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これまで「情報メディア白書」は32年にわたって書籍として発行してきました。このたび、関係各社、各団体のご理解をいただき、広くメディア業界発展に寄与することを目的に電通のウェブサイト上で、新たに「情報メディア白書2026」として公開しました。

本連載では、電通メディアイノベーションラボが実施する調査研究などをもとに、「情報メディア白書2026」の特集レポートとして、メディア環境の変化や広告市場のトレンドを解説します。第1回では、情報空間の進化によって多様な情報にアクセスできるようになった現在、生活者はどのように情報と向き合っているのか。電通メディアイノベーションラボの森下真理子が考察します。

変容する情報空間

2026年現在、情報空間におけるインターネットの影響力は、かつてないほど大きくなっています。振り返るとコロナ禍における外出制限は、幅広い年齢層においてネット利用を加速させました。インターネットは単なる情報や娯楽の提供手段にとどまらず、購買、フードデリバリーからオンライン会議に至るまで、社会インフラとしても私たちの生活に不可欠なものになっています。

広告市場においてもその影響は顕著で、インターネット広告費は2025年には4兆459億円、総広告費に占める構成比は50.2%と初めて5割を超えました。このことからもインターネットはマーケティング活動における中核的存在になったと捉えることができます。

ここで重要なのは、インターネット自体は「メディア」ではなく「基盤(インフラ)」であるという点です。そのうえで、情報、娯楽、コミュニケーション、購買など多様なサービスが相互に連携して展開されていることが、ネットの本質的な強みです。また、現代の情報空間を特徴づける要素として、個人を含むさまざまな主体が情報を発信、拡散できる点も見逃せません。

また、マスメディアとインターネットは対比的に語られることが多くありました。しかし、両者は相対するものとはいえず、radikoやTVerに見られるように、マスメディアもネット上のサービス展開を通して生活者との関係構築、深化を進めています。

このように、多様なプレーヤーが情報発信を行う構造こそが現代の情報空間の本質であり、そのことが利便性と同時に新たな課題をも生み出しています。

私たちは同じ世界を見ているのか

情報空間の進化により、私たちはかつてないほど多様な情報にアクセスできるようになりました。自由な情報発信は知識の民主化にもつながり、社会に大きな価値をもたらしてきました。その半面、情報量の爆発的増加によってすべてを選別し理解することは現実的に困難になっています。その結果、プラットフォームやサービスは、属性や興味関心に応じて情報を最適化する「パーソナライズ」や「レコメンデーション」を高度化させてきました。AIの進化はこの傾向をさらに加速させています。

こうした環境の中で、生活者の情報接触の感覚は大きく変化しているといえます。

かつては「探す」対象であった情報が、現在ではタイムライン上に「流れてくる」ようになりました。テレビは受動的メディアではありましたが、そこでは同一の情報が広く共有されていました。一方、インターネットではパーソナライズによって、同じプラットフォームを利用していても、受け取る情報は人によって大きく異なります。

この違いは、「私たちは同じ世界を見ているのか」という根源的な問いを私たちに投げかけています。このような問いが成り立つ状況において、人々はどのような態度で情報と向き合っているのでしょうか。その一端を電通メディアイノベーションラボが2025年12月に全国の15~74歳を対象に実施した調査の結果をもとに解説していきます。(調査概要はこちら

多様化が進むメディア利用

情報取得態度(※1)を理解する足掛かりとして、まず情報機器の所有・利用状況を確認します(図表01)。スマートフォンの利用率は89.2%と極めて高い水準となりました。インターネット調査である点を考慮する必要がありますが、本調査では年齢による大きな差は見られず、スマートフォンが幅広い年齢層に浸透している様子です。

次いで多く利用されているテレビでは年齢層による差が顕著です。図表1は全体の利用状況を表したものですが、年齢別の結果を見てみると、高齢層ほど利用率が高く(70~74歳は94.0%)、若年層では相対的に低い傾向です(最も低い20代では66.8%)。テレビを利用しない層では、スマートフォンやパソコンなどが部分的にテレビの代替的役割を担っていると推察されます。

