2026年7月14日、順天堂大学で「RDワーカー フォーラム2026」が開催された。RDワーカーとは、難病と向き合いながら「働きたい・働ける・働いている」人たちのこと。「難病と働くをひらく——誰もが働きやすい社会へ——」をテーマに、難病とともに働く当事者、企業の人事担当者など多様な立場の登壇者が集い、活発なセッションが行われた。
※本記事における難病とは、国の制度上定義された「難病」「指定難病」「障害者総合支援法上の難病」「希少疾患」に加え、NPO法人両育わーるどが独自に定義する「難治性慢性疾患」も含め、総合的に「難病」ととらえています。
RDワーカーの知見を広め、みんなが働きやすい社会へ
フォーラムの開会を告げたのは、総合司会のヘルスケア関連団体ネットワーキングの会 理事事務局長 喜島智香子氏。続けて、難病治療研究財団理事の臼井千恵氏が開会の言葉を述べた。
臼井氏は順天堂大学精神科に所属しながら産業医としても活動する自身の立場から、「診療現場では患者さんの働きづらさに関する悩みを聞く一方、企業側からは『難病の方とどう一緒に仕事をすればいいのか分からない』という声も聞いてきました。両者のミスマッチが生じている現状を身にしみて感じています」と語り、本フォーラムが解決の糸口になることへの期待を示した。
次に、本フォーラムの発起人である両育わーるど 理事長の重光喬之氏が、フォーラム開催の目的と背景について説明。重光氏は“RDワーカー”という言葉や概念を生み出したプロジェクトの発起人であり、自身も20代半ばで「脳脊髄液減少症(脳脊髄液が減少することで、頭痛やめまいを引き起こす難病)」を発症し、現在もその症状である慢性的な痛みと闘い続けている。
「現在の課題として、難病のイメージが十分に世間に浸透していないこと、そして社会の制度が追いついていないことが挙げられます。その現状を突破したいという思いから、Rare Disease(希少疾患)やRare Disease Day(世界希少・難治性疾患の日)の頭文字を取り、“RDワーカー”という言葉を有志メンバーたちと開発しました。世間での認知が広まり、流行語大賞にノミネートされるのが目標です」(重光氏)
それぞれの都合に合わせて選べる多様な制度で、個性を生かした働き方を実現
基調講演に登壇したのは、サイボウズ 代表取締役社長の青野慶久氏。青野氏はまず、創業当初の会社全体の離職率の高さを振り返った。2005年には、離職率28%にまで達していたという。
「給料を上げてみても離職が止まらず、理由を聞いたら人間関係や労働時間、個人的な都合など、理由はさまざまでした」(青野氏)
そこから“100人100通りのマッチング”という発想が生まれ、短時間勤務、週3勤務、完全在宅など、個人の都合に適応できるような制度を整えたそう。結果、年間離職率は3年後に10%を切り、最終的には5%となった。
青野氏は個性を生かす働き方について「社員一人一人は、形の異なる石で組み合わせた“石垣の石”のようなもの。形はそれぞれ違うので組み合わせるのは難しいけれど、うまくはまったときには強い石垣になります」と語った。
RDワーカーの活躍の場。“遠慮”ではなく、誰もが働ける“配慮”をする
RDワーカーの実践事例紹介「実践企業によるRDワーカーの雇用について」では、セールスフォース・ジャパン、ゼネラルパートナーズ、電通九州の3社が登壇。モデレーターは両育わーるどの伊藤沙幸氏が務めた。
セールスフォース・ジャパンからは、アクセシビリティ・オフィス マネージャーの白良幸氏と、ベーチェット病という自己免疫疾患がありながらリードストラテジー マネージャーとして働くM氏(匿名)が登壇。「難病者という一つの塊で捉えるのではなく、それぞれのキャリアや働きがいを含めて、個人を尊重してほしいです。難病者だからと特別な制度や配慮を受けるよりも、誰もが使える制度を作ることで、みんなが働きやすい会社になると思います」とM氏は語った。
ゼネラルパートナーズからは、たんぱく尿やむくみを引き起こす腎疾患である「ネフローゼ症候群」でありながら、新卒キャリアデザインのグループリーダーを務める田中知美氏と、グループマネージャーの西原彩夏氏が登壇。リモート勤務を主体にしつつ、週1回の全員出社日の免除など、配慮のあり方をこまめに見直してもらっていると説明した。
職場でのコミュニケーションについて田中さんは、「人と病気について話すのは怖いときがあるが、西原さんと話すときはそのような感覚はありません。私のことを難病者ではなく個人として見てくれているからだと思います」と、制度だけでなく安心して話せる関係性そのものが支えになっていることを語った。
