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3/21公開「BE@RBRICK」―真っ白なフィギュアに、ハリウッドと描く物語。

2025/03/17

日本のみならず、世界中に熱狂的なファンを持つ日本のフィギュア「BE@RBRICK」(ベアブリック)。この「BE@RBRICK」を原作としたアニメーションシリーズ化が、これまで数々の世界的ヒット作品を生み出しているドリームワークス・アニメーション(以下、ドリームワークス)と、電通の共同製作により実現しました。

日本のコンテンツである「BE@RBRICK」が、どのようにして世界でのアニメーションシリーズ化を実現したのか。「BE@RBRICK」の生みの親であるメディコム・トイ社長の赤司竜彦氏、ドリームワークス CCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)のピーター・ギャル氏、電通のコンテンツ・クリエイター鹿間天平氏が語ります。

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左からメディコム・トイ 赤司氏、ドリームワークス ピーター氏、電通 鹿間氏。
 
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写真提供:Apple TV+
「BE@RBRICK」はCGアニメーションをふんだんに使い、全13話をアニメシリーズ化。Apple TV+での公開(2025年3月21日)を予定している。

究極にシンプルな「BE@RBRICK」には、ハリウッドに通じる魅力がある

鹿間:最初に、この作品を作ることになった経緯からお話しします。

はるか昔、2016年にさかのぼりますが、僕の同僚が「BE@RBRICK」を世界に広がるアニメーション作品にしたいと赤司さんに交渉し、快くOKをしてくださいました。それをもとにドリームワークスに話をして、一緒に作ろうとなったのが始まりです。そこから7年かけて開発をしてきて、制作に進むことになり、およそ10年後の今年、ついに公開となりました。本当に感慨深いです。

もともとのきっかけまで振り返ると、「世界に影響を与える作品を作りたい」という電通としての目的がありました。僕は世界に影響を与える作品というのは2種類あると思っていて、ひとつは「その国独自の文化的個性を極める」というパターン。例えば「おくりびと」は、まさにその大成功事例だと思います。

もうひとつは、エッジをそぎ落として、どんな文化的背景をもった人でも楽しめるように「作品の質を究極に高めていく」というパターン。このパターンがハリウッドが作り上げてきた最強の伝統スタイルで、ドリームワークスはその最高峰にあると思います。「BE@RBRICK」は、存在そのものがこのハリウッドスタイルじゃないか、と思ったのが、最初のきっかけです。

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「BE@RBRICK」の人気は日本だけに閉じているわけではなく、世界中の人にこよなく愛されるフィギュアですし、それはなぜかと考えると、装飾をそぎ落として究極にシンプルなものにしていて、どんな色にもなれる柔軟性を持っているからだと思います。そこがハリウッドに、世界に通じる魅力だと思いました。

赤司さんに伺いたいのですが、当時はどういう思いだったのでしょうか。多くのファンが「BE@RBRICK」に魅力を感じる理由のひとつは物語性がないこと、つまり自由に想像できる余地があるからだと思うのですが、そこをあえて映像化に踏み切られたのはなぜでしょうか。

赤司:ドリームワークスに当時いた10年来の友人から連絡があったんです。電通から提案のあった「BE@RBRICK」のアニメーション作品をぜひ作りたいと。彼が最初のかじとりをしてくれるのならば一緒にやろう、と。それが踏み切った理由でした。

鹿間:あ、電通の提案が理由ではなかったってことですね(笑)。ドリームワークスも、すぐにやりたい!と提案を受け入れてくれましたが、ピーターには当時どんな思いがあったのでしょうか。

ピーター:電通から「BE@RBRICK」のイメージを見せられたときに、私自身はロサンゼルスのお店などでも見ていて、物語性がないことも知っていました。ですが、なぜか感情を揺さぶるようなエモーショナルな魅力があった。そこに興味をひかれました。

それは何かいうと、「BE@RBRICK」は全て画一的なつくりで、ひとつのコミュニティや世界を作り上げる象徴になりつつも、ひとつひとつはデザインでカスタマイズされていてユニークな個性がある、という非常に面白い要素です。瞬時に、「クリエイティビティと個性」が、この物語の根幹になると思いました。それがやりたい!と思った理由です。

「BE@RBRICK」が起こした革命と、作品へと続く「テーマ」

鹿間:そんな作品が3月21日からApple TV+で、ついに公開されます。この作品がどんなテーマでどんなストーリーになるのか、ネタバレしない範囲でピーターからちょっとだけ話せますか?

