生成AIの急速な普及に伴い、生活者の情報収集から購買に至るまでのプロセスは大きく変わりつつあります。
電通デジタルでは、AI時代の生活者インサイトの実態と変化の予兆把握を目的とした研究組織「with AIラボ」を設立しました。
ラボの活動のひとつとして、AIが浸透した社会における生活者を捉えるための大規模調査を実施しました。その中で「究極の二択」という設問を用意しました。
単に「AIを使いたいですか?」と聞くのではなく、「〇〇な人間 vs 完璧なAI」といった、どちらを選ぶか悩ましい45問の二者択一をぶつけることで、人々の心の奥底にある「AIに委ねる境界線」を測りました。
本記事では、その中から見えてきた「世代間のAI観の決定的な違い」——私たちが「With AI GAP」と呼ぶ世代間ギャップ——について一部抜粋してひもといていきます。
執筆:森 俊貴
全体監修:山崎 喜貴
デザイン:小野 鼓乃
AIの便利さを知る若年層が、それでも「人間」の不完全さにこだわる瞬間
AIに最も慣れ親しんでいるはずの10~20代が、調査では繰り返し「あえてAIではなく人間を選ぶ」という興味深い回答をしました。
たとえば「プレゼント選び」の設問です。
A.「恋人や家族など大切な人へのプレゼントには、相手が微妙な顔をするリスクがあっても、自分のセンスで選んだものを渡す」
B.「AIが裏アカを分析して導き出した『確実に泣いて喜ぶ正解』を渡す」
ここで「自分のセンスで選ぶ」を最も選んだのは10代(72.7%)であり、他のすべての年代(63〜64%台)に大差をつける結果となりました。
効率的に正解を出せるAIの便利さを知っている若年層だからこそ、相手のために時間をかけて悩み、時には外してしまうかもしれない「不確実なプロセス」にこそ、人の誠意が表れると直感しているのではないでしょうか。
このような傾向は、エンターテインメントの受け止め方にも表れています。
A.「感動した映画が100%AI製だと後から知ったら、一気に興ざめする」
B.「AI製と知っても評価や感動は変わらない」
この問いに対し、最も「興ざめする」を選んだのは10代(67.3%)でした。50~60代(51〜52%)より15ポイント以上高い数字です。
AIによる完璧な生成物があふれる時代だからこそ、そこに「誰かが情熱を持って作った」という文脈が含まれていることに、10代はより強い価値を見いだしているのだと考えられます。
さらに、生活環境の選択にも同じ傾向が見られます。
A.「近所付き合いが義務の人間味あふれる下町」
B.「他人に1秒も気を遣わなくていいスマートシティ」
この問いで、「下町」を過半数で選んだのは10代(57.3%)だけでした。
10代はデジタルネイティブとして、AIを使いこなし、AIがもたらす「正解」や「快適さ」を誰よりも享受しています。だからこそ、失敗や遠回り、非効率なコミュニケーションといった「AIが排除してしまうもの」の中に人間らしいリアリティを見いだし、そこを大切にしようとしているのです。
仕事・家族・人生——30~40代は、日々の摩擦を減らす「現実的な手段」としてAIを選ぶ
では、AIを最も積極的に受け入れようとしているのはどの世代でしょうか。
A.「AIが労働をすべて代替し、人間は働かなくても生きていける世界」
B.「人間が働き続ける世界」
のどちらを望むかという問いで、最も「人間が働かなくていい世界」を望んだのは30代(45.8%)でした。10代(32.7%)や60代(28.3%)と比べると、その突出ぶりは明らかです。
30代がAIに労働を代替してほしいと望むのは、決して働く意欲が低いからではないでしょう。育児やキャリアなど、人生の重要な役割が集中する時期だからこそ、日々のタスクを合理化し、少しでも自分自身の「余白」を生み出したいという切実な思いの表れではないでしょうか。
この合理性は、極めてプライベートな領域にも顔を出します。
A.「妻(夫)が『察してほしいオーラ』を出したら、ストレスを感じながら正面から向き合って解決の糸口を探す」
B.「AIに今の状況を分析させ、相手の機嫌を損ねない『正解の立ち回り』を指示してもらい波風を立てずにやり過ごす」
この問いに対し、「AIの指示でやり過ごす」を選んだトップは30代(42.2%)、次いで20代(39.8%)となり、40代(39.2%)、50~60代(38〜39%)や10代(28.3%)を上回りました。
夫婦間のコミュニケーションという複雑な場面においても、感情のぶつかり合いによる消耗を避け、波風を立てずに平穏に済ませたい。これは単なる疲れというよりも、家庭という大切な基盤を破綻させずに回していくための、30代なりの防衛策とも読めます。
同じ構造が、人生設計の問いにも現れます。
