左から、電通デジタル 長澤孝侑氏、emole 澤田風雅氏、電通グループ 石川遼氏ショートドラマ市場が、世界的に急拡大しています。日本だけを見ても、2026年には国内市場規模が約1500億円に達するとも推計され(※)、映画市場に追随せんばかりの勢いを見せています。
この新たな市場をけん引するのが、ショートドラマアプリ「BUMP」を運営するemole(エモル)です。
2022年のアプリリリースから、わずかな期間で国内No.1プレーヤーへと成長したemole。電通グループはそのポテンシャルに着目し、2025年に出資を行いました。
しかし、両者の関係は単なる「投資家」と「投資先」にとどまりません。emoleが抱える事業課題に対し、電通グループのアセットを掛け合わせることで、新たなソリューションを共創。スタートアップの成長を加速させる「成長パートナー」としての連携が始まっています。
今回は、emoleのCFO澤田風雅氏、電通デジタルの長澤孝侑、そして両者の連携を主導した電通グループのイノベーションイニシアティブ(DII)の石川遼の3名による鼎談を実施。
投資先支援が新規事業開発へと昇華するプロセス、そして大手企業とスタートアップの協業がもたらす価値について話を聞きました。
スマホネイティブ時代が生んだ「ショートドラマ」という必然的進化
emole 澤田風雅氏石川:それぞれの自己紹介と、事業内容についてお伺いさせてください。澤田さん、まずemoleという会社と、ショートドラマ市場の概況について教えていただけますか。
澤田:emoleの澤田です。当社はショートドラマアプリ「BUMP」を運営しています。2022年に代表である澤村(直道氏)が「BUMP」をリリースした当初は、まだ「ショートドラマ」といった確立した名称はなく、「超短尺ドラマ」等といった言葉でその新しいコンテンツの形態を示そうとしていました。
実はこの時期、世界的に同時多発でショートドラマというサービスが生まれました。その背景には、あらゆるコンテンツがスマートフォンネイティブに最適化されていった流れがあります。まず2010年代前半にソーシャルゲームが登場し、後半には縦読みのマンガアプリが普及しました。
映像コンテンツのショート化は少し遅れてやってきましたが、ユーザーが短尺の映像を楽しむレディネス(素地)が十分に高まっていたと捉えています。そのタイミングで、プロが作るクオリティのコンテンツ(PGC:Professional Generated Contents)としてショートドラマが登場しました。
石川:なるほど。スマホ時代のコンテンツフォーマットの進化の先に、ショートドラマが生まれたということですね。では、続いてショートドラマ配信アプリ「BUMP」の現在の状況はいかがですか?
澤田:「BUMP」は現在、国内のショートドラマアプリでNo.1(※1)のサービスとなっております。累計ダウンロード数は500万DLを超える等、若年層中心に大きな支持を頂いております。
われわれの特徴は、自社制作のオリジナル作品だけでなく、他社様の良質なコンテンツも数多く配信するプラットフォームである点です。フックの強いBUMPオリジナル作品でユーザーを集めながら、良質な他社コンテンツも数多く配信することでユーザーに満足感の高いショートドラマの視聴体験を提供しています。
成長の要因は、コンテンツが「SNSでバズりやすい」構造になっていることです。1話3分という短い尺の中で、視聴者を引きつけて「次が見たい」と思わせる強烈な「フック」を脚本段階から多数仕込んでいます。このフックとなる部分を20〜30秒ほどの「切り抜き動画」として編集し、SNSに投稿するのですが、この「切り抜き」こそが成長の鍵です。
単なるティザー(予告編)ではなく、切り抜き動画はそれ単体で一つのエンタメとして成立しつつ、視聴者が「この続きが見たい」と強く思うように計算されています。共感できるシーンや、逆に「ありえないだろ」とツッコミを入れたくなるような衝撃的なシーンを切り出すことで、視聴者の感情を揺さぶり、共感や論争をコメント欄で巻き起こします。
この高いエンゲージメントにより、各SNSのアルゴリズムが「良質なコンテンツ」だと判断し、さらに多くのユーザーへ拡散してくれます。このサイクルを意図的に作り出すことで、当社の切り抜き動画のSNS累計再生数は70億回(※3)を超えています。
※1 「国内発ショートドラマアプリ」DL数No.1(2025年7月〜2026年6月/iOS・Android合算/対象国:日本国内/対象アプリのパブリッシャーの国:日本/出典:AppTweak調べ)
※2 2026年7月時点
※3 2026年8月時点
BtoCからBtoBへ!スタートアップの抱える課題とは
電通デジタル 長澤孝侑氏石川:ありがとうございます。まさに、SNSのエコシステムを巧みに活用した新しいメディアフォーマットですね。では続いて、長澤さんから自己紹介と事業についてご紹介いただけますでしょうか?
