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芸能ビジネスの変革に、電通BXチームが伴走!No.1

芸能ビジネスをアップデートする。レプロの変革に電通BXチームが伴走

2025/07/01

レプロ

2024年、芸能事務所の倒産件数は過去最多を記録。業界全体が大きな転換期を迎える中、その潮流に飲み込まれることなく、芸能ビジネスの変革に挑戦しているレプロエンタテインメント。従来の芸能マネジメント・プロデュース業にとどまらず、コンテンツプロデュースやPR代理業へと事業領域を拡張し、実演家とのフェアな契約形態、社員の働き方や評価制度の改革など、多方面にわたるアップデートに取り組んでいます。

そんな変革の一環として、同社は2023年度に4年ぶりとなる新卒採用を実施。求めたのは、変化する芸能ビジネスに向き合う意志と、深い「作品愛」を持つ人材でした。

今回はレプロエンタテインメントの経営企画室長・本間隆平氏と、採用クリエイティブを支援した電通BXチームの河瀬太樹氏に、芸能界の枠を超えた“次のレプロ”を形にする取り組みについて話を聞きました。

芸能マネジメント会社から「芸能を愛するエンタメ総合商社」へ

河瀬:はじめに、本間さんのご経歴を教えていただけますか?

本間:はい。私は元電通社員でして、2010年に入社後、ラジオ・テレビを担当する局で従来通りのメディアビジネスに加えて、アニメの製作委員会業務やキャラクタープロデュース、ドラマの制作など、コンテンツ系の仕事に多く関わっていました。電通には9年ほど在籍し、その後、コンテンツビジネス系のベンチャーを経て、2021年にレプロエンタテインメントに入社しました。

レプロでは最初に映画やドラマなどを手がけるコンテンツ制作を2年ほど担当し、現在は経営企画と人事、加えてPR代理業務にも関わっています。引き続き映像プロデュースにも携わっていて、芸能マネージャー以外の業務を一通り担当してきました。最近ではマネージャー業務も始めています。

河瀬:もはや、「なんでもできる人」という感じですよね。

本間:いやいやただの便利屋です(笑)。ただ、芸能界にどっぷり浸かってきたというわけではなくて、ずっとコンテンツプロデュースやコンテンツビジネスといった文脈の中でキャリアを積んできた感覚があります。

河瀬:まさにその視点こそが、今のレプロの変化にもつながっている気がします。そもそも、読者の中には「レプロ=芸能事務所」というイメージが強い方も多いと思うのですが、現在のレプロはそれだけではないですよね。

本間:そうですね。今のレプロは、芸能を軸としながらも、芸能を愛するエンタメの総合商社を目指しています。実演家のマネジメント・プロデュースを行う「スタープロデュース事業」はいわば出自であり、レプロの柱です。そこに加えて、映画やドラマ、舞台などのエンタメをつくるコンテンツプロデュース事業。そして、自社だけではなく他社のPR代理業も含めた「PR・コミュニケーション事業」。この3つの領域をそれぞれ独立させて展開しています。

コンテンツ制作を手がける芸能プロダクションは多いですが、PR代理業まで一貫して行っている事務所は、出自が芸能プロダクションのところではあまりないと思います。

本間隆平氏

河瀬:それに、レプロさんの面白い点は、自社所属の実演家に限らず、他社の実演家も含めて柔軟にキャスティングやPRをされているところですよね。しかも、もともと芸能マネジメントの豊富な実績・ノウハウがあるので、実演家とどのようなコミュニケーションを取ればアウトプットの質が高まるのか、良いものづくりができるのかを熟知されている。それがコンテンツ制作やPRの強みに直結していると思います。

本間:ありがとうございます。理想としては、この3つの事業がバランスよく自立しながらも連動してレプロを支えている、そんな状態をつくっていきたいと思っています。ですから、所属の実演家を前提としたサービスだけではなく、作品ファースト、クライアントファーストの発想で、常に最適な価値提供をしていきたいと考えています。