※1 情報取得態度=本記事では、情報をどのように探し、選択し、受け取ろうとするかという個人の姿勢・傾向として用いる。
 

※構成比(%)は四捨五入をしているため、合計が100%にならない場合があります。

さらに注目すべきはコネクテッドTVの普及です。近年、テレビをインターネットに接続し、動画配信サービスや動画共有サービスを視聴するスタイルが広がっています。調査ではテレビ保有者の4割以上がテレビでネット動画を視聴しており、特に若年層ほどその傾向が顕著です(図表02)。つまり、テレビは放送を視聴する機器から多様な映像コンテンツにアクセスするプラットフォームへと役割を拡張しているといえるでしょう。

※回答者:テレビ所有者

図表03はテレビでの映像視聴時間の推計値を年代別に集計した結果です。実際の視聴ログではない点に留意が必要ですが、年齢層によってテレビの使い方が大きく異なることがわかります。高齢層ほどテレビのリアルタイム視聴が多く、さらに録画再生や見逃し配信がテレビ番組視聴を補完している様子です。一方、若年層ほどテレビのリアルタイム視聴は少なく、動画共有サービスをはじめとするネット動画の視聴が多い傾向です。

※利用頻度、利用時間からの推計値

映像サービスの多くがスマートフォンなどでも利用可能であることを考慮すると、デバイスやサービスの境界が曖昧になり、時間や場所の制約を受けない視聴体験が広がっているといえます。また、視聴可能コンテンツには個人が制作、発信する映像が含まれており、より個人の興味関心や嗜好(しこう)に即した映像が視聴されていると考えることができます。

情報を理解することの難しさ

ここからは、情報量の増大と流通構造が変化する中、生活者が情報とどのように向き合っているかについてポイントを絞って紹介していきます。読者の皆さんにはご自身の感覚とも照らして読み進めていただけると幸いです。

まず、ネットで目にするニュースや情報の文脈理解の様子を確認します。新聞やテレビなどのマスメディアが担う重要な役割の一つとして、情報を選別・整理して届ける編集機能を挙げることができます。たとえば新聞における一面記事、テレビの報道番組におけるトップニュースを通して、受け手側は特に意識することなく、メディアがその時点で社会にとって重要と考えるニュースや情報を得ることができます。インターネットにおいてもニュースポータルサイトやキュレーションサービスが存在し、効率的な情報取得と理解を可能にしています。

その一方で図表04に示すように、「インターネット上のニュースや情報はたくさん見るが、どれが重要なのかがわからない」という経験をした人は74.1%にのぼりました。

また、73.3%の人が「インターネットで、最新のニュース・情報かと思ったら、古いニュース・情報だった」という経験をしています(図表05)。

インターネットでは情報が断片的に流通することがあり、また特にSNSにおいては、リポストやシェアによって過去の情報が繰り返し共有されるため、時間軸や文脈が分断されやすくなります。そして、それが情報の正確な理解を難しくしているともいえます。

このような状況を踏まえると、マスメディアが担ってきた編集機能の重要性は高まっていると考えられます。また同時に、現代の情報環境では受け手側にも「情報を読み解く力」を求められているといえます。

接する情報の偏り

続いて、ネットで接する情報の偏りについて考えてみましょう。私たちは興味のある領域の情報にだけ選択的に触れることができる一方で、アルゴリズムの介在によるフィルターバブル(※2)と呼ばれる状況などにおいて情報の偏りを経験することもあります。

調査において「自分が普段接している情報には偏りがある」と思うかたずねたところ、偏りがあると思う人は35.0%で、そのように思わない人(11.4%)を上回る結果でした。特に若年層はその傾向が強く、中でも15~19歳では「とてもそう思う」(16.3%)を含めて、同意する比率が全年齢層で最も高い結果でした。

※2 フィルターバブル(Filter Bubble)=インターネット上でアルゴリズムがユーザーの過去の行動や好みに基づいて情報をフィルタリングし、特定の種類の情報だけを表示する現象。
 

もっとも、本調査では「偏り」の評価は回答者に委ねられており、その点において主観的なものです。図表06の結果をもって若年層が接する情報が相対的に偏っていると結論づけることはできず、自身が接する情報のバランスについて若年層がより自覚的である可能性もまた否定できません。

