正解のない時代を勝ち抜く武器「納得解」とは? コルク 柿内芳文×電通 小布施典孝(前編)

  • Kakiuchi
    柿内 芳文
    株式会社コルク 編集者
  •  1
    小布施 典孝
    株式会社電通 第3CRプランニング局 企画プランナー

誰もが模範とするロールモデルが崩れ、「正解」がない時代に突入しつつある昨今だからこそ、そもそも何を課題と捉え、どこに向かって進むべきなのかを織り込んだ「納得解」を、世の中の多くの人が求め始めています。そしてそこには、心がゆさぶられるような「物語性のあるソリューション」が必要なのではないでしょうか。『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社)をはじめ、数々のベストセラーを送り出した編集者・柿内芳文さんに、電通のソリューションディレクター兼、企画プランナーの小布施典孝さんがインタビューしました。正解のない時代を勝ち抜く武器となりえる「納得解」とは?

正解のない時代、どんな「解」が求められる?

小布施:僕が柿内さんと対話をしたいと思ったのは、柿内さんが編集協力されている藤原和博さんの『たった一度の人生を変える勉強をしよう』(朝日新聞出版)を読んだのがきっかけです。その本では、これまでの正解が通用しなくなった今の時代、代わりにあるのは皆が自分で導き出した「納得解」だけだというメッセージがあって。僕自身、仕事を通じて様々な企業の経営陣から「正解がどこにあるのか分からない」といった話を聞く機会も多く、クリエーティブのアイデアを提案する前に、課題設定から議論になることが増えています。

柿内:以前は明確な課題があって、最短距離でどういうアプローチをするか。例えば富士山の頂上を目指すとして、どの登山口から登るのがいいかという話だったのが、まず「どの山に登るべきか」に変わってきたと。

小布施:そうなんです。これまでは富士山に登るために、どんな登り方があるのかをクリエーティブ表現で考えるのが僕らのソリューションだったけれど、「そもそも富士山なの?」から「山でいいの?海かもしれないよ」と課題設定やソリューションの幅が広がっているんですね。つまり、これまで模範としてきたロールモデルが崩れ、正解のない時代に突入したと感じるんです。

柿内:編集に携わった菅付雅信さんの『中身化する社会』(星海社)にもありましたが、なぜ正解のない時代になったかというと、まず単純に選択肢が増えたからですよね。世の中が発展していった結果、それまで一部の人達が享受していたものが庶民にも広がり、情報も多くなり、選択肢も無限に増えていった。そうすると、正解は一つではなくなります。それから、インターネットなどの進歩によって、嘘が丸裸になったということです。昔は「これが正解です」と提示されても検証する武器が無かったけれど、今は違いますよね。

小布施:確かにそうですね。

柿内:働き方も、今の時代は正解がないからこそ、ここ10年でいろんな働き方本が出版されたわけで…。でも、僕自身は「どう働くのか」という問いかけはそろそろ終わるのかなと思っています。働くことの前に、「どう生きるか」「なぜ生きるか」「どうすれば幸せになれるのか」がベースにあるから、一人ひとりが自分の幸せのかたちを考えないといけない時代なんです。それこそ個々の「納得解」ですよね。そんなシビアな現代だからこそ、幸不幸を決めるのは自分次第で、すべての悩みは対人関係の悩みであると説いたアドラー心理学の『嫌われる勇気』が70万部以上、韓国でも30万部以上売れているのだと思います。これからは働き方よりもずっと深い、哲学の時代になっていくのかなと感じています。

ストーリーで紡ぐ「納得解」とは?

小布施:では改めて、「納得解って何?」というところから考えてみたいのですが、藤原さんの著書では中高生向けに納得解の導き方を教えていますよね。

柿内:そうですね。藤原さんはもともとリクルートのトップ営業マンで、杉並区立和田中学校で東京都初の民間人校長になった方です。これからの時代、子どもたちに何を教えるべきかを考えたとき、それまでのビジネス感覚として「今のままではまずい」という危機感があったのだと思います。1+1=2といった、答えが一つに決まっている従来のカリキュラムにおいては、どうすれば答えに最短距離で到達できるかが大事でしたが、□+□=2となると、解は無限に広がりますよね。従来の最短距離を突き詰める学校教育にプラスして、正解が与えられていない問いに関しては、「納得解」の導き方が必要だろうと。

ただ、納得解とは一人ひとりがバラバラな解を出して終わりではなく、それを周りにも納得してもらうことで完成します。例えば30人いるクラスで統一の見解をつくるためには、個々が理論を構築して、プレゼンして、周りを納得させていくことが大事なんだと。

小布施:周りを巻き込む力が強くないといけないってことですよね。自分だけ納得していてもだめで、皆が納得していることが「納得解」なんですね。

柿内:納得解を導くには手数もいるし、シミュレーション能力やロジカルシンキング能力なども求められるのですが、最後の周りを納得させるプレゼン段階にこそ、相手をその気にさせるストーリーが必要なのではと考えています。今、『インベスターZ』(講談社/試し読みはこちら→1巻2巻3巻※IE, Chrome, Firefox の最新版を推奨します)という投資漫画を担当していますが、株価なども、いくら理論を追求しても人の感情の揺れ動きによって影響を受けるので予測ができません。

例えば雇用統計で良い結果が出たとしても、その良い情報が人々の期待を上回っていないと株価が下がってしまうこともある。人は理論だけでは動かない感情の生き物なので、納得解を受け入れてもらうには、頭ごなしの説得ではなく、共感を生むことが大事だと思うのです。

小布施:納得=共感は、その通りだと思います。僕らのソリューションの多くも、難しいことをいかに皆が分かる言葉に翻訳できるかが肝です。会社全体を動かすには、いち部署の人だけではなく、いろんな部署のいろんな立場の人の心を動かさないといけないから。分かりやすい開かれたストーリーテリングが大切で、賢い人を説き伏せるためのIQの高い話法ではなく、誰にでも納得してもらえるような話法も有効なんですよね。

ストーリーをつくるヒントは、原点回帰にあり!