A.「遠回りや無駄も含めて、すべて自分の責任で決めていく余白のある人生」
B.「AIの提案に従い、最も合理的で失敗の少ない完成度の高い人生」
のどちらを選ぶかという問いで、「完成度の高い人生」を最も選んだのも30代(34.2%)でした。
仕事も、人生も、家族関係も——これらの世代はあらゆる領域において、感情論を抜きにしてAIを「摩擦を減らすための道具」として使い倒そうとしています。
この世代にとってのAIは、特別なテクノロジーというよりも、複雑化する日常の負担を減らし、限られた時間やエネルギーを「本当に大切なこと」に注ぐための、極めて実用的な道具なのです。
自分のプロセスにはこだわり、人間関係は「AI」で守る50~60代
一方、経験を重ねた50~60代は、AIとの向き合い方がまったく異なる様相を見せます。
A.「周囲の評価はそこそこでも100%自力で作り上げた成果」
B.「90%AIに作らせたが周囲から天才と絶賛される完璧な成果」
のどちらを選ぶかという問いで、「自力の成果」を選んだ割合は60代(75.0%)が最も高く、20代(59.7%)との差は15.3ポイントに達しました。
60代がこれほどまでに「自力の成果」にこだわるのはなぜでしょうか。それは、不格好でも泥くさく作り上げるプロセスにこそ、働くことの本当の意味や、自分自身のやりがいがあることを、長年の経験から実感しているからだと考えられます。
では、経験を重ねた世代は「何でも人間が良い」と考えているのでしょうか?実は、ある特定の領域においてのみ、彼らは若年層よりもはるかに強く「AI」を選択します。
それは、「他者への負担や人間関係」が絡む場面です。
たとえば「墓場まで持っていく秘密をどうしても話したくなったら」という設問。
A.「つい口が滑りそうなリスクがある人間の親友」
B.「漏洩リスクは0.01%あるが感情で裏切ることはないAI」
10代は61.0%が「人間の親友」を選んだのに対し、30代以上は過半数が「AI」を選んでいます。特に50代は56.7%ともっとも多くなりました。
同じ傾向は「老後のケア」にも表れます。
A.「温かい言葉をかけてもらえるが家族が無理をする人間による介護」
B.「家族に一切負担をかけないAIロボット介護」
AIロボット介護を選んだのは、10代が43.0%にとどまるのに対し、他の世代は過半数がAIを選んでいます。年齢が高くなるほど、AIに頼りたいという意識が伺えます。
50~60代は、自分自身の仕事や人生のプロセスには「自らの関与」を求めますが、他者が関わるとなるとAIを選ぶのです。それは、長年の経験から「人間関係の複雑さやもろさ」「他人に重荷を背負わせることの苦しさ」を誰よりも知っているからではないでしょうか。
友情を壊さないために。家族に迷惑をかけないために。
彼らはAIを、「大切な人間関係にリスクや負担を持ち込まないための手段」として選んでいます。冷たい合理性ではなく、人間関係のトラブルを避け、他者を思いやるからこそ、あえて人間ではなくAIを活用する。これこそが、経験を重ねた世代ならではの成熟したAIとの向き合い方と言えるでしょう。
おわりに:「AIに委ねる境界線」に表れる、世代ごとの人生観
ここまで見てきた3つの世代像を整理します。
10~20代は、最新テクノロジーを使いこなしているからこそ、非効率で不確実な「人間同士のプロセス」に希少価値を見いだし、あえてそれを選んでいます。
30~40代は、人生の中で最もタスクが集中する時期だからこそ、感情的な領域すらも合理化し、AIを日常の摩擦を減らす現実的な手段として歓迎しています。
そして50~60代は、自分のプロセスには自己関与を求めつつも、人間関係のリスクや他者への負担を避けるためにAIを賢く活用しています。
年代によってAIへの向き合い方が異なるのは、決してテクノロジーへのリテラシーの差ではありません。AIという「すべてを合理的・効率的に解決できる存在」を前にしたとき、それぞれの世代が「自分の人生において、何を最適化し、何に時間をかけたいのか」という価値観の境界線が浮き彫りになっているのです。
究極の二択が測ろうとした「AIに何を任せ、何を人間の領域として残すのか」という境界線。それは単なるテクノロジーの受容度ではなく、私たちがどう生きたいかという「人生観」そのものを明確に示すものだったのです。
【調査概要:スクリーニング調査】
調査手法と時期:インターネット調査 2026年5月8日〜18日
調査エリア:全国
調査対象:15~69歳の男女(生成AIサービス現在プライベート利用者)
有効回答サンプル数:3300サンプル
著者

森 俊貴
株式会社 電通デジタル
MPC部門 プランニング2部
ソリューションプランナー


