カテゴリ
テーマ
ニュース
公開日: 2026/04/23

ADFEST 2026:佐々木康晴が語った、AI時代における「ブランドの人間化(Humanizing Brands)」

今年の3月19日から21日にタイのパタヤで開催されたアジア太平洋地域最大級の広告祭「ADFEST 2026」。今年のテーマは「HUMAN+」——テクノロジーの進化を前提に、人間の可能性をいかに拡張していくかが問われた。

今年のGrand Jury Presidentを務めた、電通グループのグローバル・チーフ・クリエイティブ・オフィサーである佐々木康晴の講演では、生成AI時代におけるブランドとクリエイティビティのあり方について、自身の視点から語られた。


AIが前提となったクリエイティブの現場

「日々のクリエイティブにAIを使っている人はどれくらいいますか?」

冒頭、佐々木氏は会場に問いかけた。多くの参加者が手を挙げる中で示されたのは、生成AIがすでにクリエイティブの現場に深く浸透している現状である。

一方で、「人間の役割は依然として重要だ」という見方については、「正しいが、少し楽観的すぎるとも感じている」と語る。AIがもたらす変化は不可逆的であり、「待つのではなく、自ら未来を設計する必要がある」と強調した。

こうした状況の中で、広告表現の均質化も進んでいる。AIによって生み出されるアウトプットは効率的である一方、似た表現に収束しやすい。この点について佐々木氏は、「アルゴリズム時代において、“平均的であること”はむしろ敵になる」と指摘する。

効率性の追求だけでは差異は生まれない。むしろ、人間の持つ「予測不可能性」や「揺らぎ」こそが価値になるという視点が提示された。

ブランドに求められる人間性と、AIとの共創

こうした問題意識のもとで提示されたのが、「ブランドの人間化(Humanizing Brands)」という考え方である。ADFEST 2026のテーマ「HUMAN+」とも呼応しながら、ブランドに求められる役割の変化が語られた。佐々木氏は、短期的なマーケティング効率の向上だけでは不十分で、AI時代にこそブランドには人間らしさが必要だと指摘する。

生成AIによって表現が均質化するほど、ブランドにはより強い“人間性”が求められる。実際、電通の調査によれば多くのCMOが「これからはより多くの創造性と人間性が必要になる」と認識しているという。


さらに、AIとの向き合い方についても重要な視点が示された。佐々木は、「AIを使うだけでは不十分です。AIに教え、人とAIがともに成長することが重要」だと強調する。優れたプロンプトであっても、AIのアウトプットは似通いやすい。しかし、人間の持つノウハウやデータを与えることで、独自性のある成果が生まれる。

質問するだけでなく、教えることが重要であり、AIを単なるツールとしてではなく、共創のパートナーとして捉える姿勢が求められている。

AIと人間の共創が生み出す価値

講演では、AIを単なる効率化のツールとしてではなく、「人間の可能性を拡張する存在」として捉える視点が繰り返し示された。

その具体例として紹介されたのが、マグロの品質評価をAIで支援するプロジェクト「TUNA SCOPE」である。熟練の仲買人が長年の経験によって培ってきた目利きの技術をAIが学習し、短期間で高い精度を実現した。この取り組みは、単なる技能の代替にとどまらない。品質の標準化や持続可能な資源管理へとつながり、産業構造そのものに影響を与えうる可能性を持っている。

「重要なのは、AIで何を効率化するかではなく、何を実現するか」

AIの活用が、文章や画像だけでなく社会的価値の「生成」へと広がる可能性が示された。

※関連記事:開発「TUNA SCOPE」〜匠の目利きをAIに託す〜


さらに、身体に制約のある人の表現を可能にする「Waves of Will」も紹介された。脳波インターフェースを用い、思考によって身体や表現をコントロールするこのプロジェクトは、AIが人間の能力を拡張する装置として機能することを示している。

これらの事例に共通しているのは、AIを活用することで「人間にしかできないこと」を減らすのではなく、むしろ広げている点である。「HUMAN+」というテーマが示す通り、AIは人間の代替ではなく、人間の可能性を押し広げる存在として位置づけられている。

社会とつながるブランドの役割

講演ではさらに、「ブランドを人間化する」ための具体的なアプローチとして、複数の事例が紹介された。

その一つが、日本経済新聞社によるウェルビーイング指標の取り組みである。GDP中心の価値観を見直し、人々の幸福や生活の質を多面的に捉える新たな指標「GDW(Gross Domestic Well-being)」を構築。企業や政策に影響を与える形で、社会全体の価値基準の転換を促している。

また、ニッカウヰスキーの事例では、ブランドの歴史や哲学を起点に、人々の感情や記憶に寄り添うコミュニケーションを展開。単なる商品価値ではなく、時間や体験と結びついた「人間的な価値」を再定義する取り組みとして紹介された。さらに、インフレ下で生活者の課題に向き合う「Inflation Cookbook」の事例では、AIを活用して食材価格の変動を分析し、最適な買い物やレシピを提案。生活者のリアルな困りごとに対し、具体的な解決策を提示している。

加えて、JRをはじめとする交通・インフラ領域の取り組みにも言及された。移動という日常的な体験を起点に、生活者の行動や感情に寄り添うサービス設計を行うことで、単なる利便性を超えた価値を提供している点が特徴的である。

これらに共通するのは、データやAIを活用しながらも、その起点があくまで「人間の課題」や「生活者の実感」にあるという点である。ブランドは単なる商品訴求の手段ではなく、社会との関係性の中で価値を生み出す存在へと変化している。

AI時代におけるクリエイティブの指針

講演の終盤、佐々木はこれからのクリエイターに求められる姿勢として、いくつかの重要な視点を提示した。

第一に、AIを使うだけでなく、理解し、育てること。単にアウトプットを得るのではなく、自らの知識やデータを掛け合わせることで、AIとともに独自の価値を生み出していく姿勢が求められる。

第二に、効率ではなく差異を生み出すこと。AIによって均質化が進む中で、「平均であること」を超える発想や表現が重要になる。

そして第三に、人間を起点に発想すること。テクノロジーを前提としながらも、その先にある人間の感情や体験、社会との関係性に目を向けることが、ブランドの価値を高めていく。


「私たちは未来を待つのではなく、自ら設計する必要がある」

生成AIの進化が進む中で問われているのは、AIをどう使うかではなく、人間として何を生み出すのかである。
「HUMAN+」というテーマのもとで語られた本講演は、その問いに対する一つの方向性を示すものとなっていた。

この記事は参考になりましたか?

この記事を共有

あわせて読みたい