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採用課題は、経営課題。採用にもクリエイティビティを。No.6

研究の可能性を広げる、理系就活の新しい選択肢

2021/01/22

理系学生の就活に潜む問題と、それを解消する取り組みを紹介する本連載。今回は、理系学生の研究を企業の経営課題解決に応用するインターンシップ「LabMeets」についてお伝えします。

「LabMeets」は、研究者と社会をつなぐスタートアップ企業POL(※)と電通ワカモン(電通若者研究部)が共同で立ち上げたプロジェクト。

POLの代表・加茂倫明(かも みちあき)氏と、電通ワカモンの西井美保子氏、用丸雅也氏に、理系学生の就活の課題と「LabMeets」への思いを語ってもらいました。

※POL:研究関連市場をテクノロジーで革新するスタートアップ企業。科学技術人材のキャリアプラットフォームと技術探索プラットフォームを運営し、国内最大規模の理系学生採用サービス「LabBase」を展開している。


LabMeets

理系学生の「働く」をもっと前向きにしたい

西井:加茂さんは、どうしてPOLを立ち上げられたのでしょうか?

加茂:僕自身も理系の学生でした。きっかけは、大学2年生の時、先輩が「研究が忙しくて就活ができないから、大学の推薦で行ける企業でいいか」と、半ば投げやりに就職先を決めていたこと。優秀な先輩だったので、もっと活躍できるところがあるはずだと思いました。「理系の学生が、本当に自分の望む会社で、活躍できる仕事に就けるようにしたい」と考えたのです。

そもそも、理系学生の採用は、総合職や技術系採用といった枠での募集がほとんどです。でもそれは学生側からすると、「入ってから何するの?」「自分の力がどう生かせるの?」と、将来像が見えないまま入社することになりかねません。それでは、“就職”ではなく“就社”です。だから僕は、専門的なスキルを評価するジョブ型採用を推進していきたいと考えました。

さらに研究開発市場を俯瞰すると、研究費や産学連携の課題なども見えてきました。今は「研究領域におけるあらゆる課題を解決して、科学と社会の発展に貢献する」ことを、POLでは目指しています。

西井:私も、理系学生の就活環境が全く整っていないのは、日本全体の課題だと思っていました。企業の採用活動のリデザイン、そして学生の就職活動に選択肢を増やすアクションを行う電通ワカモンとしても、この課題を解決していきたいと考えています。

多くの企業が求める理系学生。でも求める人材には伝わっていない⁉

用丸:連載1回目でお伝えした通り、理系学生の研究は「研究室のため」という傾向が強く、自分の意思と内容が乖離している場合があります。しかも、専門性が高過ぎて、学生自身が研究を俯瞰的に見られなくなってしまうことも多々あります。

また、「教授が薦めた企業以外には入りづらい」「先輩が入った企業しか選択肢がない」というように、選択肢が狭められているケースもあります。いわば、キャリア形成が民主化されていないというのが、理系学生が抱えている課題だと考えています。逆に、企業側はどのような課題を抱えているのでしょう?

加茂:企業からは、「欲しい人材になかなか会えない」という悩みをよく聞きます。技術力は優れているのに、学生からの知名度があまり高くないBtoB企業からの相談が特に多いですね。

ではBtoC企業は、というとやはり課題を抱えています。有名な家電メーカーからは、「ソフトウエアやAIにも力を入れているのに、機械系や電気系の学生ばかりが集まり、情報系からは全く応募が来ない」といった相談を受けました。要は学生の認知が企業のブランドイメージに左右され過ぎていて、本当に求めている人材とうまくコミュニケーションできていないのです。

西井:同感ですね。私たちも似たような相談を受けています。加茂さんのお話とは逆の例ですが、例えばAI技術を扱う企業ですと、本来は、技術に特化したスペシャリストと、その技術をビジネスに昇華できるゼネラリストが必要で、両者は思考が異なります。しかし現実は、理系学生を一くくりで採用してしまい、うまく活用できていない。このようなミスマッチは今、多くの企業で起こっているのではないでしょうか。

用丸:僕も、「伝える」と「伝わる」の違いが結構大きいなと感じています。実際のところ、今ほとんどの企業が、なにかしら理系の人材を求めていると思うんですよね。この企業が実は生体認証の人材を求めているとか、実はAIに特化した人材を求めているとか。専門性を持った人材を必要としているけれど、その人材に伝わっていないというのが実情ではないでしょうか。