社員が制度を使いやすくする工夫として「上司である自分が率先して制度を使うようにしています」という西原氏。共に働く田中氏については「周囲が正しい知識を持って必要な配慮をすれば、難病があっても活躍できるということを体現してもらっています」と話した。
さらに電通九州からは、見えにくさや視力低下を引き起こす網膜疾患「黄斑ジストロフィー」がある扇千晶氏と人事部長の呉貴文氏が登壇。文字を読む際のルーペの使用や口頭説明、ダブルチェックなど、具体的な工夫が紹介される一方で、扇氏は「働く中で、配慮されっぱなしではいけないと気づきました。申し訳なさを感じるのではなく、働ける環境に感謝して、会社に貢献したいという気持ちで働いています」と自身の考えを語った。
呉氏も「難病雇用が一方的な慈善活動にならないよう、会社側も“配慮はするけど、遠慮はしない”という姿勢を持ち、しっかり活躍してもらえるような体制を整えることが大切」と述べた。
多様な働き方に向けた会社の取り組み。テーマは「知る。話し合う。変えていく。」
フォーラム後半のビジネスリーダートーク「変化する時代に求められる組織とは ― 多様な働き方を力に変えるには」では、重光氏とdentsu Japan チーフ・ダイバーシティ・オフィサーの口羽敦子氏が登壇。ノックオンザドア 代表取締役社長の林泰臣氏のモデレートのもと、組織・環境づくりについて語り合った。
口羽氏は「知る。話し合う。変えていく。」をスローガンに掲げた、dentsu JapanのDEI(※)推進活動を説明。「知る。話し合う。」ための取り組みとして、従業員一人一人がDEIを自分ごととして捉え、組織ごとの行動につなげるためのプログラム「DEIパーク」やグループ横断型のEmployee Resource Group(ERG)が挙げられた。また、「変えていく。」については、dentsu Japanと東北大学・仙台市が連携して進める「Neuro-Workdesign Project」について紹介。組織ルールに人を合わせるのではなく、人を中心に組織や環境を変えるプラットフォームの開発が進んでいるという。
※DEI=「Diversity(多様性)」「Equity(公平性)」「Inclusion(包摂性)」の頭文字を取った言葉で、多様な人材が公平に活躍できる組織や社会の実現を目指す考え方。
また、重光氏は現場の実情として、両育わーるどスタッフの稼働率は6割程度で、4割は体調不良で休んでいることを明かした。
「体調面に問題がなく、休まず働ける人にしわ寄せがいってしまうという問題は永遠の課題」としながらも、「仕事を楽しんでもらうこと、無理をしないことが一番なので、みんなが安心して働いていける環境づくりが大切」と語った。
RDワーカーへの配慮は一度決めて終わりではなく、定期的に見直すことが大切
最後のセッション「RDワーカーと働く職場の作り方~人事担当者のための対話セッション~」では、白氏と電通コーポレートワン 人事オフィスディレクターの濱崎伸洋氏が登壇。自身もRDワーカーである両育わーるどの名和杏子氏のモデレートのもと、「発症開示」「合理的配慮の範囲」「採用時の向き合い方」など、人事担当者が悩むポイントについて語り合った。
病名を開示しなくても配慮できる職場環境をどう作るか、という問いに対し、濱崎氏は「職場全体が自然と配慮できる雰囲気になるよう、上司側に働きかけるアプローチが有効」と述べた。
合理的配慮については、「同じ難病でも人によって、また同じ人でも体調の変化によって必要な配慮は変わる。一度対応を決めたら終わりではなく、定期的に見直すことが重要です」と白氏。続く、「会社は病院ではないので、病気についてではなく、仕事をしてもらうために何を整えるべきかを考えればいい。就業規則や働き方のちょっとした柔軟な運用でいいんです」という濱崎氏の言葉も、会場の共感を集めた。
採用時に病気について聞くことは原則NGとしつつ、「役割と働き方をあらかじめ明確に示し、その条件で働けるかどうかを候補者が判断できる状況を作ることで、採用後に病気について明らかになる問題もカバーできると思います」と白氏は語った。
閉会の言葉を述べたのは、両育わーるどの斉藤幸枝氏。「今回のフォーラムだけにとどまらず、それぞれがRDワーカーについて周囲に伝えていくことで、日本全国に知見が広がっていきます。それが難病者の働き方だけでなく社員の働き方そのものを変えていく原動力になります」と語り、このフォーラムがRDワーカーへの理解が広まる出発点だと位置づけた。
大掛かりな制度改革よりも、まず知ること、対話すること、そして目の前の一人と誠実に向き合うこと——。その積み重ねが、RDワーカーだけでなく誰もが働きやすい社会への道を開く。そんな可能性を感じさせるフォーラムとなった。

















