

先述のとおり「信頼・安心・生活貢献」は、企業の魅力を形成するうえで最も重要な基盤と考えられますが、これはあくまで企業として備えるべき基本的要件です。この基盤を満たしたうえで、企業が示す「挑戦」への姿勢や「個性」の発揮こそが、他社との差別化を生み出す“発展的な魅力要素”として機能します。そして、そうした「挑戦」や「個性」は、まさに法人としての人格、さらには経営者や技術者など“人”から伝わる魅力であり、“人的魅力の優位性”につながると考えています。

次回は、「業界ごとに適切な“魅力”でアプローチを」について、調査データをもとにご紹介していきます。

【調査概要】
調査名:魅力度ブランド調査
調査時期:2025年6月20日~2025年7月8日
調査方法:インターネット調査
調査対象エリア:全国
調査対象・サンプル:20歳~69歳の全国の男女 10,000ss (以下セグメントごとに男女均等割付)
(内訳)20代2000ss / 30代2000ss / 40代2000ss / 50代2000ss / 60代2000ss /
※上記サンプルの抽出のために、20~69歳の一般男女(高校生以上、未既婚・職業不問)を対象にスクリーニング調査を実施。年代条件に加え、魅力に感じる20の業界(企業)が各500ssになるように振り分けた。

調査リリース:https://www.dentsuprc.co.jp/releasestopics/news_releases/20251020.html

この記事は参考になりましたか?

この記事を共有

著者

末次 祥行

末次 祥行

株式会社 電通PRコンサルティング

広告会社からプランニング会社を経て、2007年電通パブリックリレーションズ(現電通PRコンサルティング)入社。飲料、電機、通信、大学などのコミュニケーションプランニングを手掛ける。現在、企業広報戦略研究所にて、レピュテーション分析、広報効果測定、IR発信力調査、イシュー分析やソーシャルリスクなどの調査・分析、コンサルティングに従事。

あわせて読みたい