TOPPANグローバルパーパス浸透施策。世界を巻き込んで可視化した「Culture」とは?
2025/09/18

TOPPANホールディングス株式会社は、2025年4月1日にグループパーパス特設サイト「TOPPAN's Purpose Special Site」を開設。TOPPANグループのパーパスをグローバルに発信するムービーや、創立125周年にちなみ、125人以上のグローバル社員を巻き込んだコンテンツ制作をしました。
パーパス浸透に課題を抱える企業が多い中、なぜTOPPANは“コンテンツ”を軸にグローバル規模のパーパス浸透にチャレンジしたのか?
TOPPANホールディングス 広報本部 宣伝部長の佐藤圭一氏と宣伝部 課長 渡邊慎悟氏、本プロジェクトに伴走した電通の森本紘平、江口露美が語り合います。
世界250社が同じ方向を向くために。TOPPANが挑んだパーパス浸透の第一歩
森本:まずは、今回のパーパス浸透施策に着手した背景からお聞かせいただけますか?
佐藤:きっかけは、2023年10月の持株会社体制への移行と社名変更でした。TOPPANとしてブランドを再構築する中で、「凸版印刷はもはや印刷だけの会社ではない」という認識のもと、“印刷”の文字を社名から外しました。同時に、グループ会社間の連携を一層深めて、新たな価値創造のスピードを上げていく体制に舵を切ったのです。
ただ、グループ会社ごとに理念やビジョンなどを独自で持っており、理念体系や言葉の使い方も違っていました。本来は一本化するのが理想だと思うのですが、各社の独自性や歴史もある。そうした中で、各社の理念を残しつつ、グループ共通の指針となるような“グループ理念”が必要だと感じていました。そこで、社会的な視点から企業としての存在意義を明確に示せるパーパスを掲げようと考えました。

江口:そのパーパスは、どのようなプロセスで策定されたのでしょう?
佐藤:着手したのは2022年の夏ごろで、そこから約10カ月かけて、徹底的にリサーチを重ねました。まずはデスクリサーチから始まり、各グループ会社の経営陣へのインタビュー、次代を担う若手社員へのヒアリング、グループ従業員全体へのアンケート調査も実施しました。さらに、一般生活者向けブランド調査や未来予測資料、第三者評価データなども活用し、多面的にデータを収集・分析しています。
それらのインサイトを統合して、未来の社会が求めているニーズにどう応えるか、社会にどんな価値を提供するか、自分たちらしさや強みは何か、といった要素を整理・体系化し、パーパスの核となる構成を固めていきました。
また、パーパスの実現に向けて従業員が共通で持つべき価値観を言語化したバリューズも合わせて策定しました。こうして「TOPPAN's Purpose & Values」が完成したのが、2023年5月です。