長澤:電通デジタルの長澤です。電通デジタルは国内最大規模の総合デジタルファームで、今回の協業では、電通デジタルがもともと持っていたショート動画の運用能力が生かされています。
私はTikTokをはじめとするプラットフォームと向き合う部門に所属しています。主な業務は、メディアのプロダクト(広告商品)をクライアントに提案し、実行することですが、それだけでなく、他社と差別化できる新たなパッケージやソリューションの開発も担っています。
石川:ありがとうございます。では最後に、私も自己紹介をさせてください。電通イノベーションイニシアティブ(DII)の石川です。DIIは電通グループ内で事業R&Dを担う部署で、まだソリューション化されていない新しいテクノロジーやサービス領域の特定と事業開発、スタートアップとのパートナーシップ構築を推進しています。emoleのような魅力的なスタートアップを支援し、ハンズオンで関わる中で得た知見を体系化しながら、電通グループのナレッジとして蓄積・展開していくことも役割のひとつです。
さて、ここから本題の連携についてです。電通グループは2025年3月にemoleへの出資を発表しました。澤田さんから先ほどお話しいただいたショートドラマ市場のポテンシャルや、SNSエコシステムをハックする独自ノウハウ、そして若年層の心をつかむコンテンツの企画/制作力に大きな可能性を感じての投資でした。
出資実行後、澤田さんたちと毎月ミーティングを重ねる中で、emoleの次なる成長への課題が見えてきました。それは、「BtoCビジネスで培った強みを、いかにBtoB領域へ拡張していくか」という視点でした。
澤田:emoleはBUMPを中核事業としたコンテンツファーストのBtoCの会社でした。また、BtoB領域でも、このパッケージの開発以前からご依頼を受けて企業のブランデッドコンテンツを制作した経験はあり、中にはSNSでの総再生数が6000万回を超える作品も生まれるなど、制作のノウハウは十分にありました。
しかし、それらは単発の受託制作です。事業をさらにジャンプさせるためには、これを広告商品として体系化し、継続的にクライアントに提供していく必要がありましたが、社内にはそのノウハウも営業経験者もいませんでした。
emoleの制作能力×電通の運用能力で新たなソリューションが誕生
電通グループ 石川遼氏石川:その課題に対し、われわれDIIが立てた仮説が、「emoleのコンテンツ制作能力と、電通グループのアセットを掛け合わせることで、新たなビジネスを創出できるのではないか」というものでした。
具体的には、投資と事業開発を担うDIIが連携構想を主導し、高いメディアプランニング能力と強固な販売網を持つ電通デジタルが実行を担う。このグループ横断の体制によって、emoleの成長と電通グループの新規事業開発が相互に補完し合う構造を描くことができました。
この構想を実現すべく、電通デジタルに連携を持ちかけたわけですが、長澤さん、当時TikTokというプラットフォーム側での課題感は何かありましたか?
長澤:はい。電通デジタルとしてTikTokの売り上げをさらに拡大していく上で、新たな「カテゴリーエントリーポイント」を増やす必要がありました。ちょうどその頃、TikTokプラットフォーム内でもショートドラマがトレンドになっており、2024年には「TikTok上半期トレンド大賞」も受賞するなど、媒体側がショートドラマを強力にプッシュしている状況でした。
一方で、クライアント側からも切実なニーズがありました。「従来の純広告ではすぐにスワイプされてしまう」「インフルエンサー施策以外の新しいフォーマットで若年層に訴求したい」という声です。ショートドラマは、その課題に対する強力なソリューションになり得ると感じていました。
ユーザーに人気のフォーマットなので、広告として見られてもストレスが少なく、物語の力で最後まで見てもらいやすい。さらに、共感を呼ぶコンテンツはオーガニックでの拡散も期待でき、広告ターゲット外の潜在層にもリーチできる可能性を秘めています。
実際、Z世代の86%がTikTokのショートドラマ広告にポジティブな印象を持っているというデータもあり、まさに渡りに船のお話でした。
スピード感のある共創プロセスが生んだ「TikTokショートドラマ広告パッケージ」

石川:emoleのクリエイティブ力、TikTokというプラットフォームの勢い、そしてクライアントのマーケティング需要。この3つのピースを、DIIと電通デジタルというグループ横断の体制がハブとなってつなぎ合わせ、ぴたりとはまったわけですね。
仮説を立ててからソリューション化までのプロセスは、非常にスピーディーでした。2026年始から具体的な議論を始め、同年4月末には「emole×電通デジタル TikTokショートドラマ広告パッケージ」としてローンチに至っています。emoleがこの共創プロセスで意識したことは何でしたか?