ピーター:この作品での世界は「国家権力とルールに従わないといけない」というのがまずベースにあります。ここでは高校を卒業すると同時に全身にペイントがされる。それによって職業が勝手に決められ、アイデンティティが確立されます。

ですが、主人公のキャラたちには一方的に権力から「この顔になれ、この職業になれ」と指示されるのではなく、自分がやりたいことや個性を貫きたい、という思いがありました。そこで、主人公たちは秘密のバンドを結成します。バンドは「自分の個性を理解して、自由を追求する」というメッセージを歌にします。そのメッセージ、音楽、彼らの活動が世の中の人の意識を変えて、世界を変えていく、という物語です。

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鹿間:ドリームワークスが手掛けた他作品との違いや、「BE@RBRICK」だからこその「こだわり」はありますか。

ピーター:違いではなく、通底している大事なところがあると思っているので、それについて話をさせてください。

ドリームワークスを業界の確固たるポジションにしたのは「シュレック」です。シュレックは完璧な存在ではない「挑戦者」で、私たちはそんな挑戦者のストーリーを伝えることを大事にしています。「BE@RBRICK」の主人公たちが自分たちのメッセージで世界を変えていく挑戦は、このドリームワークスの哲学と重なる、大事なところだと思っています。「BE@RBRICK」も完璧じゃないですよね。おなかがちょっと出ていたり。そういう個性的なところがとてもすてきです。

鹿間:作品に会社としての哲学と重なるテーマがある、ってとても重要ですね。

僕が語るのはおこがましいのですが、「BE@RBRICK」って、革命を起こしたなと感じています。それは、大人でもフィギュアが好きでいい、逆に格好いい。そういう世界の認識を変えたことです。子どものころはクマのぬいぐるみが好きでも、大人になるにつれて、「子どもっぽい」と思ったりして、好きだった気持ちを置いていってしまう。でも、僕は大人になって「BE@RBRICK」を見たとき、「クマって格好いい」「部屋に飾りたい」と衝撃を受けたんです。同じような衝撃を、世界のたくさんの人が受けたのではないでしょうか。

この「BE@RBRICK」の持つ革命的な魅力が、今回の作品に思いっきりダイレクトにリンクしていると思っています。

何かというと、この作品の主な視聴者ターゲットになる小中学生は、ちょうど大人への一歩を歩むときなんです。ぬいぐるみを捨ててマニキュアを塗ったり、おもちゃを捨ててスケボーに乗り始めたり、まさにクマを捨て去るタイミングの、オトナ初心者たちに向けたシリーズなんですね。

そんな彼ら彼女たちに、「好きなものは好きでいていい。世間の声は気にする必要はない」という、僕が「BE@RBRICK」から学んだメッセージがこの作品にも込められています。そしてそれはこの作品の「自分がなりたいものになる、世界を変える」というコアメッセージにもつながっていると思います。

ピーター:そして、さらにいえば好きなタイミングで、いつでも自分のことをリペイントできる。というのも大事なポイントですよね。

鹿間:まさに、人生と同じですよね。

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ピーター氏も赤司氏ももともとは全く違う職業に就いていた。やりたいことに気が付いて、行動を起こし、今の場所にいる、と語る。

鹿間:ベアブリックの生みの親として、赤司さんは今回のストーリーやテーマをどのように感じていますか?

赤司:「自分がなりたいものになる」という今回の作品のテーマは、メディコム・トイという会社の根幹のテーマでもあると感じています。私たちは「自分たちが欲しいものを作る」というテーマでずっと仕事をしてきました。だからすごくありがたかったですね。

鹿間:ドリームワークスが大事にしていること、メディコム・トイが大事にしていること、それぞれの思いが重なるテーマを持った作品になっているんですよね。

日本企業初の共同製作。大切なのは“共通認識”

鹿間:これを僕が自分で聞くのも変なんですが(笑)、ドリームワークスが日本企業と一緒に共同製作をするのは初めてだと思いますが、実際に電通とやってみてどうでしょうか。

ピーター:はい、これが初めての取り組みになります。パートナーシップの成功は共通のゴールと共通の価値観があることですが、電通とはそれを持てているのがとてもよかったです。「BE@RBRICK」の哲学・世界観についての共通認識がしっかりあるので、とても進めやすいです。

鹿間:僕たちは原作者と制作会社の間に入ることが多いのですが、お互いのクリエイティビティがぶつかってしまい、それによって進まないことがよくあります。ですが、今回の作品についてはそのようなことは本当にありませんでした。赤司さんは相手のクリエイティビティをとても尊重されていますよね。

赤司:そうですね。世界中のクリエイターの方たちと仕事をする中で、「BE@RBRICK」というひとつのキャンバスを、どういうふうに表現していただくか、その表現に対してどれだけ自由なイマジネーションを膨らませていただけるか。私たちは、そこに注力しています。「こうしてくれ」という要望よりも、「何を見せてくれるんだろう」という期待のほうがはるかに大きい。今回のドリームワークスさんが見せてくださった「ドリーム」は、私にとってとてもすてきなものでした。

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ピーター:そんな中でも、私たちは赤司さん、鹿間さんが大事にしていることを常に意識しながら開発していました。最も重要なのはすべてのパートナーが心から納得をして作品を世に出せるかだと思っています。私たちの作り上げたストーリーが赤司さんにとってのドリームになっていたのなら、こんなに喜ばしいことはありません。

