広報の本質は「ステークホルダー対応力」
2014/07/05
ステークホルダー(利害関係者)との良好な関係構築が、パブリックリレーションズの本質的な理念であることは言うまでもない。連載第4回は、企業の「ステークホルダー対応力」について、日本の上場企業479社を対象に当研究所が行った「第1回企業の広報活動に関する調査」を通して見ていきたい。
■ステークホルダーと双方向の情報交流を
企業におけるステークホルダーとは、主に①株主・投資家、②取引先・仕入れ先(業界・競合企業含む)、③従業員(パート・アルバイト含む)、④顧客(消費者・生活者含む)、⑤地域社会(政府・行政・自治体含む)の5領域を指す。
グラフ1の「ステークホルダー対応力」を見ると「業界・競合企業の動向を定期的にチェックしている」「IR部門と連携し、投資家向け広報を実施している」「重要ステークホルダーに合わせた、情報発信活動をおこなっている」がトップ3で、6~7割の企業が実施している。全体的な傾向として、投資家や従業員向けには情報発信が中心で、業界や政府、行政などに対しては情報収集が主体となっているが、本来は、どのステークホルダーに対しても双方向に情報交流が保たれていることが望ましい。
■B to B企業とB to C企業を比較すると
この「ステークホルダー対応力」においてB to B企業とB to C企業の比較を見ると(グラフ2)、広報全般としてはB to C企業の方が活発な傾向にあるが、ステークホルダー対応に限ってはB to B企業も熱心に取り組んでいる傾向が読み取れる。
B to B企業の実施率が特に高い項目を業界別に見てみよう。「IR部門と連携し、投資家向け広報を実施している」は「鉄鋼・非鉄金属」「輸送用機器・精密機器」の8割以上が実施。「重要ステークホルダーに合わせた、情報発信活動をおこなっている」は「輸送用機器・精密機器」「電気機器」「繊維・化学・医療」の7~8割が実施している。「広報戦略は、経営戦略とリンクしている」は「運輸・倉庫」「電気機器」の約6割が実施している。これらから、業容が大きな企業はステークホルダー対応が充実している傾向にあることが分かる。
■コーポレートコミュニケーションは各部署との連携から
グラフ3は「広報体制やその他広報活動」の調査結果だが、うち社内の連携に関わる分野である「広報部門と宣伝部門は連携をしている」「社内の各部署は、広報部門の仕事に対して理解していると思う」「広報に関する情報共有のデータベースやイントラネットが整備されている」に注目すると、決して高いポイントではない。
広報実務におけるステークホルダー対応では、IR、渉外、人事、お客様相談室など、各ステークホルダーを直接担当する部署との連携が重要になる。近年、広報部門に“コーポレートコミュニケーション部”などの部署名を採用する企業が増えているのは、こうした状況を反映したものといえる。全てのステークホルダーと良好なパブリックリレーションズを実現するために、それぞれのステークホルダーを担当する部署と密接に連携し、戦略的なコーポレートコミュニケーション活動を展開することが、企業の広報部門には求められている。
企業広報戦略研究所について
企業広報戦略研究所(Corporate communication Strategic studies Institute : 略称CSI)とは、企業経営や広報の専門家(大学教授・研究者など)と連携して、企業の広報戦略・体制等について調査・分析・研究を行う電通パブリックリレーションズ内の研究組織です。