河瀬:その発想自体が、既存の芸能ビジネスの枠を超えていると感じます。なぜレプロが芸能ビジネスのアップデートに取り組んでいるのか、その背景にあった課題意識についても教えてください。

本間:正直に申し上げて、レプロのパブリックイメージはポジティブなものばかりではないと思うんです。実際にインターネットで社名を検索すると、過去のトラブルにまつわる記事や報道が検索上位に出てきます。私たちはそれを否定するのではなく、反省すべきこと、変えるべきことに向き合い、アップデートしていかなければいけないと強く思いました。

たとえば、実演家との契約も見直し、現在は基本的にすべて1年契約です。そうすることで、環境の変化やキャリアの志向に合わせて柔軟に契約内容を設計し、お互いにとって常にフェアで最適な関係を築いていくことができます。それは、過去に失敗を経験したからこそ、たどり着いた結論でもあります。

河瀬:2024年は、芸能事務所の倒産件数が過去最多というニュースもありました。今後ビジネスを継続していく上でも、業界全体が大きな転換期に差し掛かっているように感じます。

本間:そうですね。インターネットやSNSの発展によって、相対的にテレビの力が弱まっているといわれています。従来の芸能プロダクションは、マスメディアとの交渉力を武器にしてきた側面もありますが、それだけでは立ち行かなくなっています。だからこそ、テレビだけに依存することなく、自分たちでスターをつくる力が必要だと思ったんです。そのためには良いコンテンツを自らプロデュースする力も、それを世の中に届けていくPRの力も磨かなければいけない。そうやって、新たなビジネスモデルを構築する必要があると考えたのが、多角的に事業を展開するきっかけの一つです。

ただし、レプロの社員全員そうですし、私もそうなのですが、マスメディアへの尊敬や感謝の念は、今でもとても強く持っています。やっぱりみんな、テレビが大好きなんですよ。レプロを育ててくれた環境、芸能プロダクションとしての出自、マスメディアとの関係性。そのような歴史をこれからも大切にしながら、今の時代に即した芸能ビジネスにアップデートしていきたい。そんな思いが、レプロの根底にはあると思っています。

河瀬:マスメディアをリスペクトしながらも、時代に合わせてビジネスの基盤を広げ、組織の在り方も見直していく。まさに今、芸能プロダクションにはそのような「会社としての強さ」が求められていると感じます。

本間:そうなんです。やはり、今の芸能プロダクションに必要なのは「会社化すること」だと感じています。いわゆるカリスマ経営者の属人的なマネジメントに依存するのではなく、仕組みとして持続可能な経営ができるようにする。レプロもそこを強く意識して変革に取り組んできました。たとえば、勤怠管理や評価制度を整備し、年功序列ではなく成果ベースの評価を導入。マネージャー職も働き方に合わせてフルフレックスに対応しています。リモート勤務やフリーアドレスの導入も、実はコロナ禍以前から行っていました。

河瀬:時代に先駆けて、働き方や評価の仕組みをアップデートしてきたのですね。

河瀬太樹氏

芸能ビジネスをアップデートする。4年ぶりの新卒採用に踏み切った理由

河瀬:レプロさんの事業変革について伺ってきましたが、内部の組織や人材の在り方にも変化が求められていると感じます。2023年度に4年ぶりの新卒採用を実施されましたが、その経緯について教えてください。

本間:まず当社の出自として、モデル事務所からスタートし、そこからテレビやバラエティへの展開が進んだ経緯があります。その影響もあって、レプロ=モデルに強い事務所、というイメージが根強いのではないかと思います。ただ現在は、映画・ドラマで活躍する俳優のマネジメント・プロデュースにも注力し、より「長く活躍できる実演家」や「長く愛されるコンテンツ」の創出に貢献したいと考えています。

もちろん、イベントやバラエティといった「瞬間を切り取るコンテンツ」も大切ではありますが、それに加えて今後はNetflixのようなプラットフォームにも残っていく「資産になるコンテンツ」を生み出していきたい。そのためには、作品づくりの現場に対応できる新しい人材が必要でした。

河瀬:その人材像というのは、従来のマネージャーとは違ったスキルが求められるのでしょうか?