鹿間:ぶつかり合いで消えていってしまうことが頻発する中で、この作品は3つの会社のそれぞれの思いがうまくかみ合って進めることができたのは本当によかったです。時間はかかりましたが(笑)。

ピーター:本当ですね(笑)。でも実は時間がかかったことにはポジティブな側面もあって、かかった分、いろいろな関係者やファンの方が集まってきました。例えば、世界的に著名な音楽プロデューサーのティンバランドさんが関わってくださったのも、時間をかけたからこそだと思います。

時代から見える日本コンテンツの魅力とは

鹿間:最後にせっかくなので、ちょっと広めに日本のコンテンツ全体の話をしてみたいのですが。ピーターから見て、「BE@RBRICK」に限らず日本のコンテンツにはどんな可能性があると思いますか?

ピーター:コンテンツがどれだけグローバルレベルに訴求が可能かによりますが、2つ大きな可能性があると思っています。まずはアニメ自体が過去と違って、世界でファンが段違いに増えており市民権を得ているということ。もうひとつが、韓国のドラマのようにあるエリアで熱狂的な人気があったコンテンツが、配信プラットフォームのおかげで横串的に世界に広がっていることです。この潮流から見ても、日本の多くのコンテンツには、世界に広がっていく大きなチャンスがあると思います。

鹿間:これまで世界にいきたくてもいけなかった日本のコンテンツにも、チャンスがあるということですか?

ピーター:はい。ロンドンで「となりのトトロ」の舞台版を観たのですが、俳優も演出も本当に素晴らしかった。日本のコンテンツがトトロのように世界の劇場で流れたり、アニメだけでなく音楽などさまざまなコンテンツが世界に広がる可能性はあると思っています。

鹿間:確かに、一昔前だとアメリカでは外国の作品を字幕付きで見るってことはありえないことだったんですけど、今はむしろオリジナルの音声で楽しみたいという層も増えてきていて、ここ数年の変化には僕も驚いています。

世界中にファンがいる「BE@RBRICK」を作り続けている赤司さんの立場から見て、日本のコンテンツの魅力について感じることはありますか?

赤司:世界にはいろいろなコンテンツ作品がありますが、日本の作品って少し癖が強いと思っているんです。そのせいか日本から出られない作品もありますが、もっと横串で世界に広がっていくといいな、という作品はたくさんありますよね。

実は、「BE@RBRICK」はどうかというと、できる限り「無国籍」でありたいと思っているです。今回のシリーズを見て、いろんな国の人が「この作品は自分の国の作品だ」とみんなが勘違いしてくれたら面白いな、と思います。自由に描いていいキャンバスのような存在なので、日本の色はあえてつけていないんです。

ピーター:それは面白いですね。今の時代、世の中の人は分断を無意識にしてしまう。そんな中で性別や年代、国籍まで取り除いた「BE@RBRICK」はとてつもない価値があると思います。
コラボをしているアーティストやミュージシャンの方に、なぜコラボするのかと聞くと、「コア・ヒューマニティ」があるからだといいます。人間の本質的なところを「BE@RBRICK」からは感じられるのだと思います。

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鹿間:時代的なところでいうと、今回のアニメシリーズは、前向きでポジティブであることを強く意識しました。コロナ禍や世界的な情勢不安がある中で、少しでも気持ちが明るくなる方向にもっていきたいと思ったからです。でも、3年後はまた違っているかもしれない。そういう時代の気持ちを込めてアップデートしていくことがクリエイティブには大切だと思います。

ピーター:キャラクターのいいところは1回命を吹き込むと、キャラクター自身が自走してくれるところです。この作品がシリーズ2までいったら、キャラたちが私たちをどこに連れていってくれるかが楽しみです。

私たち、個人個人が人生においてミッションを持って必死に生きているのと同様に、「BE@RBRICK」のキャラクターたちも必死に生きています。そういうところが世界中のみんなにとって共通の興味を引き出せたらと思います。

鹿間:たくさんの方に観ていただいて、第2、第3シシリーズ、映画化と、キャラたちのその後の物語を見られるようにしていきたいですね。

BE@RBRICKのような特別な原作はなかなか見つけられるものではありませんが、電通としては、世界中の人たちが希望につながる物語を持った原作を見つけて、またドリームワークスと一緒に作品化していきたいと思っています。

「BE@RBRICK」について:
世界中で愛され続けるテディベア生誕100周年の年、2001年に、「デジタルなイメージのテディベアを作る」というコンセプトで誕生した約7cmのクマ型ブロックタイプフィギュア。9つに分かれる本体のパーツ以外には何も付け加えず、「プリントだけでデザインする」というルールで作られている。この「限りない表現の可能性」に共鳴し、かわいらしいフォルムに魅せられた多くのアーティストやブランド、企業、キャラクターなどと多彩なコラボレーションを展開するBE@RBRICKは、これまでに数千種類のアイテムをマーケットに発信し続け、「アートなトイ」として世界中に多くのファンを獲得している。
 

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