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防災を起点に、地域経済を動かす新たな仕組みとは

鈴木恭子

鈴木恭子

株式会社七十七銀行

早坂政人

早坂政人

仙台市危機管理局

我妻麻美

我妻麻美

東京海上日動火災保険株式会社

三浦 旭彦

三浦 旭彦

株式会社電通

仙台市と包括連携協定を締結する東京海上日動、七十七銀行をはじめとする10事業者が「Xross Innovation BOSAI」に参画。電通は、仙台市、東京海上日動とともに、コンソーシアムの事業運営を担当。


仙台市が先頭に立ち、東京海上日動や電通グループが手を組んで発足した「Xross Innovation BOSAI」。

分野や世代、地域や国境を超えて、さまざまな経験から得た知恵や行動が“X(クロス・交差)”し、新たな価値を生み出す共創コンソーシアムとして2025年8月に誕生しました。


本コンソーシアムでは、参画する多数のステークホルダーが有する知見や事業基盤などを生かし、地域の防災・減災に資する取り組みを多数創出することを目指しています。また、テーマごとに分科会を設け、企業同士が連携しながら具体的な取り組みを進めているのも特徴です。

そこで今回はコンソーシアム運営の中核を担う分科会の取り組みにフォーカス。
これまで行政が中心だった防災・減災への取り組みを、どのように企業主体へと転換し、企業や地域住民が当事者として関わる地域社会を構築していくのか――。
「Xross Innovation BOSAI」の事業運営をけん引する仙台市と、分科会の幹事企業である七十七銀行に加え、東京海上日動、電通の4者が、防災×経済循環の仕組みについて語り合いました。

なお本連載では、地域の社会課題の解決に産学官金民で取り組む意義やその可能性、また、B2B2S(Business to Business to Society)型の事業を推進する際のヒントをひもときます。

強固な顧客基盤を生かし、企業の防災意識を底上げする

三浦(電通):本日は、七十七銀行さんが幹事企業となり運営されている分科会③について深掘りしていきたいと思います。まずは、七十七銀行さんが、「Xross Innovation BOSAI」に参画された背景からお聞かせいただけますでしょうか。

七十七銀行 鈴木氏

鈴木(七十七銀行):当行は仙台市と2019年9月に包括連携協定を締結し、幅広い分野で連携し協力をすることを前提としたパートナーシップを構築しています。こうした背景のもと、地域課題の解決に向けた「Xross Innovation BOSAI」に参画することになりました。本コンソーシアムは世界的にみても非常に新しい取り組みであり、企業が課題解決に活用できるアセットを持ち寄り、地域の課題解決に取り組んでいくという考え方には大きな可能性を感じています。参画を通じて私たちとしても学びが得られるのではという期待もありました。

また、当行は東北地方および仙台市を中心に強固な顧客基盤を有しているという強みがあります。そうしたネットワークを生かし、地域の企業さまの防災意識を高めたり、防災知識を深めたりする役割を担うことができるのではないかという思いもあります。

早坂(仙台市):仙台市としては、歴史があり、地元の企業から厚い信頼を集めている七十七銀行さんが事業者として参画してくださることに、心強さを感じました。分科会に参加する企業にとっても「七十七銀行さんが参画している」という事実自体が、大きな後押しになっていると思います。

三浦(電通):とくに七十七銀行さんが幹事を担当する分科会③は「防災の主流化と地域経済の循環」をテーマに掲げています。地域の要であり、幅広い企業とつながりがある七十七銀行さんが主導していることは、地域経済の循環を促す上で大きな強みになりそうですね。

こちらの分科会には東京海上日動さんも参画されていますが、普段はどのように各社と連携し、取り組みを推進されているのでしょうか?

我妻(東京海上日動/以下、東海):分科会の運営は、幹事企業である七十七銀行さんが中心となって進めてくださっていますが、当社も事務局の一員、そして参画企業の一社として運営に携わっています。現在は、2週間に1度のペースで定例会を開催し、七十七銀行さんと当社のほか6~7社の企業が参加し、地域の防災や減災につながる取り組みや協業に向けたアイデア出しなどを行っています。定例会では毎回活発な意見交換が行われているのも印象的です。

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BtoBから防災・減災をアプローチする意義とは?

