「Xross Innovation BOSAI」の事業運営を、仙台市のほか、東京海上日動、電通グループが担当。2025年8月28日、仙台市が先頭に立ち、東京海上日動や電通グループが手を組んで発足した「Xross Innovation BOSAI」。分野や世代、地域や国境を超えて、さまざまな経験から得た知恵や行動が“X(クロス・交差)”し、新たな価値を生み出す共創コンソーシアムとして誕生しました。

このコンソーシアムは、参画する多数のステークホルダーが保有するアセットなどを通じて、地域の防災・減災に資する取り組みを多数創出することを目指すもの。現在、東京海上日動はじめ、仙台市と包括連携協定を締結する10事業者が参画し、コンソーシアムを形成しています。
本連載では、地域の社会課題の解決に産学官金民で取り組む意義やその可能性、また、B2B2S(Business to Business to Society)型の事業を推進する際のヒントをひもときます。
今回は、「Xross Innovation BOSAI」の事業運営をけん引する仙台市危機管理局、東京海上日動、電通のプロジェクトメンバー5人による座談会の様子をお届けします。
さまざまな事業者の強みを掛け合わせ、イノベーションが生まれやすい仕組みづくりに必要なこととは――。
仙台市・日本が抱える防災課題。国連防災指針「仙台防災枠組2015-2030」とは?
渋谷(電通):まずは神倉さんに、このプロジェクトが誕生した経緯からお伺いしたいと思います。