西井:そういった、企業と理系学生の双方が抱えている課題を解決したいと考え、POLと電通ワカモンは一緒に「LabMeets」を立ち上げました。

LabMeets

自分の研究を企業の課題解決に役立てる体験を「LabMeets」で

用丸:LabMeetsは、理系学生の研究を企業の課題解決に応用するインターンシップです。採用活動の場ではないのですが、「『研究のための研究』から『社会のための研究』へ」をコンセプトに、理系学生がリアルな現場、人、課題を通して社会とつながり、自らの研究が想定外の領域にも寄与できることを知る機会を提供したいと考えました。

西井:第1期は、子どもとその家族向けにアミューズメント施設を運営するイオンファンタジーに課題提供企業として参画いただきました。テーマは、エデュテインメント(エデュケーション×エンターテインメント)領域におけるAI活用。この領域を研究している大学3年生または大学院修士課程1年生に、実際にイオンファンタジーが抱える経営課題の解決に挑んでもらいました。

加茂:LabMeetsでは今後、特定の理系人材とコミュニケーションを取りたい企業がメンターとして参加できる制度も設けることを検討しています。専門性のある学生にアプローチしたいことを企業がアピールすることで、企業の採用活動の課題解決にもつながると考えています。

「就職の選択肢は無限に広がっている」ことを理系学生に知ってほしい

用丸:理系学生の強みは、研究という武器を持っていることです。メンバーシップ型からジョブ型の働き方が当たり前になっていく中で、その武器を生かせる選択肢は多いほどいい。だからこそ、自分の研究で解決できる課題が世の中にあることや、先輩や教授が推薦する企業以外にも研究を生かせる選択肢があることを知ってほしい。LabMeetsがそのきっかけになればと考えました。

加茂:自分の技術や研究を社会のために生かしたいという思いは、理系学生の皆さんが持っていると思います。その思いを生かす先を見つけるチャレンジの場として、LabMeetsを捉えていただけるとうれしいですね。

西井:加えてもうひとつ。LabMeetsは、世の中を俯瞰的に見る力や人を動かすコミュニケーション力なども学べる内容になっています。理系学生は、「課題があったら解く」ことは得意だと思います。さらにLabMeetsを体験することで、ビジネス視点を持ちながら、今までとは違った問いの解き方も身につけていただけるのではないでしょうか。

「LabMeets」を通じて、アカデミアと産業の新しい関係をつくる

西井:第1期はAIをテーマにしましたが、世の中には無限といっていいほどの技術分野と社会課題があります。今後もさまざまな社会課題に学生と企業が協力して挑む機会を、LabMeetsは提供し続けていきたいと考えています。

加茂:僕も、こういったプロジェクトをもっと増やしていきたいですね。多くの企業に、今まで社内からは出てこなかった、学生ならではの新しい発想で経営課題を解決する体験をしていただきたい。なので、少しでもLabMeetsに興味を持った企業には、どんどん参加してほしいと思っています。

学生にとってLabMeetsは、1回参加すれば自身が抱えている課題がすべて解決するというものでもないとは思います。しかし、何か一つ成功体験を収めることで、自分の研究に対する情熱や、やりたいことが変わるかもしれない。だからこそ、どんどん参加して「研究室のための研究」ではなく、社会に貢献していくことの楽しさやワクワク感を体験してほしい。

用丸:LabMeetsの立ち上げに当たり、僕は、「君の研究で、経営を解こう。」というコピーを考えました。参画いただいたイオンファンタジーは、LabMeetsで出てきた視点やアイデアをきちんと中長期的に生かしていくという意思をお持ちです。学生たちの研究が経営課題解決にきっと役立つはずです。

今後、第2期、第3期と続けていく中で、企業と学生がしっかりと向き合い、中長期的に産業とアカデミアの新しい関係性をつくっていけたら、学生の研究やチャレンジが自然と就職につながる状態になるのではないかと考えています。

西井:インターンシップだけで終わらせずに、そこで出たアイデアを企業の課題解決に結びつけるところまでサポートするのが私たちの役割です。次回はLabMeets第1期の様子をお伝えしますので、ぜひご覧ください。