三浦(電通):分科会③ではどういった取り組みを行っているのでしょうか?

鈴木(七十七銀行):先ほどもお伝えした通り、私たちは企業の経営者とのつながりを強みとしています。この分科会では参加企業が有するネットワークや専門的知見などを生かしたBtoBのアプローチにより、防災・減災の意識を地域社会全体に浸透させていくことを目指しています。

たとえば、企業が事業を継続的に行う上で、BCP(事業継続計画)(※)の策定は重要なテーマの一つです。BCPを検討・見直す過程では、保険や資金繰り、建物の耐震性、インフラ、データ(ネットワーク環境)など、さまざまな経営課題に直面することになります。

地域の企業さまに防災・減災の意識を浸透させ、こうした経営課題と向き合っていくことで、結果として企業の経営力の向上にもつながります。そして、ゆくゆくはそれが地域経済を回す原動力になっていくと考えています。

※BCP(Business Continuity Plan)=事業継続計画。地震や豪雨などの災害時でも、企業が重要な業務を止めず、早期に再開するための方針や行動計画。

三浦(電通):なるほど。防災・減災という視点から企業の経営力を高め、地域経済の循環につなげていくということなんですね。

「Xross Innovation BOSAI」は、参画企業の価値(強み・アセット)を掛け合わせ、さまざまなイノベーションを創出することで防災・減災につなげていくことを目的としています。あわせて、コンソーシアムへの参画を通して、参画企業の皆さまが本業の中で実現したいことをカタチにする取り組みにしていきたいと考えています。コンソーシアム内では、本業の中で実現したいことを「参画企業の“エゴ”」と表現しており、コンソーシアムを運営するわれわれ電通としては、防災・減災の実現と「参画企業の“エゴ”」の実現の両立を強く意識し推進しています。七十七銀行さんにとって、実現したい“エゴ”はどんなことでしょうか?

鈴木(七十七銀行): やはり、地域のお客さまの経営力を高めることです。経営課題を解決することが、結果としてわれわれの提案力や課題解決力の広がりにもつながります。防災を軸に、BCPの策定支援、保険の提案、資金投入、DXの推進など、あらゆる課題解決につなげていくことで、地域経済が回っていくのだと考えています。

企業の“エゴ”を課題解決につなげ、新たな“共創”を創出

我妻(東海):当社では、このコンソーシアムでの取り組みをきっかけに、七十七銀行さんと新たな協業が始まっています。保険会社である私たちは、これまでも企業さまと日常的に接点を持ち、災害リスクや事前の備えに関する知見や商材を提供してきました。一方で、こうした取り組みを当社の既存ネットワークの枠を超えて、より幅広い企業さまに届けていくことが今後の課題でした。七十七銀行さんとの連携を通じて、行員さんが取引先の企業さまに当グループのソリューションをご紹介くださるスキームを構築できたことで、これまでリーチしきれなかった企業さまとも新たな接点が生まれています。その結果、防災・減災を起点とした新しいビジネスの可能性が広がっていると感じています。

東京海上日動 我妻氏

鈴木(七十七銀行):取引先である企業さまが抱える経営課題を解決し、経営力をより高めていただくことが、当行にとっての“エゴ”でありますが、ひいては地域経済を盛り上げることにつながっていきます。誰にとってもWin-Winになっている点も新しい取り組みですよね。

三浦(電通):“エゴ”がイノベーションを生むキーワードになっているのが面白いですね。お互いの“エゴ”を実現し合う形が共創となり、それが社会課題の解決にもつながっている。参画事業者同士での新たな連携が始まっているという点は、仙台市からみてどう感じられますか?