神倉(仙台市):私が仙台市経済局の産業振興課長を務めていた約5年前、地域の中小企業やIT企業の成長をどう後押しするかを主なテーマとして取り組んでいました。仙台市には、七十七銀行やアイリスオーヤマといった地場の大手企業が存在する一方で、上場企業が少ないという課題がありました。地域経済を持続的に発展させるためには、多様な企業が成長し、新しい産業が育つ環境づくりが欠かせません。企業成長の方向性を考える中で思い浮かんだのが、米国で急成長したIT企業群“GAFA(ガーファ)”(※1)でした。
巨大企業そのものを目指すということではなく、プラットフォーマーとして多様なステークホルダーと新たな価値を共に生み出す仕組みづくりなど、成功例から学べる点があると感じたためです。
仙台市には、東北大学災害科学国際研究所をはじめ、防災分野に関わる強みが数多くあります。こうした地域資源を生かし、ITと防災を掛け合わせた新たな価値を創出するため、まずは私たちが産学官金をつなぐ“イノベーションプラットフォーム”を立ち上げようと考えました。この構想を具体化した取り組みが、テクノロジーを活用した防災ビジネスの創出を支援する「仙台BOSAI-TECHイノベーションプラットフォーム」(※2)です。
昨年度、危機管理局減災推進課に配属となり、新たな防災・減災の取り組みの必要性を感じるようになりました。そこで、地震火災により想定される死者数などの削減や地域防災力の向上という直面する課題に対し、多様なステークホルダーを巻き込みながら、より社会実装型のアプローチで挑むため、本コンソーシアム「Xross Innovation BOSAI」の構想に至りました。
※1 GAFA=米国の大手IT企業、Google、Apple、Facebook(現Meta)、Amazonの頭文字をとった呼称。ウェブやIT関連サービスのプラットフォームとして世界的影響力を誇る
※2 仙台BOSAI-TECH イノベーションプラットフォーム=防災×IT×ビジネスで新事業を共創し、国内外へ展開する防災テクノロジーの社会実装プラットフォーム。世界17の国・地域から、約300の企業・団体が参画。
三浦(電通):着想のモデルになったのがGAFAとは存じ上げませんでした。
神倉(仙台市):“イノベーション”とは、一般に異なる価値同士を掛け合わせることで新たな価値を創出することをいいます。一方、仙台市には、自治体として長年積み重ねてきた“信頼”があります。
この信頼という価値と、あらゆる価値を掛け合わせることで、他にはない大きな価値を共創し、“仙台防災枠組”が目指す災害リスクや被害の大幅な削減ができるのではないか――。その思いが、「Xross Innovation BOSAI」を立ち上げる際の出発点となりました。
渋谷(電通):仙台防災枠組とは、具体的にはどのような内容でしょうか。
神倉(仙台市):2011年の東日本大震災のあと、2015年に仙台市で「第3回国連防災世界会議」が開催され、国際的な防災の行動指針となる「仙台防災枠組2015-2030」が採択されたことは、本市にとっても非常に大きな出来事でした。
この枠組では、
1.災害リスクの理解
2.災害リスクの管理
3.災害リスク削減のための投資
4.備えの強化と“より良い復興”
という4つの優先行動を、社会全体に織り込むことで、防災の大きな流れを生み出すことが掲げられています。
特徴的なのは、行政が単独で進めるものではなく、市民社会やボランティア、学術機関・研究機関、企業・専門家団体、慈善団体、民間金融機関、メディアなど、いわゆる “産・学・官・金・民”の多様なステークホルダーと連携しながら取り組む点です。
さらに、この仙台防災枠組はSDGsの目標設定にも評価指標として採用されており、「パリ協定」「SDGs」と並んで“国際三大アジェンダ”の一つと位置付けられています。
三浦(電通):なるほど。仙台発の防災の理念が、世界の大きな潮流の中で重要な役割を果たしているということですね。
神倉(仙台市):一方、防災活動の現場を見ていると、地域では町内会を中心に、市民の方々が本当に熱心に取り組んでくださっています。また、小中学校では、各校の防災主任の先生を中心に、防災教育も積極的に行われています。しかし、町内会との関わりが薄いご家庭や私たちのような働く世代にまでその意義や必要性が十分に伝わっているかというと、正直なところ、まだ届ききっていないのが現状です。
そしてこれは、仙台市に限った課題ではなく、全国的にも同じ傾向が見られるのではないでしょうか。
市民の暮らしに“事前防災”の考え方を根付かせることが不可欠
渋谷(電通):なぜ、防災・減災への意識は市民に根付いてこなかったのでしょうか。
神倉(仙台市):その背景には、東日本大震災以前の防災の取り組みが、主に災害発生後の対応、いわゆる“事後防災”に偏っていたことがあります。たとえば「防災」と聞くと、私たちが学校で習ってきたのは「地震が起きたら机の下に隠れる」といった、発災直後の行動が中心でした。
さらに、「これまで大きな被害を受けなかったから、今後も大丈夫だろう」という思い込み、いわゆる“正常性バイアス”にとらわれてしまうことも、大きな課題のひとつです。
三浦(電通):避難訓練は浸透していますが、これも事後の対応ですよね。
神倉(仙台市):はい。避難訓練は、先ほど触れた仙台防災枠組における優先行動4「備えの強化」に該当します。
隅田(電通):これまでの災害の歴史や経験を語り継ぐ“伝承”が大事だとされている印象もありますが……。
神倉(仙台市):それも優先行動4にあたります。伝承は非常に大切な取り組みですが、東日本大震災の経験や教訓の伝承そのものだけでは災害リスクを大幅に減らすことはできません。自然災害は、地震や津波だけではなく、洪水・浸水、土砂災害、高潮、火山噴火など多岐にわたり、その対策は災害ごとに全く異なります。自然災害のハザードマップは市区町村が作成・公開していますが、残念ながらまだ「自分には関係ない」という受け止め方が多いのも事実です。
だからこそ、仙台防災枠組が示すとおり、優先行動1である「災害リスクの理解」を深め、次に優先行動2の「災害リスクの管理」、つまり自分や家族の災害リスクを適切に洗い出し、被害を見据えて課題と対策を整理することが大切です。そして、この対策に基づき、ローリングストックの実践、家具の固定、保険への加入などの優先行動3「災害リスク削減のための投資」を行うことで、初めて“事前防災”が大きな効果を発揮します。
事後的な対応だけでは生命・身体・財産などへの被害を大幅に減らすことは難しく、何よりも“事前防災”の考え方に基づいた平時の行動が不可欠なのです。
渋谷(電通):そのために目指すべきこととは、どんなことでしょうか。
神倉(仙台市):たとえば仙台市では、「長町-利府線断層帯(ながまちりふせんだんそうたい)」が市域を横断しています。宮城県が公表した第五次地震被害想定調査では、この断層帯が活動した場合、火災による想定被害として死者845人、焼失棟数1万7825棟という非常に厳しい結果が示されました。
こうした想定を踏まえ本市では令和7年に「仙台市震災対策アクションプラン」を策定し、今後10年間で死者数を5割以上削減するという明確な目標を掲げています。ただ、この目標を達成するためには、災害が起きてからの“事後防災”では到底間に合いません。市民の皆さまの暮らしに“事前防災”の考え方をしっかり根付かせることが不可欠です。
その鍵となるのが、行政だけでなく企業・学術機関・メディア・市民など多様なステークホルダーが連携することです。そして、イノベーションによる新たな価値創造を通じて、4つの優先行動をライフスタイルやソリューションの中に組み込み、社会全体で災害リスクを減らす循環型のエコシステムを構築することが求められます。

