2026年6月30日(火)、早稲田大学の大隈記念講堂にて電通と早稲田大学商学部による特別共同講義「未来学 2026 早稲田×電通 未来体質を身につける」が開催された。“未来学”とは、早稲田大学商学部が「国際社会に貢献するビジネス・リーダー」の育成を目的に展開する「Global Management Program(以下、GMP)」の一環として企画された特別セッションであり、昨年に続き2回目の実施となる。
本講義は、“未来をつかむ感性”をテーマとした講義でインプットを行う「未来学Ⅰ」、電通のクリエイティブセッション体験を通してアウトプットを行う「未来学Ⅱ」の二部構成で展開された。
冒頭、早稲田大学GMPの責任者を務める商学学術院 中出哲教授があいさつに立ち、前回の未来学の手応えを振り返りながら本講義の意図を語った。
「日々忙しく活動していても、ふと気がつくと自分は前に進んでいないのではないかと感じることがあります。大切なのは、少し遠くから未来を見つめてみること、そしてさまざまな事象から未来を感じ取る感性だと思います」と述べた上で、「今回の講義が皆さんにとってその感性を磨く機会になることを期待しています」と語った。
続いて、電通 取締役 統括執行役員の早田眞氏が電通のクリエイティブに懸けてきた思いを説明。「電通は創立125年を迎える歴史の長い会社。クリエイティビティで人の心を動かす力、未来を描く力、人や組織の垣根を越えてつなぐ力の三つの力を受け継いでいます。今回のセッションを通して皆さんの“未来を描く力”を培う機会になればと願っています」と述べた。
未来学Ⅰ:未来をつくるための“感性”を学ぶ
未来学Ⅰの口火を切ったのは、電通 FUTURE CREATIVE LEAD室の増原誠一氏だ。
増原氏は、日本の人口動態について「鎌倉時代から増え続け、2004年をピークに減少していっています。私たちが構築してきたビジネスモデルは超成長期に設計されたものなので、これからの超成熟期には全く異なる発想が必要になります」と指摘。課題解決から未来共創へのシフトが求められており、そのポイントは「原因から考える」のではなく「可能性から考える」ことだという。
「課題というマイナスをゼロに戻すのが課題解決型だとすると、これから必要とされる未来共創型はゼロをプラスにすること。今回の講義を通して“未来を共創する力”を体得してほしいです」(増原氏)
さらに、ドイツの現代アーティスト・ヨーゼフ・ボイスが唱えた“社会彫刻”という概念も紹介。自分のやりたいことを社会につなげていく発想で、「社会を彫刻していく視点で考えられる人が今後活躍する」と語った。
続いて、電通 執行役員の貝塚康仁氏は、「AIマーケットツイン」と呼ばれる最先端の取り組みを紹介。生活者一人一人のペルソナを作成しAIに学ばせることで、さまざまな仮説やアイデア段階の新商品に対する市場の反応をシミュレーションできるというものだ。現在は、購買者一人一人の購買ジャーニーの可視化から意思決定支援まで、活用の幅が広がっているという。しかし、貝塚氏は以下のように語る。
「これだけ予測の精度が上がっても、過去のデータの延長線上にない未来、誰も選んだことのない未来は、データから読み取ることはできません。そんな未知の未来を生み出せるのは人間の感性だけです。感性とは単なる直感ではなく、目の前の現象や人の言葉から物事の本質を深く感じ取る力、つまり洞察力のことです」(貝塚氏)
さらに、感性と熱量(パッション)は別々の機能を持つと説明。感性は方向を指し示す羅針盤であり、熱量はその方向に向かって周囲の否定を乗り越えて進み続ける燃料だと述べた。
電通 第7マーケティング局 志村彰洋氏のプレゼンテーションは、会場を圧倒するほどの大規模なプロジェクト事例を紹介した。
まず、2025年に政府が実現すると予測していたLi-Fi(光を使った通信技術)について、研究を重ねて政府の予想より17年前倒しで実現したエピソードについて言及。「感性と熱量で限界を超えた未来をつくる。そして実際に予測していた未来がどうなったかを生きて自分の目で確かめることが未来づくりの最大の醍醐味(だいごみ)です」と語った。