早坂(仙台市):これまで防災分野は行政主導で進めるものと捉えられがちでした。とくに企業が防災に取り組む場合、コスト負担が大きい一方で事業につながりにくいと受け止められ、CSRとしての活動にとどまってしまうケースも少なくありません。しかし、コンソーシアムでの出会いを起点に事業者同士が連携し、一丸となって防災・減災に取り組めている点は、これまでにない共創のカタチだと感じています。

さらに、今回のようにBtoBで防災を捉えなおすことは、仙台市にとっての“エゴ”の実現にもつながります。

市としては、防災活動を通して市民の皆さまに事前防災の意識を持ってもらいたいという思いのもと、日々さまざまな取り組みを重ねてきました。町内会や、社会福祉協議会といった地域の団体、教育現場とは日頃から接点があるため、高齢の方々や子どもたちへの働きかけについては一定の成果がでています。一方で、十分にアプローチできていないのが20代から50代を中心とした現役就労世代の方々です。

では、どうやって現役就労世代に防災の意識を醸成させ、家庭での備えにつなげていけばよいのか――。そこで私たちが期待しているのが、企業における防災意識の向上を図り、その取り組みを通じて従業員一人一人の意識改革につなげていくという流れです。

三浦(電通):企業の防災意識を底上げすることで、従業員にも防災意識を浸透させるということですね。

早坂(仙台市): BCPの策定においても、従業員一人一人の家庭における備えは、見落とされがちな視点の一つです。BtoBに取り組む分科会の活動を通じて、これまでにない新たな防災意識の醸成を生み出していければと考えています。

これは仙台市としての思い、いわば“エゴ”ではありますが、企業にとっても、防災への取り組みや従業員への働きかけは、企業価値の向上につながるものです。それぞれの立場における思いが重なり合い、結果として社会全体へ意味あるカタチで広がっていくことを期待しています。

防災意識を企業から家庭へ。これからの分科会に求められる役割とは?

三浦(電通):今後、分科会③で取り組みたい具体的なアイデアがあれば教えてください。

鈴木(七十七銀行):直近では、地域のお客さまとの接点や情報発信を強化し、分科会参加企業の専門的知見やネットワークを生かした新たな取り組みを検討しています。アイデアの創出や他社との連携を通じて、イノベーションの基盤づくりをさらに推進していく構想です。

また早坂さんがおっしゃったように、家庭での防災対策も重要だと考えています。日常業務を通した防災・減災啓発に加えて、帰宅後の生活者としての立場でも防災を身近に感じていただけるような仕掛けを考えていきたいですね。

三浦(電通):防災意識を企業から家庭へと浸透させるヒントついて、防災・減災アドバイザーとしてメディアにもご出演されている早坂さんのお考えをお聞かせください。

仙台市危機管理局 早坂氏

早坂(仙台市):これまで、学校教育を通じた「子どもから家庭」への働きかけが防災・減災への主なアプローチとされてきました。企業の社員教育を通じて「従業員から家庭」へも働きかけができるようになれば、家庭での防災意識をより高めていけると考えています。

行政による「子どもから家庭」への啓発、そして企業による「従業員から家庭」への働きかけが双方向で連携できるようになると、家庭や個人の備えがより質の高いものへと進化していきます。

そして、社会全体に防災・減災が当たり前のものとしてなじみ、行政や企業の働きかけがなくても、市民一人一人の行動によって防災力が自然と高まっていく。そんな自走する地域社会を目指していきたいですね。

「協調と競争」のラインを変え、日本から世界へ

三浦(電通):最後に、コンソーシアムの取り組みの中で、皆さんが目指したいことなどあればお聞かせください。

電通 三浦氏

鈴木(七十七銀行): 仙台市が防災に注力する街であることを強力に発信することが、地域のブランド価値の向上につながると考えています。災害に強く、安心して働ける環境を備えていることは、企業や若い世代にとって都市を選ぶ際の大きな判断材料となります。私たちとしては、多くの方々が起業や事業展開の地として「仙台を選びたい」、そう思っていただけるような基盤づくりに今後も取り組んでいきたいと考えています。

我妻(東海):当社は、防災を単なる損害保険の領域にとどめず、企業や地域社会が抱える課題やリスクに対して、イノベーティブなソリューションを届け続けるパートナーでありたいと考えています。まずは地場企業への貢献を起点に、防災・減災の分野で信頼され、頼られる存在となることを目指し、その取り組みを地域、さらには社会全体へと広げていきたいです。

また個人的な思いとして、大小にかかわらず共創の輪が広がっていくことが心から「うれしい」と感じています。分科会を通じて、さまざまな企業と密接な関わりが生まれました。業種や役割の枠を超え、お互いの強みや課題意識を共有し合いながら、これからも新しい価値や共創の場を生み出していきたいと考えています。