渋谷(電通):仙台防災枠組の社会実装を、「Xross Innovation BOSAI」のコンソーシアムで目指していくということですね。
「Xross Innovation BOSAI」に参加する意義、それぞれの役割について
三浦(電通):事前防災などの取り組みは、東京海上日動さんの業務領域でもあり、強みが生かされる領域だと思います。そもそもどのような経緯でこのコンソーシアムに参加されたのでしょうか。

八木沢(東京海上日動/以下、東海):おっしゃる通り、われわれは損害保険や生命保険事業に取り組んでおり、保険金のお支払いといった発災後の対応だけでなく、災害による被害を少しでも抑制するための事前の備えとしての事業にも注力しています。そういう意味で防災・減災は親和性が高い領域です。中でも“レジリエンス(困難や危機に直面した時にすみやかに対応し、立ち直る)” を地域単位で高めることは当社の目標そのものでもあります。お客さまの生活・事業の再建を支える立場として、日頃から地域の社会課題解決に取り組むことが、当社としての存在意義だと考えています。
私たちは2022年11月に仙台市と地域の課題を解決していこうという包括連携協定を結んでいます。仙台市の防災にまつわる課題を解決しながら、会社としても収益につなげることができるのではないかと考えたのが参画の経緯です。
神倉(仙台市):東京海上日動さんや電通さんのような、各業界をリードする企業が持つ実行力や影響力。そして本市が培ってきた仙台防災枠組の採択地としての価値やステークホルダーをつなぐ力。この二つを防災の課題に掛け合わせれば、世界の防災を、より心地よく、誰にでも快適な“新しい姿”にアップデートできると考えています。

三浦(電通):われわれ電通も、社会課題の解決を通じて社会に貢献する価値創造モデル“B2B2S”(※3)を根幹に据えているので、このプロジェクトはまたとないお話でした。日頃からいろいろな企業と多様な取り組みを行っていますが、一社だけではかなえられないことは多いと感じています。
そんな中で、仙台市が自治体としてステークホルダーを束ねるという求心力を持ち、高い視座でリードすることで、われわれも一緒になって社会を変える一助になれるのではないかと、ワクワクしています。
※3 B2B2S=Business to Business to Society の略。企業(Business)が企業(Business)を通じて、社会(Society)全体に価値を届けるビジネスモデルのこと。
神倉(仙台市):イノベーションによる新たな事業創出においては、どうしてもライバル企業同士が協働することに抵抗が生まれがちです。そこで力を発揮するのが、仙台市が持つ「信頼がつなぐ力」です。
中立的な立場にある行政だからこそ、「競合関係にあっても、防災・減災という共通の目的のために共創しませんか」と呼びかけることができます。行政が橋渡し役となることで、企業同士が安心して手を組みやすい環境を整えることができると考えています。
渋谷(電通):電通としては、参画企業の意見の集約をして実行に落とし込むサポートをすること、そしてこのプロジェクト全体をマネジメントする役割を担っています。さらに、その枠を超えて、非連続な新しい価値を生み出し、どう実現へ導くのか――。支援者という立場を超えて、いかに同じ主体者という立場になれるか、パートナーとして伴走できるのかという意識を持って取り組んでいます。
神倉(仙台市):ありがとうございます。本当に心強く思っています!
電通さんは、コンソーシアムが目指す姿を的確に描き、その実現に向けて必要なステップを丁寧に整理して提案してくださいます。私たちと同じ目線で未来をつくろうとする真摯(しんし)な姿勢には、いつも励まされ、挑戦する力をもらっています。また、参画する事業者の思いをくみ取りながら、全体を一つの方向へ導いていく推進力は本当に卓越しています。私たちにとって、電通さんはまさに欠かせないパートナーだと強く感じています。

渋谷(電通):個人的にも多くのやりがいを感じています。社会のためになっているというのが一番の原動力です。さらに、仙台市やそれぞれの企業が、優劣関係ではなく同じ社会貢献という目標に向かい、ワンチームとなって取り組んでいるところにも喜びと楽しさを感じています。
神倉(仙台市):先ほど三浦さんもお話しされていましたが、防災の領域では、一社だけでは成し得ないことが多く、グループ会社だけで取り組んでも、どうしても視点が偏りがちです。だからこそ、さまざまな事業者が持つ強みを掛け合わせることで、初めて“本当に価値のある実装”が可能になるのだと思います。