他にも、アラブ首長国連邦から「2117年までに70万人の自国民を火星に連れていきたい」という国家公約を実現するための相談を受けた事例や、ベニクラゲの若返りメカニズムを応用した老化制御研究など、多数のプロジェクトを紹介。
「これらの未来への取り組みは、子どもの代だけでなく孫の代、そのさらに孫の代まで、何を残し、何を定着させるかという視点が根幹にあります。ぜひ皆さんも“損得勘定”ではなく、“孫得勘定”で考えてみてください」と伝え、インプットのセッションを締めくくった。
未来学Ⅱ:ワクワクする未来をアイディエーション「Future Creative Session」
未来学Ⅱでは、電通がクライアントとアイデア出しをする際に実施している「Future Creative Session」を体験。本セッションは、増原氏と電通 サステナビリティコンサルティング室の福島崇幸氏によって進行された。
まず、早稲田大学OGでもある電通 福島陽氏の早稲田大学深掘りトークからスタートした。
就活時代のエピソードを明かしつつ、「未来というのは遠くに描くものではなく、今の自分の足元にあります。スティーブ・ジョブズのコネクティング・ザ・ドッツ(点と点がつながる)という考え方のように、今打った点が未来で振り返ったときにつながっていきます。だから、今皆さんが好きなこと、苦手なこと、ワクワクしていることを大切にしてほしい」と語った。
続いて、増原氏と福島(崇)氏から、「未来をたぐりよせる9つの所作」について説明。さらに会場の一体感を強めるため、即興歌舞という身体性のワークを全員で体験した。「あー」という声を会場の全員が同時に発し、さらにおのおのが自由に音程を変えて声を発すると、会場に自然な倍音が広がった。無意識のうちに周囲との調和を生む現象に、笑顔と驚きが重なった。
「自然と心地よい響きが生み出されたように、アイデアも正解を探すのではなく重ね合わせることが大切です。個性を押し通すのではなく、感性を持ち寄ってつかみに行く感覚でやってほしい」(増原氏)
アイデア出しのセクションでは、まず“ワクワクを阻害するモヤモヤとは何か”という問いに対してグループでの話し合いを実施。「ミュージカルスターを目指すと言うと、海外では応援されるのに日本では就活はどうするのかなどと問われる。周りとは違う夢を追いづらい社会」「自分に自信が持てず、周囲との比較に陥って動けなくなる」「タイパやコスパの観念が強すぎて、余白や意味のない時間を許容できない社会になっている」など、出てきた“モヤモヤ”は多岐にわたった。
次に、これらのモヤモヤを踏まえて「つくりたい未来の風景を構想する」アイディエーションを行った。学生たちからは、以下のような多様で斬新な発想が飛び交った。
【学生から出たアイデアの一例】
・成功体験を積める環境と、成功につながる行動を広める仕組み
・「今日はこれをやってみましょう」という提案をしてくれて、ランダムに新しいことに挑戦できるアプリ
・人を肩書などではなく、ライフノベル(人生の物語)で認識できる社会
・熱量の高い人が優先される制度
・ロボットが人間の労働を代替するのではなく、人間がやりたいことの可能性を拡張するパワースーツ制作
増原氏は“これから社会をワクワクさせる”学生たちに向けて、「社会で活躍する人の3ステップ」を紹介した。ステップ1の“下積み期”に大切なのは素直さと大物感、ステップ2の“成長期”には経験と専門性が求められ、そしてステップ3の“達成期”に最も必要なのは志だという。「はじめの志が高ければ高いほど、それと同じだけの結果が生まれる」と増原氏。
その“はじめの志”として、参加者一人一人が手元の紙に「明日から取り組みたい一歩」を書き、一斉に掲げた。「日記を書く」「人の役に立つ」「自分から声を上げる」「いつも笑顔でいる」「新しい趣味をみつける」──さまざまな言葉がひとつの空間にそろい、会場は穏やかな熱気に包まれた。
セッションを終えて
増原氏は「柔軟な思考を持つ学生の皆さんだからこそ、ワクワクする未来を実現できるはず。未来は加速していくので、ここにいる皆とこれから出会う皆、出会わない皆と無数の個性で社会を彫刻していきましょう」と述べ、講義を終了した。
今回、2回目の実施となった早稲田大学の学生と一緒に未来を描く「未来学」。今年度中に3度目の実施も検討されており、今後さらなる展開が期待される。