澤田:われわれにとっては未知の挑戦だったので、BtoB事業を本格的に推進できる人財の採用と、電通とのソリューション設計を同時並行で進めました。幸いなことに、テレビ局出身でコンテンツとビジネスの橋渡しができるプロデューサー人財の採用が決まったタイミングと、電通との取り組みが本格化するタイミングが重なりました。入社1日目から彼に担当してもらい、一気に作り込みを進めることができました。
石川:電通グループとしては、クライアントに対して「実際に売れる」イメージが持てるソリューションにすることが重要でした。価格設定やプラン内容、セールスシートの体裁に至るまで、電通/電通デジタルの営業担当者が提案しやすく、クライアントが検討・判断しやすい形を追求しました。
その都度、澤田さんには「これはできますか?」と相談させていただきましたが、非常に円滑に調整していただけたのが成功の大きな要因だったと思います。
長澤:メディアパートナーであるTikTok(ByteDance社)側の反応も非常にポジティブでスピーディーでした。「TikTokに非常に合っているのでぜひ進めてください」と後押ししてもらえたことで、これが売れるパッケージになるという確信が持てました。
「打席にすら立てなかった」スタートアップが、大手企業の扉を開くまで

石川:ソリューションのローンチ後、実際に電通デジタルには多くの引き合いが来ていますね。
長澤:はい。日用品や小売、不動産といった幅広い業種のクライアントからお問い合わせをいただいています。特に重要なのは、「ショートドラマをやりたいからTikTokを活用したい」という、これまでとは逆の流れで引き合いが増えている点です。このショートドラマ広告パッケージがなければ生まれなかったであろう、インクリメンタルな需要が生まれています。
澤田:われわれのようなスタートアップにとって、この連携の価値は計り知れません。正直なところ、自分たちだけで大手企業の担当者にアプローチしようとしても、門前払いされるのが現実です。どんなにスタートアップ界隈で評価されても、エンタープライズの決裁者から見れば「知らない会社」でしかなく、そもそも打席に立つことすらできませんでした。
しかし今回は、電通さんに出資していただき、連携できたことで、BtoBの経験者がいない組織でありながら、いきなり著名なクライアントと向き合うテーブルを用意してもらえました。それも、ただ打席に立たせてもらっただけでなく、バットの振り方まで教えてもらいながら、実際にヒットを打つことができました。これは本当にありがたい限りで、まさに電通さんならではの支援だと感謝しています。
「投資家」から、エコシステムを共に拡大する「成長パートナー」へ

石川:そのように感じていただけて、私たちもうれしい限りです。今回の連携は、電通グループとしても、投資先のスタートアップと深く連携し、具体的なソリューション開発から拡販までを実現した事例となりました。この経験を通じて得たノウハウを体系化し、他の投資先支援にも応用していきたいと考えています。お二人の今後の展望はいかがでしょうか?
澤田:emoleのチャレンジは、「BUMP」というサービスだけでなく、ショートドラマ産業のエコシステムそのものをいかに大きくできるかにかかっています。そのためには、コンテンツ制作、ユーザー獲得、そして広告マネタイズという全ての歯車を回していく必要がありますが、われわれだけではできないことも多いので、知見とアセット、そして実働部隊まで提供してくださる電通グループの皆さんと共に、このチャレンジを続けていきたいです。
長澤:電通デジタルのTikTok担当としても、ショートドラマ施策を単発で終わらせるのではなく、ブランドにとって定常的に活用できるマーケティング手法として確立することを目指しています。そのためには、ブランドリフト調査や、データクリーンルームを活用した効果検証の仕組みを整え、PDCAを回せるようにすることが不可欠です。emole、DIIの皆さんと連携しながら、ショートドラマという産業自体の成長に貢献していきたいと考えています。
石川:お二人ともありがとうございます。ショートドラマは、新しいユーザーとのコンタクトポイントとして、確実に定着していくと確信しています。われわれも単なる「投資家」ではなく、事業を共に創造し、成長を加速させる「パートナー」として、emoleとの連携をさらに深化させていきたいと思っています。両者の信頼関係を基盤に、また新たな挑戦にご一緒できることを楽しみにしています。