隅田(電通):同業他社や異業種の方々が一緒に手を組んで同じ目標に向かうことで、本当に社会が動くと思えますし、大きなエネルギーを感じます。何より、仙台市の皆さんの人柄の良さや温かさがあってこそ、ワンチームでやっていけているとも思っています。
“エゴ”システムが創り出す10年後の防災の姿とは?
八木沢(東海):先ほど、社会課題解決をすることが東京海上日動の存在意義だと申し上げたのですが、このコンソーシアムに参加したことで、いろいろな包括連携協定企業とマッチングでき、自社ではできなかった新しいビジネスを展開できるようになりました。まさに共創を作り出すソリューション事業の領域が生まれたことは非常に面白いことです。
たとえば、防災商材のソリューションを持っているわれわれが、七十七銀行さんとマッチングしたことで行員さんが融資先の企業様に当グループの商材をご紹介できるようになりました。新たなネットワークで自社の商材を展開することができ、しかも社会課題解決につながる。お互いがWin-Winの関係になれるというのは、モチベーションの一つです。
三浦(電通):東京海上日動さんの行動力はすさまじく、さまざまな企業とどんどん話をして、推進されているのがコンソーシアムの原動力にもなっていると感じています。
隅田(電通):“エゴ”を共通言語としてワンチームになれていることもこのコンソーシアムの特徴ですよね。各事業者が手を取り合いながら、実現したいこと、売りたいものなどをむき出しにして、みんなで話し合えていることがマッチングのしやすさにつながっているのではないでしょうか。イノベーションが生まれやすい環境になっていると思います。
八木沢(東海):それこそまさに神倉さんが名付けた、エコシステムではなく“エゴシステム”ですね(笑)。
隅田(電通):“エゴ”は、われわれの中ではネガティブワードではなくなりましたね(笑)。
神倉(仙台市):「コンソーシアム参画事業者の“やりたいこと”を掛け合わせることこそ、エコシステムの原動力になる」。この価値観を端的に表す言葉として、ふと浮かんだのが“エゴシステム”でした。
自然界のエコシステムが循環するのは、生き物が本能や欲求に従って行動し、その連鎖が大きな循環を生むからですよね。私たちも「自分たちのソリューションで社会課題を解決したい」という前向きな思いを掛け合わせることで、連鎖的に災害リスクを減らし続ける“イノベーション・エゴシステム”を動かしていけると考えています。
八木沢(東海):われわれの業務としても、お客さまの課題解決をすること=提案が受け入れられるということでもあるので、結局エゴなんですよね。
三浦(電通):たとえば10年後、このコンソーシアムが成功していると実感するとすれば、どんな状況だとお考えですか?
神倉(仙台市):従来の注意喚起サインに多い黒×黄の“警戒色”のイメージではなく、日々の暮らしの中に静かに、そして自然に溶け込んでいる姿が理想だと考えています。たとえば、仙台防災推進リーダーのキャラクター「うさ防」が街のさまざまな場所にいて、防災が多様な分野の取り組みの中で当たり前のように息づいている――そんな日常です。
そして、市民の皆さんが自分の災害リスクを理解し、必要な対策を講じ、保険なども含めて自らリスクを管理することが、ごく自然な行動として根付いている社会。その気づきや行動を後押しする仕組みが、さりげなくあらゆるソリューションに組み込まれていることも大切です。このように「日々の楽しく快適な暮らしに、違和感なく防災が溶け込んでいる状態」こそが、防災のあるべき姿だと思っています。
仙台防災推進リーダーのキャラクターの「うさ防」。
渋谷(電通):素晴らしいです。
神倉(仙台市):このあるべき姿に向けた直近の取り組みとしては、東日本大震災から15年を迎える3月上旬に、「仙台防災WEEK」という合同防災キャンペーンをコンソーシアムのメンバーと共に実施します。東京海上日動さんをはじめ、イオン東北さん、みやぎ生協さん、ポーラさん、アイリスプラザ ダイユニカンパニーさんなど、各社それぞれの事業領域と防災を掛け合わせ、新たなイノベーションを創出していく構想です。「仙台防災WEEK」は、私たちが思い描く新しい防災の姿を社会に広げていく、その幕開けと捉えています。そして、この仕組みは、世界中の都市が適用可能なモデルとなります。仙台から、世界が認める防災のスタンダードを共に創り上げる。これが私たちの願いです。
三浦(電通):ゆくゆくは、全国・世界にも広げていく、そののろしにもなっていきたいですね。「Xross Innovation BOSAI」の取り組みのように、われわれのスキルがさまざまな自治体・国・企業・生活者の皆さんとの共創に貢献でき、社会がより良くなる手助けができたらうれしいです。