小布施:皆に納得してもらうためには理論だけではだめですよね。柿内さんは、納得解につながるストーリーをどのようにつくっているんですか?

柿内:本の制作においては、どのような「文脈付け」をするのかが編集者の仕事の比重として大きくなったと感じます。以前は才能を発掘して育てるとか、中身をどうやって面白くするかに比重が置かれがちだったけれど、それだけでは足りないんです。

僕が2011年に星海社新書を立ち上げた時は、「そもそも新書って何だっけ?」という問いからスタートして、新書が世の中に存在する意義や、新書の先駆けである岩波新書が生まれた理由にまで遡って考えてみました。すると新書には「若い人に、知の入り口を提供する」という役割があったし、若者は本を読まなくなったといわれるけど、本につながる文脈がないだけで、知識欲自体は高まっていると感じられたんですよ。そこでレーベルのコンセプトを「武器としての教養」と定め、星海社新書=若い人に武器としての教養を与えるという文脈を付けたんです。どんな文脈をつくるかは、一度原点に帰るのが分かりやすいアプローチ方法かなと思います。

小布施:「何が要るか」よりも「なぜそれが必要なのか」の原点、つまりは“What to say”よりも“Why to say”が重要ということですよね。会社経営もフィロソフィーやビジョナリーワードを持つべきだと強く言われるけど、「何を言うか」よりも「なぜそれを言うのか」が求められていると感じます。実際、経営者の方と話をしていると「自分とは何者なのか」「この会社がどうあるべきか」という内省を通じて考えを深めている人が多い。僕たちが経営者と向き合う時にも、知識量の多さではなく、人間としての深度が求められる時代なのかなと感じます。

分かりやすいキーワードが胸を打つ

柿内:ストーリーなり文脈なりをちゃんと言葉にすると、仲間を得やすいなと感じます。星海社新書の場合、「これは若い人に武器としての教養、生きていくための教養を身に付けてもらうためのレーベルです」と説明すると、作家さんをはじめ多くの人の賛同を得やすかったんです。チームというか、仲間になってくれる。その結果、若い人に売れたんですよ。

小布施:柿内さんは新書でバンバン当てているイメージだけれど、文脈づくりからしっかりされていたから売れるんでしょうね。「武器としての教養」って言葉も、分かりやすいからスッと入ってきます。

柿内:そういえば先日、会社の研修旅行で温泉に行ったのですが、実は全国でも草津のようにどんどん湧き出ている温泉って意外と少なくて、湯量が少ないから水で薄めたり加熱しているところも多いんです。そこで本物を見分けるキーワードとなったのが、「源泉かけ流し」。シンプルで分かりやすい言葉だからこそ、良い温泉の基準として定着していますよね。

小布施:他にも分かりやすさという点で、柿内さんの印象に残っている事例は何かありますか?

柿内:海外のレビューサイト「Oyster.com」は、ホテルなどの公式サイトに上がっている写真ではなく、現地調査員が実際に見た通りの写真をそのまま掲載しているのが特徴なんです。サイトのコピーも秀逸で、「本物は喜び、偽物は恐れる」。今の時代には、よりシンプルで、より共感を得やすい言葉の力が大事なのかなと感じますし、今後もっとそうなっていくと思います。

小布施:正解のない時代に、ストーリーと言葉で「これが正解だ」という文脈が導き出せたら強いですね。

柿内:そうですね。例えば「食べログ」などでも、本物の味でちゃんと文脈がつくれていたら、どんなに僻地の個人商店でも、一気に全国区になることもありますよね。本物を追求しているところはたくさんあるけれど、まだ文脈に乗せられてないところが多いのかなという印象ですね。

後編へ続く)

プロフィール

  • Kakiuchi
    柿内 芳文
    株式会社コルク 編集者

    1978年、東京都生まれ。
    慶應義塾大学文学部卒業後、光文社に入社。ミリオンセラーとなった『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(山田真哉)をはじめ、『若者はなぜ3年で辞めるのか?』『99.9%は仮説』『ウェブはバカと暇人のもの』などの編集に携わる。2010年に星海社へ移り、「武器としての教養」をコンセプトとした星海社新書を立ち上げ、『武器としての決断思考』(瀧本哲史)などを担当。フリーランス時代に『ゼロ』(堀江貴文)、『嫌われる勇気』(岸見一郎、古賀史健共著)の編集に携わった後、2013年に作家のエージェント会社・コルクに入社。現在は投資をテーマにした漫画『インベスターZ』(三田紀房)などを担当。

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    小布施 典孝
    株式会社電通 第3CRプランニング局 企画プランナー

    事業戦略、新商品開発、CM、プロモーション、ウェブ、アプリ、店頭、戦略PR、イベントなど、さまざまな領域での企画作業に従事。社内では、「原体験デザイン」「逆算型商品開発」というメソッドを開発するとともに、スポーツをソリューションにするユニットを立ち上げ、現在活動中。カンヌイノベーション部門ショートリスト、スパイクスアジアブロンズ受賞、アフリカ最高峰キリマンジャロ登頂。全日本大学野球選手権・優勝。

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