森本:パーパスを策定したものの、形骸化してしまい、浸透させていくことに課題を抱えている企業も多いと聞きます。御社はどのようにして施策を進めていったのでしょうか?
佐藤:まず、パーパスとバリューズをしっかり伝えるための基盤として、パーパスブックやムービー、携帯型カード、ポスターなどを制作しました。さらに、オンライン説明会や、社内報・ポータルサイトなどの社内情報メディアでの展開、教育研修プログラムでの活用、社内制度への組み込みなど、さまざまなチャネルを通じて社内への周知を図っています。
ブックやポスターなどは、英語や中国語を含む多言語展開をして、海外のグループ企業にも配布しました。新入社員向けのテキストブックにもパーパスを掲載し、入社時点から意識を共有できるようにしています。さらに、社内報では特集号を作成し、策定のストーリーや社員ヒアリング調査の結果、大学教授との対談なども掲載しました。
江口:浸透のために力を入れてこられたのが伝わってきます。外部への発信もされていたのでしょうか?
佐藤:はい。社名変更とタイミングを合わせて、新聞広告を地方紙含めて全国54紙に展開し、コーポレートサイトや特設サイトでもパーパス&バリューズを紹介しました。会社案内や統合レポート、サステナビリティレポートなどのコーポレートコミュニケーションツールでもパーパスを前面に出しています。
森本:そうした取り組みを経て、従業員の皆さんの反応には変化がありましたか?
佐藤:2025年1月時点で実施した社内調査では、国内におけるパーパスの認知率は98.1%、共感度は74.6%という結果が出ました。正直、高すぎて驚いたぐらいですが、「伝える」というフェーズでは一定の成果が得られたと考えています。
ただ、海外についてはまだ大きな課題が残っていました。ポスターや資料は各拠点に送っているのですが、ちゃんと見られているかは分からないし、認知の度合いも拠点によってバラつきがある状態でした。
江口:そこから次の一手として、グローバル向けの施策を検討されたんですね。
佐藤:はい。国内では「知っている」から「自分ごと化」へ、海外ではまず「知ってもらう」段階をしっかりつくる必要がある。そこで、グローバル企業グループとして私たちより先行してさまざまな取り組みをしている電通さんの事例を参考にしつつ、森本さんや江口さんに協力していただいてグローバル特設サイトを立ち上げることにしました。
森本:われわれからも弊社の国内外グループ各社を交えたコンベンション開催の知見等、紹介させていただき、最終的にはそういった活発なディスカッションの場も意識しつつ、まずは佐藤さんのおっしゃる、その前段となる「知っていただく」フェーズからやってみようという流れでしたね。
TOPPANグループが生み出す多様な「Culture」が息づく世界を描く
森本:今回はインナー向けの施策でありながら、イントラネットではなく、あえて社外からもアクセス可能な特設サイトを開設しています。改めてその狙いを教えていただけますか。
佐藤: TOPPANグループ全体を見渡すと、イントラの環境が各社で統一されていない状況でした。中国など一部地域ではアクセス制限がありますし、インフラも異なります。買収によって加わった企業も多く、それぞれのIT環境を統一させるにはかなり時間がかかると思われました。
それならば、マルチステークホルダーに向けて、誰でもアクセスできるオープンなウェブサイトにしてしまおうと。あくまで主な対象はグループの従業員ですが、外部の人が見ても違和感のないよう設計しました。中身はインナー寄りですが、伝えるべきメッセージは外にも広げていくべきだと考えた結果です。
江口:外への情報発信は、中にいる人たちのモチベーションにもつながりますよね。私も森本さんと一緒にさまざまな切り口でのインナーブランディングやパーパス浸透施策に携わってきましたが、外と中の循環は大切なポイントだと感じます。今回のコンテンツ内容についてもご説明をお願いします。
佐藤:コンテンツの柱は大きく3つあります。1つ目は、グローバルレベルで共感を得られるような新しいパーパスムービー「Culture」。もともとパーパス策定時につくった解説ムービーはありましたが、今回はよりエモーショナルに、文化や思いに寄せた構成にしようと、映像のトーンや音楽も含めて、従業員のモチベーションを上げるような仕上がりにしています。
2つ目が経営層・現場層10人へのインタビュー動画。多様性を重視し、国内外問わず、さまざまなキーパーソンに、自分たちが生み出しているCultureについて語ってもらいました。

そして3つ目が125人の社員メッセージ。創立125周年に合わせて、世界中から125人分の“私が生みだすCulture”を集めました。海外比率を高めに設定し、国籍・年齢・職種もバラバラな構成にしています。

森本:江口さんは電通の人事時代に社員の声を集めたコンテンツ制作を担当してきた知見を多数提供してくれましたが、今回の企画は構想段階でどう感じていましたか?
江口:私もよく類似の作業はやってきた経験がありましたが、出演される従業員の方はそれぞれ本業もある中で、置かれている状況も違います。そういった面での配慮や進行スケジュールのバッファー、また、従業員の方々のモチベーションを上げるコンセプトも大事になってくると感じていました。しかも今回はグローバルでこれだけの規模感です。TOPPANさんは、この施策に対して本気なんだなという印象が大きかったです。
佐藤:ありがとうございます。ムービー制作にあたっては、部長・執行役員クラスの方々に集まってもらい、自分たちの事業が生み出しているCultureについて考えるワークショップを開催しました。半日かけて出てきた言葉やエピソードを整理し、最終的には8つのテーマに集約。それぞれのCultureをムービーの構成要素に反映させています。教育、ヘルスケア、セキュリティ、電子部材など、多様な事業の中にCultureの芽があることを、全員で再確認できるプロセスにもなりました。
渡邊:サイト全体のメッセージも主語を「TOPPANは」ではなく、「私たちは」「私は」に変えたことで、社員の言葉がよりリアルに響くようになったと思います。「私もこんなCultureをつくっているかも」と自然に共感できるようなサイト構成を意識しました。
森本:社員の皆さんがそれぞれに自分の言葉を持っていて、心に響きました。