さて、図表07は自身が普段接している情報には偏りがあると回答した人に対して、そのことに気付いたきっかけをたずねた結果です。

※回答者:「自分が普段接している情報には偏りがある」=「とてもそう思う」「そう思う」

回答者全体の上位に注目すると、「同じニュースでもメディアによって内容や論調が違うことに気づいたから」(37.5%)が最多でした。このことは個人の情報接触との関係においてメディアの多元性の重要性を強く示唆する結果といえるでしょう。また、自分の知識・経験や表現への違和感を挙げる人も多く、自身の感覚が情報の偏りを判断するうえでのよりどころとなっている様子もうかがえます。

次いで、接する情報の偏りをより強く認識している15~19歳の回答傾向に注目してみましょう。「自分のSNSのタイムラインに似た意見や情報ばかり流れてきたから」(26.0%)が2番目に高く、日常的にSNSに接する世代ならではの傾向がみられます。また、全体平均との比較においては、「学校のメディアリテラシー教育で教わったから」(22.0%)、「AIやアルゴリズムによるレコメンデーションの仕組みを知ったから」(18.4%)、「自分の検索履歴やおすすめ記事の傾向がわかったから」(22.1%)が高い傾向です。こうした結果から、情報が届く仕組みの理解が情報を客観視する契機になる可能性も考えられそうです。

情報取得スタイルの二面性

そもそも人々はどのように情報を得たいと考えているのでしょうか。調査では一見相反する能動的・受動的という2つの情報取得スタイルの意向を聞きました。

まず、能動的情報取得(「情報は自分で選びたい」)を志向する人は55.9%と過半を占めました(図表08)。ただし、20代、30代における回答比率はやや低い傾向です。

一方、受動的情報取得(「自分に合った情報を勧めてもらいたい」)を志向する比率は32.4%と若干低いものの、若年層ではその回答比率が高い傾向(15~19歳では46.9%)が見られます(図表09)。また、そう思わないと回答する人が8.9%とやや多い点も特徴的です。

はたして能動的情報取得と受動的情報取得という2つのニーズは相反するものなのでしょうか。分析の結果、両者には中程度の正の相関がみられました(Spearmanの順位相関係数ρ = .389, p < .001)。能動的情報取得と受動的情報取得は対立的というよりは、同一回答者の中で両立しうるニーズとして捉えることができそうです。

属性によって傾向に差異があるかを知るため、さらに分析を行いました(図表10)。性年代別に相関を見ると、若年層では相関がより強く、他年齢層との比較において「自分で選びたいが、レコメンドも活用したい」というハイブリッド型のニーズが認められます。他方、年齢が上がるに伴い相関は低下し、能動・受動のいずれかに傾く傾向が強まります。

※女性70代では相関は弱く(ρ=.145)、唯一統計的に有意ではなかった(p=.063)。この層では両設問の関係は一貫しておらず、個人差が大きい可能性が示唆される。

多様な意見への接触とその影響

情報空間で課題とされる事象の一つにエコーチェンバー(※3)があります。似た意見が反響・増幅する状況では反対意見に触れる機会が減少し、多様な意見や価値観を前提とする個人の意思決定、さらには民主的社会の成立が困難となりかねないと広く考えられています。調査では、「広くさまざまな意見にバランスよく触れるのが重要」と考える人は51.9%にのぼりました。(図表11)

※3 エコーチェンバー(Echo Chamber)=同じ意見や信念をもつ人々が集まり、その意見が繰り返し強化される環境のこと。異なる視点や反対意見が排除される傾向がある。

 

多様な意見への接触は民主的社会の重要な基盤です。しかし異なる意見に触れたときの反応は一様ではありません。異なる意見への接触によって自分がもともと持っていた意見や考えが変わることもあれば、逆に自分の意見や考えが強化され、より正しいと考えるようになることもあるためです。

本調査ではインターネットやSNSなどで自分と異なる意見に接した際の体験についてたずねました。図表12はその結果を示すものですが、「変化」と「強化」の経験はほぼ同等です。