本間:はい。たとえば、従来のマネージャーはテレビ局との交渉力や、現場でのコミュニケーション能力が求められていましたが、俳優業を中心に据えるなら、そのマネージャーには監督や脚本家と深い会話ができることや、作品への深い理解が必要になってきます。つまり、現場で語れる知識や、作品を見る力が求められるんです。そのような思いのもと、4年ぶりに新卒採用を行うことにしました。

河瀬:あえて中途ではなく、新卒を選んだ理由はどこにあったのでしょうか?

本間:中途も選択肢にはありました。ただ、私たちが求めていたのは「嗜好性」なんです。作品を見続ける胆力、クリエイティブに触れ続ける習慣。そういったものは「好きだからこそ続けられる」という面が大きい。中途採用市場では、スキルや経験は可視化できますが、嗜好性は見えにくい。それなら、作品が好きでたまらない、そんな人たちに出会える可能性があるのは新卒だろうと考えました。

だからこそ、採用活動のビジュアルやコピーも、当たり障りのないものにはしたくなかったんです。作品に対する愛情やクリエイティブへの造詣を持つ人に響くような、洗練されたアウトプットが必要だったので、その道のプロフェッショナルにお願いするべきだと考えました。

河瀬:そこで私たちにご相談いただいたわけですね。

本間:はい。河瀬さんにお願いした一番の理由は、レプロの「今」を一番よく知ってくれていたからです。実は河瀬さんとは電通時代は知り合いじゃなかったんですよね。2021年から私が通っていた早稲田大学大学院のMBAの入山ゼミで出会ったのが河瀬さんでした。2年間のうち、特に後半の1年間は毎晩のようにゼミ活動を共にしていたので、自然とレプロのこともたくさん話していて。今のレプロをどう変えていきたいのか、その文脈を深く理解してくれているという信頼がありました。

河瀬:日中は仕事、夜はゼミという生活で、本間さんと毎日のように顔を合わせていましたよね。私自身は芸大出身で、電通ではアートディレクターとしていくつかの部署を経験してきましたが、次第に経営者と向き合う仕事も増えてきて、経営のことも体系的に学びたいと考えてMBAに通い始めました。

本間:だからこそ、クリエイティブのプロフェッショナルとして信頼できるだけでなく、経営目線や事業理解のあるパートナーとして、お願いできると思えたんです。レプロの過去のイメージに縛られず、今のフェーズに寄り添ってもらえる。そして何よりもMBAでご一緒した経験から、発注者と受注者という枠を超えて、同じ目線で走り切れる関係性が築けると確信できた。それが一番大きな決め手でした。

本間隆平氏

“共創型”で挑んだ採用クリエイティブ

河瀬:新卒採用に向けたクリエイティブを制作する上で、どのようなアプローチを取ったのかを振り返っていただけますか?

本間:まずはレプロの現在地や、目指している方向性について、河瀬さん、そしてコピーライターの長谷川輝波さんやプロデューサーの鈴木健介さんにもお話しさせていただきました。その上で、本当に多くのコピー案をご提案いただきました。

河瀬:確かに、かなりの数になりましたね(笑)。今の時代、採用広告って本当に多いんですよね。その中で、レプロさんが「どこで違いを出せるのか」を明確にしないと、目立たせることは難しいと感じていました。だからこそ、ヒアリングではとにかくていねいにお話を伺いました。どんな人を採用したいのか、なぜそういう人が必要なのか、その背景にある考え方まで掘り下げて。

その中で、私たちの目を引いたのが、採用プロセスの中に「映画を見て批評する」というステップがあったことなんです。映画を見て、その感想ではなく批評を書く。これは採用活動の中でもかなり特異なプロセスだと思いました。レプロさんが求めている作品への愛や深い理解力を象徴するようなプロセスですし、何より「この会社、作品を大事にしているんだ」と伝わる強いメッセージになる。

