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採用課題は、経営課題。採用にもクリエイティビティを。No.5

理系学生の就職・採用活動の、今を探る

2020/12/21

企業にイノベーションが求められる昨今、理系学生の採用は、新しい事業を生み出したり、既存事業を発展させたりするために欠かせません。

しかし、理系学生の就活は閉鎖的であり、文系学生と同じように採用活動を行っても、学生と企業がうまくマッチングできない現実があります。

理系学生と企業、双方にとって価値のある就職・採用活動を実現するためにはどうすればよいのか?

本連載では、学生の就活をリデザインする電通若者研究部(以下、電通ワカモン)の取り組みを紹介。初回は、電通ワカモンの調査結果を基に、理系学生の就活インサイトを探ります。

文系学生とは異なる、理系学生の就活

電通ワカモンは2020年2月、就活を終えた119人の2020年3月卒業の学生へ調査を実施しました。

就職予定の企業を認知してから内定承諾までのプロセスを、簡易的に4段階に分解。それぞれのフェーズで影響を与えたコンタクトポイントを聞きました。まずはその結果をご覧ください。

電通ワカモン

文系学生は、認知から内定承諾まで、同期の学生やサークルの先輩、親・家族・親戚といった、リアルな知り合いまたは家族が上位にきています。一方、理系学生は、就活サービス、企業のリクルーターが上位にきており、就活を始めてから出会ったサービスや人であることが分かります。

「就活生」とひとくくりにされがちな学生ですが、このように文系学生と理系学生では、就活におけるコンタクトポイントは大きく異なります。

電通ワカモンでは、文系・理系学生に日々インタビューを実施しています。インタビューから、理系学生特有の就活のリアルな苦悩が見えてきました。

研究室のための研究

就活から少し話がそれますが、理系学生の就活事情を理解する上で重要なことなので、研究室の構造について伝えます。

学生は通常、学費を払い、教育を受けるために大学に通っています。よって研究室(教授)の本来の目的は、「研究を通じて学生を教育する」ことです。

一方で研究室(教授)は、成果を出してこそ、大学からの研究活動費、企業からの共同研究費など資金源を確保することができます。その点では、「研究成果を上げる」ことが研究室(教授)の第一義になります。

このような構造の結果、研究室の目的として「学生を教育する」ことよりも「成果を上げる」ことに重きが置かれることが往々にしてあります。教授は、通常の授業など、研究以外のこともしなければならないため、研究室としての成果を出すために学生が手を動かすことになります (もちろん、教育と研究成果を両立している研究室は多くあります)。

研究室としての成果を上げるために、学生は研究員として、個別の研究テーマを割り当てられ、その研究をしていきます。研究室は、成果を上げれば上げるほど、大学や企業からさらに期待され、結果重視になっていきます。その分、研究時間も長くなり、学生が日々研究活動と進捗報告に追われることになります。その結果、月曜から土曜の間、朝から晩まで研究室にこもるようなところもあります。

このような背景と、そもそもの研究内容の専門性の高さにより、学生は何のために研究しているか、時に分からなくなることもあります。もちろん研究が好きで没頭している学生が大半です。しかし、没頭するあまり「研究室のための研究」となってしまうことが多くあります。

「知名度がある・専攻と類似してそう」が企業選びの軸に

このような構造により、研究以外の時間が取れず、満足に就活ができない理系学生が多く存在します。

理系学生は3~4年次の始めごろに、研究室選びを行いますが、熱心な学生ほど、成果を出している研究室、長時間研究をしている仲間がいる研究室の方が、成長環境があると考え、自ら志望します。研究室選びの時点では、就活のことは理解していないため、いざ就活の時期になってから、就活をする時間がないことに気づくのです。

その結果、今や就活で一般的な3~5日間のインターンへの参加が難しいだけでなく、キャリアについて考える時間、自己分析をする時間、企業分析をする時間などがほとんどなくなります。

自分の将来に向き合う時間が取れないことにより、「なんとなく名前が知られていて、なんとなく自分の研究と近そうなところ」といった軸で就職先を選びがちです。また、研究の隙間時間を利用し、サマーインターンなどから就活を始めても、なかなか両立できず、結局、「学校推薦(※)や、OB・OGに紹介された企業でいいや」となってしまうのです。

※学校推薦は、大学推薦、学科推薦、教授推薦などさまざまな呼び方がありますが、簡潔に言うと企業に対し、大学や教授が学生を推薦できる制度です。この学校推薦の是非はよく議論に上ります。ここでは多くは述べませんが、学校と企業の癒着なのではないかといった意見や、学生の自由を奪っているという意見もあります。ちなみにトヨタ自動車は先日、この制度を全面廃止すると宣言し、話題になりました。

 

「しょせん学生レベルの忙しさ」という誤解

就活では、学生時代に力を入れたこと(以下「ガクチカ」)を聞かれますが、理系学生は研究以外に語ることがない人も多いようです。

研究内容は専門性が高く、一般的に人にとっては理解しにくい内容です。また研究室のための研究になっている結果、そもそもその研究の背景や目的も、就活を始めてから考える人が多く、うまく話せないのです。しっかりと準備をすればよいという意見もありますが、周りの理系学生で文系就職をする人が少なく時間もないため、十分な対策ができずに就活をすることになります。

また、文系就職を考える理系学生には、研究の合間を縫ってベンチャー企業などで長期インターンをする人もいますが、週1、2日の勤務しかできないものです。

ある学生は、ガクチカで長期インターンの話をしたら、「なんで週1、2日なの?せっかく学生なんだからもっとやりなよ」と言われたそう。理系出身ではない企業の方からすると、理系学生の忙しさは到底理解できるものではなく、“しょせん学生レベルの忙しさで、社会人ほどではない”と思っている方もいます。

「研究室のための研究」から「社会のための研究」へ

上述のような背景から、理系学生向けの就活サービス「LabBase」を提供するPOLと電通ワカモンは、研究と社会の新しい出合いをつくるべく「LabMeets」を立ち上げました。

LabMeetsでは、理系学生が自らの研究内容を生かし、企業メンターと共にリアルな経営課題に挑戦する場をつくることで、彼らの研究に新しい可能性を提供します。インターンシップのプログラムでは、専門領域のプロフェッショナルに加え、電通のプランナーが企画のブラッシュアップをサポートします。また、忙しい理系学生も参加できるような設計にしています。

次回は、POLと電通ワカモンの代表がLabMeetsの概要や、プロジェクトを立ち上げた思いを伝えます。

<調査概要>
【出典】「サークルアップ調査」
【調査時期】2020年2月
【調査対象】大学生サークル専用アプリ「サークルアップ」に登録する大学4年生・大学院2年生(2020年2月時点)
【サンプル総数】119ss
【調査地域】全国