そこで異なる意見に接したときに生じる変化を構造的に理解する目的で、「変化」「強化」の回答傾向に応じて回答者を4セグメントに分類しました。「よく経験する/なんどか経験がある」を「高」、「たまに経験する/経験したことがない」を「低」と区分すると、図表13に示すようにその組み合わせに応じて人々を4つのグループに分けることができます。

各セグメントにおける出現状況を見てみましょう。右下の象限は異なる意見の影響を受ける経験が少ないセグメントで、約6割がここに属しています。対照的に、左上の象限は意見変化と意見強化の両方を比較的よく経験する、いわば「影響受容型」とも呼ぶべきセグメントで、その出現率は約2割です。その他、変化と強化のどちらかに偏る層も一定数存在することが明らかになりました。

続いて、属性によって各セグメントの出現状況に違いがあるのか、性×年代別で同様のセグメント化を行いました(図表14)。10代では男女ともに「影響受容型」セグメントの出現率は3割強と高いのですが、年齢が上がるに伴いその出現率は減少し、「どちらの経験も少ない層」や「意見強化に偏る層」の増加傾向がみられます。

若年層ほど異なる意見への接触による影響を受けやすく、中高年層ではやや影響を受けにくい構造が確認できましたが、これはなぜでしょうか。仮説となりますが、メディア利用の違いに加えて、長年の経験を通じて世界観や判断基準が安定している中高年層に対して、価値観や意見が固まりきっていない若年層は新しい情報や異なる意見に柔軟に向き合うことができているのかもしれません。

異なる意見に接した際の反応には当然ながらその内容や状況に応じてグラデーションがあるため、人を単純に4パターン化することはできません。しかし、こうした年齢層別の受容性の違いも、エコーチェンバーのような情報環境を検討するうえで有効なヒントとなりうると考えます。

変わる「情報との付き合い方」

ここまで生活者を対象とする調査結果のエッセンスを紹介してきました。そこから見えてきたのは、生活者を起点としたとき、現代の情報空間では「情報の質」もさることながら、「情報との付き合い方」が大きな課題となっている点です。

現代的な情報との付き合い方の一つにファクトチェックがあります。調査では、ファクトチェックを心掛けている人は若年層(15~19歳)ほど多い傾向でした(図表15)。その背景にはメディアリテラシー教育に加え、偽誤情報を含むさまざまな情報が日常的に流れてくる体験があるのかもしれません。同じ設問において若年層ほど「まったくそう思わない」「あまりそう思わない」とする回答が多いのですが、この点については、実際の行動に至らないにせよ、ファクトチェックという行為自体が認識されている証左だという解釈もできます。

ここでは一例としてファクトチェックの実施状況を紹介しましたが、将来、情報空間の変化に応じて生活者の情報への感度や情報との付き合い方がさらに更新されていくことが予見されます。AIで本物と見分けがつかないコンテンツが次々と登場し、本物でさえ疑われる時代に突入しています。情報空間と生活者の情報への感度は相互に影響し合いながらそれぞれ進化していくのでしょうか。

記事冒頭の「私たちは同じ世界を見ているのか」という問いに立ち返ると、その回答を導き出すことが困難な未来が待ちうけているのかもしれません。しかし、自律的な意思決定を可能とする情報空間が一人一人の健やかな成長、そして社会の健全な発展のために不可欠であることは変わらないでしょう。そのためにはメディア、プラットフォーム、企業、政策決定者、個人など、あらゆる関係者が情報空間の構造を理解し、それぞれの立場において、安心して情報を送り出し、取得できるような環境の維持・向上に向けた努力を続けていくことが重要と考えられます。

関連する記事はこちら:フェイク情報とどう向き合う?調査から見えた生活者の情報空間の捉え方

【調査概要】
電通メディアイノベーションラボ「メディア利用実態調査2025」
・全国インターネット調査
・対象:15~74歳(有効サンプル数:3618)
・実査時期:2025年12月

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著者

森下 真理子

森下 真理子

株式会社 電通

マーケティング統括センター メディアイノベーション研究部(電通メディアイノベーションラボ)

演劇業界、研究機関での勤務を経て電通入社。オーディエンスの動向を切り口に、技術革新が情報メディア市場に及ぼす影響に関する調査・研究を広く行っている。欧米諸国の放送業界、関連政策の動向もウオッチしている。

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