早坂(仙台市):まさに、七十七銀行さんと東京海上日動さんが考えていらっしゃるのは、国連が採択した仙台防災枠組の理念の一つである「防災の主流化」だと感じています。防災・減災を特別な取り組みとして構えるのではなく、暮らしや仕事の中で、自然と意識され、日々の活動の延長線上に当たり前にあるものとして社会に根付かせていく、そうした考え方です。

仙台市としても、この理念を重視し、防災が社会全体に自然になじんでいる日常の実現を目指して、今後も皆さまと一緒にさまざまな取り組みを進めていきたいと考えています。

また、もっと先を見据えると、仙台市は、東日本大震災を経験した政令指定都市です。今後は、その経験を単なる教訓にとどめるのではなく、強みとして生かしていくことが、これまで以上に求められていくと感じています。

このコンソーシアムの共創の取り組みを通じて、仙台の経済基盤が「防災都市」として世界に誇れる存在へと育っていく。そんな仙台ならではの未来を皆さんと一緒に描いていければと思います。

三浦(電通):皆さん、ありがとうございました。今回あらためて、お話をお聞きして、このオープンイノベーションなコンソーシアムの中心に“エゴ”があることで、さまざまな化学反応を生み出し、企業と行政との連携を加速させていると感じました。

今、世界的に競争が激化し、日本は人口減少という構造的な課題に直面しています。その中で、あるべき「協調と競争のライン」が確実に変化しています。これまでは同業で競い合っていた部分でも、どこまでを「協調」のベースとして固め、その上でいかに個々の強みを「競争」させて地域・日本の総合力を引き上げるのか?このコンソーシアムは、まさにその「協調のライン」を一段引き上げ、新しい時代のスタンダードを再定義する場です。

七十七銀行さんのような地域の核となる存在があるからこそ、あらゆるネットワークがつながり、地域の競争力を最大化できる。この仙台発の「共創による防災」モデルを、日本、そして世界をリードするビジネスエコシステムへとつなげていく。その大きな挑戦を、これからも皆さんと共に推進していきたいと思います。

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著者

鈴木恭子

鈴木恭子

株式会社七十七銀行

地域開発部長

1998年4月入行。2019年9月、人事部ダイバーシティ推進室長、2021年6月、杜せきのした支店兼閖上支店長、2023年6月、七十七証券株式会社 取締役本社営業部長を経て、2024年6月より現職。東北・宮城の地方創生に関わる課題解決に取り組む。

早坂政人

早坂政人

仙台市危機管理局

防災・減災部減災推進課

主査

仙台市防災・減災アドバイザー/仙台消防職員 消防士としての災害対応・防災指導等の現場経験を基に、地域特性を踏まえた防災・減災施策の助言や人材育成に携わる。子ども・家庭・地域をつなぐ防災教育を実践し、日常の行動に防災が息づく社会づくりを進めている。

我妻麻美

我妻麻美

東京海上日動火災保険株式会社

仙台支店 マーケット戦略チーム

仙台を拠点に、主に自治体との連携を担当し、地域課題の解決に向けた取り組みに携わっている。 保険会社で培ったリスクに関する知見や地域でのご縁を生かしながら、「Xross Innovation BOSAI」の企画・運営に参画。多様な関係者の皆さまと意見を交わしつつ、地域の持続性やレジリエンス向上に少しでも貢献できる共創のあり方を模索している。

三浦 旭彦

三浦 旭彦

株式会社電通

第1ビジネス・トランスフォーメーション局

グループ イノベーション ディレクター/グループ インテグレイテッド プロデューサー

事業変革の構想から立ち上げ、実行に至るまでのビジネスグロースを支援。課題ファーストで領域を絞らず、商品・サービス開発、マーケティング戦略策定、CR開発、業務改革と、幅広い領域のコンサルティング、プロデュースに従事。この変化の激しい世の中で、クライアントパートナーと二人三脚で悩み、考え、最後に解決し、一緒に祝杯を挙げるのが生きがい。 「最高の顧客体験」をつくるヒント PLAZMA 15登壇/ 一橋大学「世界をちょっと面白くするアイディア研究室」運営/他

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