佐藤:そうですね。今回大切にしていたのが、パーパスをどう共有していくか?という問い自体への向き合い方です。「“浸透”という言葉は上から目線のような印象を与えないか?」と感じているので、私はなるべく「共有」という言葉を使うようにしています。パーパスを上から強制的に浸透させるのではなく、まずは知ってもらって、それをきっかけに、自分自身の“マイパーパス”についても考えてもらう。その結果、会社のパーパスと自分のパーパスが2〜3割でも重なればいい。逆に重なっていない部分があるからこそ、自分自身の思いを原動力に、会社を動かしていく主体性が生まれる。それがCultureの多様性やイノベーションにつながっていくのではないかと考えています。
地道な作業と丁寧なコミュニケーションで支えた、コンテンツ制作の裏側
森本:グローバル全体に向けて取り組んだ今回の施策、各国の皆さんへ企画意図や内容を深く理解してもらうためのマテリアル制作や進行方法は特に気を遣ったポイントだったかと思います。その点は、いかがでしたでしょうか?
渡邊:そうですね。大前提として、短期間で5カ国を巡りながら同時にコンテンツを制作していくスケジュールは、かなりチャレンジングでした。特に多言語展開を前提とした映像制作や社員メッセージの収集では、言語や文化、表現のニュアンス調整が一番のハードルだったと思います。
マニュアルやガイドラインもかなり細かくつくりましたし、メールのトーンにも気を配りました。森本さん、江口さんにも一緒に連日手を動かしていただきましたし、どうすればもっと良くなるのかを何度も議論できたことが良かったと感じます。
森本:とんでもないです。渡邊さんの現地の協力者や制作メンバーへの接し方からも、そのこだわりと熱意が伝わってきました。
江口:佐藤さんや渡邊さんを含めた宣伝部の皆さんの心のこもった進行の一つ一つが、今回のコンテンツにつながっていますよね。
渡邊:ありがとうございます。今回は全世界のTOPPANグループに届けるコンテンツだったので、妥協せずに向き合いたかったんです。電通さんにもサポートしていただいて、資料やヒアリングシートを用意し、可能な限り相手の背景を理解した上でインタビューや撮影に臨みました。ロケハンをする時間がないので、現地からシューティングシートを共有してもらって事前にアングルを想定するなど、そういう一つ一つの段取りが、結果的に現地での信頼につながったと感じています。
森本:インタビュー動画の撮影現場でも出演者の皆さんにわれわれから当日の進行オリエンをさせていただいた際、事前にかなり深くご理解いただけていた印象を持ちました。渡邊さんたちの細やかな根回しや情報共有のおかげだなと感じました。
渡邊:いえいえ、電通さんを含め、撮影メンバーの皆さんの進行に助けられました。
佐藤:メッセージ収集など、最初は「なんでこんな面倒なことを…」と思われるかもしれないと心配していたのですが、意外なほど前向きに協力してくれる人が多かった。むしろ「うちも参加したい」という声も出てきて、125人に収まらないほど参加希望者が集まったのはうれしかったです。
コンテンツを起点に広がる、パーパス浸透の輪
森本:特設サイトやコンテンツが形になったとき、お二人はどんな印象を持たれましたか?
渡邊:完成したインタビュー動画は、10人×日・英・中の3言語展開で計30本ほどに及ぶ大仕事でしたが、TOPPANらしさをビジュアル化できたという手応えがあります。また、125人のメッセージは内容もさることながら、写真だけでもインパクトがあり、ユニークな仕上がりになったと思っています。
江口:自分が出ていなくても、知り合いの社員が登場していることで自然と話題になったり、一緒に見てみようというきっかけになったりしますよね。世界各地に広がる125人を起点に、その周囲の多くの人へも確実に波及していったと思います。
渡邊:SNSの反応も上々です。社内でのシェアだけでなく、海外の従業員が自らLinkedInで投稿したり、Facebookでシェアしてくれたり。広報が働きかけなくても、自然に広がっていく形もあるんだなと感じました。
江口:私も今回、改めて「こんなにも多様な人たちがTOPPANグループにいるんだ」と実感しました。その多様性が視覚的に一瞬で伝わるインパクトは、想像以上に大きなものでした。
渡邊:グループ全体で5万人を超える多様な従業員がいると、パーパスの共有は難しいと思われがちなのですが、むしろその多様さ自体が魅力だということが、今回の取り組みで可視化されたように思います。パーパスムービーで世界観を伝え、インタビュー動画で具体例を示し、125人のメッセージで一体感と多様性を表現するという構成が、結果的にとても良かったですね。
江口:「あなたがつくるCultureは?」という問いに答えるのは難しいのではないかと思っていたのですが、皆さん本当に真剣に向き合ってくださって、『チャレンジ』や『前例にとらわれない姿勢』、『誠実さ』など、TOPPANのパーパスやバリューズに通じる言葉が自然と出てきていたことも印象的でした。結果として、125通りの“TOPPANらしさ”が浮かび上がってきたように感じます。