そこで、「この映画批評のプロセスを軸にメッセージを考えたらどうか?」とご提案させていただき、それを具体化するためのコピーやビジュアルのアイデアを一気に出していきました。これも少数に絞り込んだ数案をプレゼンテーションするのではなく、とにかくたくさんのプロトタイプをテーブルに並べて、本間さんたちと一緒に一つ一つ検証しながら絞り込んでいく「共創スタイル」で進めました。

本間:こちらからのインプットに対してフィードバックをもらえるのもありがたくて。たとえば「映画批評の工程が面白い」と言ってもらえたことも、自分たちだけでは気づけなかった視点だったんですよね。私たちにとっては当たり前のフローでも、第三者から見たら魅力になるんだ、と。最終的に辿たどり着いたコピーが「作品愛」。これをテーマにしたことで、ビジュアルとの相性もすごく良くなりました。結果として、レプロが求める人物像を的確に伝えるものができたと思います。

河瀬:短期間のプロジェクトでしたが、内容は非常に濃かったですよね。

本間:そうですね。実は納期がかなり厳しかったのでさまざまな制約があったのですが、その中でもここまで高い解像度のアウトプットを仕上げていただけたのは本当に助かりました。

レプロ採用
レプロ採用

応募数500人超。「作品愛」を起点に、質の高い人材と出会えた理由

河瀬:実際にクリエイティブを公開してみて、どのような反応がありましたか?

本間:応募数、反応ともに、かなり良い結果になったと思います。最終的に約500人から応募がありました。私たちにとっては4年ぶりの新卒採用だったので、どの程度の数字が妥当か手探りだったのですが、就職情報サイトの担当者から「同業他社と比較しても反応が非常に良い」とフィードバックをもらいました。

新卒採用を経て入社した社員も、私たちが求めていた人物像としっかりマッチしていると実感しています。応募の“量”だけでなく、“質”の面でも非常に良い採用ができたと思っています。やはり、初手のクリエイティブの打ち出し方が間違っていなかったという手応えがありますね。

河瀬:当初は200人の応募を目標にしていましたよね。結果的に500人を超えたのは、本当にすごいことです。

レプロ

本間:そうなんです。今年の募集も4月で締め切りましたが、今回は700人以上の応募をいただいています。ある程度このスタイルが響くことがわかったので、引き続き磨いていきたいと思っています。

河瀬:でも選考の手間はかなりかかりますよね。映画批評の工程、相当大変そうです。

本間:いや、本当に(笑)。映画を見て、その場で批評を書いてもらうのですが、作品は当日まで知らされないんです。スクリーンで作品を上映して、その後1時間で批評を書いてもらいます。選考側も参加者全員の批評を読み込む必要があるので、かなりの労力がかかります。

河瀬:ただ、それが応募者の本質を見極める上で、非常に有効なんですよね。その人がどれだけ作品を見てきたか、どんな視点で観察しているか、全部文章ににじみ出る。好きだからこそ見続けられるという前提があるからこそ、この形式が生きるように思います。

本間:そうなんです。分析力や観察力がある人って、同じ作品でも注目するポイントが違うんですよ。「この演技に目をつけるのか」と驚くような視点が出てくる。逆に、あまり観ていない人だと、どうしても表層的な感想にとどまりがちです。

河瀬:レプロさんの仕事をする上で大事なのは、まさにそういう「観る力」や「考える力」ですよね。採用クリエイティブを通じて、レプロさんがどんな価値観で人材を迎えようとしているのかを一緒に掘り下げていったことは私たちにとっても大きな刺激になりました。そしてその後、組織としての軸をさらに明確にするべく、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の策定にも本格的に取り組まれ、私たちもそのプロセスに伴走させていただきました。

次回は、MVVをなぜ今このタイミングで定めようとしたのか、そこにどのような背景や課題があったのかを中心に、お話しできればと思います。

(後編に続く)

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