渡邊:江口さんがおっしゃったように、今回のメッセージからはTOPPANのバリューズである誠実さ(インテグリティ)や、情熱(パッション)、積極性(プロアクティビティ)といった要素も感じ取れました。それが自然に表れていたのがすごく面白かったですね。
森本:今の時代、新入社員にとっても「この会社はどんな価値観を大事にしているか」だけでなく、「どんな人がどんな思いで働いているか」が重視されている印象があります。だからこそ、従業員の皆さんが自分のパーパスを持ち、それを言語化する機会を提供できたことには大きな意味があると思います。
渡邊:普段、社内で「あなたのつくっているCultureは何ですか?」なんて会話、なかなかしないですよね。そういう意味でも、国内外でいろんな思いを持って仕事に向き合っている人たちの存在を“見える化”できたことは、今後の広報活動にも生かせる財産だと感じています。
森本:青臭いことでも、企画に落とし込むと聞きやすくなるし、答えやすくなりますよね。社内外からの反応はいかがでしたか?
渡邊:グループ会社の中には、125人のメッセージに登場した社員を社内報でさらに深掘りする動きもありました。今回のインタビューを通してパーパスを考えるきっかけが社内にも広がっていったようで、小さな波が別の場所で立ち上がっていくのを見られて、やって良かったなと心から思います。
森本:各社でのコミュニケーションのきっかけになっているのが素晴らしいですね。
渡邊:そこはやはり、「What Culture Are You Creating?」といった問いかけるメッセージを掲げたことが大きかったと思います。シンプルだけど、本質を突いていて、今後も長く使っていける問いになりました。さらに、森本さんには国内の出演者への、江口さんには中国の出演者へのインタビュアーも担っていただいて、雰囲気づくりに加えて、素晴らしいエピソードをたくさん引き出していただきました。本当にありがとうございました。
森本:とんでもありません。インタビュアーをやりながら皆さんのお話が伺えて貴重な経験となりました。10人のインタビューも125人のメッセージも、参加者の皆さんの熱い思いや仕事に対するプライドが感じられて、私たちも刺激をいただきました。
江口:私も同じく、TOPPANグループが担う幅広い事業領域と、多様な人材によってCultureが形づくられていることを改めて実感しました。この仕事もTOPPANさんだったんだ!こんな領域にまで広がっているのか!というたくさんの発見もありました。とても濃い数カ月を、皆さんとご一緒させていただけて良かったです。
自分がつくっているCultureを語り合う。そんなCultureをつくりたい
森本:今回の取り組みを通じて、今後さらにトライしていきたいことはありますか?
佐藤:今回出演していない従業員にも魅力的な人はたくさんいるので、125人で終わりじゃなくて、今後も継続的に新しいコンテンツを出していきたい。コンテンツを拡充し続けることが、パーパスを風化させずに「TOPPANって、こういう会社だよね」というイメージをキープし続けるポイントだと思います。
渡邊:今回は共感やきっかけをつくることが目的でしたが、今後はそれをどうアクションにつなげていくかが次のテーマだと思っています。この施策をゴールにせず、スタート地点として捉えて、さらに進化させていきたいですね。
森本:では最後に、お二人が「これからTOPPANでつくっていきたいCulture」についてお聞かせください。
渡邊:「あなたはどんなCultureをつくっていますか?」という対話が自然に生まれるようにしていければと思っています。今回のプロジェクトで、そういった会話ができる土壌が見えましたし、自分たちがつくるCultureに誇りを持って語り合える状態は、パーパスが共有されている証だと思います。
森本:今回ご協力いただいた皆さんは、本当に誇りを持って語ってくださいましたよね。
渡邊:そうですね。現地での取材でもそれを強く感じました。それを肌で感じられたのは大きかったです。
森本:では佐藤さん、お願いします。
佐藤:私はこれまでさまざまな企業のブランディング支援に長く携わってきましたが、ブランドをつくるというのは、突き詰めれば「Cultureをつくる」ことだと思うんです。広報や宣伝の役割は、そうしたCultureを可視化し、社内外に届けていくこと。
TOPPANは長い歴史の中で“印刷会社”という強いイメージが根づいていました。その堅実さは強みでもありますが、同時に保守的や受け身体質に見られることもあったと思います。だからこそ今、従業員一人一人がプロアクティブに動き、パッションを持って「多様な文化が息づく世界」を目指す。そうした姿を発信しながら、誇りを持てるCultureを築いていきたいです。